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    白薔薇の造花「ハインリヒ様は、私を置いていかれるのですね。どんなに手を伸ばしても触れること叶わない場所に」
     切なげな声で、マクリはささやいた。私の胸に身を預けた彼女の表情は見えない。しかし、繋いだ手に縋るように込められた力が、私の胸をも締めつけた。彼女を抱き寄せ、白く艶やかな髪を撫でる。
    「心配ない。必ず、生きてお前を迎えに来る。多方面から恨みを買っているウミノ家は地位を追われるだろうが、お前だけは何に代えても護ってみせる。心安く待っていてくれ」
     彼女は私から身を離し、向き合って座りなおす。無骨な私の肩を白く小さな手が掴んだ。
    「私の身など、どうなっても構いません。貴方と離ればなれになることが、何より恐ろしいのです。この不利な状況で、まだまだ影響力が限定的な貴方がクーデターを生き残る可能性がどれほどあるでしょう?どうか、私も傍に置いてください。私を人質にすれば、僅かでも時間を稼げるでしょうし、何より死ぬときは共にあれます。どうか私も共に」
     懇願する彼女の手が、肩から胸に滑り降り。私にしな垂れかかった。見上げる彼女のペリドットが潤み、雫がひとつ零れ落ちる。上気した頬と淡い唇から漏れる息に、熱いものがこみ上げてきた。それに促されるまま、柔らかな唇に噛みついた。彼女の喉から微かな悲鳴が伝わる。彼女が落ち着くと唇を離し、言い聞かせるように話す。
    「それこそ、心配しないでくれ。お前の言う通り、私はまだまだ若く影響力が少ない。私だけだと、協力者もろくに集めることができないだろう。だが、顔の広いバーナー様やベチュカ様、手回しの上手いイラーチェク様、そして重鎮のコフスカー様も噛んでいる。よほどのことがないと失敗はしないよ」
    「ああ、良かった……それでもどうか、お気をつけて」
     私の胸に頭を乗せたマクリの背に腕を回し、誓いを新たに抱きしめる。そして顎を上げさせ、再び口づけをした。口づけを繰り返しながら、彼女の肉の少ない背をつ、と撫で下ろす。背から脇腹へ、脇腹から腹へ、と手を降ろすと彼女は私の肩を押し、身を離した。少し乱れた髪がほんのり赤く色付いた頬にかかり、先とは別の要因で潤んだ瞳を細めて笑う。彼女のこのような姿が見れるのは、後にも先にも私だけだろう。
    「続きは、貴方が私を迎えに来てくださったとき、存分に」
     しっとりと濡れた唇に触れる白い人差し指が、殊更なまめかしく見えた。

     ハインリヒ・ベッカーが部屋を去り、完全に気配がなくなったのを確認すると、サイドテーブルの水差しを掴み口を濯ぐ。隣の部屋から出てきたシュロがソファーに腰掛ける。溜息を吐き、少し呆れたような声を投げかけてきた。
    「カイメン……お前どこでそういう技を身に着けてくるんだ?」
     口内の水を窓の外に吐き出し、洗い流すように水差しの残りを捨てる。水差しを元の位置に戻すと、ハンカチで口を拭きシュロの隣に座る。ハインリヒの前で見せた顔より、心持ち妖しく問いかけた。
    「知りたい?」
     俺よりずいぶん小さくなってしまった手に指を這わせる。するりと甲を撫でると、その手が僅かに震えた。体を寄せ、耳元で囁く。
    「他でもないシュロおじさまが知りたいのなら、なにもかもお教えしますわ。もちろん、『練習』に付き合っていただけま、痛っ」
    「大人で遊ぶな」
     シュロに叩かれた額を抑え、姿勢を正す。シュロは先の会話を記録した紙を眺め、深くため息を吐いた。
    「しかし見事にこの一帯の有力者の名前ばかり挙げてくれたな。これは叩けばまだまだ居るぞ。帰れるのは当分先になるだろうな」
     鬱屈とした気分を晴らすように窓の外に目をやると、故郷では決して見えることのない海を背景に所狭しと並ぶ見慣れない白亜の建造物が視界に入り更に重いため息が出た。俺とシュロは、白薔薇公に対する大規模なクーデター計画の調査のため、僅かな従者を連れ異邦の地を訪れている。慣れない土地と船旅に加え、情報操作が上手いのかなかなか計画犯の尻尾が掴めない苛立ち、そしてどうもクーデター決行までそう日がない様子であることからくる焦燥感で疲弊していることが自分でもわかる。連日ドレスを着て「マクリ」を演じることに抵抗は無いが、「カイメン」に戻る時間が普段より圧倒的に短いため自分の性別が分からなくなってきた。早く切り上げなければ女になってしまう。
    「ぎりぎりまで粘って、反逆者が集まったところを一掃しよう」
    「そうしたいところだが、人手が足りない」
    「かといって半端に手を出せば、全員を炙り出すことができなくなるだろう」
     シュロが公への報告書を従者の一人に託したことを確認し、その膝に頭を乗せた。ゆっくりと頭を撫でる感覚に気が緩んだのか、微睡み始める。領地から遠く離れたこの地でも、月だけは同じように私たちを照らしていた。

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    一元さん宅シュロさんお借りしました
    碧_/湯のお花 Link Message Mute
    2019/03/08 1:50:09

    白薔薇の造花

    白薔薇派は出張中
    ##吸血鬼ものがたり ##ルナイル編
    話リスト(http://galleria.emotionflow.com/20316/537486.html

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