#7 ワルツをあなたと「ダンスパーティ?……別に構わないと思いますけど」
それは季節がひと回りしてまたクリスマスが近づいたころだった。週末いつものようにマーチ家を訪れ、モネの体調と散歩の記録を確認していたスガナミは質問されたことに目を丸くして答えた。
「やったぁ! ほらモネ、先生のお墨付きだし、行こうよ!」
大喜びしたのはモネの隣にピッタリとくっついていたミイである。
今年のガーディナー邸の新年パーティには初めて四姉妹全員が招待にあずかった。モネは早々に遠慮したいと言ったが、ミイがどうしてもモネと行きたいと言う。じゃあ先生に聞いてみようよ!先生が行ってもいいって言ったらいいでしょ!と微妙に論点をずらしながらモネを説得しようとしていた。
望み通りの答えを得て浮かれたミイが、リコに報告してくる!と部屋を出ていくその背中を見ながらモネは小さなため息をついた。ミイの強情さはよく知っているので結局は行かねばならないだろう。
「……行きたくないんですか?」
モネの反応を逐一視界に収めていたスガナミが問うと、モネはうーんと首を傾げた。
「パーティ、行ったことないからわからないんですけど、でもやっぱり人が多いところは苦手なので」
「わかります。僕もパーティは苦手です」
スガナミが本当にうんざりした表情で眉を寄せたのでモネはクスリと笑う。
「あ、パーティへの参加はもちろん問題ありませんが、ダンスもテンポによっては体力が奪われますし、都度休憩をとってください。気分が悪くなったら部屋の外に出て。あと飲み物にも気をつけてください。アルコールが入ってるものは避けたほうがいい」
モネは真面目な顔でハイ、ハイ、と一つずつ頷いた。
それはそうと、とスガナミが側の鞄から小さな紙袋を取り出した。その紙袋から取り出したものは、細いロープの両端に木製の持ち手のようなものが付いている。初めて目にするものでモネは首を傾げた。
「先週末ボストンで見つけました。モネさん、縄跳びってわかりますか? 子どもの頃、縄で遊んだりしましたか?」
「ええ、まあ」
そこらに落ちていたロープを使って姉妹と一緒にぴょんぴょん飛んで遊んだ記憶ならある。
「縄跳びは大人にとっても健康維持に良い運動だと、最近ドイツで見直されてるそうなんです。これは大人の運動用に持ち手が付けられた縄跳びです。僕も試してみましたが、けっこうな運動量です。心肺機能が高められるのは間違いないと思います」
見ててください、そう言ってスガナミは立ち上がり、持ち手を両手に持ってロープを後ろから回しぴょんと一回飛んでみせた。
「これが一回」
くるりとまとめられて渡された縄跳びをモネが物珍しげに見ていると、スガナミはまた別のものを鞄から出してきた。表のようなものが書き込まれている一枚の紙だった。
「子供の遊びだと思わない方がいい。意外といろんな筋肉を使うし疲労も大きいんです。ですので細かくスケジュールを出しておきました。最初は5回から、少しずつ回数を伸ばして、ある程度飛べるようになったら時間区切りにしましょう」
モネは片手に持ったスケジュール表を見てまた真面目にハイと頷いたが、もう片方の手にある縄跳びを見て浮かんだ疑問について尋ねた。
「先生、この縄跳びって買っていただいたんですよね? おいくらだったんでしょうか」
「え? あぁそれは僕が勝手に買ったものなので大丈夫です」
「いや、そういうわけには」
「いや、本当に」
「いや、でも、」
問答が永遠に続きそうなのに先にスガナミが吹き出して笑った。
「……じゃあ、早めのクリスマスプレゼントということで」
モネも抑えきれない笑みを誤魔化すように顎を引き、ありがとうございますと小さく頷いた。
その日の夕方からモネは縄跳びを始めた。玄関脇に置かれたスケジュール表に律儀に毎日チェックが入る。
二人とも真面目、と呆れたようにリコが言って隣にいたミドリが笑った。
ミイはというと、初めての運動用の縄跳びの使いやすさに感銘を受け、暇さえあれば飛んで健康に拍車をかけていた。
今年のクリスマスはお父様を一人にしたくないとアヤコ夫人が再びワシントンに行ってしまい、姉妹にとっては寂しいクリスマスとなった。
恒例の芝居とお客さまのとティーパーティーだけは何とか四姉妹で取り仕切り、夜はローレンス邸で過ごすこととなった。
ディナーの前にサヤカは娘が若い時分に着ていたドレスの詰まったクローゼットを四姉妹に見せた。
「新年のパーティ、四人とも行くならドレスが必要でしょう。まあデザインは古いけど、気にいるのがあったら適当にリメイクなんかして着ていくといいよ」
卒倒しそうに喜んだのはミドリである。デザインの古さなんか目じゃないほど上質の布をたっぷりと使ったドレスはどれも素敵でため息が出た。
ミドリが取っ替え引っ替えドレスを体に当ててるのをぼんやり見ているモネとミイをもどかしそうに見たサヤカが鮮やかな山吹色のドレスを引っ張り出した。
「モネ、これなんか似合うんじゃないかい?」
「え……ちょっと派手じゃないかな……」
「そうかねぇ。ミイにも似合いそうだ」
そう言ってそのドレスをミイの体に当ててうんと頷いた。ほんと?じゃあ私これでいい!とミイはあっさりサヤカの提案を受け入れた。
それを見ていたリコがクローゼットから引っ張り出したのは燻んだ若草色のドレス。ドレスというにはスカートの膨らみは控えめだがクラシカルなデザインで胸元の刺繍が美しい。
「モネ、これどうかな。レースの襟も付けて」
「ああ、こりゃ似合うねぇ。リコはセンスがいい。ところであんたはどうなの?気にいるのないかい?」
「うーん、ちょっと合わないかなぁ。わたしはお母様がバザー用に集めてる古着から何か作れないか考えてみるつもりよ」
なるほどね、とサヤカは頷いた。やっと顎下に揃った短い髪に似合う独創的な格好をするのだろうと思って今から楽しみでニヤリと笑った。
その日のローレンス邸のディナーにはスガナミも招かれていたが急患があったそうで来られなかった。モネはスガナミに渡したいものがあったので少しがっかりした。
お待ちかねの大晦日である。
ミドリは散々迷った挙句、濃い紫のオフショルダーネックの絹のドレスを借りた。落ち着いた色味だが四段重ねのスカートがゴージャスさを醸し出していた。細い鎖の一粒真珠のネックレスが肌を引き立てている。
リコはハイカラーシャツに絹のクラヴィットを結び、臙脂色のストックを重ね、ダークブラウンの細身のスカート、リョウから借りた深い緑のベルベット・コートを重ねて去年よりますます個性的だ。まだ短い髪は後ろに撫で付けられ、もうほとんど男の子ねとミドリが笑った。
モネは裾にプリーツを取ったフレアスカートの若草色のドレスにレース地のスタンド・カラーのブラウスを合わせ、流行とはまったく異なるがモネらしい清楚さに満ちた姿だった。胸元には細やかな花の刺繍が入っており、それに合わせるようにハーフアップにした髪にも小さな花の飾りを付けていて何とも愛らしい。
ミイはオフショルダーネックの山吹色のドレスで、襟ぐりのフリル、スカラップエッジのスカートがミイの若々しさを引き立てていた。ドレスと同じ色のリボンを髪に結えてもらって嬉しそうにえへへと笑っている。
アヤコの代わりに四人の正装の最終チェックをしたサヤカが、どこに出しても恥ずかしくない娘たちだ、と太鼓判を押した。
馬車でリョウが迎えに来たので玄関に集まると、ドアの向こうで何か揉めている声がする。
ええ? モネさんに言ってないんですか? という抗議の声は間違いなくスガナミのもので、自分の名前が出て来たこともあってモネが不思議そうにドアを見ていると、そこからひょこと顔を出したのはリコだった。
「サプラーイズ!」
そう言ってバーンと扉を開くとそこにいたのは困惑した様子の燕尾服姿のスガナミで、後ろからリョウに押されてつんのめりそうになりながらモネの前に押し出された。高いウイング・カラーに絹のクラヴァットを合わせ、黒のシンプルな襟付き燕尾服とチョッキ、細身のズボンに包まれたスガナミは別人のようだった。いつもは起きてそのままな髪が櫛を入れられ綺麗に後ろに撫で付けられているのもまた新鮮である。
「先生……」
「……モネさんのエスコートを仰せつかりまして。……あの、先に言っておきますがダンスは無理ですよ」
大きな手で口元を隠してはいるが恥ずかしがって赤面してるのは誰の目にも明らかでみんなクスクスと笑ってしまう。
「エスコートって……」
「ほら僕は両腕塞がってるし」
間髪入れずそう答えるリョウの両腕にはすでにリコとミイが腕を絡ませてニコニコとしている。
「あ、一応僕の片腕は空いてますが」
と声をかけたアサオカの片腕にいるミドリが嗜めるようにその腕を軽く叩いたがアサオカは意に介さず笑っている。
「先生、そんなお洋服持ってらっしゃったんですね」
渦中にいるはずのモネは周囲の会話は耳に入ってないようで頓珍漢な質問をしていた。
「マダム・サヤカの二番目だか三番目の夫君と背格好が同じということでお借りしてます。一応実家にはあるのですが、まさかこちらでパーティなどに参加するつもりはなかったので持って来てなくて」
「素敵です」
モネがニコニコと笑ってそう言うのでスガナミはますます言葉を失ったが、そこで初めて顔しか見てなかったモネの全体の姿が視界に入り、その可愛らしさに目が奪われた。
「あ、あの、」
「じゃあ出発ー!」
リコの呼びかけであっという間に移動が始まってスガナミの言いかけた言葉は掻き消された。
「……じゃあ、行きますか」
スガナミがそっと腕を差し出すとモネは遠慮がちに、そして嬉しそうにその腕に手をかけた。
それなりの大所帯ゆえ注目を浴びて会場入りしたマーチ家の面々はとりあえず壁側に陣取って落ち着いた。
リョウがひらりとモネの前で手を差し出す。
「先生が踊らないなら、僕がモネの最初のダンス相手になりたいな」
「まあ、リョウ」
モネは嬉しそうに笑ったが、ダンスフロアを見て少し不安げな表情になった。ずいぶんアップテンポな曲で皆飛び跳ねている。モネが思わずスガナミの顔を見ると、スガナミもモネの不安を把握したようで頷いた。
「……モネさんが踊るならもう少しゆったりしたテンポのダンスの方がいいかもしれません」
スガナミの助言にリョウは気を悪くすることなく、じゃあワルツになったら誘いに来るからそれまで他の男の誘い受けちゃダメだよ!とふざけたようにそう言ってリコと腕を組んでダンスフロアに向かって行った。
リョウとリコが踊り出してしばらくした頃、ダンスフロアの曲がゆったりとしたワルツになった。
「モネ誘いに行こうかな、いい?」
リョウの言葉にリコは呆れたようなため息を吐いた。
「バッカねぇ。いいから黙って見てなさい」
「見てなさいって、何を」
「モネたちのほう見ちゃダメよ。私とのダンスに集中してるフリをして」
「ええ? だってさっき約束したし」
「いいから!」
せっかくの良いテンポのダンスが始まっても戻ってこないリョウをジリジリと待っていたのはスガナミだった。この音楽を逃してもまたそのうち彼女が踊れるような音楽はすぐに流れるだろうが、それまでに他の男が誘いに来ないとも限らない。今は壁の花であるモネにすでに興味深い視線を送っている男が複数いるのは確認している。
モネの初めてのダンスの相手が気心の知れたリョウやアサオカなら良いと思う。でも全く知らない他の男だったら、と想像するとスガナミは胸の奥がチリチリと疼くのを自覚した。……そんな資格なんてないのに。
こちらのそんな面倒な思惑なんか知るわけもなく、フロアの音楽に合わせて楽しそうに小さく体を揺らしている彼女の横顔をそっと盗み見る。
「……踊りたいですか」
「あ、いえ!リョウはまだリコと踊ってるし、わたしは大丈夫です」
恥ずかしそうにまた顔の前で手をパタパタと振った彼女を見て、また胸の奥が疼いた。
大丈夫、なんて。
ゆっくりと、右手を差し出した。
「……本当に、下手ですよ」
差し出された手を見て、しばらくして理解したらしいモネはパッと花が咲くような笑顔を見せた。
そして二つの手が重なった。
「先生、人形みたいだな」
やっとのことでダンスフロアに出て来た二人を見てリョウがリコの耳元で小さく笑う。
リョウの言う通り、柔軟さと無縁でワルツに挑むスガナミの動きを視界の端に収めてリコも笑いを噛み殺した。
「先生、やっぱモネのこと好きなのかな」
「そりゃそうでしょ。だいたい、“あの”スガナミ先生がこの町のパーティに初めて参加したんだから女の子たちからの視線がすごいのに、先生ってばモネのことしか見てないんだもの」
「たしかに。モネと踊りたそうな男もいるよ」
「絶対に先生がガードするわ」
二人がくすくす笑いながら見てる先でぎこちないワルツを踊っていた二人が突然動きを止め、そのまま部屋から出て行ってしまった。
「あれ、どうしたんだろ」
「まあいいわよ、先生に任せておけば」
そうだね、と二人は頷き合ってダンスに集中することにした。
屋敷から庭に降りる大理石の階段にモネは腰掛けていた。もちろん寒くはあったがさっきまでいたパーティ会場の熱気がまだ体内に残っているようで冷たい外気が心地よく感じられる。
急ぎ足で戻ってきたスガナミの手には色々なものがあった。まずは借りてきたブランケット数枚をモネの肩や膝にかけ、ワインの瓶は入ってないワインクーラーに白いナプキンを浸し、しっかりと絞ってからモネの足にそっと乗せた。
「……すいません、本当に」
「そんなに痛くないから大丈夫ですって」
「痛くないはずがない。革靴で思い切り足の甲を踏んだんですよ」
まるで自分が踏まれたかのようにスガナミが眉を寄せたのでまたモネは笑う。さっき踏まれた時も大丈夫と笑ったのにこうして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのが先生らしいと思いながら。
いくら下手だとはいえ、モネのパーティデビューの最初のダンスで足を踏んでしまうと言う失態を犯したスガナミは反省しきりであった。謝りついでに、これは絶対に今夜中に言わなければと思っていたことを、少し勇気を出して口にした。
「あと、すみません、さっき家を出る時に言いそびれたんですけど、……とてもお綺麗です」
「え?」
モネは何を言われたのかわからなくてしばらくポカンとしていたが、もしかして自分のことを言われたのだろうかとやっと思い当たって胸が高鳴る。頬が赤らんだのを自覚して目を伏せる。
エスコートする女性に綺麗だと褒めることなんて挨拶のようなものなのだから、と自分を納得させながらもスガナミの頬も赤い。
二人の間に沈黙が落ちる。
と、その時、意外な助け舟が来た。
「あーん、モネ、ここにいたー!」
ととっと駆け寄ってきたのはミイである。モネの隣に座ってべったりと寄りかかった。
「もー疲れちゃったー。帰りたい」
「ミイったら、あんなに来たがってたのに」
「美味しそうなものは全部食べたよ。もうお腹いっぱい」
「ダンスは?」
「リョウとサトルさんと一曲ずつ踊ってきた。もう足が疲れちゃったよ。モネは?」
「わたしも一応、一曲踊ったわ」
「ああ、先生とでしょ。見てたよ。先生、マリオネットみたいだったね」
「……あの、すいません、僕の悪口は僕のいない時にお願いします」
遠慮がちなスガナミの抗議に二人はくすくすと笑う。渋い顔をしていたスガナミも苦笑した。
「もう飽きたから帰って図鑑でも読んでたい」
「あ、それは同感です。僕も帰って論文が読みたい」
「わたしだって家でのんびりしてたかったわ」
「あははー、ダメだねここの三人、パーティに向いてなかった」
元凶であるミイがあっけらかんとそんなことを言うのでモネもスガナミも笑ってしまう。
結局三人はリョウの馬車を借りて先に帰ることにした。
リョウたちが帰ってくるまでは先生もうちにいてよ、とミイがねだったのでスガナミもマーチ家で降りた。
今日はナツもお休みなので無人の家の中はすっかり冷え切っている。モネとミイがあちこちのランプに火を灯し、スガナミが暖炉の火を起こす役目を買って出た。お茶を淹れようと台所に行こうとするモネの腕をミイが取る。
「わたし先にドレス着替えてくるから……アレ、渡したら」
アレが指すものが何かわかったモネが、うん、と少し緊張気味に頷いた。
燕尾服を脱ぎ暖炉の前に座って火の様子を見ているスガナミの元に、モネはおずおずと近寄った。
「あの、先生、これ……本当はクリスマスに渡そうと思ってたんですけど先生いらっしゃらなかったから、……えっと、縄跳びのお礼です」
リボンのかかった小さな紙袋とモネの顔を順番に見たスガナミが、受け取ってから開けてもいいかと聞いた。モネが頷いたので袋を開けると、中に入っていたのは大判のハンカチーフだった。取り出してよく見ると、白の2枚の布を表裏合わせた丈夫なハンカチーフで、角の方に何やら刺繍がしてある。
「これって…鮫ですよね? ホホジロザメ…、いや目が大きいからヨシキリザメか……」
「あ、すみません、マダム・サヤカの図書室から借りた海洋図鑑の絵を見てわかりやすく図案化したので。種類とかは曖昧なんですけど」
スガナミが鮫の話をしてくれたのはいつだったかの散歩の最中、鮫の生命力について憧れるように話す先生はいつもと違って少年のようで、鮫が好きなんだなと微笑ましく思った。だから今回のプレゼントに思い付いたのが鮫の刺繍付きハンカチーフだったのだ。
「……すいません、ちょっと子供っぽいかと思ったのですが……」
「いや、とても嬉しいです。しかも実用的で。ありがたく使わせてもらいます」
スガナミが思ってたより喜んでくれたのでモネもホッとした。二人で見つめあってニコニコしてると何だか恥ずかしくなってきてしまい、モネは、お茶淹れてきます、とはにかんで台所に向かった。
そこに見計らっていたかのように着替えたミイが戻ってきた。
「先生、チェスやろー」
「いいですけど、僕強いですよ」
「大丈夫。私も強いから」
二人の掛け合いを聞きながらくすくすと笑い、モネは時間をかけて三人分の紅茶を淹れた。立ち上る湯気に、やっと気持ちが和らいでいく。
今日はいろんなことがあった。
初めてのパーティー。
初めてのエスコート。
初めてのダンス。
初めて、先生に綺麗だと言われて、あんなにドキドキしてしまったこと。
初めて、先生にプレゼントを贈ったこと。
たくさんの初めてに気持ちがついていかない。とりあえず明日書く日記には小さなこともこぼれ落ちることなく事細かに記録しなければと思う。
いつだって物語の世界で起きることは自分とは無縁だと思っていた。
だけど、あった。
本当にあるんだ。
最初で最後のクリスマスプレゼントを貰ったような、そんな一夜だったと、モネは噛み締めるようにそう思った。