秘密の関係 コココン、コン。軽快なリズムで教室のドアがノックされた。ペンを持つ手を止めて「どうぞ」と入室を促す。訪ねてきたのが誰なのかは聞かなくてもわかる。私たち二人の秘密の合図。
「お疲れ様です。調子はいかがですか」
「おつかれさま。一通り解けたと思うんだけど……」
拝見いたします、とバルバトスは隣に座り、私の手元を覗き込んだ。
「よく出来ています。と言いたいところですが、ここの問題はこのように解いた方がよいかと」
ペンを渡すと、私の不慣れな魔界文字の横に綺麗な文字が書き足された。
「はー……魔界の勉強にもだいぶ慣れたと思ってたけどまだまだだね……」
「いえ、これだけの短期間でここまで出来るようになるとは驚きです。この調子で続けていきましょう」
「特訓のこと、ルシファーには秘密にしてね。前回よりもずっといい点取って驚かせるんだから」
「はい。承知しております」
教わりながら答え合わせをすること数十分。
「ふう。今日の分はこれで終わりかな。あとね……今日も、いい?」
「あなたの頼みであれば」
「おねがいしま」
最後まで言う前に引き寄せられ、唇が重なった。粘着質な音と吐息が二人の間に響く。
「こちらも最初の頃に比べると随分と上達されたようですね」
「本当に……? もしこうなったときは喜んでくれるかな……?」
手袋をした手はいつの間にか私のスカートの中に侵入して太腿を撫でている。
「ん……っ」
もっと、もっと教えて、と首に手を回そうとした瞬間。
「おーい。帰るぞー。いないのかー? 今日の夕食当番俺様に押し付ける気かー?」
廊下から私を呼ぶ声が聞こえ、弾かれたように体を離すと慌てて机の上を片付けた。
「マモンが探してる。もう行かなきゃ。今日もありがと」
「お疲れ様でした」
「バルバトスもおつかれさま。……明日もまた教えてね」
急いで制服を整えると鞄を引っ掴んで教室を出た。
***
マモンとMCが賑やかに廊下を去っていく音が聞こえなくなった頃、バルバトスのD.D.D.が振動してチャットの着信を伝える。
『あいつの調子はどうだ?』
『順調です。次の試験ではきっと良好な成績を収めることでしょう。最初にお伝えした通り、驚くのをお忘れなく』
『わかっている。ところで、変なことはしていないだろうな?』
『変なこと、とは?』
『次期魔王の執事様がそんなに察しが悪いとは初耳だな』
『私は彼女から頼まれたことを教えているだけです』
『……まあいい。俺からも礼を言う』
『礼には及びません』
バルバトスは少し考えた後、文章を入力すると送信せずに削除し、口の端を僅かに上げた。
『私も楽しませてもらっているのですから』