3月14日のシンデレラ「欲しいものはございますか?」
魔王城からの帰り道、バルバトスさんから唐突な質問が投げかけられた。
「なんでもいいんですか?」
「はい。なんでも」
「なんで急に? 何かのアンケートですか?」
「先日のバレンタインでこの世に二つとない素晴らしいお品を頂きましたから」
確かにこの世に二つとないけど、ただの手作りチョコをそこまで言われると恥ずかしい。
ただ、大層喜んでいたのも事実で、なんでもいいというのもきっと冗談ではないのだろう。それをできるだけの力はあるのだから。
何を願ってもいいなら、簡単に手に入るものはつまらない。かといってあまりにも大それたものは私の手には負えない。うんうんと頭を悩ませながら顔を上げると、楽しそうにこちらを見ているバルバトスさんと目が合った。
時計の針が一二を指し、三月一五日を告げた。
魔王城客室の座り心地の良いソファにゆったり深く座っているバルバトスさんを解放するように、凭れた体を起こす。
「ホワイトデー、終わっちゃいましたね。残念です」
バレンタインのお返しとして私が望んだのはバルバトスさんの〝時間〟。大げさな言い方になっただけで、結局は二人で過ごしたいというだけのことだ。それでも何かと忙しい平日、RADが終わった後、私のために時間を作ってくれたのだからお返しとしては充分すぎる。
「よく、お休みになるまでは今日のうち、と申します。ですが」
私の腰には未だ手がかけられていて、離すつもりはないのだとわかる。
「夜更かしもほどほどになさいますよう」
窘める言葉とは裏腹な表情、寝るつもりがないのは果たしてどちらなのか。
私が眠気に耐えられなくなるまで、この二人だけの静かでささやかで愛おしい夜会の時間は続くのだ。