honey「あ……」
朝食に添えられた蜂蜜が零れてとろりと指に絡みつく。
「バルバトスさん、すみません。なにか拭くもの貸してください」
「かしこまりました」
返事はあったのに一向に望んだものが出てくる気配がない。
らしくない。どうしたんですか? と顔を向けると彼はいつの間にか手袋を外していて、その形のいい手で私の手をゆっくりと持ち上げた。小指と薬指の先から金色の雫がねっとりと滴り落ちてテーブルに甘い球を作った。
小指に、視線だけはこちらに向けながら、唇から覗く舌先が触れる。ゆっくりじっとりと這うように蜜を舐めとってゆく。一度だけでなく、二度、三度。舌が往復する度にその妖しくて艶めかしい感触に微かに体が震え、恍惚に導かれる。彼はいつの間にか目を閉じていて、蜜、でなく私のことを味わっているようだった。
すべてを舐め尽くすまで続くと思われたそれは、期待を裏切って唐突なリップ音と共に終わりを告げた。
さっきまで目の前で起きていたことが幻だったかのようにバルバトスさんはいつもの表情で水差しの水を使って懐から取り出したハンカチを濡らし、素早く手とテーブルを拭うと私に向き直った。
「食べ物で遊んではいけません」
私の思惑をわかっていながら、それでも与えられたものは確かに望んだものだった。彼は今日も完璧な執事で愛すべき私の恋人だ。