真夏の楽園真夏の空はどこまでも紺碧で、風が頬を撫でいく。プールサイドのビーチチェアから眺める水面は太陽を反射して常にきらきらと表情を変えている。チェアの背後にはパラソルが設置されていて、真上に近い位置からの日差しを遮り、私のものともう一つ並んだチェアに影を落としていた。
ここはコルヴォのリゾートホテル。バルバトスさんの誕生日のお祝いに二人でゆっくり過ごすといい、とディアボロが手配してくれた。休ませたいという気持ちからそう言ってくれたのだろうけど、私としては誕生日だからこそ、たとえ他人からは忙しく見えても好きにさせてあげたい。だから、申し訳ないけれどきっと"二人で"の部分しか叶わない。
「お待たせいたしました。どうぞ」
氷とアイスティーがたっぷりと注がれたフロートグラスが差し出された。グラスの淵に添えられた赤いハイビスカスがリゾートらしさを際立たせている。
「ありがとうございます」
私が素直に受け取ったのを見て、満足げに隣のチェアに座った。
「いただきます」
カラン、と氷の鳴る音を楽しんでからストローに口をつけるとよく冷えたアイスティーが喉を滑り落ちて行った。
「冷たくておいしいです」
「それは何よりです」
返ってきた笑みに、やっぱり好きにさせてあげたいと思った。
汗をかき始めたグラスをサイドテーブルに置いてぐるりとチェアを回り込むと、アイスティーを口にしているバルバトスさんの傍にしゃがんで顔を覗き込む。
「お茶をお願いしておいてなんですけど、休めてますか?くつろげてますか?」
「ええ、とても」
「本当に?」
「あなたといるのに休まらないなんてことはありませんよ」
そう言って私の額にキスを落とす。
「……わかりました」
私もバルバトスさんの額にキスを返して自分のチェアに戻った。
「この後は何します?マーケットに行ってみますか?珍しい食材あるかもしれませんよ」
「私をゆっくり休ませるよう、頼まれているのでは?」
「そうですけど、誕生日だしやっぱり好きなことしてほしいです。それにさっき休めてるって言ってたから依頼は達成です」
僅かに目を見開いた後、仕方ありませんね、と言いたげに苦笑する。
「そうですね……どうするかはこの後一緒にじっくり考えましょうか」
パラソルの影の上にもう一つ影が重なる。
たまにはこの太陽が降り注ぐ楽園で紅茶の香りがするキスをするのも悪くない。