お客様に満足を 次期魔王の執事様が人間の女を飼っているらしい。そんな噂を聞いたのは記事を持ち込んだゴシップ誌の編集部でだった。
魔王城の警備はやたらと薄い。次期魔王と執事様が城を取り仕切るようになってから大分長い。忍び込むような不埒な輩などはもう既にいないんだろう。それでも念のため夕飯前の慌ただしい時間帯を狙って忍び込み、噂の執事様の部屋のベッドの下に身を隠した。
潜り込んだベッドの下は埃すらなくて、想像以上に快適だった。微かに変な臭いと妙なシミがある以外は。掃除してもわかる。嘘じゃねえ。鼻がいい種族だからだ。こんな仕事をしている理由の一つでもある。
D.D.D.で時間つぶしのゲームをしながら待つこと、数時間。ガチャリというドアノブらしき音がした。D.D.D.をしまい込み、ボイスレコーダーをオンにして息を潜める。
たまに耳にする執事様の声と聴きなれない女の声がした。人間のにおいもする。
今日は偵察のつもりだったのに遭遇できるとは思わなかった。ツイてる。
人間界謹製のボイスレコーダー。高かったんだからしっかり仕事してくれよな。
それにしてもさっきからお互い好きだのなんだの言いすぎじゃないか?
これじゃまるで――。いや、これはこれでいいネタになる。
散々甘い言葉と声を聞かされ、耳がシロップ漬けにでもなった気がした頃にようやく静かになった。あれだけ激しくヤっておいて軋みもしないベッドだなんてどれだけ高級なのやら。もう少し雑音があった方が臨場感あるんだが、まあいい。
さて、帰りますか。
ヒッ――。叫ぶのだけは何とか耐えた。伊達に長いこと記者をやっていない。
ベッドの上から音もなく下を覗き込む頭が一つ。緑に光る瞳と目があった。
頭は逆さになっているのに髪は下に垂れてなくて、そこだけ重力が違う向きになってるようで不気味さを増していた。
光が細くなり、相手が微笑んでいるのだと気付かされた。
「ご満足いただけましたか?」
愚かな俺はこの時になってようやくこの臭いとシミの理由を悟った。
大事にちびちび飲んでた三百年物のデモナス、空けときゃよかったな。