小さくなっても変わらない 留学生が幼児化したと聞いて嘆きの館に駆け付けたディアボロとバルバトスを出迎えたのは困った顔をしながらもどこか嬉しそうな兄弟たちだった。これだけなら度重なるトラブルのたびによくある光景だが、その日は少しだけ違っていた。
兄弟たちは皆一様に胸に留学生の手作りと思しき折り紙で作られたロゼットを付けていて、それぞれの兄弟の色をしたロゼットの中心には留学生がクレヨンで書いたらしいイニシャルがあった。
「お邪魔するよ」「失礼いたします」
リビングにディアボロとバルバトスが通されたとき、すっかり幼い姿になった留学生は床にぺたんと座り俯いてお絵描きをしているようだったが、その声に顔を上げ笑顔の花を咲かせた。
「あっ、こんばんわ! であぼろ、これ!」
留学生はディアボロに駆け寄るとポケットから何かを二つ取り出してそのうちの一つを元気よく差し出す。
「なんだい?」
それは兄弟たちのものと同様に黒い折り紙で作られたロゼットで中心には拙い「D」の字が書かれていた。ディアボロは留学生の小さな手からロゼットを受け取ると兄弟と同じく胸元に付け、似合うかい? といった表情をした。
「かっこいいね!」
「ありがとう。光栄だよ」
留学生の手の中にはロゼットがもう一つ。色は深緑でどう考えてもバルバトス用なのだが、なぜか留学生はそれをバルバトスに渡さずにルシファーの後ろに隠れてしまった。もじもじとしたその様子から本当は渡したいことが窺える。
「渡すんじゃなかったのか?」
「うん……」
ルシファーに促されてもロゼットを手に持ち恥ずかしそうにするばかり。
バルバトスがルシファーの足元にしゃがみこみ、すっかり小さくなった留学生と目の高さをあわせた。
「こんばんは」
「……こんばんわ」
「その手に持っているものはもしかして私の分ですか?」
「……うん」
「せっかく作ってくださった素敵なロゼットなのに頂けないのでしょうか?」
勢いよく首を振る留学生。ぱさぱさという髪の音がした。
「バルバトスも待っているぞ。渡したらどうだ?」
「う~……」
ルシファーの陰から踏み出そうとしては躊躇っている留学生。
「無理なさらないでください。また今度にしましょうか」
そう言って立ち上がろうとするバルバトス。
「まって!」
そう言うなりぎゅっと目を閉じて「はい!」とバルバトスの前に深緑のロゼットを差し出す。
長く握っていたせいで一部がふやけて皴になっているのも、何度も練習したのか他より少しだけ達者な「B」の文字も全てが微笑ましかった。
「ありがとうございます」
「あとね、」
まだ何かあるのかと留学生の方に体を傾けたバルバトスの頬に柔らかいものが一瞬触れた。
何も言わず逃げるようにリビングから走り去っていく留学生。残された者たちはそれを見送るしかできず、ルシファーとバルバトスのぽつりとした呟きは静かなリビングによく響いた。
「……あいつはやらんぞ」
「……それは彼女が決めることでは?」