桜一片「ただいま戻りました」
いつもより少し遅い時間、留学生が待つ寝室のドアが開けられた。顔をのぞかせたバルバトスに留学生が駆け寄り、抱き着く。
「おかえりなさい。……ん、お酒の味がする。それに、その服で帰ってくるの珍しいね」
「急遽人間界で接待の仕事が入ってしまいまして。支度してまいりますので、もう少々お待ちいただけますか」
「うん。待ってるね……あ」
くるりと後ろを向いたバルバトスの背中を見て留学生が声をかける。
「どうなさいましたか」
「これ、ついてたよ」
留学生の手には桜の花びらが1枚。
「きっと桜並木を通ったときに付いたのですね」
「きれいだった?」
「ええ、とても。今度、一緒に見に行きましょうか」
「いいの!?」
「ぜひあなたにも見ていただきたいです」
「ありがと。嬉しい……」
留学生は後ろ姿を見送るとベッドに寝ころび、花びらを明かりに透かしながらバルバトスが戻ってくるのを待つのだった。