何もお構いできませんで 浅い眠りから目を覚ます。目に入る天井は私の部屋なのにいつもと少し違って見えて、どうしてなのかぼんやりした頭で考えた末に、コタツで眠ってしまったことに気付いた。そういえば、コタツを買ったから来ませんかって誘って……そこまで記憶を再生したところで、重要なことを思い出した。
慌てて上体を起こすと、何かがぱさりと体から滑り落ちる。よく知っている手触りと色合い。RADの制服の上着。この後ろ身頃だけが長い独特の形は――。
「おはようございます」
正面、でなく横の席にはバルバトスさん。寝ている間に近くに移動してきたらしい。手にしているミカンは私がコタツと共に人間界から取り寄せて、ご自由にどうぞと置いていたもの。
「来てもらってたのに……寝ちゃってごめんなさい……上着もありがとうございます……」
「随分とお疲れのようですが、もうお休みになりますか?」
「最近ずっと忙しくて……でも起きてます……」
コタツにもたれかかって片頬をぺとりとコタツの天板につける。火照った頬が冷たくて気持ちいい。そのまま寝起きの頭で、ミカンをむくバルバトスさんの手元をぼんやりと見つめる。
さすがに手袋は外すのか……白い筋は全部綺麗に取るんだ……やっぱり手、大きいな……そうだ上着返さなきゃ……でもシャツ姿もいいな……ネクタイ緩めてるの珍しい……ちょっと顔が赤いのはコタツのせいかな…………あ、目が合った。
「召し上がりますか?」
「ん……ください……」
「どうぞ」
綺麗にむかれたミカンが目の前に一房差し出された。まだ残る眠気のせいか腕を動かすことすらだるくて、冗談ぽく目を閉じて口をわずかに開ける。てっきり「起きてください」とでも言われるかと思っていたのに意図は正しく伝わったようで、口に甘い果実の感触、少しだけ唇に触れた指はそれよりも甘い気がした。
そんなことを何度か繰り返し、ミカンも残り少なくなった頃、
「そろそろ、御暇いたします」
「全然、何もお構いできなくてごめんなさい……」
「次お会いした際に、今回の分も含めて構っていただきます」
そう言って少し悪戯っぽく微笑むと私の頬に手を添えた。
「……頑張ります」
私も返事をしてその上に手を重ねる。重ねた手は温かくて、離したくなかった。
少し寝て休んだことで今まで目を逸らしていた疲れが出たのか、玄関、せめて部屋のドアまでは見送りたいのに立ち上がる気力がない。そんな私を見て、少し考え込むような沈黙の後、
「失礼します」
膝裏と背中から腰のあたりにかけて腕が差し入れられ、一瞬の後に浮遊感。もしかしなくてもこれは。落ちないようにゆるゆるとバルバトスさんの首に腕をまわす。上着がないせいか、いつもより熱が伝わってくる。このままこの体温に抱かれていたい。そう思ったのもつかの間、残念ながらすぐによく知った寝心地のベッドに着地する。
「それでは、ゆっくりお休みになってください」
冬のシーツはひんやりとしていて、私はさっきの温かさが恋しくなって、立ち去ろうとするバルバトスさんの腕を思わず掴んだ。
眠りに落ちて行く中で、寝かしつけるような穏やかな声を聞いた。
「お疲れさまでした。おやすみなさい」