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    愛の痛みは斯く甘く / 神もかたなし如何すべからむ 自ら言うのもなんではあるが、俺はあやかし斬りの刀なので、強く勇ましい質だと自己評価している。風貌もそのような、いやほんとうに自分で言うのはおかしいのだが(物であった頃の客観性を以てひとの風貌として見れば)、きりりと引き締まった顔つきで、畑仕事よりはいくさ映えがするだろう。自分の姿をひとの目で見たことはもちろんないが、そうに違いない。
     さて、いくさ向きの容姿なら俺はその見目に劣らぬような振る舞いを心がけるべきで、そういった気骨あればこそのこの身、この顔、いくさの腕の筈なのだ。武勇を立てる刀の付喪が受肉したのなれば、この循環は当然……と、思っていた。何も他の者もそうせよというのではないが、俺自身についてはそういった考えであったのだ。
     しかし俺は肉体というものをどうにも甘く見ていたと言える。なんだこれは。あらゆる場合にも物量のあるものして、また生物としての諸々の決まりごとに従わねばならないし、すべてのものはこの肉を介さねば感じられない。それは、時に驚くほどの甘美をもたらしはすれど、大方がたいへんに煩雑で思いもよらない結果をもたらす。なんだこれは。概念と言うべきか魂と言うべきか、ただ鉄の塊であった頃の活動や感情などは、もはや灯火がちらちらとゆらぎ点滅する程度にしか思えない。その頃の俺や同じ概念であった他の存在にとっては大きな、まさに全身での表現であったのに、この肉ときたら鈍いのだ。感じるのも発するのも。「行動」を介すせいで歪みが生じ、誤解さえ呼びこむ。そのくせ発露に応じてどこかが反応するようになっている。
     頭が痛むとか、胸があついとか、そういうのならまだよいのだが、ああもうほんとうに、ままならない、俺は勇ましい己が好きなのだと気付かされた。なんだこれは。このかお・・は!
     兄者よ、あなたは俺と似たかんばせを持ちながら、おおらかで柔軟だ。それは魂だけであった頃から何とはなしに感じていたが、今の顔貌を見るにやはりそういう質なのだろう。だから俺のように血気盛んな振る舞いは必要ないのかもしれない。泰然としている方が惣領らしくもある。
     だが、俺はそうではない、勇敢であらねばと思っていたのだ。あなたは存じ上げないが、俺は己の真面目な気質をいたく気に入っている。うう。俺は確かに、こころと名を変えたこの魂をまるごとあなたに捧げたいと言ったし、あなたはそれを受け取ってくれたのだが、それは最上のよろこびなのだが、毎日欠かさず「大好きだよ」と言われては、渡したうちからまたこころが顕れてたまらない。最上のよろこびが幾度も幾度も蘇るのは、これがもしあやかしなら流石にぞっとしないなと思ってしまうほど、ある意味では厄介なのだ。あなたの言葉が耳に触れると、俺のこころは震えて飛び上がってしまう。そしてそのよろこびは、身体に変化をもたらすのだ。あなたも見ただろう、俺の腑抜けたかおを。俺は池の水面で見た。源氏の重宝が、白粥のようにほとびた浮かれ顔をしているなんて、うう、兄者でなければ、いやあなたにだって見せたくなかった!
     俺はしゃんとしている自分が好きだ。強く気高い源氏の重宝としてある自分がいい。あなたにもそういう俺を見ていてもらいたい。燭台切光忠ふうに言えば、かっこよくキメていたいのだ。ひとにはできることとできないことがあるとか、理想と現実は通常開きがあるとか「なるしすとおつ(?)」などの通念も重々承知のうえで、なおこう申しているのだ。ああ兄者よ。俺はあなたがとても好きだ。だからこそ、だからこそなのだ。そう毎日好きだ好きだと言われては、ほとびきってなまくらになってしまうかもしれない。俺はそれが、途方途轍もなく恐ろしいのだ。
     大好きだと伝えるのが無意味なら思うだけに留めることには意味がある? ううん別に無意味とか言われていないけど、言う度に不服そうな顔をされるから、嫌なのかなあ言ってほしくないのかなあって。おまえは理にかなわないことや非能率的なことを嫌うから、もしかしたら僕のこれもそういうもの扱いされているのかと思ってしまった次第。
     僕らにとって思いや気持がどれだけ重要か、きっとお天道様より知る筈なのに、そんな態度はいけないよ。受け取らないなんて有り得ない。況しておまえも僕を好きなのだから。おまえはあの時言ったよね、そのこころのすべてを僕に捧げて、僕の物になりたいって。物の物に対する所有権って僕はよく分からないんだけど、おまえの全部が僕を好きなのだと思ったら、それこそ僕はこころからうれしかったよ。こんなたいそうなもの貰ったりあげたりして良いのかなあと思わないではないけれど、弟がすべてを差し出すと言うのなら、兄は余さず受け取るくらいの器量を見せなきゃね。
     とにかく、大好きなひとに大好きだよと伝えることは僕にとっては意味がある。だから言う。いやいやおまえも言えという意味ではないよ、強制するものでもないし、言わなくても大好きなのは分かっているからね。同じように僕のことも分かるだろうけど、僕はどうしても言いたい。だって我慢する必要なんてないだろう。気持はとめどなく溢れてくるし、せっかく口がついたんだ。時々出さなきゃいっぱいになって破裂してしまう。念じて伝えることだってそりゃあできるけど、音にすると空気が振動して、その振動がおまえの耳の中にある鼓膜というのに伝わって、頭がそれを理解するのだって。いいかい、音にすると空気が震えるんだよ! 念じるだけなら僕とおまえが感じるだけで済んでしまうところ、みんなが吸ったり吐いたりしている空気にお邪魔できるわけだよ。これは一大事だろう? 僕の思いはなんだか人騒がせだねえ、でもそれをわざわざやりたくなるくらい、おまえを思っているということとか、やってみたくなる気持も分からなくないか。
     要するに僕は傷ついている。悩んでいる。悲しんでいる。なんだっていちいち眉をひそめるの。いいだろう言ったって。何がいけないの。多分おまえの側の問題だろう、僕が原因じゃないよね。だって僕ら好き同士なんだよ。それともなにか、追われるより追うのが好きなのか。片思いの方が燃える質なのか。それとも睦言は云々の後で、というような理想があって、その通りじゃないのが気に食わないとか。それは高望みというものだよ。例え所有するとかされるとかそういうことになってるんだとしても、実際僕はおまえの付属品でも従者でもないから、思い通りになってはやらない。刀身大の僕にしかなれない。
     そういうわけで僕は明日もおまえが大好きだし、それを口にするし、その時におまえの顔を見ている。というかいい加減に慣れてくれないかな、毎日毎日おなじことをしているのだから、真顔で受け止められるようになってもいいと思うよ。そういえば最初の頃は嫌(そう)な顔なんてしなかったじゃないか。一体何がどう変わったんだか知らないけど、早く次の期間に移行しておくれ。願わくば干したばかりの布団のような笑顔とか、そういう方向に。
    暮正 Link Message Mute
    2022/08/30 12:39:30

    愛の痛みは斯く甘く / 神もかたなし如何すべからむ

    #膝髭 #刀剣乱舞BL #源氏兄弟

    デレデレしたくない膝丸さん

    ツイッターからの再録にあたり加筆修正しています。

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