イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    大佐と猫銃声が入り乱れる瓦礫の街で2人は向き合っていた。「撃てばよかろう。それがお前の仕事だ」「…っ」銃弾は大尉と呼ばれる男の脇を掠め背後の邪魔者を倒すに終わった。轟音。崩れ落ちる建物。笑う男。「やっと俺の物になったな」大尉に引き寄せられ、口づけられた。「俺と来い」俺の猫だろう。



    暴力をふるわれ、薬物も無理やり投与されて捨てられたらしき青年を拾った。正気かどうかは判別がつかぬ。ただ、声も出さぬ故静かでいい。読書の供として足元に座らせておくのがせいぜいの役目だろう。床では固いらしく、クッションを与えたら気に入ったようで笑った。まあ、悪くない。

    暴行を受けた旅行者を装い目的の組織に転がり込めた。が、薬効きすぎだろ気持ち悪ぃし声も出ねえ畜生。声以外は回復したが、首領らしい大男は尋問の指示さえ出さず俺をただ手元に置いた。本棚に囲まれた落ち着きのある小部屋で読書が趣味らしく、俺はその足元に座れということだった。

    初めは足元に。次は膝に手を置くことを許した。膝に頭を乗せても気にならなくなった。脚に腕を絡めすり寄って見せるから頭を撫でた。驚いたようだが、すぐに緊張を解きされるがままの青年。幹部は渋い顔をするが、これは猫だと言えばそれなりに従った。戻れない道を歩む危機感に近い感覚。

    毛足の長い厚い絨毯とは言え長く座るのには適さない。ケツとかあちこち痛ぇよ参ったなー。余程居心地悪そうに見えたのだろう。翌日、ふかふかのクッションが用意されていた。あっ、これなら痛くない!思わず笑顔になっていたらしく、大尉と呼ばれる男はひどく優しい目で俺を撫でた。なんだよ。

    猫は私の読書中足元から動かない。ただ、好奇心に輝く目でこちらを見ていた。機嫌を伺っているようではない。「これか」読んでいる本のタイトルを読み上げ中身を少し見せてやると、露骨に顔をしかめた。なんだ、哲学書は嫌いか?そうだな、次はお前の好むのんきな絵本でも読んでやろう。

    読書時以外、俺は驚くほど自由だった。屋敷のどこにいても咎められず、無法者たちの慰み者にされることもなかった。一度本気でヤバかったが、静かに怒った大尉が助け出してくれた。「首輪でもつけるか?…冗談だ」読書室での本気ともつかぬ提案は、顔をしかめて却下。あんたのモノじゃない。

    「首輪の代わりだ」読書室の鍵に紐を通し猫に与えた。「好きな時に入っていい。デジタルなものはなにもないが、過ごせるだろう」外部との通信は出来ぬとやんわり伝える。潜入だと判っているのだ。泳がせて得なことなどないはずなのに、どこかで終わりを望む自分がいるのもまた、本当だった。

    ねこ、と呼ぶ声が優しくて俺は忘れていたのだ。自分の仕事を。相手の生業を。埃と硝煙と血の匂いのするコートに、男がここへ来る前に何をしてきたか見える。「ここへ」読書室、いつもの場所。なのに神経がひりついて静まらない。それが伝わったのか、男は疲れたため息を一つ、ついた。

    今日の仕事は酷い有り様だった。仲間内での諍いとして収めるための一方的な暴力など。私はこんな馬鹿げた行いをするために…いや、この部屋では考えぬ。「ねこ」無造作に手を伸ばしなめらかな黒髪を指ですくう。形のいい頭を撫でる。見ずとも判る。足元にうずくまる猫は怯えていた。

    その時はあっけなく訪れた。幹部の裏切り。首領の命を差し出し重用するとの口約束に乗せられ、別の組織への手土産にしようというありきたりな動機だった。大尉に従う者、裏切りに便乗する者。屋敷内は以前ねこが怯えたあの匂いに満ち、いまだ爆発がそこかしこで起きている。酷い有り様だ。

    「持っておけ」読書室に不似合いなモノ。反動の少ない扱いやすい銃と替えの弾倉を受け取ってしまい困惑する。潜入と判っているはずだ。俺が今ここで、あんたを撃つとは考えねえの?「この部屋はシェルターになってる。読書室にしてから気づいたから私以外は知らぬ」何かが始まる嫌な予感。

    たいい。声が出ないから口の動きでそう呼んでみた。男は自嘲気味に口の端を歪め俺を少し乱暴に撫でた。「軍属だったことなどないさ。お遊びで呼んでいたのがこっちで通り名として定着しちまった。それだけのことだ」
    の国の軍関係者をいくら洗っても俺の名前は出て来ない。バカな奴らさ。

    少しだけ静かになった。読書室とは別のところで身を潜めていた俺は様子を伺う為にそっと移動を開始した。今なら、仕留められる。本来の仕事に戻れる。首領を捕らえた上、組織の自滅というオマケ付き。そうだ、働け。
    前は何のためにここにいる、ねこ。…ねこ、じゃ、ない。俺は捜査官だ。

    あれは無事だろうか…いや、心配する必要はない、優秀な捜査官だ。埃が舞い上がり視界が悪い。突然遭遇したらねこを撃ちかねない。そんなヘマはしないだろう。慎重なたちだ。脇腹を掠めた銃弾のせいで血が足りない。意識がねこにばかり向く。自覚していたよりずっと、虜になっていた。

    読書室はシェルターだと言っていた。身を潜めに来るだろう。そこで待てばいい。 読書室はシェルターだと教えた。そこにいればいいが、任務などと下らぬものを思い出したのなら望み薄か。いいや。 アイツは俺が捕まえる。 あれは私を捕らえに来る。 読書室へ行けば、きっと。

    読書室の扉を挟んで廊下のあちらとこちら。壁も天井も崩れ、塵芥舞い上がる中の邂逅だった。ねこの手には手渡した銃。安全装置は解除されている。私はそろそろ足がもつれる頃合いだ。ねこの金色の目が丸く見開かれ、銃口はまっすぐ私を狙う。いい構えだ。 お前になら、殺されても、いい。

    埃のせいでアイツの顔がよく見えない。脳裏によぎる眼差しに引き金にかけた指が硬直する。撃てば任務を果たせ晴れて身分は回復される!なのに指は言うことを聞かぬ。理由の判らぬ逡巡と葛藤の狭間、大尉の遠い背後に人影。懐に手を入れ取り出す動き。撃たれる前に撃て。大尉を…守れ!

    ねこと唇を重ね笑う。近くで爆発音と怒声が聞こえ、お互い任務中の顔つきに戻る。「…生きたくなった。来い」ねこを連れ読書室に入り、内側の二重扉を締める。サイドテーブルを動かし、その奥に隠された小扉を開けると、階段と、奥に続く通路が現れる。背後で息を飲むねこ。驚いたか?

    随分降りてから通路が平らになった。屋敷の横を流れる川の下を潜っているのだという。それで途中に分厚い扉があったのか。「なぁ…?」仄暗い通路、振り返ると大尉が壁にもたれ崩れ落ちかけて。全身から冷や汗が吹き出る。なんだよ、どうしたんだよ。…俺と、生きるんじゃなかったのかよ!

    数瞬落ちていたようだった。ねこがしがみつき、鳴いている。大丈夫だ。後少し進んだ辺りからビーコンは受信される。お前のバックアップがすぐに回収してくれる。こんなひどい街とはおさらばできるぞ。俺が手土産代わりだ。上もお前を悪いようにはしないだろう。だから、そんなに、泣くな。

    うわごとのようにお前は大丈夫だと繰り返す男の顔色は蒼白で、よく見ればコートはぐっしょりと赤く濡れている。なに?聞こえない。…置いていけるかよ。生死不問とかどうでもいいんだよ。俺はもう、お前のものだろ?だって同僚撃っちまったもの。帰れないし、帰りたくない。なあ、…なあ!

    もう少しで地上に出るから、しっかりしてくれ。梯子の下で待ってて。様子をみてくるから。大丈夫、置いてなんていかない。「よお、虎徹ぅ」「ベンさ…!!」下に大尉が!「安心しろ、死なれちゃ困る」「あ…」そうじゃ、ない。そうじゃないけど、助けて。大尉を、助けて。…お願いだよ。

    命に別状はないと診断され、病室で眠る大尉をガラス越しに見つめる。院内用のゆったりした服から覗く体から無数の傷が見える。屋敷ではいつもきっちり着込んでいたから判らなかった。顔の右に大きく走る傷しか、見たことなかった。「俺、あんたのこと何も知らないのな…」ひどく、辛い。

    体がだるく思うように動かぬ。頭はどうにも思考がまとまらない。ああ、麻酔か…生きているのか、という淡い感慨。視界には白い天井と数本の管、淡い色のカーテン、そして。「ねこ」お前、本来の仕事はどうした。監視役にしては随分近いし、そもそも眠っていたらダメだろう?ほら、起きろ。

    ほらよ、あの男の資料だと、気のいい上司から手渡されたファイルはずしりと重くしかし。「これって」検閲にしても度を超していた。文章のほとんどは黒く塗りつぶされ、まともに読めぬ。「判るのは名前だけさ。やっこさんの名前はー」「待って下さい。俺、自分で聞きます」「…そうかい」

    本格的な尋問は回復してからだって。ねこが複雑な顔で無理やり笑う。ゆっくり出来るのも今のうちだなと冗談めかす。そうとも。監視が厳しくなれば、こんな会話も出来なくなる。「ねこ」耳元に囁くふりをし、手をシーツに引き入れる。指先で計画を伝える。出来るか?目で問いかける。

    深夜、当直の医師と看護師のみになった頃、俺と大尉は病院を抜け出した。俺は見張りを怠り煙草を買い足しにゆくダメな捜査官として正面から。大尉はいつ調べたのか監視カメラに極力映らないルートだと言う。まだ回復しきっていないのだから無理をして欲しくないのに。

    調達した車は俺が運転、大尉は後部座席だ。「これを」サイズの合わないウェリントンを渡され、前髪もおろされた。なにこれ?「目撃情報撹乱」ガキに見えますかね、ふん。「いいな」笑うなよ!「お前の声」もっと聞きたいと座席に沈み込み言う大尉の顔は白い。急いで郊外の道路へ向かう。

    郊外の幹線をまっすぐ走る。どこへ行くのだろうか。「じき、派手なトレーラーが見えてくる。それに乗り込め」前方にそれらしき影が見えてくる。ショッキングピンクベースのファイアーパターン、確かに派手だ。後部が開き、中でライトが閃く。誘導されるまま、庫内に格納される。「大尉」

    車を取り囲んだ強面たちの後ろから華やかなオネーサンが登場して、その人に大尉の手当てをしてくれと頼んだとこまでは覚えてる。気が付いたら、どこか豪華なお屋敷の一室だ。大尉はどこに。無事なのか。焦る気持ちそのままに案内を乞うた。あの街の屋敷とはなにもかもが違う華やかなここ。

    何もかもが豪華な屋敷の一室で眠る男の名前を俺はまだ知らない。短髪をネオンピンクに染めた女帝がここの主で、良すぎるほど察しがいいおかげで、下らない詮索は一切されなかった。「雄牛ちゃんが起きたら聞くわ」あなたの健康管理も依頼のウチなの。ちゃんと寝なさい。このお部屋で、ね。

    随分眠っていたが、今は何時だ…、!ねこ、は! 起きあがろうとして走る強い脇腹の痛みでむせてしまい、出来なかった。「気が付いた!」知らぬ声に滲んだ喜色に視線を巡らせば、そこに。「ね、こ…」涙を浮かべて何度も頷く姿に、そういえば死にかけていたのだとやっと思い至る。「ねこ」

    「そうだよ、あんたの…あんたの猫だ…」涙をこぼしながら私の手を握りしめ、頬をすり寄せる。「だっ…あ、きぜ、…っ」推測するに、だってあんた気絶しちまって、と言いたいのだろう。私はねこの声を聞けたのが嬉しくて、かつてないほど胸が満たされてゆくのを感じた。ああ、幸せだ。
    あおせ・眠月 Link Message Mute
    2022/11/18 22:44:10

    大佐と猫

    #二次創作  #牛虎

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品