Hug me tender
かろうじて屋内、と言うだけのだだっ広い倉庫の片隅、雑然と置かれたソファの上で、ソーンは体を縮こませていた。
音さえ聞こえそうな速度で熱を奪ってゆく夜の大気に手足はすっかり冷え切り、かと言って他の皆が眠っている間を抜けて勝手の分からぬキッチンでもいいからとりあえず温かいものを、と言う発想もなく。
「ソーン?」
ええい、目を閉じてしまえばとなかばやけになって大きく体を倒したところに、小さく声がかけられた。
「……なに」
こちとら寒くて機嫌が悪いんだ尖った態度で返事して何が悪い!と分かりやすく声音に出たのだろう、声の主、スマイリーは的確にそれを汲み、
「寒いよな」
とだけ言った。それきり動かない。
別の椅子で寝ていたはずだ。さっさと行ってしまえばいいのにと黙っていたが。
「……」
沈黙は肯定だ。
「そっち行っていいか」
しばし思案の間があり、人影が動く気配。なんだよ、いいとも悪いとも言ってないぞと心で反論しただけに留まるソーンの隣に、新人たちのリーダー格であるその青年は座った。
「体起こして、……ほら」
思わず吐息がもれた。温かい。
拒まれないのを確認したスマイリーが背中に腕を回し、縮こまるソーンを抱きかかえる。大きな手が冷えた耳を覆い、もう片方は体に寄せて。鼓動が聞こえる距離だが、そんなことよりも。
「おま、なんでこんなあったかいの」
「元々体温高いんだ。どこ行っても温め役」
「ふぅん?」
いたずらっぽく片眉を上げて視線を寄越すスマイリーに、冷たい鼻先を押しつけるようにして話す。
日付が変わって、そろそろ三時間は経つだろうか。お互い囁くような声でぽそぽそと会話を紡ぐ。
「少しでもいいから寝よう。体伸ばして、腕に頭乗せていい。高くないか?」
「うん」
三人掛けとはいえただのソファに二人で体を横たえては。
「せまい、っつか、お前そっちだと落ちるだろ」
「俺がお前の上に落ちるほうが危ないと思う」
「……確かに」
ケガしそうと笑ってやれば、それは絶対させたくないからと、予想外に真剣な答え。
「あと、誰かを抱えて眠るの、好きなんだ…」
「道理で上手いはずー」
「お気に召しましたか?」
くすくすと笑い合う。
高い体温に包まれて緊張がほぐれ、とろとろと眠気がやってくる。それは抱えている方も同じで、話す声はどちらもふにゃふにゃと頼りない。
「トラックの中でさ、お前俺庇ったじゃん」
「あー、捕まえて移動してた時の」
「ミサイルかなんか撃ち込まれたアレな」
どうして?
俺が弱そうに見えるから?
体格で劣るから?
「俺は、盾だと思ってるから」
せっかく体が大きいんだ、他の誰かを守るために使いたい。
「そんなもん…?」
「そんなもん…」
すぅ、と頭の上で寝息が聞こえる。面倒見もよければ寝つきもいいのかよと八つ当たりのような悪態を心でついて、ソーンも眠りに身を任せた。
抱えて眠るのも、庇うのも、自分だけにして欲しいという微かな独占欲に、見ないふりをして。
今までで、一番深く眠れた、気がした。