離宮のあるじマヘンドラ五世が戴冠した。それ自体が国の宝とも言えるほど贅と技を注がれた黄金と宝石の衣装は、数千年を数えるほど存続、繁栄を続ける強大な王国マヒシュマティに受け継がれてきた、戴冠式のためだけに用意されたものだ。まばゆい衣装は太陽の光をはね返し、きらりちかりと、都の隅々まで王の存在を知らせるのに役に立った。
王光は、川のほとりに建てられた宮殿にも届く。
川からふんだんに水を引き入れ、至るところに噴水や人工池が造られたその宮はアマレンドラ一世の御代に国母シヴァガミによって建てられたと記され、泉の離宮と呼ばれていた。
静寂に包まれた宮は限られた者のみが出入りを許され、そのほとんどは舌を切り落とした特殊な神官たちだった。神官も女官も一様に白い衣装のみを身につけ、装飾品の類は耳飾りひとつとしてない。レンガや大理石の床を素足よりも音を立てずに動けるように、底が厚く柔らかい靴を履いた彼らは、まるで精霊か亡霊のように見えただろう。
戴冠の儀式を一通り終えた新王は必ず泉の離宮に足を運ぶ。主に挨拶をするためだ。
王さえ白く装飾のない衣装に着替え、幾重にも閉じられた扉を通り、最奥の広間に到着する。その顔は緊張と、いささかの隠しきれない好奇の色に染まっている。
「バラヴィンカ」
水と植物で満たされた、屋内であるのに森のような場所で、王は主の名を呼んだ。
この宮と同じだけの樹齢を持つ太い木の上から、大きな羽ばたきが聞こえ、何かが近づいてくる。
「…バラ、ヴィンカ」
泉の離宮の主は人ではない。
若き新王の前に降り立ったバラヴィンカと呼ばれた主は、腰から下は鳥、上半身はヒトの姿をしていた。
精悍で美しい男性の上半身は絹よりもつややかに光沢を帯び、見事な筋肉に反したすっきりと細い首の上の顔は、新王が言葉を失うほど美しかった。女性的なのではない。恐ろしく凛々しく整った顔立ちはここにいる誰より高貴。灼かれるほどに強い眼差しは紅色。波打つ緑の黒髪は細かい黄金細工で飾られている。逞しい背から広がる翼や、鳥の下半身は孔雀のように青から黄金を経て碧へと彩りを変え続ける。白い衣装の王さえ奴隷のように従えて、離宮のあるじ、バラヴィンカは睥睨した。
「予言を。私のバラー」
新王は待ちに待った言葉を彼に向けやっと放った。
「 」
高らかに。厳かに。
半人半鳥の神は、王の死期を伝える、告死鳥でもあった。
彼のために造られた離宮は今までも、きっとこの先も彼のために維持され続けるであろう。