雨男
雨の日に会う。
雨の日にだけ、会える。
薄明るい朝は控えめな雨音から始まる。空は白く、濡れた地面もそれを映して白い。
気に入りの大きな掃き出し窓の外を、ベッドに寝そべったまま眺めていたスマントはそこに立つ人影に気づく。
「よう、レイン・マン」
半分閉じた目で起き上がり、窓を開けて迎え入れるのは白シャツに白ルンギの長身の男だ。レインマンとは名前だろうか。
「いや、ここで」
「濡れるだろ」
言ってから、そういえばこの男はいつも少しも濡れていないと思い出す。足元だって水はね一つない。
「昨夜遅かったんだ」
言い訳めいたひとりごとを不思議な笑みで受け止める長身の男は、バツが悪そうに視線を外すスマントをふいに抱き寄せた。
窓の外に踏み出したスマントの足元から水滴が散る。それも男の衣服の裾さえ濡らしはしないが。ひやりと冷たい外気。同じくらいひやりとした男の腕と体。
「おい」
なにごとかを囁くと、男はあっさりと解放して一歩を引く。
「また来るよ」
雨滴がまるで映写幕だったかのように男の姿は消えてゆく。
「たまにはもっと降ってる時に来いよ」
コーヒーくらい淹れてやるからと笑うスマントに、消えかけの口元が笑いを作った。
ああ、雨が上がる。