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    フェア&アンフェア

    スマイリーは見ていた。

    山積みにされた機材の中、そこだけ奇妙に明るいのは大きなモニターがあるからだ。その前に座り忙しなく手指を動かしているのはソーンだ。最年少の我らが頭脳。他は自分も含め、どちらかと言うといわゆる脳筋に近いため、彼のすることに助言など出来るはずもなく、リーダーでさえ「出来たら知らせろ」とだけ言い置いて、みな好きなように散っていった。
    だが、それではフェアではないとスマイリーは考える。準備も本番も、彼のバックアップなしには進まないのに、彼を誰もサポートしないなんて変だ。もちろん、技術や知識で支えられるとは思わない。だから、そうではないところで支えたい。それなら自分にできることだってある。
    大きな画面に幾つもの小窓が現れ、消え、また現れて、スマイリーにはまるで判らぬ文字が打ち込まれてゆく。
    整えられた指先がキィボード上に踊り、そのたびに小窓が映り変わる。見ているだけでも目眩がしそうだ。本人は至って楽しそうにして、おそらく全てを把握しているのだろう。時折弾かれたように何かに気づいた顔をして増して素早く打ち込み、画面がぱちぱちと変わってゆくのを満足そうに頷きながら眺めている。
    時間にして一時間と少しそうしていたところで、ソーンがふ、と息を吐いた。その瞬間を狙って声をかける。
    「きり、ついたか?」
    「……あー、うん、そーね」
    いたのか、と思ったのを隠しもしない表情でソーンが声のした方を振り仰ぐ。
    「もうちょい良くなるはずなんだけど」
    なんかなーカチッと分かんなくてやなんだよなーとごちるソーンの肩に力が入っていると感じたスマイリーは、絶対断られない確信を持って提案した。
    「気分転換と休憩に、ココアはどうだ?」
    「飲む!」
    ほらやっぱりと思ってもこちらは顔に出さない。
    「作ってくるから、少し体伸ばそう。ゆっくりめのストレッチな」
    「こないだ教えてくれたやつ?」
    「そう」
    ふぁい、と気が抜けた声を背中に受けて、スマイリーはキッチンでてきぱきと提案の飲み物を作る。それと、卵粥も。
    「ちゃんと伸ばした!」
    トレイにココアと粥を載せて戻ってきたスマイリーに、ソーンが自慢げに報告する。えらいぞ、体のメンテナンスは頭の働きにも繋がるからな。そう褒めれば素直に嬉しそうに笑みを深くする。
    「それなに?」
    ココアの隣のふた付きボウルに気づいたソーンが簡潔に聞く。
    「ココアの前に食べて欲しいやつ」
    「ん」
    好物の前にと勧めるのは申し訳なかったが、あまりにあっさり諾が返って来たため、スマイリーの方が驚いた。
    「休憩一時間しか取らないんだから先に飲ませろとか言うと思った」
    「言わない。前なら言ったけど、お前の作るの美味しいし、こうした方がいいってのにはちゃんと理由があって効果も出るって今は分かってるから」
    グリーンアイが思いの外真剣にスマイリーを捉えて、宣言に等しい強さで言い切った。その信頼は代え難いものだ。
    「……ありがとな。冷め切る前にどうぞ」
    「やらかくてもよく噛んで、ゆっくり、だろ?」
    「そう!」
    二人で顔を見合わせて笑う。
    ボウルが空になり、やっと好物のココアに辿り着いたソーンが大きめのマグカップを手に取って嬉しそうに口に運ぶ。
    「んー!んまい!あまい!」
    「本当にあの量の砂糖でいいんだな…」
    自分はソーンに用意したより大きめの器でまだ粥を食べているスマイリーが、一旦手を止め頬杖をついて笑う。
    「甘いの控えろーて言わないのな」
    「それを四六時中飲んでたら止めるさ」
    「さすがにそれは…したいけどしない!」
    いたずらっぽく瞳を輝かせて笑うソーンに、自制できてえらい!とスマイリーも破顔する。
    さて、と両手を合わせて作業に戻ろうと立ちあがりかけるソーンを軽く制す。
    「まだ時間ある。少し横になった方がいい」
    「すけべ」
    機材山の隣のソファを指差すスマイリーにソーンが間髪を入れずからかいの言葉を投げる。からかいではなかったかもしれないが。
    「ち、っがう!ばか!」
    不意の色めきにめっぽう弱いスマイリーが青い目をちかちかさせてむきになるのを楽しむソーンも、なかなかに曲者である。
    「じゃーなに。下心以外がおありで?」
    「目の周りのマッサージしてやろうかって!思って!」
    急になにを言い出すんだよ!と頭を抱えるのを見て満足したのか、ソーンはさっさとソファに横たわり、
    「よろしくー」
    のんきにマッサージをねだった。
    「全くお前ってやつは!」
    ぶつくさと文句を言いつつも、手際よく食器をまとめキッチンに置きに行き、すぐ戻ってくる。
    「肩じゃなくて目の周り?」
    「画面一生懸命見てたから」
    「見てたの」
    「見てたよ」
    横たわったソーンが無防備に目を閉じて身を任せる。よし、と気持ちを込めてスマイリーが手を伸ばす。
    「んあーーわあー」
    「変な音が出てるぞ」
    スマイリーの親指がソーンの眉の上を往復する。眉間から目尻に向けてじっくりと。下側も同様に。側頭部を親指の付け根で押さえて軽く円を描く。
    「らめら、れんふきもちー…」
    「なんだって?」
    スマイリーは語尾を笑いに溶かし、ソーンの意識が眠りに沈んだのを確認してそっと手を離す。猫のように、と言うには大柄な体躯を音もなく移動させ、キッチンで片付けを済ませた。
    「寝てた! 起きた! いま何時?!」
    意識を浮上させたソーンが飛び起きる。忙しない奴だなと心で苦笑して簡潔に。
    「休憩終了まであと五分」
    「まじ?」
    「マジ」
    顎を引いて眉を上げ、視線だけを寄越す愛嬌ある癖。
    気に入りのそれを見られたソーンは、やる気が満ちてくるのを感じた。
    「もーちょっとやってみる」
    「頼む」
    ソーンが機材山の奥に戻ってほどなく「あー!これだあ!」と声が聞こえた。休憩前に行き詰まってるとこぼしていた部分が解決、もしくはその糸口が見つかったのだろう。
    「少しはサポートできたかな」
    スマイリーはソファで足を組んで、満足そうに、そして少し安堵したように笑った。
    この仕事が終わったら、めいっぱい甘やかしてやろう。ああ、でも━━

    「甘いものは、控えめに」


    あおせ・眠月 Link Message Mute
    2023/02/07 23:21:01

    フェア&アンフェア

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    #二次創作 ##スマソン

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