謁見の後で 枢機卿の衛兵を四対四十で倒した事に機嫌を良くした王はアトス、ポルトス、アラミス、そしてダルタニアンに新しい服と金貨一袋分をそれぞれ与えるように枢機卿に指示した。
不満を言いたげだった枢機卿の言葉を遮ったのは王妃であり、不服ながらも従わざるを得なくなった枢機卿は苦い顔をしながら四人に指示通りに服と金貨一袋を与えたのである。
真新しい服に着替え、さらに臨時収入を得てご機嫌なポルトスは新しく友に加わったばかりのダルタニアンの背を嬉しそうに叩いた。
「やるじゃねぇか、小僧! 上等な服になったから多少マシに見えるぞ」
おそらく褒められているのだろうとは思うが、もう少し言い方があったのでは、と微妙な笑みを返すダルタニアン。
明日は再度陛下との謁見がある為、呑むなら早目に、と早速晩酌の支度をプランシェに言いつけるポルトスの意に反対する者は誰もいなかった。
普段よりも豪勢な料理に手をつけながら、既に打ち解けているらしいポルトスとダルタニアンの様子を眺め、アトスは空になったグラスにワインを注ぐと一口飲んだ。
あれだけの衛兵に囲まれた状態で、ロシュフォールを見るや弾かれたように戦い始めた時には流石に度肝を抜かれたものだと思い出し笑みが溢れる。
鍛えられた剣捌きは自分達が加勢をするのに相応しいもので、思わぬ所で見つけた逸材に少し興味を惹かれたのは然るべきだろう。
青年の無鉄砲だが的確な状況判断力は特に目を引くものがある。
決闘をするよりもこの若者を(言い方は悪いが)しばしの金蔓にする事で、居住地へ招く事を認めたのはアトスにしては珍しい事だった。
無論、金を目的で招いたのは自分ではないのだが、初日に自分、ポルトス、アラミスの三人に決闘を挑んだこのトラブルメーカーが無事に宿に辿り着けない可能性を考えるとアトスの良心が働いたのだろう。
何よりーー銃士としての誇りを思い出させたダルタニアンを気に入ったというのが一番大きいだろう。
アトスは誠実な人物であるため、愛した人に裏切られることがどれほど堪えたかは彼の飲酒量と希望を失い虚になった目を見れば一目瞭然だった。
その為、ダルタニアンがアトスにもたらした変化に気づいたポルトスとアラミスは口に出しはしないが、内心喜んでいた。
アラミスはアトスの様子を伺いながら、今日は飲むスピードが普段よりもうんと遅いことを確認してプランシェがダルタニアンからもらった金で買ってきたワインをじっくりと味わい、声をかける。
「昨日より機嫌が良さそうだな、アトス」
「そうか? おれは普段通りだが」
「ワインの減りが遅いからそう思っただけさ。気にしないでくれ」
「……」
アラミスの指摘で気付いたのか、照れ隠しのようにグラスに入っていた残りを一気に飲み干すとアトスは寝ると告げ、部屋へ帰っていった。
アトスが席を立ったのを見ていたポルトスとダルタニアンは不思議そうな顔をして残ったもう一人を見つめ、アラミスが耐えきれず吹き出してしまったのも無理はないだろう。
部屋に戻ってきたものの、寝るには早いしもう少しワインを飲もうかとも思ったが今夜は不思議とそのまま眠れるような気がして、アトスは眠りに落ちた。
翌朝、珍しく熟睡して起きてきたアトスの顔色が健康的であるのに気付いたアラミスは満足げな表情で挨拶をすると、ポルトスとダルタニアンを起こしに向かったのだった。