キラキラ(腐*ノクプロ前提タルプロ) 十六歳の誕生日は、とても盛大に祝ってもらった。
既に法律なんてあまり意味をなさない世界に成り果てているからか、それとも僕がハンターとしてそれなりに役に立てているからか。
本当はまだお酒も飲んではいけない歳だっていうのに、大人のみんなは僕を自分たちの仲間として受け入れた。
生まれて初めて飲んだお酒は少し苦くて、けれど心をうきうきとさせる不思議な味がした。
勧められるままに飲んで、飲んで、頭がふわふわとしてきた頃にようやく周りにストップをかけたのは、ずっと部屋の隅の方でブランデーを傾けていたプロンプトだった。
手加減してあげてと言う彼の手にあるグラスを見る。琥珀色の地味な色をした液体はなんだか彼に似合わないと思った。
10年近く昔のプロンプトは、今みたいにヒゲも生やしてなくて、女の子みたいな白い肌を赤くさせて可愛らしい色のカクテルを好んで飲んでいた。
グラディオラス様がビールを勧めるのを、苦いと言って断っているところを見たことがある。
白い泡の下で光るブランデーよりもずっと明るい金色は、プロンプトにこそ相応しいのに。そんなことを思ったものだ。
そんな彼は、当時に比べれば少し色褪せたとはいえ相変わらず僕の目にはキラキラ輝いて見える。
いつからだろう。ずっとずっと昔から、それこそインソムニアに居た頃から、僕にはプロンプトが輝いて見えていた。
輝いていて眩しいのは髪の色だけじゃない。砂糖漬けにしたスミレみたいに綺麗な目も、ころころと鈴が転がるような笑い声も、僕を撫でる暖かな手も、なにもかもが輝いて見えていた。
こっそりと、それをノクティス様に伝えたことがある。
少しだけ不思議だったのだ。僕にはプロンプトがとても輝いて見えて眩しいくらいなのに、他のみんなは大丈夫なのかなって。
ノクティス様はそんな幼い僕の言葉に優しく笑って、王子様らしくない乱雑さでもって僕の頭を撫でながら言った。
俺にもキラキラして見えるぜ。眩しくて、時々目ぇ瞑っちまうわ……って。
僕は嬉しかった。ノクティス様と同じ世界を見ているのだと知ったから。
そうだ。あのときは確かに嬉しかった。
それがどうだ。
もう姿を消して久しい彼の人をみんなが待ち望む中で、きっと僕ただ一人があの人の帰りを恐れている。
キラキラの正体に気が付いたのは、二年前。
寂しいと言って僕を抱きしめたプロンプトに、心臓が弾けそうなくらいドキドキしたのがきっかけだった。
僕を弟のように扱う彼は、兄らしくあろうとしてかあまり弱いところを見せようとはしなかった。
なにがプロンプトをあそこまで追い詰めたのかは今でもわからないままだけれど、寂しいだなんて言葉を聞くのはその時が初めてだった。
十以上も歳上の、それも男の人をずっと好きだったのだと気付いた時はそれなりに動揺した。
けれどすぐ、あんなに優しくて楽しくて、それから可愛らしい人を好きになるなと言う方が無理だと納得した。
そして次にノクティス様のことを思い出す。
僕と同じ世界を見ていたあの人は、まさしく僕と同じ目で彼を見ていて、それから僕と違って彼と想いを通わせていた。
そういう瞬間を見たわけではないけれど、確信が持てる程度にはあの二人のあいだにあった空気は特別だった……と思う。
初恋を自覚してその日に失恋して、今日でめでたく二年だ。
失恋を確信した僕は、なんと一年前にプロンプトに告白をしている。冗談なんかじゃない。ノクティス様が居ない間だけでも僕が一緒にいるよって、そんなずるい言葉と一緒に好きだと告げた。
プロンプトはと言えば、呆気にとられた顔をして、それから情けない顔で笑って僕の頭を撫でた。
言うようになったねって、子供扱いをしながら。
だけど優しいプロンプトは、僕の言葉を冗談なんかにはせずちゃんと受け止めてくれた。
ただし条件付きで。
一年間、僕がプロンプトを好きなままでいたならその時は。
その時は、セックスしようね……だって。
改めて思うとやっぱり子供扱いされてる気がする。
一年僕の気持ちが続かないって、そう思ってたんだろうか。そんなはずないのに。だってもう何年も抱えてきた恋心だったんだ。自分だって気付いてはいなかったけれど。
ブランでの入ったグラスをテーブルに置いて、プロンプトはグラディオラス様に声をかける。
タルコット、酔ってるみたいだから部屋に連れてくね。
そう告げるのにグラディオラス様はいつもの大きな笑顔でよろしく頼むわと返した。
心臓が騒がしいのはお酒のせいだろうか。
プロンプトと繋いだ手が焼けるように熱いのも?
僕の前を歩く金髪の下から覗く白い首筋がすごく魅力的に見えて、ふわりと香る香水がとてもいい匂いに感じるのも、お酒のせいなのかな。
それともこのあとに起こることを期待しているから?
考えているうちに僕の部屋へと辿り着く。
プロンプトはなんの躊躇もなく僕をベッドに座らせて、柔らかな胸に僕の顔を押しつけるようにして頭を抱いた。
一年経ったね、と言うのに、うん、と短く答える。
どうするの、と問うのに、セックスしたい、と正直に答える。
プロンプトは少し笑って、僕の頭を抱えたままベッドに倒れこんだ。
そうして、良いよと短く告げてようやく僕の頭を解放した。
ノクティス様のことは、なんてデリカシーのないこと聞きそうになって慌てて口をつぐむ。
少し色褪せた彼は、それでもやっぱりキラキラ輝いて見える。
この先ずっと、そうだと思う。一年経っても、何十年経っても。
ノクティス様が帰ってきても、こなくても。
そこまで考えて、ふと思い出す。
キラキラ眩しい彼は、あの人の隣に居る時はもっと眩しかったなって。
ただ一人、王の帰還を恐れる僕ではあるけれど、やっぱり早く帰ってきてほしいというのが本音だ。
早く帰ってきて、彼をもっと輝かせてほしいんだ。僕の恋が焼け切って影になるくらい、眩しく。