イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    ミラプトとレイス きっかけはなんだったか。確か、デュオでしばらく組もうと俺から提案して、十試合近くをクリプトとこなしたうちの三試合目くらいのことだったかな。

     堅実な降下場所を好む相棒は、そのときも激戦区から離れた静かな場所に俺を連れて降りていった。
     その試合はたまたまなのか天才ハッカー様がなにかやったのか知らないがリング運も抜群で、調査ビーコンを見たクリプトは次のラウンドもリング内だと、少し安心したような声音でそう報告してきた。
     さらにその日は物資運も良いときた。こっちはきっとこのミラージュ様の日頃の行いのおかげだろうな。二人揃ってレベル3のアーマーにお気に入りの武器を握りしめているとなれば、もうここから動く必要はない。回復周りもそれなりに潤沢だ。たまーにこういう試合がある。酷いときには最後の一部隊とだけ戦ってチャンピオン、なんてこともあったりしてな。なんだかちょっと情けない気もするが、まぁそういう試合があっても良いだろと俺は思ってる。
     クリプトもまた好戦的な性格ってわけでもなく、戦わないで済むならそれで良いさといつだったかの試合で呟いていた気がする。

     そんなわけでそのときの俺は敵がやって来そうな場所を監視しつつ、やることもないからとバッグの中身を整理することにしたのだった。
     結果、俺には不要とされてるアル促を二つほど見つける。間違って拾ったんじゃあない。クリプトにくれてやろうと思って取っておいたのをすっかり忘れていたのだ。
     それを予定通り渡そうと取り出したとき、ふと悪戯心が芽生えた。ここで素直に渡すのも面白みに欠ける。なんてったってそのとき俺は暇を持て余していた。なら楽しいことをしたほうが良い。ま、暇してなくても俺はいつだってエンターテインメントを求める男だが。
     なんてことを考えて、隣のクリプトの肩を軽く叩いて呼んだあと俺はこう言った。

    「クリプちゃん、アル促いるか?」

     ここまでは普通だ。これで首を横に振られたなら俺の計画はその時点で失敗に終わるところだった。が、幸いにもクリプトはバッグの中身を一度見てから、こくりと無言で首を縦に振った。
     それを見てニッと意図的に口端を持ち上げ、続きの言葉を告げる。

    「んじゃ、お礼はほっぺにちゅーで良いぜ」
    「は?」

     間髪入れず飛んできたドスの利いた声にもめげない。なぜならこんなことは日常茶飯事だからだ。恐ろしい顔をする恋人を前に、俺は飄々とした態度を崩さず持っていた二つのアル促を振ってみせた。

    「いや、いらないなら良いんだぜ? いくらクールタイムが短いって言っても、俺だって持ってるに越したことはねーしな。幸いバッグもでかいし、武器は片方ウィングマンだから弾もそんなに持たなくて済む。空きはあるんだ。お前がいらないっつーんなら、これは俺が有り難く使うかな」

     ま~どう考えたって代わりにグレネードでも持ってたほうが百倍良い。が、そんな考えはおくびにも出さずお得意のハッタリを決め、アル促をバッグに戻すふりをしてみせた。そして意外にも、その行為はクリプトを見事に釣り上げたのだ。
     待て、と短く制止の言葉を口にして俺の腕を取ったクリプトの顔ときたら、苦渋って言葉がピッタリの表情だった。そんな顔をしたまま、クリプトは上空に展開させたままだったハックに一瞬だけ接続してから、一度大きくわざとらしいため息をついてみせた。今のは多分、中継ドローンが近くを飛んでいないか確認していたんだろう。ほんと、用心深いこった。

    「いいか。さっきの試合で少しフォローしてもらった借りがあるから、これはそのお返しも含めてだ。二度と同じことはしないからな」

     この面倒な男にはなにかと言い訳が必要だ。りょーかい、と笑って返せば、自分から口にした言い訳なのに恥ずかしくなったのかさらに顔をしかめてみせる。少し口を尖らせる仕草が可愛かった。
     そんな可愛い恋人は、もう一度大きなため息をこぼしてからようやく俺の頬へと唇を押し当ててきた。厚めの唇が頬に押し当てられる感触がしたのと同時に、鼻先が頬骨あたりにぶつかるのもわかった。一瞬で離れていってしまったものの、その際にわざとかわからないがちゅっと可愛らしい音がしたのは高得点だ。
     思ったよりもしっかりとキスをしてくれるのに、思わず間の抜けた笑い声を上げてしまった。その瞬間にデコイを出していたならきっと、鼻の下を伸ばしたイケメンが目の前に現れたことだろうな。

    「おい、さっさと寄越せ」

     照れ隠しなのか、クリプトはすぐに俺から離れるとふ、ふそう……不当……違うな、あー、ふてぶてしい態度で手の平を上に向けてずいっと差し出してきた。その上に約束どおり、アル促をひとつ乗せてやった。
     そしてクリプトはそれをじっと見つめたかと思うと、眉間にくっきりとシワを寄せてまたしてもドスの利いた声を上げたのだ。

    「どういうつもりだ、二つとも寄越せ。お前には必要ないだろ」
    「なに言ってんだ、キス一回につきひとつに決まってんだろ。こっちも欲しけりゃもう一回だな」
    「……いい加減にしろよ」
    「そんな怒るなって、俺は強制なんかしてないだろ? 嫌なら別に断ってくれて良いんだぜ?」

     言われた内容が気に食わないのか、それとも言い方が悪かったのか。はたまたどっちもか。クリプトは俺の言葉を聞いて盛大な舌打ちをしてみせた。けど、意外にもその直後に俺のスカーフを引っ掴んでさっきよりも可愛げのないキスを寄越してきたのだ。これには驚いた。てっきり怒って殴りかかってくるもんだと予想していたから。
     想定外のことにまたしても笑みがこぼれてしまった俺が気に入らなかったか、ひったくられたアル促で一度頭を殴られたが不思議と腹は立たなかった。

     と、それが三試合目での出来事だ。そのあと俺は、デュオでクリプトと組んでいる最中ずっと同じことを繰り返した。交渉の材料は時にシールドだったり弾薬だったりと様々だ。SRで育てたレベル4のアーマーを使ったこともある。
     クリプトは試合中には私情を挟みたがらない性格だ。プライベートで二人きりの時はさておき、試合中は人目がなくてもいちゃつくのを嫌がった。ちょっと腰を抱いただけでしこたま殴られたこともあるくらいだ。どこで誰が見ているかわからないんだと、ちょいと被害妄想の気があるおっさんはそうしつこく主張する。
     そんな恋人も、いつしかすっかりこの交渉に慣れきってしまっていた。もちろんあたりに人も中継ドローンも居ない時に限るが、俺がなにかを必要かと聞けば、さっさとキスをしてそれを奪っていくようになった。それも頬にじゃない。唇に、だ。これはえーと……そうだ、アーマーの交換をする時に「さすがにほっぺじゃ割りに合わない」とゴネまくってからだったか。あのときの鬼のようなクリプトの顔と言ったら……それでも結局、俺の言う通りに口にキスしてくれるんだから可愛いよな。

     まぁそんなわけで、俺とクリプトはデュオで試合をするあいだ数え切れないくらいキスしまくった。家でする回数より多かったかもしれない。いやそれは言い過ぎか。なんにせよ、恥ずかしがり屋で初心で奥手だと思ってた俺の恋人は、それ以上に合理性を取る男だったようだ。
     とは言え、たまにキスをしたあと、俺の目を見て悪戯っぽく笑うところを見るに案外向こうも楽しんでるのかもしれない。小さく漏れる笑い声は俺を馬鹿にしてるようにも聞こえるが、どうにも色っぽくて嫌いじゃない。

     ただ、残念なことにそんなお遊びも今日はおあずけだ。いつもどおりトリオで試合に出ることになったからだ。クリプトが同じチームなのは嬉しいが、今までのクセが出ちまわないよう気をつけないと。ま、今日は残るひとりがレイスだから、万が一のことがあっても大丈夫だろうが。なんせ、彼女は俺とクリプトの仲を知る唯一……いや、数少ない人物のひとりだからな。

    「貴方たち、ここ最近はデュオで鍛えてたみたいね。練習の成果、期待してるわよ」

     ジャンプマスターに選ばれたレイスは、笑いながらそう告げると早々にシップから飛び降りる。クリプトと違って好戦的な彼女は、いわゆる激戦区と呼ばれるエリアに迷うことなく降下していった。
     隣のクリプトが少しだけ心配そうな表情をしているのに気づいて、短く奴の名前を呼ぶ。こちらを向いた顔へ片目を瞑って「ウィンク!」とおどけてみせれば鼻で笑われた。それをちらりと横目で見ていたレイスが小さく肩をすくめる。

    「いちゃつくのはデュオのときだけにして。ほら、降りるわよ!」

     気付けばもう地面が近い。レイスの力強い声に頷いて、俺たちは各々良さそうな場所に着地した。
     取り急ぎ必要最低限の装備を拾って、誰よりも早く装備を整えていたレイスに合流する。クリプトも走ってきたのを確認して、レイスは「行きましょう」と俺たちに短く告げ、銃声の聞こえるところへ駆け出していった。
     今日の彼女はやる気たっぷりだ。漁夫のタイミングを待つなんて気は微塵もないらしい。誰と誰がチームメイトなのかもわからないような状況に乱入して、けれど着実に一人ずつ落としていく。俺たちもデュオでの練習が功を奏したか、レイスが自由に動けるよう上手く連携してフォローができた。
     最後の銃声が鳴って部隊が壊滅した音が響く中、さっさとアーマーだけ着替えたレイスがリロードしながら笑う。

    「ありがとう、二人とも。貴方たちがカバーしてくれたおかげで思いきり戦えたわ。練習の成果、思った以上みたいね」

     遠くでは目の前の小柄な女性がキルリーダーになったことを伝えるアナウンスが流れていた。この俺がその誉を得られなかったのは残念だが、戦いに関しては結構手厳しいレイスに称賛されるのは悪い気がしない。
     隣を見れば、同じ気持ちだったか微かに微笑んでいるクリプトと目があった。それがなんだかやたらと気恥ずかしくて、俺は誤魔化すように浮かんだ言葉を吐き出す。

    「あーっと、とりあえずめぼしいもの漁って、荷物整理でもしないか」
    「そうね。幸いリング内だし、他に部隊が居ないようならそこの家で少し休みましょうか」

     レイスの言葉にクリプトがハッとしたような顔でドローンを取り出す。いつもならいの一番に索敵に回るのに珍しい。それくらいさっきの撃ち合いは気力を使うもんだったってことだろう。

    「周囲に部隊は居ない……すまない」

     バツが悪そうに謝ったのは索敵が遅れたことに対してか。注射器を腕に刺していたレイスもそう判断したようで、ふっと穏やかに笑って口を開いた。

    「謝ることはないわ、お疲れ様。貴方も早く傷の手当をしたほうが良いわね」
    「あ、あぁ」

     言われて、ようやくクリプトがデスボックスの山からひとつ選んで中を漁りだした。自分も遅れまいと別の箱を漁って、手早く必要そうなものを集めてからその場を離れる。
     先に家の中に入ってベッドに腰掛けていたレイスの向かいを陣取ると、最後に現れたクリプトは迷うことなく俺の隣に腰掛けた。そんな些細なことに小さな喜びを感じながら、俺は自分で提案したとおりバッグの中身を整理する。

    「さっきの人たち、エネルギーアモをあまり持ってなかったわね。余っていたらわけてくれないかしら」
    「あぁ、武器を変えたから一スタックだけだが渡せる」
    「助かる。回復は足りてる? 医療キットならあげられるけど」
    「えぇと……医療キットは大丈夫だが、バッテリーがない。セルなら三スタックあるんだが……」
    「私も二本だけだから、一本しかあげられないけど――」
    「あ、悪い悪い。俺がバッテリー取りすぎてたみたいだな。四本あるから半分やるよ。あ、あとアル促もおまけにつけてやる」

     レイスの言葉を遮ってバッグから取り出したものを見せる。それを渡そうと隣に顔を向けたのと同時に、ふにっと唇に柔らかい感触。一瞬、時間が止まったような錯覚を覚えた。銃声はひとつも聞こえない中、遠くでチャンピオン部隊が脱落したアナウンスだけが響いている。
     すぐに離れていったクリプトが、ようやく事態を理解したのかおもむろに顔を強張らせていく。あー、こいつ完全に無意識で……。
     レイスが座る向かいのベッドからは物音ひとつしないのが逆に怖い。ゆっくりとそちらへと顔を向けたのは二人同時だった。
     もしかしたら見られてなかったかも……なんて淡い期待を裏切り、こちらをじっと見つめていたレイスと目が合う。彼女には告白が成功した翌日に全部話したとはいえ、目の前でキスをするところを見せる予定なんてなかった。
     レイスもレイスで不測の事態に固まっていたらしい。けれどさすが歴戦の兵士なだけはある。すぐに我に返って虚空に入る仕草を見せた。いやこれまだ動揺してるな。

    「さ、さよなら」
    「待ってくれ! 違うんだ! 弁明させてくれ!」

     クリプトの慌てふためく声が大きく上がる。と、同時に真っ赤になったクリプトは逃げようとするレイスの肩を強く握って揺さぶった。いつも冷静な男がこんな姿を晒すのは珍しい。
     その様子にレイスも驚いたのか一度ぎゅっと強く目を瞑る。が、すぐにゆっくりと瞼を押し上げ、いつもの落ち着いた表情に戻ると宥めるようにクリプトの腕に手を添えた。

    「ごめんなさい、少し驚いただけよ。……貴方たちのことはエリオットから聞いてるの。貴方は望まないことだったかもしれないけど、一応相談に乗ったりしていたから……。でも安心して、誰にも言ってないし、言うつもりもない。さっき見たことも含めて、ね」
    「あ、う……す、すまない……」
    「いいのよ。詳しいことは知らないけど、どうせエリオットが悪いんでしょ」
    「お、俺か!? いや……まぁ、そうだな……俺のせいだな……」

     小さくなるクリプトを元気づけるためか、殊更軽い調子で俺へと矛先を向けたレイスに思わず上擦った声が上がる。けど悔しいことにご指摘の通りだ。原因は俺にある。素直に認めれば、レイスはそれに小さく笑った。

    「だと思った。でも良かった、仲良くしてるみたいで。クリプト……大変だと思うけど、でもできれば見捨てないでやって。彼の泣いてるところはあんまり見たくないの、これでも一応親友だから」
    「なっ! 誰が泣くって!?」
    「あら、彼と喧嘩して嫌いだって言われたとかで夜中私に泣きついてきたのは夢だったかしら」

     おかしいわね、と口元に指を添えてわざとらしく首をひねるレイスを前に言葉が出ない。俺は正直な男だから、本当のことを言われて嘘だと叫ぶことはできないのだ。
     俺の様子がよっぽど可笑しかったらしい。レイスは珍しく声を出して笑うと、まだ顔を赤くして、けれど興味あり気にレイスの言葉を聞いていたクリプトの背中をぽんぽんと軽く叩いてみせた。

    「ご希望ならもっと色々聞かせてあげるけど、どうかしら」
    「お、おいレネイ!」

     レイスの名前を呼ぶ俺の悲痛な声に紛れて、確かにクリプトの「聞きたい」という声が聞こえた。
     それを聞き逃さなかったレイスが今度は小さく笑う。部隊を壊滅させたときに見せる不敵な笑みだ。

    「今日の優勝祝いの肴は決まりね」

     遠くで銃声が聞こえる。プライバシーの侵害だ、と叫ぶ俺の味方をしてくれる奴はどこにも居ない。
    白崎 Link Message Mute
    2021/02/19 22:23:31

    ミラプトとレイス

    ※付き合ってる
    #腐向け #ミラプト

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品