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    荷物 最近、荷物が増えてきた。常に身軽でいたい俺にとっては、実に不本意なことだ。
     原因は今まさに俺の荷物をひとつ増やした目の前の男、エリオット・ウィット。
     ウィットから差し出された新品のマグカップを手にして、短く礼を言う。不本意だとは言ったが、困ったことに嬉しくもあるのだから厄介だ。
     「お前みたいでつい買っちまった」という言葉と共に渡されたそれを少し観察する。白をベースに取っ手と底だけが黄緑をしているそれは、俺が試合の際に着る服とよく似た色合いだ。単純な男らしい理由だと思わず笑ってしまう。
     そんな見慣れた色合いのマグカップはすぐに回収された。早速使おうと言って、ウィットがキッチンへと持って行く。心なしか機嫌が良さそうに見える背中をぼんやり眺めていれば、すぐに目的は果たされたようで踵が返され眺めていた背中は隠れてしまった。
     再度差し出されたマグカップを、もう一度同じように礼を言って受け取る。中にはほんのりと甘いフルーツの香りがする赤い液体。ウィット特製のホットワインだ。良くないな。これを飲むとすぐに眠くなってしまう。もう日付も変わろうかという時間ならなおさらだ。
     そういえば、増えたのは荷物だけじゃないな……と、程よく温められたワインを啜りながら思う。

     荷物以外に増えたもの。一つは睡眠時間。
     一人で居たときは……いや、テジュンの頃から睡眠には正直あまり気を使ってこなかった。キリが良いところまでと言っては夜中まで作業をすることがほとんどで、次の日の仕事や試合に響かない程度に寝ていればそれで良いと思っていた。ギリギリまで起きて、もう無理だと思ったらベッドに倒れ込む生活。たまに失敗してそのままデスクで寝ることもあった。
     それがウィットには信じられなかったようだ。ウィットの家で同じようなことを三度繰り返した翌日、日付が変わると同時に無理やりベッドへと連行された。その際、あろうことか横抱きにしてくるもんだから派手に暴れてやったのだが、腹立たしいことに意外と大きかった力の差を前に脱出は失敗に終わった。
     まだ眠くないと暴れる俺をベッドの中で抱きかかえて、お喋りでもしてればそのうち眠くなるもんさと言って奴は他愛もない話を一人で紡ぎ続けていた。やることが山程あるから、眠くもないのにベッドに入って無意味な時間を過ごすのは好きじゃない。そんな本心を言葉にしたような気もするけれど、結局解放されることはなく、不本意にもウィットの言う通り俺はいつのまにか眠ってしまったのだった。
     その日から、ウィットの家に泊まる日は必ず日付が変わる頃にはベッドへ強制連行されることになった。やがて抵抗しても無駄だと理解して、俺はいつしか自主的にベッドへ潜り込むようになった。満足そうな顔で同じベッドに入ってくるウィットは、いつも決まってくだらないお喋りをする。あんまりくだらないものだから、俺はそれを聞きながらすぐに眠ってしまうのだ。

     増えたものはまだある。二つめは体重だ。まったくもって不本意なことばかりで嫌になる。
     バーを経営しているだけあってウィットは料理が上手い。睡眠と同じように食事にも気を使ってこなかった俺でも、奴が作る料理はどれも丁寧に仕上げられたものだとわかる。そして技量のある奴が丁寧に作った料理が不味いはずもない。
     今まで食を生きがいにしてはこなかったし、それは今も変わらない。それでも、やはり美味いものを目の前に出されれば食べてしまう。俺が食べる様子を見つめる目が、あんなに嬉しそうならなおさらだ。
     元々多く食べる方ではないが、以前よりは摂る食事の量が格段に増えたように思う。おまけにウィットときたら肉や脂っこいもの、それから甘いものまで好むもので、それに付き合ううちに順当に余計な肉をつけてしまったというわけだ。必要最低限のエネルギーだけ摂って運動には時間を割かないスタンスだったのに、おかげで運動の時間も増やさざるを得なくなってしまった。

     あぁ、言い出せばキリがない。最後に一つ言うなら……会話と、それから……笑うことが増えた。うーん……改めて考えるとなんだか気恥ずかしいものだな。
     最近の俺は、ミラと一緒に居た頃か、あるいはその頃以上に言葉を吐き出すことが多くなった。それも笑いながらだ。使い方を忘れてしまっていた顔の筋肉は、最近ようやく酷使しても痛まなくなってきた。
     ウィットと馬鹿みたいな話をして声を上げて笑う俺を見たら、ミラはなんて言うだろう。私が大変なときに……なんて、そんなことを言うような奴ではないけれど、どうしてもふとそんな被害妄想に苛まれる。笑いながらも、いつも心のどこかで申し訳ないと思っているのだ。家族が大変なときに、こんな風に幸せを増やしていることを。

     少し、荷物を増やしすぎたかもしれない。
     空っぽになったマグカップをテーブルへゆっくりと置く。眠くなってきたと告げる俺を、ウィットは機嫌の良さそうな顔で笑っておもむろに抱き上げた。
     首に腕を回して抱きつくと、珍しいなと笑われる。仕方がない。こうでもしないと、きっと情けのない表情を浮かべているだろう顔を隠せないのだから。

     いつかクリプトが消える日に、こうして増やした荷物をすべて置いていかなければならないことが、俺はどうにも寂しい。考えるだけで泣いてしまいそうなくらいには。
     あぁ、まったく。実に不本意なことだ。
    白崎 Link Message Mute
    2021/02/19 22:18:29

    荷物

    お前が置いてった荷物ぜーんぶ持って追いかけてやるよ。

    ※付き合ってる
    #腐向け #ミラプト

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