誠意(腐*グラプロ) プロンプトが泣いているのは多分、ノクトがルナフレーナ様との交換日記に返事を書いていたからだと思う。嬉しそうな顔を隠しもせずに、浮かれた調子で返事を書いていたからだと思う。
プロンプトはずっとノクトに片想いをしている。
そして俺はと言えば、そんなプロンプトに片想いをしているのだから世の中上手くいかないもんだと思う。
今日みたいに、勝手に失恋気分に陥って隠れて泣く想い人を見かねて、とうとう「好きだから付き合ってくれ」という旨を、出来うる限り最高のシチュエーションで、持ちうる限り最高の言葉で告げたのは二週間くらい昔の話か。
結果は散々。俺の気遣い、努力を微塵も汲まずに「ごめんね」と、たったその一言で事は終わった。
怒りや失望はない。そんなもんだと理解している。
俺だって、相手がどう思うか分かっていながらそんな一言で事を済ませていたのだから、これが因果応報ってやつなんだろう。
とは言え、プロンプトは旅の仲間だ。
泣いていることに気付いて放っておくのは性に合わない。
寝ているノクトとイグニスをテントに残し、俺はテントから離れた、けれどギリギリ標の暖かな光が届く場所で夜空を見上げるプロンプトの傍へと赴いた。
俺が来ることがわかってたんだろう。
プロンプトは焦って涙を拭うこともせず、俺を見上げて起こしたことを謝った。
まだ寝ていなかったと事実を告げて、小さな体を包むようにして後ろに座る。
泣くプロンプトを慰める時はいつもそうしていた。はじめこそ驚いたなんなら嫌がったけど、今じゃすっかり慣れたもんだ。
俺をフった今でさえ、躊躇なく俺の胸に頭を預けている。
「今からそんな調子で、結婚したらどうすんだ」
「わかんない、泣きすぎて干からびるかも」
それは困る、と素直に思った。
例え俺になびかなかろうとも、俺はこいつのことが好きだ。だから干からびて死なれては困る。
そのままそう告げたら、プロンプトは短く声を上げて笑った。可愛く弾ける果実みたいに。
「二週間前、イエスって答えるのが正解だったんだろうなーって、そう思うよ」
「いつでも返事変えて良いって言っただろ」
「でもそれってすごく不誠実だと思う」
「そうか? 人の心なんて変わるもんなんだから、返事だって変わるもんだ」
いつかこいつの心に整理がついたなら、そのとき「やっぱりイエスで」と言ってくれて一向に構わない。
それでも良いと思える程度には、好きなようだから。
「じゃあ今から俺がやっぱりイエスでって言ったら、どうする?」
冗談めかしてそう問うのに、俺は黙ってスマホを取り出した。
そうして不思議そうに俺の手元を見るプロンプトの前で、昨日レスタルムで交換したばかりのアドレスを消す。目が覚めるような美女だった。静かに窓の外を眺めるプロンプトの横顔に少し似ていたかもしれない。
間の抜けた声を上げるプロンプトをよそに、アドレス帳に入っている女性のアドレスを一つずつ消していく。あぁ、彼女は俺にイタズラを仕掛けて大笑いするプロンプトに似た笑い方をする子だった。
この子は怒った時の言葉遣いがそっくりだった。こっちは確か、心配する時の仕草が似ていた。
一つ一つ思い出しながら、結局のところ本物が一番だったなと彼女たちには失礼なことを思う。
最後の一つを消し終えて、呆気にとられるブワロンプトの手を取る。
右の親指をホームボタンに押し当てて新たに一つ指紋を登録した。
「恋愛ごとに関して俺が信用ならねぇだろうってことは自覚あるから、まずはこうして誠意を見せる」
「ちょ、ちょっと! ほんとに消しちゃったの!?」
「ほんとに消さなきゃ意味ねぇだろ」
仮の話をしている相手にこんなことをするのは卑怯だろうが、俺も僅かなチャンスに縋り付きたい哀れな男だ。そのくらいは許してほしい。
目を白黒させるプロンプトの柔らかい頬を軽く啄んで、それから続きを口にした。
「ご希望とあらばこうして毎日キスして愛してるって言ってやる。ただまぁ、できれば唇にが良いな」
「キ、キザ〜!」
「そういうのがお気に召さないなら、そうだな……こうして毎晩、お前を抱いて星を見ながらお前の話を聞くのはどうだ」
プロンプトの紫色の目が揺れる。
「泣いてる時も、笑ってる時も傍に居て、悲しい話も楽しい話も聞いてやる。話すことがない日は黙って星を見て、雨が降ったら家の窓から覗こう」
そうできたなら、とても幸せなことだと思う。
「それでいろんな話をし尽くして、そうして最後にお前にこう言わせてみせる」
最後の言葉を期待するような、恐れるような目が俺を見ている。
ただ俺が思うに、きっと将来恐れは消える。消えるように俺が努力するからだ。
「あの時、やっぱりイエスでって言って良かった……って」