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    in der Empfang 先だっての悪行超人軍団襲来は首尾良く退けられたものの、超人WGP中断という前代未聞の事態に超人委員会は各国政府やプレスへの対応に追いまくられていた。その陰に隠れてはいたが選手団や観戦客達も大幅な予定の変更を余儀なくされる。
    「この間戻った時に公休の延長手続きはしておいた。我々は暫くホテル暮らしだが再開予定が見えない以上本国に一度戻っても構わんぞ。こちらは数日で支度は調うだろう・・・ジェイド?」
    「あっ、はいレーラァ!アレスクラァ!」
     東京の超人協会本部で連絡事項の伝達中、日程表や地図を広げ利用可能な施設の説明等事務的な話が続く中ブロッケンJr.は心ここに在らずといった弟子の様子に眉を顰めた。
    (無理もないな・・・先だっての戦闘は完全に想定外だった。この状況じゃモチベーションにも影響しかねん。やはり一度帰国させて仕切り直すべきか・・・)
     アスリートにとって先の試合日程が見えない状態など言語道断だ。まだまだ心理状態でコンディションが左右される年齢、小さな懸念も取り除いておくにこしたことはない。
    「―トレーニングジムは支部のものを利用できる手筈は整っているが、もし気持ちを切り換えたければ―」
    「ト、トレーニングと言えばっ!!レーラァ、万太郎先輩達は日頃どんな練習をしているんでしょうか!?」
     提案を遮って食らいついてきた弟子に歴戦の伝説超人が言葉を失った。弟子は頬を紅潮させ自分の言葉を待っている。最近いつにも増してそわそわしていたと思ったらコレか。
     鬼のレーラァは深く溜息をついた。
    「ジェイド・・・遊びに来たんじゃないんだぞ。それは分かってるな?」
    「ヤ、ヤーレーラァ!」
     ひとまず釘を差されて弟子が気をつけをする。だが相変わらず緑の目はちらちらとこちらを伺っている。仕様のないやつだ。
    「が、こちらに残ることになった選手は希望すれば日本防衛の任に組み込まれるそうだな・・・まだ不確定情報だが」
    「ほっ本当ですか!」
     一気に弟子が喜びを露わにする。一期生達はどうしているだろうか、まあおそらく突如降って湧いた休暇に狂喜乱舞してキン肉ハウスでゲームやぶっ続けDVD鑑賞にでも興じているか、あるいは意気揚々と私服で街に繰り出しているか。
     ブロッケンJr.はわざとらしく渋面を作った。
    「本来ならば中断されたとはいえWGP期間である以上、過度の馴れ合いは望ましくない訳だ。が、敵情偵察の機会を逃す手は無いだろうなあ」
    「了解しました!俺、敵情偵察に行ってきます!」
     こちらの一言毎に一喜一憂していた弟子が満面の笑みで身を翻した。瞬時に小さくなる背中に声をかける。
    「ホテルに連絡しておくから行きがけに手土産がてらフロントで昼飯受け取って行け。こけるなよ」
    「ヤー、レーラァ!ダンケシェーン!」
     返事は既に入り口の向こうから。全く落ち着きのないやつだ。こちらに注意を向けていた周囲が少しばかりざわつく。
    「本当に子供だな・・・先日実戦に出ていたのと同じヤツとは思えない」
    「構わんだろう、優勝候補の一角と言っても新兵ならあんなもんだ」
     BRICs辺りの選手が何やら評しながら昼飯のワゴンを待っている。委員会が各国との折衝で手一杯なので延泊の利くホテルの紹介やケータリングサービス等は当座の所テリーと自分の持ち出しだ。こういう所で還元を惜しめば老害扱いは免れ得ない。お互い辛い立場だ。
     等と思考を巡らせている間に懐のスマホが鳴った。
    『途中でチェック・メイトと合流しました!一緒にキン肉ハウスで夜まで特訓つけて貰ってきますね XD』
     盟友の息子達の阿鼻叫喚を想像して男は堪えきれずに笑い出した。他の伝説超人達も成り行きから大体の見当をつけたのかそれに続く。


    「ちょっとブロッケンさんっ!何で止めてくれなかったのさ、お陰でとんでもない目に遭ったよ!」
     決勝戦の激闘から数ヶ月後。例の如く新チャンピオンとして武者修行を控え壮行会で仲間達とじゃれ合っていた万太郎はこちらの姿を見咎めるが早いかすっ飛んできて不平不満をまくしたてた。
    「ああ、スマンスマン。だがブロッケン流の地道な練習も相当期間積み上げればそれなりの基礎体力はついただろう?」
     グラスを手に人の悪い笑みを浮かべると終盤どうにか体力切れを免れた万太郎が目を見張った。ぶっ通しで本州縦断してミートを試合に間に合わせたガゼルとチェックも顔を見合わせる・・・お前ら何でキン肉星から特別表彰受けたか心当たり無かったのか。
    「ま、残念ながらウチのには効果は無かったようだがな」
     そう溢し苦笑してワインを飲み干した。即座に万太郎が食ってかかってくる。
    「ちょっと!そういう言い方止めてよね、ファクトリー卒業生で決勝トーナメント進出できたのボクとジェイドだけだしベスト4なんて皆2m級のバケモノばっかで滅茶苦茶怖かったんだよ!?大体あんなアクシデントさえなければキッドもチェックも・・・」
    「分かった分かった」
     こんな所までスグルに似てきたな。憤然と抗議する口に生ハムメロンを突っ込んでやれば一頻り咀嚼して表情が緩む。そうか、美味いか。流石バッファローの経営する農場、ちゃんとハムに合わせてカンタロープを使っているな。当のバッファローが苦笑して『こっちも』と超人サイズのタパスを持ってくると万太郎に触発されて修行の旅を思い立った食べ盛りの連中が歓声を上げる。どうせ普段食費も切り詰めた生活だろうからな、食い溜めしておけよ。
     そんな最中、一人の男が万太郎の元に歩み寄ってきた。
    「やあ、万太郎。元気そうで良かった。遅ればせながら優勝おめでとう」
     全体的に色の薄い髪、目、肌。礼服姿が板に付いているがまだ若い。規律正しく、かつ律動的な挙措であるもののさしたる特徴はない―抜きんでた長身を除いて。
    (歩き方からして空軍か航空宇宙産業従事者か・・・)
     容貌と体躯からしてスラヴ系超人かと思われるものの心当たりがない。万太郎もきょとんと目を瞬いた。
    「ドチラサマデスカ・・・?」
     男は微苦笑を浮かべると顔の上下を手で隠した。張りのある声が広間に朗と響く。
    「エアクラフト・ジェネティック!」
    「「イリューヒン!!??」」
    「Da.」
     聞き覚えのある台詞に漸く声と名前を一致させて万太郎とミートが叫ぶ。長身の男は薄く笑った。
    「うわ~良かったイリューヒン!復帰できたんですね!腕接合できたんだ、本当に良かったあ~!」
    「イリューヒンだよね、決勝戦の後すぐミートとボクの治療費振り込んでくれたの!賞金出るの遅かったからホント助かったんだよ、ありがと~」
    「それは良かった。オレを助けてミートを欠いた結果君が負けるような事にでもなっていたら死んでも死にきれないところだった」
     ミートが駆け寄り万太郎が嬉しそうに破顔する。ロシア超人らしく下手な冗談で応じる長身の男に様子を見ていた他の新世代超人達も近寄ってくる。
    「イリューヒン!良かったな、ケガ治ったのか。しかしどうしたんだその手足。普通の超人みたいじゃねえか」
     キッドが金髪の頭部だの生身の腕だのを示すとロシアの男は存外フランクに返す。
    「有り難う、これは換装パーツの一種でね。ロシアでも式典の際はこちらだ」
    「そっか、あの翼じゃ制服入らないもんな!」
    「ねえねえイリューヒン。パイロットってことはすっごい優秀なんだよね?ボク地球に来る前弁護士か科学者目指してたんだけど、今からじゃもう無理かなあ~」
    「固定翼も回転翼も関係なく変形可能なんてスゴいだな!妹に見せてやりたいだ!スペースシャトルにはなれるだか?」
    「食料は何ですか?ガソリンとウォッカどっちが好きですか?」
    (・・・何が『式典用の換装パーツ』だ。無理しやがって)
     十代の超人達にわらわら取り囲まれるロシア超人を眺めやり俺は独りごつ。若い奴らはまだ誤魔化せるだろうが不規則な脈拍と浅い呼吸、紙のような顔色、僅かにぐらつく重心。あれだけの重傷だったのだ、まだ長時間立っているだけでキツい筈だ。
     傍らを見れば他の伝説超人達も複雑な顔をしている。推測になるが変形ギミックや集積回路を仕込んだ戦闘装備よりはラバーマスクや樹脂の割合が多く生身に近い現在の四肢の方がまだ負担が軽いのだろう。こんな無茶な真似をする程に、恐らくは万太郎達の事が気がかりだったのだ。
     全く、若手超人にもとんだ意地っ張りがいたもんだ。
    「文理どちらの志望かを決めたらこちらの連絡先に教えてくれ。興味のありそうな論文や外部参加可能な講演会・研修プログラムの案内を送らせて貰う。実際の勉強はオレも時折様子を見に行くがミートが力になってくれるだろう。ここ30年で変化の見られた学説についてはこちらから資料・文献をリストアップしておく」
    「そっか、よろしくねミート!」
    「はいⅡ世!」
    「なあなあ、実は俺も宇宙飛行士志望だったんだ!今からでもハイスクール行けるかな!イリューヒン、ロシアからどこまで行ったことあるんだ?」
    「おい、そこら辺にしておけ。軍事機密に触れるぞ」
    「いえ、広報の範囲ですから」
     流石に見かねて声をかけたがロシア軍人は手帳とペンを出すと略図や数式を用いて好奇心旺盛な子供らに即席講義を始めた。
    「スゴいですね」
     久々に聞く声に傍らを見やると興奮を隠しきれない緑のヘルムがいた。少し背が伸びたか。
    「WGPの時すげー冷静だったし、予選競技の時も判断早かったしロシアのエースパイロットってホントだったんだ」
     ・・・そういやこいつも乗り物好きだったな。焼き栗の屋台見ると目の色変えるぐらいには。
    「お前も行ってきたらどうだ?スツーカ・・・は無理としてもユーロファイターぐらいなら頼めば変形してくれるかもしれんぞ」
     旧敵国の大型パイロットの方を示すと弟子は目を輝かせた。が、他の伝説超人達の目に気づき慌てて自重する。
    「い、いやロシアの英雄ですからね。クリオネがいつか一緒に戦いたいって憧れてるのに俺だけそんなこと頼んじゃ悪いですよ。俺だってリベンジしたいし」
    「最終競技の件か?ラストで抜かれたとは言え僅差だったしお前はパートナーの女子供守り抜いたんだ、上出来じゃねえか」
     WGP開幕から生徒達の戦績をチェックしていたのだろう、バッファローが問いかけるとジェイドは見るからに渋い顔になった。
    「アレ、あからさまに手加減されてましたよ。他の超人一蹴してたしビーチフラッグスで見せた高速飛行技なら後ろから切り裂かれれば対抗策ないです。フロイラインがいたからだとは思いますが・・・だからこそリングの上で決着をつけたかった」
     苦々しげにジェイドがイリューヒンを見やる目には、だが確実に敬意と興味がちらついている。お前の修行先は南米だったか、政情不安エリアに行く時は一報入れろよ。
     そうこうしているうちに秘書官か何かだろう、ロシアの武官が子供達に囲まれているイリューヒンの元に近づいてきて何事か囁いた。日程か、体調面からしても限界に近いと思われるパイロットはそれに短く頷き万太郎に手を差し出す。
    「いずれ共同作戦を依頼する事もあるだろう。その時は宜しく頼む」
    「任せといて!どんな敵も、コッパみじんのミジンコちゃんだよ!」
     少年なりにチャンピオンの風格、というべきか。頭二つ分近く上にある碧眼をしっかり見据えて万太郎は握手に応える。その様に僅かに笑みを溢し男はこちらに向き直り姿勢を正す。
    「伝説超人の皆様におかれましても、ご壮健なれ。また正式にご挨拶の機会を設けさせて頂ければと存じます」
     手袋に包まれた右手の五指を揃え、敬礼の形に上げるとロシア超人は端然とこちらに視線を巡らせた。俺達も重々しく頷く者、静かにグラスを掲げる者とそれぞれの形でこの若造が貫き通した意地と矜持に応える。
     傑作だったのはジェイドだった。こちらの一団にいた都合上ロシアの誇る英雄に敬礼を向けられた訳で反射的に折り目正しく答礼の動作を取る。虚を突かれた故だったのは明らかだったがイリューヒンは嘲弄することもなく口許を綻ばせた。酷薄にすら見える容貌に血が通う。
    「・・・本来、俺が先に挨拶しなきゃならなかったのに」
     立ち去る長身を見送って弟子が心底悔しそうに呟いたので俺は笑いを堪えるのに必死だった。
    まるぱまる Link Message Mute
    2019/06/01 15:41:25

    in der Empfang

    #小説 #キン肉マンⅡ世 #万太郎優勝ルート #ブロッケンJr. #キン肉万太郎 #ジェイド #イリューヒン
    過去作。アニメのWGP中断を踏まえた話。ドイツ師弟中心と言いつつロシア製飛行機とかいます。
    こちらでも閲覧有難うございます。嬉しいです。

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