title of mine 衝撃のあと、かそけくように膝が折れゆっくりと景色が傾ぐのを感じていた。反射のように見上げた空は鈍い灰色で、今にも落ちかかってくるように思えた。
遠く町並みの向こうに、城が見えた。
――あの子は、どうしているだろう。
城の中の姫君。勝手に抜け出したこともある、と聞いていて、どれだけはねっかえりなのかと思っていた。
――ばかばかしい任務だ、とも。
初めて会った彼女は、切りそろえられた漆黒の髪も陶磁のような肌も、しっとりと赤い唇も、物語に出てくるようなそのままの「姫君」だった。
けれど、どこか、年並み以上にろうたけた――まるで何かを諦めているような、そんな微笑を浮かべる子だった。
嫌なこどもだ、と思った。よく出来すぎた、と言ってもいい。人形のようだ、と。
会話を途切れさせない技術はある、15、6の子供などどうということはないのだが。
晴れ渡った青い空を座敷の中から眺めながら、ことさらに穏やかな会話が、畳を上滑りしている気がした。
あの子は事実、諦めることを知っていた。
――多くの人間に囲まれて暮らしていても、彼女は一人だった。
期待は常に脅迫を孕んでいる。彼女は「姫君」であることを期待され、求められ―――期待に背くことは、彼女にとって生きる場所を失うことと同義だった。
あの子はどれだけ多くのものを、あるいは感情を、期待ゆえに失ってきたのだろう?
彼女の微笑の意味を悟ったときに感じたものはなんだったのか。
これを同情と呼ぶのだろうか。憐憫――いや、同病相哀れむ、だったのか。
自分自身を人に受け入れてもらえない寂しさを、僕は誰より知っている。誰とも対等の関係を築けない、自分が毀れていくような悲しみを、僕もまた痛いほど分かっていた。
分かっていたから、彼女に会うのは苦痛でしかなかった。
人に理解されることを諦めながら、それでも人に受け入れてもらいたくて、求められるままに「姫君」を演じ続けるあの子が、まるで幼い自分のようで。
城のうえの空に、かすかな赤いものが見えた。いや違う――視界、が狭くなった、のか。
今になって思い知った――孤独を望んだふりをして、それでも本当は、人に触れていたかった。
助けたかった、助けられたかった。…君に、触れたかった。
君が僕のようにからっぽになってしまう前に、君に触れたかったんだ。
あの思いは恋情だったのだろうか。自分の気持ちさえも量れないままで、僕は今死ぬ。
まだ何もできていない、何の見きわめもできていないのに?
何もできないかもしれない、幸福なんかあるかどうかも分からない、それでも、生きて生きて生き抜きたかった。
――僕は、そうすべきだったのに。
もう、遅い、な…あぁ、駄目だ、思考が空転する――
…なぁ土方、あの子を救えるだろう?僕のようになる前に、きっと、あの子を助けてくれるだろう?
視界がまた狭くなって、目蓋の裏の赤さにかわっていく。
悔やむことは数え切れない。それでもこんなにも静かのはなぜだろう。
どうかあの子がしあわせであればいい、と、そう思うと、少しずつ心が凪いでいくのだ――あの子は僕がこうして死んでいくことも知らないし、知ることもないだろうが。
それは恋情というには、あまりに淡く、けれど確かに最初で最後の――…