緋色の椅子エヴァパロ
サキが再び目を開けたとき、そこはおそらく宿屋だった。
セツがこちらに気付き、ぱっと明るい顔を向けた。
「大丈夫か?」
サキをのぞきこんで、穏やかに笑う。
サキは頷くこともできずに、ただセツを見返していた。
城から脱出してからのことをおぼろげに思い出す。
名前を返してもらいに来たんだ、と言った彼、長い間ごめん、と言った彼。僕の勝手で苦しめた、と。
違う、違うんだルカ、苦しかったのは「ルカリア」を演じてることじゃなかった。
それを口にする前に、ありがとう、と彼は言った。――ああ、だから、お前はずるい、のだ。
「―……サキ?」
セツが真剣な表情になって、どこか痛いところがあるのか?と心配そうに聞く。
しばらくの沈黙のあと、サキはぽつりとこぼした。
「……すまない。こういう時どんな顔すればいいのか、分からないんだ」
サキ自身のことを心配されたことなんて、今までの人生で数えるほどしかなかった。それこそ、ルカくらいしか。
セツが一瞬、目を丸くした。そして微笑む。
「笑えば、いいと思うよ」
サキは驚いて、やがてセツにつられるようにして、笑った。
エヴァ第6話より。
ちなみにその後。
起き上がることが可能になったサキは、向かいあって座るセツを見つめる。
「お前がニオルズに行くのはいい。だが、おれは『ルカリア』として王位についていた者だ。それをバジが放っておくとは思わない。……おれといるのは、危険だ」
かんで含めるように言ったつもりだったが、セツには通じていないらしい。平然と笑う。
「なんだ、そんなことか」
「……なんだ、じゃない。お前はおれが王位につくまで何回暗殺されかけたか知ってるのか」
大丈夫、とセツは当然のように口にした。
「サキは死なないよ。私が守るから」