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    第三章:絶地7騎士 ― The Magnificent Seven ―静岡県富士宮市 二〇一X年八月中旬(ⅰ)(1)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(2)(3)(4)(ⅴ)(ⅵ)(ⅶ)(ⅷ)(5)静岡県富士宮市 二〇一X年八月中旬「だ……誰? お……お姫さま?」
    『ずっと、別の名前で呼ばれていましたが……良い呼び名ですね……。では、これからは、わたくしの事は、そう呼んで下さい』
     小学1年生の時の8月。あたしの前に現われたのは、あたしが「お姉ちゃん」と呼んでいた、団地の隣の部屋に住んでいた女の人に良く似た「何か」だった。
     しかし……その「お姫さま」が現われた時、辺りに有ったのは……「お姉ちゃん」の銃殺死体と、「お姉ちゃん」を殺した奴らの焼死体。
     後で聞いた話では、あたし達、日本に働きに来ていた日系ブラジル人とその家族が住んでいた団地を、排外主義団体が襲撃したそうだ。
     あたしが生まれるずっと前から、世界が……世の中そのものがおかしくなっていた……らしい。そして、あたしの家族や近所の人達の身に起きた事も……ある意味で「狂ってしまった時代」の「よく有る事」だった。
     と言っても、もちろん、あたしは、二〇〇一年九月一一日、他人の精神を支配する力を持つ「異能力者」達が、ジャンボジェットをニューヨークの「2つの塔」に特攻Kamikazeさせる以前の、「まとも」な世の中、「普通」だった世界は、WEB上に微かに残っている記録や映像でしか知らない。多分、その頃、物心付いていた人達だって、二一世紀最初の年の九月一〇日より前の自分自身ように思い考え実感する事は、もう、困難だろう。
    「で……『お姫さま』は、一体……どこから来たの……」
    『貴方が「お姉ちゃん」と呼んでいた方に宿っていましたが……残念ながら、こんな事になったので……今後は……貴方と御一緒させていただきます。貴方が亡くなって……貴方のお友達や家族が、わたくしを受け継ぐまでは……』
    「えっ?」
    わたくしのような存在モノは……強い力を持ってはいますが……宿る人間が居ないと、自分で何かを思ったり考えたりする事さえ出来ないんですよ』
    「だから……『お姫さま』は……何なの?」
    『言うならば「女神」です。あれのね……』
     そう言って、「お姫さま」が指差した先に有るのは……。
    「えっ?」
     さっきまで、火と煙を吹いていた富士山は、いつもの姿を取り戻していた。その代り……。
    「なに……これ……?」
     周囲に居るのは何人もの兵隊。呆然と、富士山とは逆の方向に現われたモノを見ていた。
     今にして思えば、その兵隊が着ていた戦闘服や持っていた銃その他の装備は……旧・自衛隊のものとも、旧・特務憲兵隊のものとも違っていた。
     そして、後の方には軍用車。軍用車には手書きの「黒い桜」のマーク。その「黒い桜」のマークは兵隊達の胸にも有った。それも、何故か、見た範囲内では、全て急ごしらえの手書き。
     兵隊達の凝視める先には……巨大なきのこ雲が有った。
     恐怖と混乱のあまり、あたしが泣き出しかけた時………。世界は元に戻った。
     いや、元に戻った世界も同じ位、絶望的なモノだったけど。
    『たまに有るらしいのですよ……。わたくし達のような存在モノが……あまりに大きく世界を作り変えてしまうと……「他の世界」「他の時の流れ」と繋ってしまう事が……』

     そして、当時、小学1年生だったあたしも、次の日の夜明けごろには、とんでもない事に気付いていた。
     この「富士山の女神」を名乗る「お姫さま」は、数百万・数千万人の人間を殺したり、露頭に迷わせる事は簡単に出来るが(と云うか、実際にやらかした)、あたしや他の誰かの命を助ける事に関しては……もう、どうしようもない能無しだった。
     あたしは……火山灰の降る中、ずっと、廃墟になった富士宮を彷徨い続けた。今にして思えば、「お姫さま」の能力ちからを使えば、噴火を停止させる事も出来たかも知れないが、そこまで頭が回らなかった。
     そして、富士山は、散発的に火を吹き、煙を上げ、火山灰を降らし続けた。
    「やっと見付けた。この子だ」
     女の人の声。
     声の先には……作業着にヘルメット、ゴーグルにガスマスクの女の人が1人と、同じ格好の小柄な男の人が1人。……そして、……当時のあたしよりも少し齢上ぐらいの女の子が1人。
    『あんたねぇ……。何て事したんだよ……。あたしが言っても説得力無いけど……「出来る事」と「やっていい事」は違うよ、まったく』
    『これはまた、お久しぶりですね……確か、ここ九百年ほどの間、この列島くにでは……「娑伽羅さがら竜王の末娘・瑠璃るり」様と名乗っておいででしたか?』
    『ややこしい事になるよ……。あんたが、こんな真似をしたせいで……世界そのものが、またしても、いくつかに分かれた……。そして、あいつが動き出すかも知れない……。「時と闇の神」カーラ・チャクラが……。あ……それと、あたしの「巫女」が詳しい事情を知りたい、ってさ。あんな真似やらかした理由を、さっさと説明して』
    (ⅰ)「不確定要素が多過ぎるが……どうする? やるか?」
     ここは、「有楽町」の雑居ビルの中にある「寛永寺僧伽」のフロント企業の事務所だ。そこで、「寛永寺僧伽」のリーダー格は、俺にそう言った。
     事務所の中には、俺の部屋から運ばれた「水城みずき」が有った。部屋の様子は……如何にも普通のデスクワーク中心の会社と言った感じだ。
    「その前に聞かせてくれ……。そもそも、あんた達は、何故、俺に協力してくれる?」
    「言っただろ、借りが有るヤツに頼まれた」
    「その『借りが有るヤツ』が誰かは予想が付く……。『神保町』の魔導師どもや、他の『島』の『自警団』であるあんた達に……俺を助けて、何の得が有る?」
    「おい、餓鬼の癖に偉そうな口のきき方だな」
     どうやら、知らない内に、高木とか云うあのメスガキの口調が移ったらしい。
    「まぁ、いい、その度胸に免じて教えてやるよ。『秋葉原』は、今、権力の空白地帯だ。警察も自警団も機能してない……」
    「それで?」
    「俺達にとっては、『秋葉原』をまとめてくれるヤツが居ると有り難い。喧嘩するにしても、仲良くするにしてもな。今の状態じゃ喧嘩さえ出来ねぇ」
    「あんた達の、その勝手な都合と、俺と何の関係が有る?」
    「お前は……あの石川智志さとしの息子だ……。富士の噴火の時に、百何十人もの命を救い、Site01ここでは荒くれ者どもをまとめ上げた男のな……。英雄の息子なら神輿に好都合だ」
    「ふざけるな……。俺は……」
     ……いや、そうかも知れない……。今の俺は……親父の息子である以外は……何の価値も無いし、何者でも無いのかも知れない……。
    「やる気が有るなら、証明してみせろ……。お前が、あの『英雄』の息子だと……。他のSiteでさえ名前を知られてるヤツの血を引くヤツだと……」
    「やる気が無いと言ったら?」
    「嘘吐け、やる気満々の目をしてるぞ……。それに『本土』の同業が『東京』で商売をやるのも癪だしな。『本土』のクソどもを出し抜いて、お前と俺達が、お前の弟と妹を取り戻すぞ」
    「あの……」
     その時、フロント企業の社員らしい、いかにも普通の会社員と云う外見の三〇ぐらいのヤツが、おそるおそると云った感じで声を上げた。
    「すいません……この強化服パワードスーツ、GPSらしきモノが仕掛けてありました」
    「えっ?」
    「どう云う事だ?」
     まさか……レナ達が……裏切ったのか……? いや、レナ達の仕業だとしても、裏切ったと云うのは変だが、他に言い方が思い付かない。
    「俺の幼なじみが、『本土』から来てる『御当地ヒーロー』と手を組んでる……。そいつが、俺の弟と妹の世話をしてたんで……俺んの鍵を持ってる」
    「まぁ、良い。どうせ平和ボケしてるお行儀がいいだけが取り柄の『本土』の連中だ。何とかなるだろ」
     その時、「寛永寺僧伽」のリーダーの携帯電話Nフォンの通知音。スキンヘッドは携帯電話Nフォンの画面を見ると厳しい表情になった。
    「どうした?」
    「ここには、お前んの辺りに有ったのと似た『結界』を仕掛けてる」
    「それが?」
    「『魔法使い』じゃないが……かなり強力な『呪物』を持った誰かが……この建物の中に入った」
    (1)『お前ら……見損なったぞ……。人の心ってモノが無いのか? そんな可愛い子の腹を惨たらしく切り裂くなんて……』
     瀾って子は、腹を切り裂かれた「タル坊」のヌイグルミを見てそう言った。あたし達は、念の為、ヒゥ君の鞄の中に有った、昔の子供向けアニメに出てきた気の弱そうな顔の恐竜のヌイグルミの中に入っていたGPSを取り出して、勇気の部屋の「水城みずき」の中に仕込んだ。
     その事を瀾に伝えたら、最初の反応がコレだった。モバイルPCの画面に映っているのは、気の弱い人が警官でも嘔吐するかも知れないレベルの惨殺死体を見せられたような表情。
    「また始まったか……」
     荒木田さんは、やれやれと云った調子で、そう呟く。
    「あのさぁ、これ、生きてないよ。ヌイグルミ。あたし達は、ヌイグルミを分解しただけで、サイコパスの連続猟奇殺人鬼じゃないよ」
    『ヌイグルミを切り刻むって、犯罪モノの映画やドラマのサイコパス描写の定番だろ‼』
    「ここは、映画やドラマの世界じゃなくて、現実。そして、これは、単なるヌ・イ・グ・ル・ミ‼」
    『待て、ヌイグルミと言っても、その子は……』
    「高木、この件は後でゆっくり議論してくれ。まずは、石川さんの『水城みずき』が移動した。場所は……『有楽町』だ」
     そう言ったのは望月君。
    『判った……もうすぐ……「兄貴」ともう1人と一緒に、そっちに着く。……しかし、「おっちゃん」から聞いたけど……あの勇気ってヤツの親父さんは……有名人だったみたいだな……』
    「うん……『秋葉原』の自警団のリーダーになる前、富士の噴火の時に……あの『水城みずき』を使って……沢山の人を助けた。と言うか……それが有ったから……『秋葉原』の自警団のリーダーに祭り上げられちゃった……。う〜ん、でも、子供の頃のあたしから見ても、性に合ってなかったみたいで……いつもストレス溜めてた。死ぬ前の2〜3年間は、勇気んから出るゴミの中に、お酒の空瓶がやたらと……ね……」
    「なぁ……『ロクデナシの父親を持つ子供の会』に、あの人も誘う?」
     今度は今村君。
    『後で考える……。どう転んでも……あの馬鹿の未来は暗そうだな……』
    (ⅱ)「何だ、こりゃあッ⁉」
     スキンヘッドが使っている携帯電話Nフォンの画面に映っているのは、8足タイプの地上用小型ドローンだった。
     その「背中」と云うか、「上」には、何かの箱が有った。
    『どうも……このロボ公に取り付けられてる「箱」の中に……「結界」が検知した「呪物」が有るみたいです』
    『おい……すまん……代ってくれ……。「結界」内に侵入者有り。2名。防御魔法を施した「護符」か何かを持っているようです』
     この雑居ビルの下の階に降りていったスキンヘッドの下っ端達は、そう連絡する。
    「ちょっと待て、お前ら、1階に居るのに、そいつらが侵入したのを見落したのか?」
    『上です。侵入者は、上の階から、このビルに入りました。どうも、隣のビルの屋上から飛び移ったみたいです。多分、これは……単なるオトリです』
    「はぁっ⁉」
    『うげっ‼』
    「おい、今度はどうした⁉」
    『「呪物」が入っている……らしい……箱を開けたら……何かが……撒き散らされて……目と……鼻と……あと、喉も……』
     携帯電話Nフォンごしに聞こえるのは、聞きとりにくい苦しげな声。
    「どうなってんだ、一体?」
    『多分……匂いや色からすると……』
    「ヤバい薬品か? 催涙ガスか何かか?」
    『唐辛子と胡椒みたいです』
    「あっ?」
     次の瞬間、窓ガラスが割れる音。
    「ガラス代は、どこに送金すれば良い?」
     聞き覚えが有る、あの糞メスガキの声だった。
    「……て……テメエ……」
    「臨兵闘……うわっ‼」
     この部屋に残っていたスキンヘッドの1人が呪文を唱えたが、その最中に、次々とガラス片が投げ付けられる。
    「呪文唱えてる最中に攻撃するか、卑怯だぞ‼」
     部屋に残ってるスキンヘッド達の内、一番若いのが、的外れな非難の声を上げた。
    「阿呆か」
     その一言と共に、またしてもガラス片が宙を飛び、その一番若いスキンヘッドの右の肩口に突き刺さる。
    「ぐっ……」
     窓ガラスを割って部屋に入ってきたのは2人。
     両方とも、バイク用のヘルメットにプロテクター付のライダースーツを着ている。
     身長一八〇㎝ぐらいの男が1人。
     そして、身長一五〇㎝台前半のメスガキが1人。声からして、多分、こいつが……。
    「お前が……」
    「直に会うのは初めてだったな……。と言っても、知り合って2日ぐらいだが」
    (ⅲ)「な……何しに来やがった?」
    「聞きたいのは、こっちだ。何で、そいつらと手を組んだ?」
    「うるせぇッ‼」
     スキンヘッドの1人が、メスガキに殴りかかる。
     だが、メスガキの姿が消える。
    「えっ?」
     スキンヘッドの頭に、いつの間にか机の上に飛び乗っていたメスガキの蹴りが入る。
    「吽ッ‼」
     別のスキンヘッドが咆哮と共に、メスガキに掌を向けたが……。
     ボンッ‼
     メスガキの辺りで、一瞬だけ、閃光が現われたかと思うと、メスガキが着ていたライダースーツのプロテクターに、「田」「九」「厶」を組み合わせたような見た事も無い漢字が浮かび上がる。
    「めずらしいな……日蓮宗の鬼子母神の護法か……」
     スキンヘッドのリーダー格が、そう言った。
    「おい、やっちまっていいか?」
     もう1人の侵入者がそう言った。
    「ああ、死なない程度に、全員、ブチのめしてくれ」
    「そうか……じゃあ……『ぶちのめす』」
     何故か、その「ぶちのめす」と云う一言は……俺やスキンヘッド達じゃなくて、そいつ自身に言い聞かせているように聞こえた。
    「不自惜身命」
     続いて、メスガキが呪文のようなモノを唱える。
    「どう云う事だ?」
     スキンヘッドのリーダー格が怪訝な顔をする。
    「どうしたんだ?」
    「呪文……じゃねぇ。何の『気』の動きも……いや……だが……?」
     次の瞬間、男の姿が消える。
     ガンっ‼
     聞こえた音は1つだったのに、並んだ机の上のノートPCが次々とひしゃげ、事務用品が跳ね飛んでいく。
    「ぐへっ‼」
     一瞬だけ消えた男の姿が見えた。スキンヘッドの1人が、頭に男の飛び蹴りを食って、吹き飛び、壁に激突する。
    「がっ⁉」
     続いて、別のスキンヘッドが派手に宙を舞い、床に叩き付けられる。
    「うげっ‼」
     更に別のスキンヘッドの鳩尾と胸が何者かに殴られ、しかも、不自然に潰れた鼻から鼻血が出ている。
     次々と物音と悲鳴。スキンヘッド達が1人また1人と倒れていく。
    「魔法じゃなかったら……これは……何だよ……えっ?」
     気付いた時には、メスガキが、スキンヘッドのリーダー格の喉を掴んで……どうなってんだ? 中学生ぐらいの体格のヤツが……自分の倍近い体重のヤツを片手で持ち上げてる……。
    「ただの自己暗示だ……。俗に云う『火事場の馬鹿力』を引き出す為のな」
    「は……はな……せ……この……ガキ」
    「了解した」
     スキンヘッドのリーダー格は床に叩き付けられた。
    「御希望に沿えたかな?」
     メスガキは、呆然としているスキンヘッドのリーダーにそう言うと、俺の方を見る。
    「改めて聞こう……。こいつらと手を組んで……何をする気だ?」
    (ⅳ)「で、結局、あんたは何がしたいんだ? 妹と弟を助け出したいのか? なら、あんたは……大人しくしてろ」
    「うるせぇ」
     俺とスキンヘッド達は……あっさりと両手両足を縛られて、床に転がされた挙句、メスガキに説教される羽目になった。
    「それとも、町の英雄になりたいのか? なら無理だ」
    「何でだ?」
    「英雄なんてのは、自分の意志や力だけじゃ成れないからだ。何かを成し遂げた者を別の誰かが英雄として扱ってくれるだけだ」
    「って、お前ら、何やってる?」
    「見て、判んないか?」
     今度はメスガキの連れの男。
     この2人は、俺の親父の形見の「水城みずき」をいじっていた……。待て……そこは……ひょっとして……。
    「どうする? 完全にブッ壊す?」
    「いや、これで良いだろ」
     メスガキは、「水城みずき」の制御コンピュータからCPUとメモリを抜いた。
     ペキっ……ペキっ……ペキっ……。
     小さな音が3つか4つ響いた……。
     制御コンピュータのCPUとメモリは砕け散った。
     たったそれだけの事で……折角、修理した俺の親父の形見は粗大ゴミに逆戻りした。
    「英雄の息子を英雄に祭り上げるつもりだったらしいが……これで計画は1からやり直しだな」
    「お前、それ、俺の親父の……形見……」
    「その話なら、今朝、聞いたよ。床の間に飾っとく為の家宝の刀なら、別に刃引きしてあっても問題有るまい。むしろ、刃引きしてた方が事故が起きた時、怪我が軽くて済む。親父さんの思い出の品として、せいぜい大事にしろ」
    「ふ……ふ……ふ……ふざけんなぁッ‼ 折角、修理したのに、何て事しやがるッ‼」
    「ああ。所で、誰のお蔭で修理出来たんだっけな? 私が居なけりゃ修理出来なかった以上、私から見て感心出来ない事に使おうとしてるなら、私がブッ壊しても問題有るまい」
     クソ、いちいち、痛い所を突いてきやがる。
    「なぁ……お別れの前に1つだけ聞いていいか?」
    「な……何だよッ……⁉ これ以上、どんな嫌がらせをやる気だッ⁉」
    「英雄に祭り上げられて……あんたの親父さんは幸せだったのか?」
    「えっ……?」
     侵入者2名が出て行って、しばらくの時間が過ぎた。
     この雑居ビルの1階で、唐辛子&胡椒を使った即席トラップに見事に引っ掛かった他のスキンヘッド達が戻って来て、俺達の縄を解いてくれた。
    「なあ……おっさん……。あんた、平和ボケしてるお行儀がいい『本土』のヤツらなんて、簡単に出し抜けるとか言ってなかったか?」
     俺はスキンヘッド達のリーダー格にそう言った。
    「うるせえ」
    「ところで……あいつ……『火事場の馬鹿力』を出す自己暗示とか言ってたけど……」
    「もし、俺達も似た事が出来るなら、お前も『火事場の馬鹿力』を出せるようにしろってか?」
    「ああ……」
    「似た呪法や暗示は俺達『台密』にも有る……。けど、鍛えてねぇヤツが、そんなモノ使ったら、病院送りだ」
    「そうか……」
    「後遺症が残っていいなら、いくらでもかけてやるけどよ」
    「あと、金有る?」
    「あっ?」
    「まだ時間は有る……。夕方までに……あそこに行ければ……俺の親父の形見を再生させる手は有る筈だ……」
    (2)「小僧はどうした?」
     「おっちゃん」と呼ばれてる六〇ぐらいの、ビミョ〜に滑舌が悪い、黒白入り混じって灰色に見える短かい髪の小柄な男の人はそう言った。
    「帰した。夕方に姐御の送り盆が有るんで、それに間に合うように」
     そう答えたのは、新しく応援に来た一八〇㎝ぐらいの身長の二〇代前半ぐらいの男の人。
     どうやら「小僧」ってのは、瀾って子の事らしい。瀾は「今年、初盆だ」とか言ってたので、その「姐御」ってのが、何かの理由で死んだ瀾の家族なのだろう。
     あたし達は「有楽町」と「九段」の間あたりに有るカラオケ屋に集合していた。
     後方支援が、ヒゥ君と望月君。
    「また、あんたと一緒?」
     そう言ったのは「猿丸」と名乗る二〇代後半ぐらいの女の人。猿1匹と人間1人で「1組」の「魔法使い」。「魔法を使える」のは猿の体を通してだけみたいで、この人は、その「猿」と感覚を共有出来るけど、その間は動けない。だから、この人も「作戦」時には安全な場所で待機。
    「何で、そう、毎度、嫌そうな顔すんの?」
     新顔の男の人がそう言う。
    「だって、コードネームが被ってるでしょ、猿絡みで」
     新しく来た男の人のコードネームは「ハヌマン」。インド神話の猿の姿の神様にちなんだ名前らしい。
    「ところで『小坊主』、お前はいいのか?」
     そう言われたのは、新しく応援に来た、もう1人の人。二〇代半ばぐらい。髪が短かい上に作務衣姿なので、本当にお坊さんかも知れない。
    「一番、忙しい時期は過ぎましたので」
     前線に出るのは、「おっちゃん」、「ハヌマン」、「猿丸」の猿の方、「小坊主」、今村君こと「早太郎」、荒木田さんこと「ダークファルコン」、あたしこと「ルチア」の合計7人。
     肉弾戦や銃撃戦の担当が、「おっちゃん」、「ハヌマン」、今村君。残りの4人が魔法っぽいモノの担当。
    「で……成功の保証は?」
     あたしは、リーダー格らしい「おっちゃん」に、そう聞いた。
    「不確定要素が多過ぎる……。でも、今回失敗しても、俺達の仲間がこの件を追い続ける。失敗した場合は、後は、大人に任せろ」
    「でさぁ、どう考えても、裏に『神保町』の自警団が居るっぽいんだけど……奴らの目的は何なの?」
    「あの『神保町』の自警団のリーダー……見た事が有る」
    「えっ? どこで?」
    「一〇年前……富士の噴火の後」
    「どう云う事?」
    「富士の噴火の時に、石川智志さとしが助けた子供の1人を引き取った。どうも、そいつの姉だか兄だかの娘だったらしい」
    「いや……ちょっと待ってよ。何で、そんな事を知ってるの?」
     あたしは、「おっちゃん」にそう聞いた。そう言えば、この「おっちゃん」の顔に……見覚えが……。
    「あの時、俺達は……富士の噴火の救援に行っていた。……まぁ、俺は……人殺ししか能がえんで、大して役に立たなかったがな……。そして、そこで……」
     そう言って、「おっちゃん」は携帯電話Nフォンの画面を見せた……。
     画面に表示されている写真には……火山灰に覆われた廃墟を背景に、2つの銀色の「鎧」と1つの「水城みすき」、そして、他の2つの「鎧」とは明らかに設計が違う、二〇世紀のTVの子供向けヒーロー番組に出て来てもおかしくない外見のくすんだ色の「鎧」が映っていた。
     銀色の「鎧」の1つは、残り2つの「鎧」や「水城みすき」より一回り大きい。
     1つだけ外見が違う「鎧」の左胸には、「本土」の警察機構「レコンキスタ」のマークである「菊水」の刻印が有るけど、ネットで見た「レコンキスタ」のレンジャー隊の強化服パワードスーツとも、見た目が全く違う。
     銀色の2つの「鎧」は、実用本位のいかにも工業製品と言った感じのシンプルな外見で、肘や手首や膝に格闘用らしい「棘」さえ無ければ、「表面の装甲部分の割合が大きいだけの民生用の強化服パワードスーツ」にも見えない事も無い。
     それに、3つの「鎧」の外見は、どれも明らかに変だ。「水城みすき」や「レコンキスタ」のレンジャー隊の強化服パワードスーツの強化服には、バッテリーなんかを格納する為の大き目の「バックパック」が有るが、3つの「鎧」には、バックパックらしい部品は有るけど……バッテリーを格納出来るほどの大きさが無い。
     一体全体、この3つの「鎧」の動力源は何なんだろう?
     そして、「水城みすき」の着装者はヘルメットを取っており……。
    「こ……これって……」
     後に欠ける事になる、勇気のお父さんの「水城みすき」の左肩の装甲には、この時、既に大きな傷が有った。
    「レナと言ったな……。ひょっとしたら、あんた……あの時、俺達が、石川智志さとしに預けた子供なのか?」
    (3) 猿が筆ペンで呪符みたいなモノを書いている。冗談みたいな光景だ。
     お猿さんは呪文みたいなものの唱えてるようだけど、当然ながら猿と人間の発声器官は作りが違うので、仮に「呪文」だとしても人間であるあたしの耳には「呪文」ではなく「鳴き声」にしか聞こえない。
    「効力は一二時間±プラマイ一時間って所かな。これで『九段』の『結界』を胡麻化せる……。成功率は九〇%台前半ってとこだけど」
     「猿丸」さんの人間の方はそう言った。
    「胡麻化すって?」
    「『九段』のあっちこっちには、あたしの相棒が、あんたんの周囲に張ったのに似た『強い魔法使いや呪術師や、強力な呪物を検知する』結界が有る。でも、これを持ってれば、あたしの相棒や『小坊主』さんを『ちょっと魔法や呪術を噛っただけの素人に近いヤツ』に、おっちゃんや『ハヌマン』や、その新顔が持ってる『護符』を『一般人でも入手可能なレベルのお守り』に見せ掛ける事が出来る」
    「九〇%台前半って、どう云う意味?」
     そう聞いたのは「ハヌマン」。
    「えっ?」
    「5つ全部が巧く動作する確率が九〇%台前半って事? それとも1枚につき一〇%弱の失敗率が有るって事?」
    「ええっと……後者かな?」
    「ちょっと待って下さい、だとしたら、ざっとした計算だと……どれか1つでも巧く動作しない確率は二〇%ちょいから……四〇%台ぐらいに……」
     続いて今村君。
    「とは言っても、基本的に5つの呪符は同じモノなんで、どれか1つが巧くいけば、他のも巧くいく確率が高い。どれか1つでも失敗したら、他のもマズい事になる確率が高くなる」
    「なるほど……全部OKか全部NGの確率が極端に高くて、1つか2つだけがNGなんて事になる確率は、逆に低い、と」
    「まぁ、そんな感じかな? まぁ、あくまでも経験則だけどね」
    「あと、そんな事が可能なら、他の『魔法使い』なんかが同じ手を使ったり……」
     続いて、あたしが、ふと生じた疑問を口にする。
    「ところが、その手の結界には、それぞれ『癖』や『流儀』が有る。その『癖』や『流儀』が判んないと、この手の偽装は成功率が下るんだけど……、普通の『魔法使い』『呪術師』が、結界の『癖』や『流儀』を知る為には『結界』内に入るか、その『結界』に何かの干渉をしないといけない。だから、あたし達みたいな『魔力・呪力・気は感知出来るけど、自分は大した力を持ってない』のと『そこそこ以上の魔法を使える』のが感覚を共有してる場合じゃないと、この手をやるのは困難だ」
    「つまり、普通は、どう偽装すればいいかを知らべようとした時点で、そこそこの『魔法使い』が何かやろうとしてる、ってバレちゃう訳ね」
    「そう云う事。『魔法使い』を策略で出し抜くのには『魔力や呪力や気を検知出来るけど、魔力や呪力や気の量そのものは少ない』奴が、『魔法使い』と正面からぶつかるには『そこそこ以上の力の魔法使い』の方が向いてる。あたしと相棒の2人1組は、その2通りのやり方のどっちも出来るって訳」
    「で、あたし達に、その偽装の護符は要らないの?」
    「私や君の力は魔法や呪術に似て非なるモノだ。魔法的な手段では一般人……少なくとも『魔法使いじゃない何者か』と識別される筈だ」
     今度は荒木田さん。
    「でも、『靖国神社』の呪術師達が『式神』『使役霊使い魔』で、貴方達を攻撃すると、そいつらからすると『理由が判んないのに、自分の使ってる使役霊使い魔が突然消滅した』って現象が起きたように見えます。多分、その場合『呪詛返し』の原理で、使役霊使い魔を使ってた呪術師も只じゃ済まないでしょうが……『靖国神社』の呪術師は数だけは多いので……」
     続いて「小坊主」さんが説明する。
    「つまり、『靖国神社』の呪い師が、あたしや荒木田さんを攻撃したら……いきなり倒れたりするけど、同僚だか何だかの呪い師が『何か変な事が起きた』『何か訳の判んないヤツが居るらしい』って事に気付く訳ね」
    「そして……私が前回、派手な事をしたせいで……多分、気付かれてる。奴らにとっては、奴らが使ってる『死霊』が多数消滅した挙句、その理由や原因が良く判んない、って状態だろうな……」
    「それで、『靖国神社』が、どう出るか……。呪術より物理力重視で来るかも知れんな」
    「マズそうだったら、戦わずに尻尾巻いて撤退も有り得ます?」
     そう聞いたのは「早太郎」こと今村君。
    「お前の『能力』の事は聞いてる。でも、軍用の自動小銃とかで撃たれたら……」
    「試した事は無いですけど……普通に死ぬ可能性は無視出来ない程度には……」
    「お前は、たまたま手伝いに来た部外者だ。俺が指示するか、お前がマズと思ったら……俺達を見捨ててでも逃げろ。まずは自分の命を最優先にしろ。……それは……そこの2人も同じだ」
     そう言って「おっちゃん」は、片方の人差し指で荒木田さんを、もう片方の手の人差し指であたしを指差した。
     頼りになりそうな人達は来てくれたけど、状況は悪そうだ……。つまり、時間は無いのに、情報は少ない。
    (4)「これで『九段』の港まで行くの?」
     「おっちゃん」と「猿丸」さんと「ハヌマン」さんが、この「島」に来るのに使った3台のトラックには、計8台のバイクが積まれていた。
     良く見ると、インホイール・モーター式のエンジンレスの電動バイク。
    「ああ、ギアチェンジの必要が無いんで、運転方法は、基本は原付と同じだが、速度は、最大で時速一二〇㎞は出る。加速性能は最大で、走り出してから5秒で時速八〇㎞」
    「ざっと計算すると……等加速度と仮定して……0・5G弱ですか……。最大加速でも何とかなりますね」
     そう言ったのは今村君。
    「何とかなるって、どう云う意味の『何とかなる』?」
    「ちゃんと運転出来るかはともかく、加速度による体への負担は何とかなる、って事」
    「運転出来ないヤツは居るか?」
    「原付と同じなら何とか」
    「同じく」
    「俺も」
     声を上げたのは、あたしと荒木田さんと今村君。
    「で、もし、大量の子供が居たら……」
    「この車を遠隔操作で運転して『九段』まで行かせる……。最悪は……先方が使ってる船を奪う」
    「船の運転って……」
    「俺が出来る」
     手を上げたのは「おっちゃん」。
    「あと、最悪、バイクは捨ててもいい。ナンバープレートは偽装してるし、販売記録も、どこにも残っていない筈だ」
    「そう言や、確かに見た事無い車種だなぁ……」
    「とは言っても、部品から足が付く可能性が有るんで……捨てる場合は自爆装置を起動させろ。起動方法は……」
     そう言って、「おっちゃん」は自爆の方法を説明した。
    「自爆機能が有るって事は……このバイクを爆弾代りに使うとか……」
    「不可能じゃないし、やった事は以前に何度も有る」
    「車の遠隔操作は?」
    『今、追従機能をONにした。1台だけ操作すれば、残りの2台は、それを追っていく筈だ』
     無線経由で望月君の声。なるほど、自動運転式の大型トラックで使われてるアレか。
    『あと……あいつの事は……何て呼べばいいんですか? たしか、基本、コードネームでしたよね?』
    「あいつか……」
    『じゃあ、「スーちゃん」で……』
     無線から聞こえたのは、瀾って子の声。
    「帰り付いたの?」
    『ああ。二一時以降なら手助けぐらい出来る』
    「お前の師匠にバレたら、また、ややこしい事になるぞ」
    『覚悟の上です』
    「あの……ところで『スーちゃん』って……」
    『昔のアニメに出てきた恐竜の名前だが、何か?』
    『ところで、えっと「スーちゃん」が、以前、言ってた車両の遠隔操作機能は流石にまだ実装されてませんよね』
     続いて望月君の声。
    「何の事だ?」
    『えっと……以前、「スーちゃん」が四輪バギーATVを遠隔操作でドリフト走行させろって』
    「何の為にだ⁉」
     複数の口が同時に同じ疑問の声を上げた。
    (ⅴ)「あんたらに頼んだのが間違いだった」
     俺が「寛永寺僧伽」のフロント企業の事務所に戻って来ると、中から聞こえたのは、俺と同じか少し下ぐらいの年齢の女の子の声だった。
     ここ2〜3日の間、関わった女ほぼ全員の「男にクソ女と思われたとして、それで、あたしに何か不利益でも有んの?」って感じの声とは違う、アイドルや萌えアニメの声優だと言われても違和感の無い声。
     しかし、言ってるセリフは、声の感じとは逆に、あいつらが言ってもおかしくないモノだった。
    「何だと⁉」
    「あ……違いますッ‼ あたしがそう思ってんじゃなくて、ウチの総帥グランドマスターからの伝言ですッ‼」
    「ああ、そうか。じゃあ、あいつに伝えろ。恩人を殺しちまった罪悪感はテメェの問題だ。自分で何とかしろ。他人ひとも、その『恩人』の子供も巻き込むな、ってな」
    「何だ?」
    「ああ、帰って来たか、小僧。俺達は、もう、この件から降りる。その強化服パワードスーツの修理が終ったら、さっさと出て行ってくれ」
    「おっさんさぁ……ひょっとして、舐めてた『本土』の連中が、実はチート野郎だったんで、ビビってんの?」
     スキンヘッドのリーダー格は、溜息を付いた。
    「正直に言や、そう云うこった。お前も夢は捨てろ。お前は……お前の親父とは違う」
     多分、俺は、今、不機嫌そうな顔をしているんだろう。
    「ここで、修理だけはしても良いんだな……。ブッ壊されてないPCを1つと、LANケーブルを1本貸してもらえる? あと、ドライバー一式」
     「本土」の今村と望月ってヤツが、そもそも、この「島」に来た、本来の目的……中古の電子部品の即売会は、今日までだった。
     そして、俺は、そこで何とか見付けた。あのチビに粉々にされた「水城みずき」の制御コンピュータのCPUとメモリ……それと互換性が有る型式のCPUとメモリを……念の為、予備を含めて複数個。
    「で……ところで……こいつ誰?」
     俺は、制御コンピュータにCPUとメモリを取り付けながら聞いた。
     俺が居ない間に部屋に来ていたのは……大人しそうな感じの、俺より少し年下の眼鏡っ娘。三つ編みにした髪を左肩から垂らし、服装は、顔と合ってないストリートファッション風。夏なのに、ダブダブ気味のデニム地の長袖の上着を着ている。
     眼鏡は、どうやら携帯電話を兼ねた眼鏡型携帯端末らしい。
    「え……えっと……『薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ』の階位1=10・熱心者ジェレーターの更に候補生で、『無属性』の魔術師で……魔術師としての名前は『紫の女司祭プリーティス』……」
    なげぇよッ」
    「ご……ごめんなさい……」
     クソ……レナや妹の仁愛にあがあんな性格な上に、ここ何日か、気の強い女とばっかり関わったせいで、逆に、こんな気が弱そうなを、どう扱っていいか判んない。
     もし、彼女が出来るなら、こんな感じのがいいな〜、とか思ってた通りのなのに、現実に目の前に居られると、妙にイラつく。
    「で、本名は明かせないんだろ」
    「は……はい」
    「で、何しに来たの?」
    「あの……ウチの総帥グランドマスターから……石川さんの手伝いをしろと……言われて……」
    (ⅵ)「よう、小僧」
    「あんたは……」
     ともかく長ったらしい名前の眼鏡っ娘に案内された場所に有ったのは……見覚えの有るトラック。ただし、コンテナ部分には、あの時とは変っていて、製麺所のロゴと、ラーメンやうどんの絵が描かれている。
     その運転席に居たのは、あの夜に「九段」で出会い、俺達を「神保町」の奴らの本拠地まで案内した「魔導師」。
    「名乗って無かったな……俺は……」
    「クソ長い覚えにくくて訳の判んない名前は、もういい。あんた達の間で、普段使ってる名前を教えてくれ」
    「あっ?」
    「いちいち『階位ナニ=カニ・ナンタカラカンタラ・何色のHogeHogePiyoPiyoさん、下請業者の課長さんが仕事の打ち合わせの為にお越しです。何番会議室に御案内しています。すぐ行って下さい』なんてやってる訳じゃないだろ」
    「あ〜、あたしは……その『ドジっ』か『紫の女司祭プリーティス』……もしくは『女司祭プリーティス』です」
    「俺は……『緋色の皇帝エンペラー』か『皇帝エンペラー』あと……ニワトリ」
    「偉いのか、下っ端なのか判んない呼び名だな」
    「俺達の組織では、組織内での呼び名は、タロットカードから付けられてる。ニワトリは……これだ」
     その「ニワトリ」男が呪文を唱えると……。
    「なるほどね……」
     ヤツの右肩に半透明の赤い鳥が現れた。つまり、使い魔にちなんだ渾名か。
    「正式な魔導師や候補生はオーラの『色』と大アルカナ、魔導師じゃないメンバーは小アルカナの『ソード』『棍棒ワンド』『聖杯カップ』『硬貨コイン』『騎士』『女王』『王子』『王女』にちなんだ名前で呼ばれる」
     なるほど、さっぱり判らん。でも、説明してる時の楽しそうな感じからして、こいつが魔術オタクの成れの果てな事だけは想像が付いた。学校高専にも、こんなのがたまに居る。
    「で、あんた達は、そうだな……普通の会社で云うなら、平社員なのか管理職なのか? それとも、まさか重役とか役員?」
    「あ……俺は魔導師としては下から2番目……。まぁ、係長になったばかり、ってとこかな?」
    「えっと……あたしは……その……会社の喩えだと……まだ正式な社員じゃない……研修員みたいなものです」
    「『九段』には、強力な『魔導師』や『呪物』が出入りするのを検知する結界が、あっちこっちに張られていてな……。ウチの中でも上位のヤツが『九段』に入る事が有るとすれば……『靖国神社』側から招かれた時か、逆に全面戦争を覚悟した時だけだ。だから、お前に力を貸せるのは、俺達、下っ端だけだ」
    「どう云う事だ? あんた達、神保町の自警団が……俺に協力してくれるのか?」
    「礼なら、死んだお前の親父に言え。お前の親父とは、あんな事になったが……お前の親父を尊敬してる奴は、神保町にもかなり居る」
    「そうか……」
     そうか……少なくとも今は……俺は……「石川智志さとしの息子」であって、1人の男「石川勇気」じゃない訳か……。
    (ⅶ) トラックは「中央通り」を「神保町」に向かって走っていた。
    「あの……石川さんのお父さんって、どんな人でした?」
     メガネっ娘がそう聞いてきた。
    「えっ?」
    「あの……あたしも……石川さんのお父さんに助けられたんで……富士の噴火の時に……」
    「あぁ……そう……」
     こっちに移住して、すぐに「秋葉原」の自警団のリーダーに祭り上げられ……そっちの仕事が忙しくて、子供の面倒を見る事が有っても、俺より弟や妹と接する事が多かった。
    「言われてみたら……親父、仕事が急がしくて……こっちに引っ越して来てから、親父との思い出が……その……」
    「そうですか……いや……あたしを育ててくれた叔母さんも、そうで……」
    「へぇ……」
    「そう言えば、あの時、石川さんのお父さんが預かった女の子、今でも元気ですか?」
    「えっ? レナの事か?」
    「ええ……っと、名前は判りませんが……青緑っぽい目で、茶髪の……確か、日系ブラジル人の女の子でした」
     間違いない。レナだ。
    「預けた……って誰が?」
    「それが……もしかしたら、記憶違いかも知れないんですけど……」
     そう言って、メガネっ娘は、携帯電話Nフォンの画面を俺に見せた。
    「おい……これって……?」
    「やっぱり御存知でしたか?」
    「いや、全然」
    「あ〜、すいませんッ‼ ごめんなさいッ‼」
    「しょ〜もない事で、いちいち謝るなよッ‼」
    「ごめんなさいッ‼」
    「だから謝るなッ‼」
    「ええっと……とりあえず、ここに映ってるのは、『本当の関東』と福岡県を中心に活動している『御当地ヒーロー』通称『護国軍鬼』です。そして……あの時、女の子を1人、石川さんのお父さんに預けたのも……この『護国軍鬼』です」
     そこに映っていたのは、どこがで見た覚えが有る、しかし、何かの抗争で、そこら中にガレキが散らばっている町だった。
     いや……ガレキなんてモノじゃない。4m級の戦闘用パワーローダー……一〇年前に壊滅した「自衛隊がクーデターを起そうとした時の抑止力として設立された、もう1つの『自衛隊』」である「特務憲兵隊」が使っていた「国防戦機」が倒れていた。
     その無茶苦茶な事になった町に、何人もの……顔を隠し防御効果が有りそうな服を来た連中が居る。
     その連中の中で一番目立つのは、銀色の「鎧」……「強化服パワードスーツ」と云うより「鎧」と言った方が良い代物を着装した2人だ。
     1人は図体が異様に大きく、もう1人は……あくまで推測だが、身長一六〇㎝以下の可能性が……待て……身長一六〇㎝以下なのに、チート級に強い女なら……ついさっき……。
    「これ……どこの写真だ?」
    「今年の3月に『本土』の福岡県久留米市で起きた騷ぎの時の写真です。あたし達『薔薇十字魔導師会』の久留米ロッジの人間が撮影したモノです」
    「ロッジって……支部の事か?『本土』にも支部が有るのか?」
    「いえ……『神保町ロッジ』以外は……ほとんどが『1人支部』です……。まぁ、その、あの辺りに居る総帥グランドマスターの知り合いと言った方が……ええっと……実態に近いです」
    「で……まさか……」
    「ええ……その女の子を、石川さんのお父さんに預けたのは、この大きな『鎧』の人……だった記憶が……」
    「ちょっと待て……どうなってる?」
    「判らないんです……。『護国軍鬼』と呼ばれてる『鎧』の御当地ヒーローは……3月までは2人確認されてました……。1人は身長2mぐらいで、主に『本当の関東』で目撃されている。もう1人に比べて、目撃頻度は少なめ。もう1人は、身長一八〇㎝ぐらいで……福岡・佐賀・熊本を中心に目撃されていて、もう1人に比べて、目撃頻度は多め」
    「じゃあ、これは? このデカい方が2mのヤツだとしたら……小さい方は、どう考えても、身長一六〇㎝ぐらいだぞ。一八〇㎝は絶対に無い」
    「ええ、ですから……3月の騷ぎの時に、突然、新しい『護国軍鬼』が現われたんです……」
    「ええっと……じゃあ……」
    「そうです……。石川さんのお父さんは……『護国軍鬼』と呼ばれてる『本土』の『御当地ヒーロー』と知り合いだった。そして……その『護国軍鬼』達に、最近、何かが起きた……。3月以降、身長一八〇㎝ぐらいの『護国軍鬼』と、3人目の体の小さい『護国軍鬼』の目撃例は有りません」
    「つまり……何が言いたい?」
    「『護国軍鬼』は二〇年ほど前……『極東動乱』『イラク・アフガン戦争』の頃から活動している……おそらく日本最初の『御当地ヒーロー』『リアル・正義の味方』です。もし、石川さんのお父さんが『護国軍鬼』と知り合いだったとしたら……石川さんのお父さんは……『秋葉原』の自警団のリーダーになる前から、『正義の味方』『御当地ヒーロー』だった可能性は無いんでしょうか?」
    「だとしたら……」
    「何ですか?」
    「なら……そいつらは……何故、知り合いだった俺の親父を助けてくれなかったんだ?……俺の親父が……『秋葉原』の自警団のリーダーだった時に……。俺の親父が……あんた達のリーダーに殺された時に……」
    (ⅷ)「着装は終ったか?」
     「ニワトリ」男がそう聞いた。
    「ああ」
    「制御コンピュータにアクセス出来ました。じゃあ、起動コマンド打ちます」
     今度はメガネっ娘の声。
     両眼立体視型の小型モニタに制御コンピュータの起動ログが次々と表示される。見た所、大きな異常は無いようだ。
     そして、表示が、「水城みずき」のヘルメットに有る視覚センサからのものに切り替わる。
    「試しに動いてみろ」
     パンチや蹴りの真似を何度かする。
    「あんまり……なっちゃいない動きだな……」
    「そうか?」
    「でも、強化服パワードスーツそのものには問題は無さそうだな」
     ガラガラガラガラ……。
     その時、台車の音がした。
    「何だ、そりゃ?」
     台車に載っていたのは、片側が斧、もう片側がハンマになってる武器。柄の長さは一・二mぐらい。
    「持ってけ。そこそこの魔力が込められてるが……『九段』の結界を通過すると『靖国神社』にバレるんで、その『魔力』は不活性化してある。一緒に行く2人のどっちでも活性化する事が出来る筈だ。魔力を活性化した状態なら……並の死霊や式神は倒せる」
    「判った……しかし、総帥グランドマスター自ら、肉体労働か?」
    「……たしかに……あんたの親父を殺したのは、私だが……でも、この『島』は、この『島』の人間の手で守るしか無い。『本土』の連中は、どう言い訳しても『他所者よそもの』だ……。いつ、居なくなるか判らん奴らに下手に頼る訳にはいかない」
    「何が言いたい?」
    「忘れるな……これからやる事は、お前の弟と妹を助けるだけの話じゃない。『秋葉原』の英雄の息子であるお前が……『秋葉原』を守る新しい英雄になる第一歩だ……。しっかりやれ」
    「わかった……」
    「じゃあ、そろそろ行きます。『靖国神社』の連中を『九段』の港で待ち伏せします」
    「よし、古臭い言い方だが……そいつを一人前に……『男』にしてやれ」
     しかし、何故か、俺の頭の中では、あのチビのメスガキの言葉が谺していた。
    『何かを成し遂げた者を別の誰かが英雄として扱ってくれるだけだ』
    『英雄に祭り上げられて……あんたの親父さんは幸せだったのか?』
    (5) あたし達は、「九段」の港の近辺の3箇所に2〜3人づつに分れて待機していた。
     一箇所は、あたしと今村君と「小坊主」さん。
     一箇所は、荒木田さんと「ハヌマン」さん。
     一箇所は、「おっちゃん」と「猿丸」さんの「猿」の方。
     空中用のドローンは3チームが1つづ持っている。
     もう夜の一〇時を過ぎている。
    『中型の「漁船」に乗組員らしき人物が近付いています。成人男性5名』
     後方支援の望月君より連絡。
    『手筈通り、港まで三〇〇m以内に近付く。後方支援チーム、進路支持を頼む』
     「おっちゃん」からの無線。
    『こちら「スーちゃん」。港の近くに不審なトラック一台。敵か無関係か不明』
    『どんなトラックだ?』
    『コンテナ部分には、製麺所のロゴが有りますが……調べた所、「島」内には、該当する企業無し。それに、見た感じ、コンテナの塗装が妙に新しいです』
    『こちら、「ダークファルコン」。「神保町」の自警団の可能性あり。この前の夜も似た事が有った』
    「こちら、『小坊主』。なら、私達が近付きます。丁度、『魔法使い』と『神の力』の使い手が揃ってるので、『魔法使い』に対抗するのは最適かと」
    了解Confirm。「ルチア」チームに任せる。3人の中で、一番、経験が一番上なのは「小坊主」だ。何か有ったら、後の2人は「小坊主」の指示に従え。じゃあ、行くぞ』
     言い間違え、聞き間違えを防ぐ為、今回は、英語のNoに相当する場合は「Negative」、「指示に従う」と云うニュアンスの「Yes」は「Affirm」、「その意見に賛同する」「言っている意味を理解した」のニュアンスの「Yes」は「Confirm」、そして、アルファベットの「T」は「テー」、数字の「9」は「きゅう」でなく「く」と言う事になっている。
    『こちら「ファットマン」。その前に、そろそろ、空中用のドローンの1と2を起動して下さい』
    了解Affirm
     あたしは、そう答える。
    了解Affirm
     無線ごしに「おっちゃん」の声。
     1〜2分後、ドローンが飛び立ち、再び連絡。
    『こちら「スーちゃん」。ドローン1の映像、受信出来てる』
    『こちら「アルジュナ」。ドローン2も問題無し』
    『じゃあ、「おっちゃん」は私の進路指示に従って下さい』
    了解Affirm
    『こちら「ファットマン」。「ルチア」チームは俺の進路指示に従って下さい』
    了解Affirm
    『こちら「アルジュナ」。「ダークファルコン」チームは、僕の進路指示に従って下さい』
    了解Affirm
     そして……あたし達のバイクは、夜の闇の中を駆けていった。
    便所のドア Link Message Mute
    2021/05/10 10:07:31

    第三章:絶地7騎士 ― The Magnificent Seven ―

    「どこの世界に、折れては困る家宝の刀を担いで、のこのこ戦場に行く馬鹿が居る??」
    「お前は、弟や妹の命と、父親の形見、どちらかを選ばねばならない局面で、適切な判断をする自信が有るのか??」
    ある人物の、その一言のせいで、勇気はチームから離脱する。
    しかし、かつて、無数の人達の命を救った「英雄」の忘れ形見である勇気を、守護者なき町の新たなる「英雄」に仕立て上げようとする者達が動き始めていた。
    一方、レナと光の元には、5人の戦闘要員と、2人の後方支援要員が集まり……。
    #異能力バトル #ヒーロー #ディストピア #パワードスーツ

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