イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

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    第二章:Fair Gameスカーレット・モンク(1)シルバー・ローニン(1)シルバー・ローニン(2)スカーレット・モンク(2)シルバー・ローニン(3)スカーレット・モンク(3)シルバー・ローニン(4)スカーレット・モンク(4)シルバー・ローニン(5)スカーレット・モンク(5)シルバー・ローニン(6)スカーレット・モンク(6)シルバー・ローニン(7)シルバー・ローニン(8)スカーレット・モンク(7)スカーレット・モンク(8)シルバー・ローニン(9)シルバー・ローニン(10)スカーレット・モンク(1)『どう報道されようと関係ない。
     政治家や大衆にどう言われようと関係ない。
     国中が間違いを正しい事だと言い張ろうと関係ない。
     僕達は、勝算や結果どうであれ、
     自分の信念の為にこそ立ち上がらねばならない。
     それこそが、この国を建てた最初のいしずえなんだ。
     もし、大衆が、報道機関が、そして全世界が、
     君に「そこをどけ」と言ってきたなら、
     君は、真実の川の岸辺の大木のように揺ぎなく立ち、
     全世界に向ってこう言い返してやればいい。
     「断る。君達こそ、そこをどけ」と』
    キャプテン・アメリカ(コミック版)

    「今、は持ってるか?」
    「ああ」
     てるが羽織型のジャケットの前を大きく開くと……ガンベルトにテイザーガンと拳銃が各一丁、折り畳み型のナイフと鎌型短刀カランビットが各2つ。そしてジャケットの内側に拳銃用の弾倉マガジンが計6つ。
     更に背負っていたリュックの隠しポケットから片耳イヤホン型の通信機を取り出し耳に付ける。
    「後は……」
     てるは羽織型のジャケットの袖を揺らすが……良く見ると揺れ型が不自然だ。多分、大き目の袖の中に何かを隠している。
    「応援と合流するまで、何も起きなけりゃ、応援に引き継ぐ。何か起きても、応援が来るまで、あの2人が無事なら、成功だ」
     あたしも自分の通信機を耳に、小型カメラを胸に付ける。
    「随分、あっさり始まった『初仕事』だな……」
    「まぁ、そんなモノだ」
     そう言って、あたしは通信機をONにする。
    「通信リンク確認。チームコードネーム『Storm Breakers』。個人コードネーム『スカーレット・モンク』」
    「通信リンク確認。チームコードネーム『Storm Breakers』。個人コードネーム『シルバー・ローニン』」
    『後方支援要員。現場メンバーとの通信リンクを確認。チームコードネーム「Storm Breakers」。個人コードネーム「羅刹女ニルリティ」』
    『後方支援要員。現場メンバーとの通信リンクを確認。チームコードネーム「台南工房」。個人コードネーム「ミカエル」。手伝ってあげたいけど……』
    「判ってます。あたし達で何とか頑張ってみます」
     今回、後方支援に回る2人は……「無意識の内に大抵の『魔法』を『呪詛返し』してしまう」ような化物チートだけど、何せ、あの精神操作能力者らしき男の子が「具合が悪く」なった原因だ。
     下手に、あの2人が、あの男の子に近付けば、「最終目的は病人の治療なのに、当の病人の病状を悪化させる」ような本末転倒な事になりかねない。
    「行くか」
     そして、あたし達はバイクに乗り、発進。
     国道3号線に入る。
     やがて、筑後川を渡り終えた頃、TCAから来た3人を運んでいるレスキュー隊のバンに追い付いた。
    シルバー・ローニン(1)『自由の対価は高価たかい。
     いつの時代でもそうだ。
     だが、僕には支払う用意がある。
     僕1人でも立向うが、僕1人ではないと信じている』
    キャプテン・アメリカ(映画版)

     この幹線道路に沿っていけば、あの男の子の治療が出来る者が居る太宰府まで行けるらしい。
    「どれくらいかかる?」
    「1時間以内には……あ〜……」
    「どうした?」
     目の前には大き目のT字交差点。
    「韓国映画だったら……あっちからトラックが突っ込んで来る場面だな」
     あさひが、そう言った瞬間……バイクは急停止……。いや、周囲の無関係な車両も次々と停車し……。
     あまりの事態に、一瞬だけ頭が真っ白になった。
    「……すごいな」
     やがて、思考能力が戻ると、私は正直な感想を述べた。
    「何がだ?」
    「私の故郷にも『魔法』は有ったが……ここまで凄いのは初めて見た」
    「どこが『魔法』だ?」
    「いや……『魔法』だろう? お前、今、予知能力系の『魔法』を使ったんじゃないのか?」
    「阿呆か。違う。とりあえず……」
     偶然か……。
     自分で思っていた程には冷静ではなかったようだ。そのせいで、馬鹿馬鹿しい勘違いをしてしまったらしい。
     あの3人を運んでいる車が交差点に差し掛かった途端に狙ったように横から突っ込んで来たトラックは……歩道に乗り上げた挙句、民家に突入して、ようやく停止していた。
     激突は免れていた。
     しかし、あの3人を運んでいる車も、暴走トラックを避けようとした結果……明後日の方向を向いて停車中。
    『あの暴走トラックのナンバーを確認したが……警察の記録では廃車になっている』
     その時、瀾師匠から無線通信が入った。
    シルバー・ローニン(2) その時、トラックの後部ハッチが開いた。
    「えっ?」
     遠隔操作式の人型ロボット……。大きさも人間とほぼ同じ。手には拳銃。
    『民生用のタイプだ。パワーはそこそこだが、射撃補正なんかの戦闘用の機能は付いてない』
     瀾師匠から無線で連絡。
    「でも……改造とかは……」
    『あれを改造するより、裏から手を回して戦闘用のヤツを買った方が安価やすく付く。でも油断はするな』
    了解confirm
     そう言って、私も拳銃を取り出そうとした途端……銃声。
     一瞬、冷やりとしたが……命中しては……しまった……。
     そのロボットが狙ったのは、レスキュー隊の車だ。
     私も、そのロボットを銃撃……だが……。
    「阿呆⁉ 何やってんだ⁉」
     あさひの罵声。
    「えっ?」
     命中したのに効いていない。
    「テイザーガンの方を使え」
    「あ……あ……」
     ロボットは再び銃撃。今度は私に向けてだ。
     一瞬、頭が真っ白になる。
     だが……。
     あさひがテイザーガンを発射。電撃と共に、ロボットは倒れる。
    「あのな……。あれは痛みを感じない。急所の位置も人間と違う。動力用や制御用のケーブルは予備系統が有る。マシンガンとかを使わないと倒せないし……それに周りをよく見ろ」
    「あっ……」
     周囲は民家がほとんど……流れ弾の事を考えると……拳銃は使うべきでは……。
     だが、続いて、トラックの運転席のドアが開き……。
    「むぎゃあああああッ‼」
     運転席から出て来た作業着姿の三十代ぐらいの男は、意味不明な雄叫びを上げながら……。
     思わず地面に伏せる。
     そのままテイザーガンを射出。効かない。
     肝心のレスキュー隊の車は……強化ガラスにヒビが入り……ボディには小さい凹みが出来ているが……まだ貫通は……しまった。
     タイヤのハブの部分に有るイン・ホイール・モーターに銃弾が命中していた。
    「吽ッ‼」
     あさひは気合と共に「気弾」を放出……だが、次の瞬間、男の全身に光輝く見た事も無い文字……少なくとも文字らしき文様……が浮び上がる。
    「吽ッ‼ 吽ッ‼ 吽ッ‼」
     どうやら、「防御魔法」らしき、その文様は、少しづつ薄れていくが、4発目か5発目の「気弾」でも、まだ完全には消えていない。
     やがて……男は、ようやくあさひに気付き……嫌な笑顔だ……虚ろな目に獲物を狙う肉食獣の表情。
    「我、身命を愛さず、但、無上道を惜しむ」
     私は「火事場の馬鹿力」を引き出す自己暗示キーワードを唱え……。
     この状態からでも、予備動作なしに一瞬で時速数十㎞まで加速する事が可能……しまった。
     男が私の動きに気付く前に私は男に激突。
     男の体は宙に浮き……そして……。
     轟音と共に、たまたま近くに有った不幸な民家の塀は崩れ……周囲には男の血肉が撒き散らされていた。
    スカーレット・モンク(2)「ええっと……製造番号らしきモノを見付けました」
     動かなくなった遠隔操作式のロボットを調べてたあたしは後方支援要員に連絡。
    『それカメラに写せる? ええっと……6〜7年前の型式だね』
    「TCAの連中が使ってたんですかね?」
     TCAを「テロ集団」と見做している国内の自治体や国外の地域は少なくない。その為、民生品であっても、科学技術であれ魔法技術であれ「最新技術」やある種の「職人芸」を使ったモノは、TCAへの「輸出」が禁じられている。
     そのせいで、携帯電話ブンコPhoneにしろ、PCにしろ、バイクや乗用車にしろ、こっちでは「3〜4年前の型落ち品」が、TCAでは「最新型」扱いらしい。
    『まだ、状況証拠だけ。他の誰かが足が付かないように、わざと古いのを使った可能性も有る。予断は禁物』
    「トラックの運転手と思われる男の血液から、違法な戦意高揚薬カミカゼ・ドラッグと思われる成分を検出。おそらくはタイプA−23かタイプC−04です」
     レスキュー隊員の1人が、おそらくはレスキュー隊久留米支部に、そう連絡していた。
    「あのねえ……何で、こっちの連中は……大東亜戦争の際の特攻を変な意味に使ってんのよ?」
     問題の女の子は、怪我1つ無く無事だった。
    「阿呆な真似だったからに決ってるだろ」
    「だ・か・ら……国に命を捧げた勇敢な兵士を……」
    「わかった、わかった。で、その手の変な薬使ってる奴には、お前らの精神操作は効くのか?」
    「え……どうなの……ま〜くん……?」
     女の子にそう訊かれた男の子は……首を横に振る。
    「あ……判る訳ないか……」
     続いて縦。
    「あのさ……もし、テロリスト専用のSNSとかに入ってるなら、変な投稿が広まってないか調べてもらえるか?『精神操作能力者を確実に殺せる方法求む』とかさ」
    「何よ、その『テロリスト専用のSNS』って? 私達はテロリストなんかじゃないッ‼」
    「あ……あの……どう云う事でしょうか?」
     そう訊いてきたのは、このガキ2名の「保護者」らしき三十前後の男。
    「この子ら2人とも、精神操作能力者?」
    「え……ええ……」
    「『ええ』? Yesの意味?」
    「ええっと……ええ『ええっと……』の意味です」
    「判りにくいよ」
    芳本よしもとさんは黙ってて」
    「で……ですが……」
    「貴方の言う通りよ。私達姉弟きょうだいは筑豊TCAでも最強の精神操作能力者よ。私は、精神集中が必要だけど……半径二〇m以内、一度に二〜三十人の人間に精神操作を行なう事が出来て……ま〜くんは、精神集中なしで半径二五m以内の相手を一度に五十人ってところね」
    「ああ……言っちゃった……」
    「じゃあ、お前たちを殺す気で車で突っ込んで来てるヤツに『止まれ』って精神操作をしたら?」
    「決ってるでしょ。そいつはブレーキを踏む」
    「だが、ある程度以上のスピードの車ってのは、ブレーキを踏んですぐに止まれる訳じゃない」
    「へっ?」
    「で、あれは精神操作出来るか?」
     そう言って、あたしは動かなくなった遠隔操作式のロボットを指差す。
    「出来る訳ないでしょ。生きた人間じゃないんだし」
    「で、戦意高揚系の違法薬物をキめてる奴に精神操作が効くかは、お前たちも知らない訳か」
    「何が言いたいの……?」
    「あの……まさか……」
    『気を付けろ。今までお前達に教えてきた対「精神操作能力者」ノウハウは、あくまで精神操作能力者をする為のモノだ。しかし、多分、今回の「敵」は「精神操作能力者の殺害」に主眼を置いている。「鎮圧」と「殺害」には微妙なズレが有る。少しでも妙な事に気付いたら、こちらの判断を仰げ』
     瀾師匠から無線連絡。
    「状況証拠しか無い。しかし、こいつらの黒幕が誰であれ……プランAからプランCまで『精神操作能力者』を殺すのに向いた方法だったって……偶然だと思うか?」
    シルバー・ローニン(3)「どうした?」
     あさひが、そう声をかけてきた。
    「お前の言った通りだ。誰でも師匠達のようになれる訳じゃない。私は……向いてないかも知れない」
    「なら、レスキュー隊に鞍替えするか?」
    「ああ……それも悪くない気はしている」
    「でも……あんな真似出来るのに、もったいなくないか?」
     そう言って、あさひは、私のせいで崩れた民家の塀を指差した。
    「あんな真似が出来る人間が、いざと云う時に取り乱したなら……何が起きるか知れたモノじゃない……。と言うか起きた」
    「やっぱ、高速治癒能力持ちでも、銃は恐いのか?」
    「ああ……『高速治癒』と言っても、骨や内臓に達する傷だと治癒に時間はかかるし、場合によっては後遺症が残る。もちろん、傷口から黴菌が入れば感染症になる。ひき肉になっても生き返る訳でも、手足が千切れてもくっつく訳でもない。限度が有る」
    「あのさ……ひょっとして、お前……マトモな喧嘩もした事ないとか……?」
    「マトモな育ち方じゃなかった……。幼なじみも居なければ、喧嘩になるほど仲が悪い相手も居なかった」
    「どう云う育ちだよ?」
    「話せば長くなる。でも、今、大事なのは私の過去じゃなくて、あの2人のこれからだ。その『これから』は、どうするんだ?」
    「そうだよ、どうすんだよ……?」
     そう言ったのは……スカート姿の少女だった。
     車の修理には時間がかかる。
    「ところでGPSとか持ってる? 携帯電話ブンコPhoneとかが有ったら……全部、スイッチ切るかGPSを無効化しといて」
    「何で? そんな事したら、私達の居場所が判んなくなるじゃない」
    「誰に?」
    「だから……私達は……」
    「お前らが、TCAの重要人物なのは知ってる。当のお前がそう言ったんだからな。けど、お前らを狙ってるのは、そのTCAのヤツらじゃないのか?」
     スカート姿の少女は……一瞬、ポカ〜ンとなった。
     どうやら、本当に気付いていないらしい。
    「君は、TCAの『外』では、精神操作能力が効かない人間が増えつつある事を知らなかった。では、そもそも君が、TCA外に君達の能力が効かない人間が居ると云う発想さえ浮かばなかったのは……TCAには、そのような人間は、ほとんど居ないからではないのか?」
    「え……ええ……」
    「ならば……君を殺そうとしているのが、TCA外の人間なら、こんな回りくどい方法を使う必要はない。君達の能力が効かない者など、いくらでも居る以上、そいつらを雇えばいい」
    「じょ……冗談よね……」
    「ゆっくり考えた方がいい。TCAに帰って、君達が無事で済む保証はない。とは言え、こっちに居ても狙われ続ける可能性が高い」
    「どうしろって言うの?」
    「考える時間は有るぞ……。これから4㎞ほど歩くんでな」
     あさひが妙な事を言い出した。
     待て、どう云う事だ?
    スカーレット・モンク(3)「見ろ。ここからすぐ近くのJRの駅の様子だ」
     そう言って、あたしは携帯電話ブンコPhoneの画面を見せた。
     元々は、二〇年ほど前の富士山の噴火で発生した「関東難民」の居住地として作られた人工島「Neo Tokyo」の1つで始まった事だった。
     そして、今は、日本だけじゃなくて、世界のあっちこっちで行なわれている。
     防犯用の街頭カメラの映像を、二四時間三六五日、全世界に生中継するって真似が……。
     画面に写っているのは……鹿児島本線の田代駅近辺の様子だった。
    「近くに有名な製薬会社の本社工場が有ったりするけど……それでも、1日あたりの利用者は千人ちょっとの駅だ。そこに、この辺りのナンバーじゃない車が何台も停車してて……しかも、ご丁寧に窓ガラスは中が見えにくい色付きだ」
    『ビンゴだ。田代駅近辺の街頭監視カメラに写っている車の内、3台は筑豊TCAの「東京派」が「こっち」に作ったフロント企業の社用車で、2台は既に廃車になってる筈の車だ』
     瀾師匠から無線通信。
    「プランDも用意されてた。わざと駅に近い場所で事故を起こして……もし、電車に乗り換えようとしたら、今度は駅に殺し屋が待ってる、って寸法だ。もちろん、プランE以降も用意してるだろうけどな」
    「じゃあ、この2人を狙っている者は、この2人の現在位置を把握しているのか?」
     てるはそう言ったが……。
    「あのさ……そこのおっちゃん」
     あたしは、2人の「保護者」の男に声をかけた。
    「へっ?」
    「だから……あんただよ」
    「えっ?」
    「何なら、社長とか旦那とか呼んだ方が良いのか?」
    「あ……あの……何で、そんな年寄っぽい呼び名ばかり……」
    「いいじゃねえか。それより、あんた、誰かに怨まれてたり、命を狙われてたりする心当り有る? それも、その子供2人を巻き込んで殺しても何1つ気にも止めなけりゃ、損もしないような奴から」
    「い……いえ……無いです」
    「あのね……芳本よしもとさんは超超超超超いい人なのよ。誰かに、怨まれる筈が……」
    「じゃあ、当面は、狙われてるのは、お前らだって前提で動く。いいな?」
    「えっ? って、貴方、何してんの?」
     その時、ピピッと云う音が何回かした。
    「反応が有った……首筋だ」
     てるの手には、特定のパターン・周波数帯の電波を検知する小型センサが握られていた。
    「首筋?」
     嫌な予感がする……。
     「こっち」では、その手のGPS機能付発信機は、マイクロマシン回路を皮膚に「印刷」するタイプが主流になっている。
     毛細血管で運ばれる栄養を体に重大な影響が出ない程度に横取りし、それをエネルギー源に半永久的に動き続けるタイプだ。
     しかし……TCAへの最新技術の輸出は規制されてるのは、あたしも知ってるが……もし……「こっち」とTCAの技術格差が、あたしが思ってるよりデカかったら……?
    「ちょっと見せてみろ……」
    「ちょっと何すんのよ、エッチ‼」
    「何だ、そりゃ? 何十年前のマンガのセリフだ? って……マズい」
     ガキの首に微妙なしこり……。しかも……この位置は……。
    「この発信機、いつ埋め込んだ?」
    「発信機って何よ?」
    「お前には聞いてない。答えろ、おっちゃん」
    「は……はい……えっと……正確な年はTCAに帰って記録を確認しないと……いえ、記録が有ればですが……」
    「何年も前か……」
    「早い話がそうです」
    「どうした?」
     てるはキョトンとした顔をしていた。
    「古い手だ……十年以上前のな……。発信機は旧式のヤツだが……埋め込まれてるのが頚動脈のすぐそばだ」
    「旧式?」
    「マイクロマシン式じゃない。数㎜ぐらいの大きさのカプセル型の発信機を首に埋め込んでる」
    「おい……どう云う事だ? まさか……?」
    「外科医か何かじゃないと取り出せない。素人が取り出そうとすると……」
    「電磁波を照射すれば何とかならないのか?」
    「どの位の強度の電磁波ならOKかは……取り出さないと判らない……しゃ〜ね〜。え〜、歩きで西鉄小郡おごおり駅まで行って、そこから電車で太宰府まで行きます。応援にも伝えて下さい。あと、太宰府側で、外科医と簡単な手術が可能な車を用意してて下さい」
    『満点には程遠い手だが……今の所は、それしか無いか』
     瀾師匠から無線でコメントが入った。
    「あの……小郡って、ここ……たしか……」
    「そ、ここは、隣の鳥栖とす市だ」
    「ちょ……ちょっと待って……」
    「ざっと4㎞だ……歩けるな?」
    シルバー・ローニン(4) 私とあさひは腕に印刷されているタトゥーをレスキュー隊員に見せる。
     一見、普通のタトゥーだ。
     私のもあさひのも昔の子供向けアニメに出て来た恐竜の絵柄。
    「あれ? 一緒か?」
     一応、別の恐竜だが、兄弟と云う設定らしい。
     実のところ、絵柄は何でもいい。重要なのは、このタトゥーの正体がマイクロ・マシンで構成されたGPS機能付発信機と身分証を兼ねた電子回路だと云う事だ。
     皮膚の下の毛細血管から栄養分を少しだけ「横取り」する事で機能しているので、もし、皮膚ごとタトゥーを剥がされたり、最悪、私達が死んだ場合、この「タトゥーに見える電子回路」の機能は失なわれる。
     レスキュー隊員は私達のIDを確認。
    「3時間毎にこの抗不安薬を飲ませて下さい。急なパニック症状が起きた場合は、こちらの即効性の薬を注射。ただし、注射の方の薬を使うのは最低限でお願いします。不明点が有れば、そちらの所属チームの後方支援要員サポートメンバー経由で、我々に問い合わせをお願いします」
     私達はレスキュー隊員から説明を受ける。
    了解Affirm
    了解Affirm
    「薬は半分づつ分けて持つか」
    「そうだな……」
    「じゃ、これ使って下さい」
     私達の会話を聞いていたレスキュー隊員は、そう言って、ファスナー付きの透明なプラスチックパックを取り出した。
    「あのさ……そのとしでタトゥーって……その……」
     TCAから来た少女は、困惑したようにそう言った。
    「何か問題でも有るのか?」
     私は、そう聞き返した。
    「学校の校則とか……」
    「問題ない。ウチの学校では別に禁止されてない」
     そう答えたのはあさひ
    「訳有って、学校に行ってない」
     続いて、私も答える。
    「親が見たら泣くんじゃないの?」
    「死んだ」
    「居ない。それより、行くぞ」
     そう言って、私は男の子の、あさひは女の子の手を取る。
    「ちょっと、ま〜くんは私が……」
    「駄目だ」
    「何で?」
    「歩いていく時に、お前らと車道の間に常にあたし達が居るようにする為だ」
     あさひは、そう説明する。
    「ああ、それと……あんたも車道側には出るな」
     続いて2人の子供の「保護者」にそう説明。
    「えっ……えっと……」
    「ちゃんと説明した方がいいかな? 君達が車道側に出るべきでない理由を……」
    「どう云う事?」
    「何か有ったら……私達の体を盾にしろ」
    「へ?」
    「あと、見通しの悪い場所を曲がる時は、私達のどちらかが様子を見る前に、絶対に曲がるな」
    「あ……あの……まさか……何か変だと思ってたけど、貴方達……えっと……」
    「御想像にお任せする」
    「息がピッタリだけど……その……慣れてるの?」
    「……残念だが、君達を不安にしてしまう事実が1つ有る」
    「何?」
    「私達は、数日前に初めて会ったばかりで、今日が初任務だ」
    スカーレット・モンク(4)「ねえ、こう云う事は警察に任せた方が……」
     ああ、そうか……TCAあっちの「常識」では、そうなる訳か……。
    「いや、そんな真似はやらない方がいい」
    「何で? お金なら……」
    「ええ……TCAの相場相応の現金は持ってます」
     そう言ったのは2人の子供の「保護者」。
    「いや、待て、何だ『お金』って?」
    「警察やお役所に何か頼む時にはお金がるのが普通でしょ」
    「いや、ちっとも普通じゃね〜よ」
    「変なの」
    「変じゃねえよ。どっちみち、金が有ろうが無かろうが、こっちの警察が護衛なんてしてくれる訳が無い。下手に警察に護衛してもらったら、警官の死体の山が出来るだけだ」
    「何で?」
    「TCAではどうか知らないが、こっちの警察には捜査権は有っても、武装部隊は無い」
    「えっ? ちょっと待って……どう云う事?」
    「ずっと再編中だけど、中々、うまくいってない」
    「だから何で?」
    「お前の同類が原因だ」
    「へっ?」
    「いわゆる『体育会系』『軍隊的』な組織に順応し易い奴ほど、精神操作系の能力の影響を受け易い。鹿
    「納得は出来ないけど、理解は出来た。……ところで、足が痛い」
    「まだ1㎞も歩いてないぞ」
    「私達は、大切に育てられたの」
    「判った、判った……それはいいから……連れの男の子に『精神操作』能力を常時ダダ漏れにしないように言ってくれ……」
    「……えっ? 何で……判るの?」
    「お前たちの能力は、原理的には『魔法』の一種。ただ、それを生まれ付き使えるだけ。だから『魔法使い』なら、お前たちが能力を使ったのを検知する事も出来れば、防ぐ事も出来る」
    「……そ……そんな」
    「気を付けろ。化物級の『魔法使い』に『精神操作』なんてやろうとしたら、逆に呪い殺されかね……」
    「おい……待て、何か……様子が変だぞ……」
     てるがそう言った。
     男の子の方の顔が青冷め……冷や汗を浮かべ……呼吸が荒い。
    「過呼吸か? おい、息をゆっくり……」
    「待て……そもそも……この男の子は……言葉をしゃべったり理解する事は……えっ?」
     てるの指摘に対して……女の子と……2人の保護者は……首を横に振っていた。
    「私が言う事以外は……理解出来ない」
     おい……まさか……。
    「ちょっと待て……この場合の『言う』って、具体的に何だ?」
    「ど……どう言う事? 何を言ってんの?」
    「だから、音声としての言葉を耳で聞いて理解してるのか? それとも、お前とこいつは、お互いに『精神操作』をかけ合うか何かして、擬似的なテレパシーを使って意思疎通をしてたのか?」
    「え……えっと……」
     クソ……そこまで意識してなかったのか?
    「お前が話してる時と、TVやネット動画の声なんかで反応は違ったか?」
    「あ……その……ごめん……わかんない……」
     マズい……。この男の子は……普通の人間とは全く違った「世界」が「当り前」で有り続けた「あたし達とは違う何か」だ……。
     それが、いきなり「あたし達の『当り前』が『当り前』である世界」に放り出された……。
     その時、あたしの携帯電話ブンコPhoneに着信。
     あれ? 何で、瀾師匠から……?
    『そこに居る全員に聞こえるように、音をデカくしてくれ』
    「は……はい……」
    『予想すべきだった。その男の子は……今まで、極少数の例外……下手したらたった1人を除いて、可能性が高い』
    「だ……誰? あと……それって、どう云う事?」
    『幼い頃から、精神集中なしに他者の精神を操れる者の周囲に、その能力に耐性が無い者しか居なかったら、その精神操作能力者は他者をどう認識すると思う?』
    「だから……何が言いたいのよッ⁈」
    『その男の子にとって、今までは、他の人間は自分とは違う意志や心を持った独立した人間じゃなかった。。人間は自分とは違う人間と意思疎通をする為に言葉を必要としてきた。だが、
    「そ……そんな……」
    「じゃあ……その……この男の子にとって、こっち側って、その……」
    『ああ、今まで、極少数の例外でしかなかった「他者」がゾロゾロ居る理解不能な世界だ。それも……今までの「他者」とは違って意思疎通が不可能な「他者」がな……』
    シルバー・ローニン(5)「ややこしい事になったな……」
     この2人をTCAとやらに帰らせれば……それは、この2人の命を狙っている者達が居る場所に送り返すのと同義だ。
     しかし……男の子の方にとっては……「こちら側」は完全に未知の世界。適応出来るかは、やってみないと判らない。
    『あ〜、それはともかく、良い報せと悪い報せが2つづつ有る』
    「何すか?」
    『良い報せ1。ややこしい事を考えるのは後回しに出来そうだ』
    「嫌な予感しかしない……」
    『悪い報せ1。田代駅近くに停車してた車が動き出した。全部で5台。5分以内にお前たちと接触する見込みだ』
     私はそれを聞くと背負っていたリュックサックを降し、隠しポケットから大型ナイフと……ある武器を取り出す。
    「あ……あの……銃とか無いの?」
     そう聞いたのはスカート姿の少女。
    「有るには有るが……おそらくは防弾仕様であろう車を止めるのは……難しいな」
    『良い報せ2。強力な応援を3人向かわせた。悪い報せ2。だが、そちらの現在位置まで、後一〇分はかかる』
     私は、大型ナイフを抜く。
     虹を思わせる金属光沢。しかし……この光沢は「構造色」と呼ばれるもので、金属成分はほぼゼロ。X線カメラにも映らず、金属探知機でも検出は無理で……やろうと思えば、旅客機の客室への持ち込みも不可能ではない。
     そのナイフで、私は近くに有った交通標識の支柱を切り……このナイフは「硬度は低いが衝撃に強く、折れにくく、曲りにくく、割れにくい」素材の「地」に、「硬度が高いが衝撃に弱く脆い」素材の粒が混っている。
     二〇年ほど前に開発された特殊金属素材「不均一非結晶合金」の発想を非金属素材にも応用したものだ。
    「あ……あの……そんなので……」
    「来たぞ」
     そう言って、あさひは深く息を吸い込み……。
    「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ‼」
     太陽の光を思わせる「何か」が5台の車に命中。車の表面には、文字のようにも見える文様が浮かんだが……。
    「防御呪文だけは相殺出来たが……中の奴は無事だ」
     5台の車の表面に浮かんだ文様は……砕け散った……ように見えた。
    「止まってッ‼ えっ⁉」
     スカート姿の少女は……車の運転手に対して精神操作能力を使ったが……何か不足の事態が起きたようだ。
    「我、身命を愛さず、但、無上道を惜しむ」
     私は「火事場の馬鹿力」を引き出す自己暗示キーワードを唱え、で急拵えの槍を投げ付ける。
     槍は……最も前を走っていた車の窓ガラスを貫通。
     その車はコントロールを失ない……。道路から近くの田んぼに落ちる。
     後続の車も次々と停車。
    「そ……それ……何?」
    「古代人の武器だ。弓矢が発明される前に、槍をより速くより遠くへ投げるのに使われていた。ところで……何か気になる事でも有ったのか?」
    「あ……あの車のドライバーにブレーキを踏ませようとしたんだけど……変なのよ」
    「何がだ?」

    「はあ?」
    「つまり……その……お前の精神操作が効いた『手応え』みたいなモノは感じたのに……実際にはブレーキを踏まなかった、って事か? って……おい、あれって……?」
     田んぼに落ちなかった残り4台から出て来たのは……奇怪な集団だった。
    スカーレット・モンク(5)「ク……クリムゾン……サンシャイン……部隊スクワッド?」
     スカート姿の女の子は、そう言った。
     ……マズいのが出て来やがった。
     下半分に旭日旗をイメージした図柄が描かれたフルヘルメット。目に相当する部分は小型カメラになっている。
     着ているのは簡易型の筋力増幅機構が付いた、これまた胸に旭日旗マークが有る白いボディ・アーマー。
     拳銃弾ぐらいなら防ぐ事が出来て……筋力の増幅率は、ざっと一・五倍弱と弱め。稼動時間は長いが、精密動作と反応速度はイマイチ……の筈。
     と言っても、旧式とは言え戦闘用なので、射撃補正機能は……とか考えてる内に、その十二体の「クリムゾン・サンシャイン・スクワッド」は、あたし達に軽機関銃を向けた。
    『狙うなら頭か心臓。脳改造されてるんで、痛みも恐怖も感じないし、「火事場の馬鹿力」を出す事も可能』
     後方支援の「ミカエル」が解説。
    「恐怖を感じないと言っても……遠隔操作している指揮官は?」
     てるがそう訊く。
    『そっちは多分、普通の人間。何する気か知らないけど予想外の事態には対応出来ない可能性は有る』
    了解Affirm
    「効くかどうか、判んないが……声による命令に『力』を乗せるイメージで『精神操作』をやってみろ。出来るか?」
     あたしはスカート姿の女の子にそう言った。
    「えっ?」
     次の瞬間、てるが飛び上り……両手に1つづつ持った投槍器で、即席の槍を投げる。
     槍は二体の頭蓋を斜めに貫く。内、一本は勢い余って、背後うしろに居た一体の腹にブッ刺さる。
    「やれっ‼」
    「私達は、『シン天皇』継承資格者の裕子と真仁まひと‼ 別命有るまで戦闘をやめなさい‼」
     だが……。
    「伏せろッ‼」
    「うわっ‼」
     2人の保護者のおっちゃん(年齢的には「あんちゃん」が適切かも知れないが)は、男の子の方を無理矢理しゃがませ……予想してたよりも的確な判断が出来るようだ……。自分の体で男の子を庇おうとはしている。
     あたし達の頭上を弾丸が通り過ぎ……。
     てるは残り九体だか九・五体だからの「クリムゾン・サンシャイン」達のド真ん中に着地……する寸前にてるの足が内一体の頭に命中。そいつのヘルメットは歪み、首はどう考えてもアカン曲り方をしている。
     けど……。
    「伏せろ……『シルバー・ローニン』‼」
     「クリムゾン・サンシャイン」達は、てるに銃口を向ける……。
     
    「な……なんで?」
    「どの意味の『なんで』だ?」
    「えっ?」
    シルバー・ローニン(6) 私はしゃがみながら鎌型短刀カランビットを抜き、周囲に居る連中の足に切り付ける。
     周囲に居る連中は飛び退き……私に銃口を向ける。
     だが、いいモノが、たまたま、すぐ近くに有った。
     先程、串刺しにした連中の3人の死体の内の1つ。
     それを刺さっている即席の槍を柄にして持ち上げ……。
    「うおおおおッ‼」
     死体を盾兼鈍器にして、振り回す。
     だが、何人かが私に構わず、背を向けて……。
     あさひが放つ「魔法」が敵兵士に次々と命中し、敵兵士の装甲に防御魔法らしき光輝く紋様が浮かび上がる。
     どうやら……あさひの「魔法」では、何発か当てないと防御魔法を撃ち破れないらしく、敵兵士達は気にも止めていない。
    「うわああああッ‼」
     主に脚部を中心に痛み。
     過剰反応……いわゆる「火事場の馬鹿力」のせいで、自分の力で自分の筋肉組織が破壊されている。
     だが、高速治癒能力によって、破壊されるそばから筋肉組織は再生される。
     古代の超人種族「古代天孫族ヴィディヤーダラ」に限りなく近い「第一世代強化兵士」……私の「故郷」の呼び名では「人造純血種」……として作られた者だからこそ可能な真似だ。
     それによって、瞬時に時速数十㎞まで加速。もちろん、人間の目で追える速度だが……予備動作なしに一瞬で加速したせいで、私を銃で狙っていた兵士達は対応出来ない。
     あさひ達を狙っているのは、残り9体の内4体。
     内2体の延髄に背後から鎌型短刀カランビットを突き刺し……更に1体の頭部に「細波さざなみ」を撃ち込む。
     装甲の防御力を無視し、直接相手の内臓を「揺す」打撃技だ。そして……本来は、胴体に撃ち込み、相手を気絶させるか戦闘能力を奪う為のモノだ。
     しかし、元から常人以上の身体能力を持つ者が、「火事場の馬鹿力」を発揮した状態で、相手の「脳」を「揺せ」ば何が起きるか?
     「細波」を撃ち込んだ相手は糸の切れた操り人形のように崩れ堕ちる。
     ようやく私に気付いた残り1体の背後に回り込み……首に腕を回して、そいつの体を残り5体に向け、銃弾を避ける盾代りに……。
     いや……馬鹿な……残り……6体だ。
     足から血を流している者。
     片腕がおかしな方向に曲っている者。
     そして……私が勝手に死んだか、少なくとも戦闘能力は奪ったと勘違いしていた……
     奴らは、仲間が蜂の巣になるのにも構わず……私に向けて銃弾を放ち始めた……。
     が……ほぼ同時に、3つの「風」が私の横を通り過ぎた。
     黒と銀と青の「風」が。
    スカーレット・モンク(6)「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ‼」
     てるを支援する為に「気弾」を放つが……「クリムゾン・サンシャシン」のボディ・アーマーには、結構、強力な防御魔法がかけられている。何発も撃ち込んで、ようやくダメージを与えられるだろう。
     しかも、相手は十近く。1人1人に与えられるダメージは、その分、小さくなる。
     あたしも「火事場の馬鹿力」を引き出せるので、突撃して直接殴り付けた方が早いし、「気弾」よりも直接攻撃に「気」を込めた方が相手に与えるダメージもデカいけど、護衛対象の3人から離れる訳にはいかない。
    「だから……何でよ?」
     てるはしゃがんで敵の足を切り付けてるが……奴らは、そうそう簡単に気絶してくれない。死ぬまで戦い続ける。
    「なんで、TCAの精鋭部隊がお前たちを狙うか、って意味なら……お前たちを狙ってるのがTCA内部の人間だからだよ」
    「えっ?」
     奴らは、味方を誤射する可能性を考えてないかのように、てるに銃口を向ける。
     それに対して、てるは、即席の槍が刺さった死体を振り回し……。
    「お前の『精神操作』が、あいつらに効かないのは、あいつらには、そもそも『精神』が中途半端な形でしか存在してない上に、脳に埋め込んだ電子機器デバイスで外部から精神を操作出来るからだ」
    「どう云う事? そんな事、聞いた事も……」
     敵の何人かは、てるの攻撃を食らって、手足が変な方向に曲がり……それでも動き続け……。
     いや、それどころか、槍が土手っ腹を貫通してる奴も、自分で槍を抜いて動き始める。
     そして、体の損傷がマシな4人が、てるに構わず、あたし達に銃を向け……。
     てるが一瞬にしてその内の3人を倒し、残る1人を「肉の盾」にするが……他の「クリムゾン・サンシャシン」は、盾にされた仲間に銃弾を放つ。
    「な……なによ……あれ? あんなのが……」
    「ああ、あいつらは『精鋭部隊』だけど、普通の『精鋭部隊』じゃない」
     その時、男の声……。、くぐもったような変な声に聞こえる。
    「『精鋭部隊』って言っても、構成員は『消耗品』だ。無茶な使い方が出来るので、結果的に戦闘力が有るように見えるだけ」
     同じような……くぐもった男の声。しかし、1人目とは違う。
    「そして、への一番簡単な対処方法は『力づく』。行くよ、『ワンワン』『ニャンコ』」
    「あ……あの……誰、これ?」
    「ようやく来てくれた、応援の『正義の味方』だ」
    「こっちの『正義の味方』って一体……?」
     呆然としてる女の子とその「保護者」のおっちゃんを尻目に、3人の応援が駆け出して行った。
     黒い獣人。銀色の獣人。そして、青い「鬼」が……。
    「『らぷ太』『らぷたん』、あたし達が戦ってる間、この人達を護ってて」
    「ふんぎゃ♪」
    「ふんぎゃ〜♡」
     青い「鬼」の指示に返答したのは……2体の青いヴェロキラプトル型のロボット達だった。
    シルバー・ローニン(7) 突如現われたのは、銀色の狼男、黒地に白の虎縞の虎男、そして、青いプロテクターと「鬼」をイメージしたフルヘルメットをした女性だった。
     まず、最初に2体の首が飛んだ。
     一体は銀色の狼男の手首に出現した刃で。もう一体は黒い虎男が持っている巨大な刃で。
     残り4体の内、1体が「鬼」に、1体が「虎男」に、2体が「狼男」に銃口を向け……。
     「鬼」に向けられた銃は、あっさり奪われ、その次の瞬間、「鬼」を狙った敵兵士は自分の銃で蜂の巣になった。
     「虎男」を狙った銃は、腕の先から消失。妙に機械的な動きで、自分の両手が切り落とされた事を確認しようとした敵兵士は……体を頭から股間まで縦に両断される。
     そして、「狼男」の体毛は、銃弾を防ぎ……一瞬にして、残り2体の頭が「狼男」によって掴まれ……そして、その首がヘシ折られる。
     ドンッ‼
     私が「肉の盾」にしていた本当に最後の1体の額に、「鬼」がナイフを突き刺し……そして、ナイフは最後の1体の顔を縦に斬り裂いだ。
    「『らぷ太』『らぷたん』。そこの田んぼんに落ちてる車を、十字砲火出来る位置に移動。弾種は徹甲弾に変更」
     「鬼」は2体の恐竜型ロボットに指示を出す。
    「ふんぎゃ♪」
    「ふんぎゃ〜♡」
    「『魔法使い』さん。田んぼに落ちた車の中のヤツが生きてるか『魔法』で確認したか?」
    「えっ……了解Affirm。確認します」
    「あと、君、服が返り血だらけだよ。こんな事も有ろうかと、換えを持ってきた」
    「えっと……私の事か?」
    「そう。ついでに飴要る?」
    「へっ?」
    「いくら何でも無茶やり過ぎ。普通の人間なら鍛えてても、2〜3日寝込む羽目になって、その間、トイレに行ったら小便はコーラの色になってるような真似だよ。すぐに栄養を補給しろ。自分の力で破壊された筋肉を再生するのにも、燃料や材料が要る」
    「コ……了解confirm
    「い……生きてますッ‼」
     次の瞬間、あさひの絶叫。
    「撃……いや……すぐ、あたし達の車へッ……‼」
    「えっ?」
     銀色の狼男が私の体を片手で抱え……走りながら、更にスカート姿の少女を抱える。
    「ちょ……ちょっと……」
     私とスカート姿の女の子は、近くに停車していたバンの中に放り込まれ……。
    「ま〜くんと芳本よしもとさんは?」
    「君の連れの事なら、もう1台に乗せた」
     私の乗ったバンの運転席には銀色の狼男。助手席には黒い虎男。
    『「らぷ太」「らぷたん」離れた位置から、田んぼに落ちた車を銃撃』
     次の瞬間、無線通信。
    了解Affirm♪』
    『同じく了解Affirmなのだ♥』
     恐竜型ロボットが合成音を使って無線通信で応答。
     派手な音では無かった。
     実際の銃撃音なんて、機関銃であっても、そんなモノだ。
     しかし、次に起きた音は派手だった。
     爆発音。
     耳鳴りで何も聞こえない。
     私達が乗った車が発車したのは判る。
     そして……背後うしろを見ると「クリムゾン・サンシャイン部隊スクワッド」が乗ってきた車が、私達の車を追って来ている。
     おそらくは……爆弾を積んだ車が4つ、遠隔操作か自動操縦で。
    シルバー・ローニン(8) ようやく聴覚が回復したと思ったら、聞こえてきたのはスカート姿の女の子の怒鳴り声。
    「だから……何で、ま〜くん達の車と逆の方向に走ってんのよッ‼」
     なるほど。
     二一世紀初頭までの日本では「女性は感情的」だと云う偏見が有ったらしいが、その理由が何となく判った。
     日本の「女言葉」が「日本語の『標準語』が『作られた』際に、その一部として同じく『作られた』モノ」なら、女性が何かを批判する場合や状況の説明を求める場合には「女言葉」を使ったが最後「感情的な物言い」に聞こえるように「わざと作られた」可能性が高い。
    「あの車には、爆弾が積んである可能性が高い。だから、まずは、人通りや民家が少ない場所まで行く」
     黒い虎男が説明。
    「じゃあ、何で別の方向に向かってんのよッ⁉」
    「君達を狙ってるヤツに本当の行き先を悟られない為だ」
    「こっちに1台、向こうに3台。狙われてるのは……男の子の方か……」
    「もう1台、現場指揮をやってる車とか無いの? それを叩けば……」
    『探してるが期待はするな』
     瀾師匠から無線通信。
    「師匠、そう言えば、さっきはどこに行ってたんだ?」
    『私が、昔、尊敬してた独立系ヒーローのパチモンがゾロゾロ出て来たんだぞ。冷静でいられる自信が無かったんで、席を外してた』
    「何、内緒話してんの?」
    「それはともかく、『ま〜くん』とやらの方が重点的に狙われてる理由に心当りは有るか?」
    「そりゃ、『ま〜くん』の方が能力が上だからじゃないの?」
    「ところで、食事持ってきてる。無茶したんだから、早めに栄養を補給しといて」
     助手席の黒い虎男から助言と共に紙袋が渡される。
    「どうも……」
     久留米のパン屋チェーンのパンがいくつかと甘めのコーヒー牛乳が入っていた。
    「あ……そこのパン、TCAでも有名なんだよね。分けて」
    「あのさ……暴れ回った人が優先」
     黒い虎男から当然の指摘。
    「でも、TCAに戻ったら、次はいつこっちに来て食べられるか判んないんだし……」
     彼女達を戻して大丈夫なのか? と云う危惧は有るが……今、指摘すべき事では有るまい。
    「判った、どれがいい?」
    「ジャムパン」
    「あのね。何で、エネルギー切れになりかけてる人から一番甘いのを取ろうとするの?」
     またしても、黒い虎男から当然の指摘。
    「わかった、半分こだ」
    「そぼろパンとメロンパンもね♪」
    「……」
    「……」
    「ぶどう糖の錠剤とプロテイン・ドリンクでも持って来た方が良かったな……」
     運転席の銀色の狼男が、やれやれと言いたげな口調でコメント。
    「ところで君と『ま〜くん』は姉弟きょうだいとか言ってたが……」
    「うん、姉弟でフィアンセ」
     あまりにあっけらかんとした口調だった。
     この年齢であれば、どう考えても自分の意志でない。
     しかも、社会的な地位が有る人間が誰かに勝手に婚約者を決められるなど、今時、人道や人権の点から問題が……。
     我ながら、冷静な思考だった。
     しかし、異常な事を聞かされて、冷静な事を考えたとしたら……こっちも異常か、その話の異常さを見落していたかだ……。
     どれ位の時間だっただろうか?
     秒単位だった気もするし、分単位だった気もする。
    「何だって⁉」
     少なくとも、私達3人が声を合わせて、そう言うまでに……多少の時間がかかったのは確かだった。
    スカーレット・モンク(7)「こっちが『はずれ』っすか〜ッ⁉」
    「言いたい事は判るけど、人間を『はずれ』扱いすんじゃないよッ‼」
     あたし達は、応援に来た3人……「鬼」系の「正義の味方」である「ビンガーラ」、そして獣化能力者である「ハヌマン・シルバー」「ハヌマン・エボニー」の車に分乗し……たまでは良かったが、重大問題が発生。
     敵の「クリムゾン・サンシャイン部隊スクワッド」が乗っていた車が自動操縦か遠隔操縦の爆弾付きの車だったのだ。
     あたし達は、保護対象を2台の車に分けて乗せ……当然、敵も分かれて追ってきた。
     ただし、てると女の子が乗った車を追ってるのが1台。あたしと男の子と「保護者」が乗った車を追ってるのが3台。
     その3台の内の1台は、あたしが乗ってる車の横に。別の1台は前に。最後の1台は背後うしろ
     敵の車の破壊につながる真似は……出来ない。少なくとも近くに人が居る可能性が有るか、民家その他が近くに有る場所では。
    「どうすんですか?」
    「とりあえず、あたしらの車は基山きやまの、『ワンワン』と『ニャンコ』の車は筑紫野のキャンプ場に敵の車を誘き寄せて……」
    「どっちも、結構、遠くないっすかッ⁉」
    「プランAも有るけど、望み薄なんで、最初からプランB」
    「どう云うプランっすかッ⁉」
    『すまん、「プランA」用の小型ドローンが足りない。その車に積んでる重量が五〇〇g以下のヤツを全部放て。ただし、大型のヤツはいい』
     その時、瀾師匠より連絡
    了解Affirm。おっちゃん、そこの箱取って」
    「えっと……どれですか?」
    「その緑のヤツ。窓開けて下さい」
    了解Affirm
     あたしは箱の中の小型ドローンのスイッチを入れ窓から放り出す。
    「あっ♪ あ……♪ あ〜……」
     宙を舞うドローンを見て最初は喜んでた男の子だが……遠くに離れていくにつれて残念そうな顔になり……。
    「あ〜っ‼ あ〜っ‼ あ〜っ‼ あ〜っ‼」
     「精神操作」への「抵抗」は、基本的に、ある意味で「抵抗」と云う言葉からイメージされるモノとは違う。
     どちらかと言えば「受け流す」に近い。
     しかし……これは……。
     操られる事は無いが……脳内でとんでもない音量の雑音が鳴り響いてるような感じだ。
    「あ〜、判ったッ‼ 後で似たようなの買ってやるッ‼ だからやめろ〜ッ‼」
    「あああああ〜ッ‼」
     男の声が、お化けでも見たかのような恐怖に満ちたものに変る。
    「あんた……今……何やった?」
    「すいません……うっかり……『呪詛返し』を……」
    「馬鹿野郎。話をややこしくすんじゃないよ」
    「後で買うのはいいんですけど……」
    「おっちゃん、何が言いたいの?」
    「私達に『後』って有るんですか?」
    「……努力する……」
    「すいません……私……TCAあっちにカミさんと子供が……」
    「判った、判った。何とか努力するから……」
    スカーレット・モンク(8)「ごめん、現時点で交通量が少ない交差点を割り出すか、レスキュー隊に頼んで、近隣の道を通行止めにして」
     車を運転しているビンガーラが、無線で後方支援要員に連絡する。
    了解Affirm、ちょっと待て』
     1分経たない内に座席のタッチパネル式モニタに表示されている地図上の交差点のいくつかに緑色のマークが表示される。
    『今、表示が変った交差点が比較的交通量が少ない』
    了解confirm。全員、シートベルトを確認。あとゲロ袋を1人につき3つ用意して。そして、何が起きても舌を噛まないように気を付けてて」
    了解Affirm
     あたしは、そう言って、ビニール袋を男の子とその「保護者」に渡す。
    「あ……あの……何をする気ですか?」
     不安気に尋ねる男の子の「保護者」。
     ビンガーラはそれに答えずに運転を続ける。
     あたし達の車を取り囲むように走っていた3台の敵車両も……まだ、あたし達の車を確実に爆破出来るまで近付いていないようだった。
     映画なんかと違って、おそろしく地味なカーチェイスだ。
     なにせ、相手の車をクラッシュさせる訳にはいかない。
     でも、ビンガーラの一言で何かとんでもない真似をやる気な事だけは判る。
     そして、何故か、ビンガーラは運転席のタッチパネル式モニタを操作し、自動運転モードの準備。
     やがて、ビンガーラが指定した条件に当て嵌る交差点の1つに近付き……。
     あたし達の車は、やや速度を落し、右折用のレーンに入り……敵の3台も、それを追う。
     続いて、ビンガーラは自動操縦モードを起動。
     あたし達の車は段々と右を向き……。
     衝撃。
     車は大きく揺れ……気付いた時には、3台の敵車両は全て前方に見え……しかも、段々とあたし達の車から遠ざかっている。
     ふと……窓の外を見る。
     周囲の光景の見え方が……明らかにおかしい。
    「えええええッ?」
     背後うしろから迫って来る……おそらく何の関係も無い車。
     あたし達の車は、それを巧みに回避。
     おそらくは、自動操縦モードだから可能な反射速度だ……。
     だって……なんて人間技じゃ……あれ?
     ビンガーラの両手は、ちゃんとハンドルを握り、座席のモニタに映されている後部カメラの映像を見ながら車を運転し続けていた。
    『油断するな。敵車両は、まだお前らを追ってる』
    了解confirm
     ピンガーラは、後方支援要員からの無線連絡に対してそう答えると、更に次の交差点で車の向きを変えつつ……ちょっと待て、右折・左折の場合の「右・左」って、バックしながら曲がる場合って、どっちがどっちなんだっけ?
     ともかく、あたし達の車は……ようやく、正常に前に向かって走り出した。
    『よくやった。敵車両を遠隔操作してる車を、ほぼ突き止めたぞ』
     えっ? どう云う事?
    シルバー・ローニン(9)「だ・か・ら、姉と弟であると同時に、フィアンセなの」
    「何がどうなってる?」
     TCAから来た……そして、TCAの重要人物らしい少女は、あまりにもとんでもない事を言い出した。
    「決ってるでしょ。より強い『精神操作能力』を持つ子供を産む為よ」
    「でも……私達の後方支援要員の仮説が正しければ……単に精神操作能力が強いからと言ってTCAの『大阪派』が望んでいる人間になるとは限らないだろう?」
    「えっ?」
    「だから……君の弟が、強力な精神操作能力を持つと同時に、君以外と意志疎通が出来ない理由が『あまりにも強い精神操作能力を持つ子供を、周囲に精神操作能力への耐性が無い人間しか居ない状態で育ててしまったから』だとしたら、どうなる?」
    「えっ……えっと……」
    「例えば、柔道の選手には筋力は必要だろう。しかし、筋力だけで、優秀な柔道選手になれる訳じゃない。それと同じ事だ」
    「な……なにが言いたいの……?」
    「精神操作能力者を使って一般市民を支配する社会体制には倫理的問題が有るが……まずは、その点は無視しよう。だが、そんな社会を統治する精神操作能力者は、強力な精神操作能力は必要不可欠だが……それだけでは十分じゃないのは自明の理だ」
    「た……例えば……」
    「1つの社会を統治する人間には、必要なモノが山程有る。一般常識・コミュニケーション能力・論理的思考能力その他色々と」
     あ……待て……言い過ぎたか……?
     マズい……。
    「あ……あなた……まさか……ま〜君と私の人生は全部無意味だって言いたいわけっ⁉」
    「おねがい、喧嘩は事態がマシになってからにして……」
     助手席の黒い虎男……コードネーム「ハヌマン・エボニー」がそう言った。
    『人気の無い所まで、追手の車を誘い込め。そうすれば事態はマシになる』
     その時、後方支援チームからの連絡。
    「何か手が有るのか?」
     運転席の銀色の狼男……コードネーム「ハヌマン・シルバー」が後方支援チームに質問。
    『追手の車は半自動操縦だ。不測の事態が起きた時のみ、遠隔操作をしてる奴の割り込みが入る。つまり、自動操縦で対応出来ない場合には……車と遠隔操作をしてる「誰か」との間の通信量が増える』
    「え……?」
    『ビンガーラ達の車が、その「不測の事態」を起こしてくれた。そして、複数の容疑の中から、お前たちを追っている車を遠隔操作している車を特定出来た。近くの高速のサービス・エリアに停車しているトラックだ』
    「お……おい……あいつらは……」
    『今の所、無事だ』
    「後で何やったか、あいつにゆっくり訊くか……」
    「そうするよ……」
    シルバー・ローニン(10)「や……やった……止まってくれた……」
     TCAから来た少女は、車を出た途端にへたり込んだ。
     私達を追っていた爆弾付きの車は……筑紫野のキャンプ場に誘い込んだ所で停止した。
     遠隔操作をしていたトラックを突き止め……そのトラックを仲間が襲撃したらしい。
    「後は爆弾処理チームの仕事だね」
    「『スカーレット・モンク』そちらも無事か?」
    『無事だ……心臓に悪い事が色々と起きたけど』
    「そちらが保護している2人も無事か?」
    『大丈夫』
    「どうなの?」
    「無事だそうだ。2人とも」
    「『ビンガーラ』何やったの?」
    『色々とね』
     コードネーム「ビンガーラ」とコードネーム「ハヌマン・エボニー」はプライベートでは夫婦か恋人同士らしく、早速、ハヌマン・エボニーは爆弾付き車両の遠隔操作を行なっていた者を特定する際にビンガーラが引き起した「不測の事態」が何だったかを問い詰めていた。
    「そう言えば、『クリムゾン・サンシャイン』部隊スクワッドに襲撃された時に居た恐竜型のロボットは、どこ行ったの?」
    「彼らは爆弾車両を遠隔操作した者への襲撃に加わっていた」
    「えっ?」
    「爆弾車両を遠隔操作している者が乗ってる車両にも爆弾が仕掛けられてる可能性が有るだろう」
    「あ……言われてみればそうか……」
    「あと、着替え持ってきた。町中に戻った時に返り血だらけだと目立つ」
     ハヌマン・シルバーは、そう言って、車の荷台から衣服を1セット取り出した。
     その衣服の中には……。
    「師匠、あのコート、私にくれるのか?」
     瀾師匠が若い頃に愛用していた青い迷彩風の模様のインバネス・コート。
    『お前、その内、どうせ私よりデカくなるだろ。いつかは入らなくなるぞ』
    「そうか……」
    『お前が向こうに帰る時に、新しいのを2〜3着作ってやる。それまで大事に使え』
    了解Affirm
    「太宰府駅前で別れたメンバーと合流する。その後、『敵』の襲撃を避ける為に車で移動しながら……君の弟の治療を行なう」
     ハヌマン・エボニーは、TCAから来た少女に、そう説明していた。
     そうだ……まだ、何も終っていない。
     そして、この姉弟をTCAに帰すか……こちらで生活させるかは……私では関与出来ない「政治的解決」が必要になるだろう。
    便所のドア Link Message Mute
    2022/03/06 13:39:29

    第二章:Fair Game

    「あのさ……もし、テロリスト専用のSNSとかに入ってるなら、変な投稿がバズってないか調べてもらえるか?『精神操作能力者を確実に殺せる方法求む』とかさ」

    様々な「異能力者」が存在する平行世界の西暦2040年前後の地球。
    その「地球」の「日本」国内には3つの「日本」が斑状に共存していた。
    1つは約20年前の富士山の噴火により大量発生した「関東難民」が暮す「NEO TOKYO」。
    1つは富士山の噴火より前の古き日本を是とする者達が暮す「伝統文化エリア(TCA)」。
    最後の1つは「NEO TOKYO」「TCA」を除く「狭義の日本」。
    だが、TCAの1つで生み出された「人造天皇」の候補2名がTCA外に出てしまった事で、TCA内の権力闘争が「外」にまで波及してしまい……。

    #伝奇 #異能力バトル #ヒーロー #パワードスーツ

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