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    記録と記憶約半年後一日目 残り六日二日目 残り五日三日目 残り四日四日目 残り三日五日目 残り二日六日目 残り一日七日目その後約半年前約半年後 狗凱は、ごちゃごちゃとした自宅の倉庫にいた。
    自宅と言っても街外れに所在する古い古い一戸建の借家で、うるさい床鳴りや色褪せた壁紙、肌寒い季節になった今では、隙間風が、あちらこちらから入り込んでくる。これで雨漏りだけは防がれているのだから奇跡の家だ。二階へと続く階段もあるが狭い二部屋しかない。
     あの日から映画制作への熱意を取り戻した狗凱は、まず広いスペースが欲しいと思った。ホテル暮らしを続けながらどこかのスタジオを借りる、それも考えたが現段階では金銭的に心許無い。何とか繋いだままにしておいたその手の知り合いと連絡を取り、相談したところ、現在の住まいを差し出された。元は老いた遠縁のものだったが亡くなってからは処分に困り、たらい回しの挙句に長年放置していた。とにかく荒れ果てている。それでもいいのなら、と。そんな不憫な家を提供された時、狗凱は手放しでありがたがった。
     家云々は二の次で、狗凱にとって何より肝なのは、ガレージと庭付きだからだ。ガレージを少し整え、作業台を設置して工具や機材の数々を並べば、立派な映画制作の現場となった。枯れた芝生の具合などちっとも気にせず、セットを広げられる場所として使う。ついでに寝泊まり出来る古家が建っている、それで充分だった。それに、色々と探っていたら古家の秘密も見つけた。その秘密は、多分家主から家主へと手渡されるうちに掻き消されてしまったらしく、知人にも言及されなかったものだ。
     朝。狗凱の目覚めは良かった。朝食はコンビニで買っておいたサンドイッチを二袋食べて済ます。その後、作業台の前で背中を丸めて鉛筆を動かしている。ヒーローと怪獣が戦う街にどんと構える、舞台道具が欲しかった。例えば、聳え立つ塔とか。数日かけて考えていた設計図に、昨晩寝る前に思いついた部分まで描き込む。
     シャッターを開けっ放しのガレージの向こうから、こつこつと足音が聞こえる。振り返るまでもない、その正体を知っている。
    「今日は早いな」部品に色を塗り、組み立てたものを調整する、こういう流れで行こう――提案するも応えない背後の羊田に、狗凱は不審がりもしなかった。セットや工具を眺めているのだろう、いつもそうだから。
     あれから二人は映画制作を始めた。幼い頃より羊田が求めていた平和で静かな世界になったのだから、次は狗凱の番である。ヒーロー映画を撮ること。それはお互いに交わした約束だった。とは言え、のんびりとやっている。完成させれば何らかのコンテストに応募することは目標にしつつも、あんなおぞましい体験をした後だから、気持ちを切り替えて早速夢に向かって走るとは困難極まりない。気が進まない時は休み、昔二人で観られなかった特撮映画などを鑑賞する。それが二人の日々だった。
    「剣獅君」
    「何だよ。あ、ラジオペンチ新調しておいたぞ」
    「私、一週間後に死ぬね」
     今日の夕飯の献立はこれにするという風に、いつも通りの声だった。
     体が固まる。血の気が引く。息が詰まる。それから充分な間を置いた。しかし、狗凱は、引き留める言葉を出せなかった。「何言ってんだ馬鹿野郎」とか、「んなこと許すわけねえだろ」とか、「二人だけで映画撮るって言ったじゃねえか」とか、そういう台詞はいくつも腹の底から湧き上がってきた。なのに、声として出せなかった。
     台詞を吐くよりも先に、狗凱は――これが、自分が今まで歩んできた、身勝手な人生への罰なのだと悟った。羊田にとって自分と生きる日々は、彼女自身が望んだ形ではない。理想で、我欲で、無理矢理生きる道に引っ張り込んだだけだ。
     あの日、羊田から赤い石を託された。石の破壊は彼女自身の死――真実を隠されたまま。その理由を考えないようにしていた。けれど、心のどこかで察してもいた。何度も理想を問いかけなければ追従してくれなかったこと。否定しても尚、ヒーローとしての自分を一途なまでに信じていること。羊田は今も自分を怪獣だと思っており、生き延びてしまったことに耐えられなくなったのだ。
     子供の頃、散々ヒーローごっこをして遊んだ。ヒーローと怪獣はガラクタの街で戦い、怪獣は倒れ、勝利したヒーローは称賛される。だから、ヒーローが止めを刺さなければおかしい。それが正しいヒーローの物語。そして、その物語を羊田に語って聞かせたのは他の誰でもない、自分自身。彼女は、狗凱というヒーローに止めを刺されたがっている。それこそがシナリオとして正しいのだと――
     ようやく振り返った狗凱に対して羊田は自然な顔色で立ち、急かさず、ただ黒い眼差しを向けて待っている。信じている。
     だから、狗凱は、言った。
    「残りの一週間、カメラ回させてくれ」
    「ありがとう」
     幸せそうに微笑む彼女が眩しく、自分の指先が震えていることに、狗凱は気付かないふりをした。


    一日目 残り六日 映画制作は中断し、とにかく自由に過ごすことにした。動物園に行こうか、水族館に行こうか、遊園地に行こうか、何なら県外まで出て海を見に行こうか。そんなありきたりな小旅行計画を立てるわけでもなく、二人は羊田の住むアパートの部屋にいる。ささやかな日常を過ごすだけで良かった。
     羊田の許可を得たので、今日から狗凱は羊田の家に泊まることにした。自宅から衣類など最低限の日用品をボストンバッグに入れて持ってきた。勿論、ハンドカメラと充電器も一緒に。何度も上がり込んだ為、羊田の家には狗凱が使う毛布だけは備えられてあり、そこにクッション一つを枕にすればカーペットの敷いた床で充分寝られる。変に体を折り曲げなければならないベンチや、足先がはみ出る中途半端なサイズのベッドよりも、雑魚寝の方が楽だ。
     羊田が冷蔵庫から麦茶を取り出す間、狗凱はカメラの調整の為にいじってみた。安物で中古品のハンドカメラ。風景などの資料映像を収める機材として買ってみたが、インスピレーションのままに街並みを作る方が楽しく、結局使わずに仕舞っていた。だが、ようやく出番が来た。自分達が共に過ごす最期の一週間を記録する、その大役を担って。
     モニターを開き、電源を点ける。明るくなる画面。録画を始めれば、画面の右下に今日の日付が表示され、正確に時を刻んでいく。すっとカメラを向けた先には羊田がいる。
    羊田は小首を傾げた。
    「もう回すの? 何も無いのに」
    「テストだ。好きに撮っていいだろ」
    「うん……別にいいけど」
     腑に落ちない様子だが了承された。狗凱は室内を見渡すようにカメラを一周させる。羊田の部屋。当たり前の部屋。何気無いものが一気に得難いものと化す。
     羊毛を思わせる白いシャギーカーペットの上に、丸みを帯びた羊の全体像を模すクッションが置かれている。ハンガーにかけられているフリース製の羊柄のパジャマ。羊の象徴が見受けられ、どこから連想されたものなのかは訊かずとも分かる。しかし特徴に溢れているというのに、改めて見ると、狗凱はどこか違和感を覚えた。象徴以外には無頓着そうで、質素なキャビネットの上に全ての雑貨をまとめられる、家具が極端に少ない部屋。料理らしい料理は出来ず、既製品の食事で済ませるのはお互い様だが、狗凱が上がり込むまでは、コップすらたった一つしかないほどに、必要最低限の食器しかなかった。自宅が作業用の色々なもので溢れている分、比較すると殺風景に感じるだけかもしれない……が、羊田の境遇からして、そう思い込むのは難しかった。彼女は無頓智な生き方しか知らないのだろう。
     それらの一つ一つをカメラに収めていると、背中をぽんと叩かれた。「もういいでしょ。恥ずかしい」と、むず痒そうに抗議される。どうやら自分が思っていた以上に時間をかけていたらしいと狗凱は我に返り、気怠く返事をした。
    「バッテリー勿体無いよ」
    「充電器は持ってきてる」
    「そういうことじゃなくて……ほら、剣獅君が言ってたやつ、観よう?」
    「ああ、まあ、そうだな」羊田に流され、そこで録画を切ってしまった。
     羊田の自宅に来る途中、ビデオレンタル店に立ち寄って一つのシリーズ作品を借り、昼食はコンビニで買った。長方形に膨らんだビデオレンタル店のバッグから、どんとDVDのケースの束を取り出す。二人の体感でなら、今日から七日間を使えば最終話まで辿り着ける量だ。
    「とりあえず、ヒーローアニメ鑑賞会か」
     早速DVDを再生した。それは二人が小学校を卒業し、新年度から始まったヒーローアニメだった。主人公が旅の途中で様々な人と出会い、敵と戦い、仲間と共にラスボスへと挑み、悪戦苦闘の中、平和を願う人々の想いが主人公の元へと届き、助力となり、勝利する、王道の中の王道。そんな王道の物語を中学生の狗凱は観ていたが、羊田は観ていない。いや、観られなかった。観る余裕など無かった。
     すいすいと物語は進んでいく。主人公が主人公然として覚醒する、炎の拳を掲げるシーンに入る。そこで羊田は目をぱちくりさせた。
    「このキャラ……知ってる」
    「ああ、そうか。昔から人気だし、観てなくても目に入るわな」
    「ううん、そういうことじゃない。剣獅君、学校の机に描いてたよね」
     そう言い切られるので狗凱は素直に驚いた。学校――二人は愛造町にある同じ中学へと進学した。地元の小学生の大半が特に深く考えずに進む、どこにでもある中学だが、二人にとってその三年間は寂しいものだった。一度も言葉を交わせず、お互いの進路など一切分からないまま卒業するだけの日々として終わったのだから。
     神の采配と表すしかない、お互いの距離は離れていった。いつからか羊田の脳裏には神の声が酷く響き始め、河川敷へ、ガラクタの街へ、そして狗凱の側へと近付くことも許されなくなった。理由も分からず羊田から避けられるようになった狗凱もまた失望し、その現実を受け入れることさえ苦しみ、羊田との日々を、約束を忘れ込もうとした。そして、やがて故郷を去った。
     戸惑う狗凱とは対照的に、羊田はどこか誇らしげに言った。
    「私、掃除当番で、選択科目に使う教室だった時期があったの。そこの机でいつも見つけてた。剣獅君の絵だって、分かってたよ」
     同じクラスに在籍するどころか、選択科目すら同じものを受けられなかった。しかし、当時通っていた中学のシステムとして、選択科目に使う教室だけは共有していたのだ。狗凱は窓際で一番後ろの席を使っていた。そこに、羊田は彼の存在を感じていた。
    「ヒーローごっこしてたのも知ってる。カメラを持って学校中走り回ってたのも知ってる。黒板にヒーローの絵を描いたり、校則違反の赤いマフラーを着けて学校に来たり、昼休みの校内放送で私達が観てた頃の戦隊モノの主題歌を流して怒られてたのも知ってる。『カントク』って、みんなから馬鹿にされてたのも知ってる」
     中学に上がった途端、周りは「オトナ」になり、「コドモ」のままの狗凱は笑われるようになった。勉強はそれなりに出来る方だった為、余計に悪目立ちの対象でもあった。いつまでもヒーローに耽り、夢のまた夢を目指す彼を「カントク」というあだ名で揶揄する同級生は大勢いた。
    「でもね、私は嬉しかった。剣獅君は剣獅君のままなんだって。ヒーローはずっといるんだって、信じてた」
     テレビに向けられていた黒い眼差しが狗凱を捉える。きらきらと、ふわふわと、純粋無垢な形をしている。
    「私、ちゃんと知ってるんだよ。剣獅君のこと、ずっと遠くからだけど、見てた」

     自分達が中学生の頃に放送されていたヒーローアニメを、羊田は無邪気に視聴している。「主人公の衣装のデザイン素敵だね」「この人は味方かな、敵かも」「私はこのキャラが好き」と、前のめりになって見入る。そこに狗凱は時には解説を挟む。このアニメは低予算で作られた程度のものだったが、そのうち人気が上がって三部作にまで映画化したとか。この世界の地理は他のヒーロー作品のオマージュ要素で名付けられたとか。この敵を倒した後の名台詞は声優のアドリブだとか。羊田は聞き入り、感心する。
     次の回へ、次の回へ。自動的に再生され、立て続けに視聴する。どちらかがトイレに行く時は一時停止するが、戻って来たら再びテレビへと目を向ける。
    「必殺技、カッコイイね」
     かつて女の子だった頃と同じ、弾んだ声でそう言った時、狗凱は、心底哀れみが込み上がってきた。
    記憶に残るほど観ていた自分と、このささやかな感想を十数年以上言えなかった羊田。自分達は、感想を言い合うことすら出来なかった。どうして大人になってから、死を目前にしてから、こんな当たり前のことをやっているのだろう。羊田に子供時代なんか無かったはずなのに、満ち足りないはずなのに、どうしてもうあの頃を求めないのだろう。求めればいくらでも一緒に浸ってやれるのに。何より満ち足りていないのは、狗凱自身だ。
     やがてエンディングが流れ出す。羊田は一息吐くも、ぱっと狗凱の方を振り向いてまだ乗り気だった。
    「ねえ、次のDVDセットしていい?」
    「おい待て、その前に昼飯だ。休憩」
    「え?」
     と、羊田の腹の虫が鳴った。いや、実はさっきから鳴っている。そう狗凱から指摘され、声の調子からして冗談ではないと羊田は察した。またぐるぐると鳴った途端、一気に空腹を感じる。それなら休憩がてら、コンビニで買っておいた昼食に手をつけようということになった。
    「面白いか」
    「うん。続きが気になる」
    「そうか」
    「あのキャラどうなっちゃうんだろう」
    「さあ、どうだろうな」
     物語の先をとうに知っている狗凱は、言葉数少なく羊田の感想を問い、答えを聞くしか出来ない。込み上げてくる哀れみを抑える狗凱とは裏腹に、それでも羊田は楽しそうだった。

     昼食後からアニメ鑑賞会を再開し、しばらく続く。まったりとした日常回の視聴中、ふと視界の端に窓の向こうが見えた狗凱は、既に夕暮れも終わった空の色に気付く。スマホで時間を確認するまでもない。今日はここいらでお開きだと言ってDVDを片付ける。
    鑑賞会に耽ってばかりの二人は、夕飯についてすっかり忘れていた。冷蔵庫に夕飯となるようなものは入っておらず、ここから歩いて一番近いラーメン屋にでも行こうとなった。早速着いたその店は愛造町でもよく見かけるチェーン店で、店内を覗ける窓から察するに賑わっている。温まるものを摂取したくなる季節、加えて夕食時とあって混んでいた。待ち時間があるならスーパーで総菜を買って済まそうと考えていたが、丁度入店したところでテーブル席が空いたと店員に案内された。それぞれ別のラーメンを頼んだ。「味玉一つあげるね」「チャーシューやるよ」と、お互いのものを交換する。
     ラーメンを啜りながらも羊田はアニメの感想を続ける。その弾む声は澄んでいて、ざわざわと騒がしい中でも狗凱の耳には確かに届く。「第七話のお爺さんが遺跡の話してたけど、第三話の敵が使ってた武器って、もしかしてそこから盗んだものなのかな」と浮ついて喋る。しかし狗凱はその真実を知っている。違う、実は盗んだものではない。けれど羊田は知らないから楽しそうに空想する。あの頃、中学生の頃に観ていれば、自分達は同じスピードで物語の先を待ち望み、興奮しながら語り合えていたのに――抑え込んでいた哀れみが込み上げる寸前、それを誤魔化す為に「早く食わねえと残りの味玉奪うぞ」と、ふざけた脅しをした。
    「え、駄目」
    「よこせ」
    「嫌。そんなに食べたいならトッピングすれば良かったのに」突きつけられるれんげは冗談だと分かっているので、苦笑しながらラーメンの器をわざとらしく手前に引いた。
    「今からトッピングは無理だろ」
    「それでもあげない」
     ラーメンでやいのやいのとやっていたからか、羊田の意識はアニメから狗凱との食事に切り替わった。「味玉の単品、ここは無いんだね」「春巻きでも頼むか」と二人は店員を呼ぶ。こうして夕飯を堪能した。
     満たされた胃袋でラーメン屋を出ると、その横に建つコンビニで六枚切りの食パンを二袋買った。これが明日からの朝食だ。帰り道を並んで歩く。ビニール袋を揺らしながら「ラーメン美味しかったね」と振ってくる羊田に、狗凱は短く応えた。
     その時、ふと思った。
    (カメラ……持ってくりゃあ良かったか)
     混み合う店内でだらだらとラーメンを啜ってハンドカメラを回す二人組、傍から見れば非常識なカップルか何かかもしれない。それなら持って来なくても正解だった。けれど、自分達はこれからあんな当たり前の会話を、食事を、同じ場所で過ごす時間を、失ってしまうのだ。それなら、やはりどんなに些細な出来事でも記録しておくべきではないか――

     帰宅すると順番にシャワーを使い、それぞれ寝間着姿になる。夕飯は食べ終わり、アニメ鑑賞会も今日はこれまでと決めている。そこから細々とした準備や片付けをしていると、スマホの時計は就寝に相応しい頃合いを示している。
     ハンガーにかけられていた例のパジャマを着た羊田は、いつものシングルベッドに横たわり、柔らかで厚みのある掛け布団の中を被った。狗凱の寝床はそのすぐ隣のカーペットの上で、一枚の毛布と黒いコートを乗せただけのものを寝具とする。
    「大丈夫? 寒くない?」
    「平気だ」
    「もう一枚毛布あるよ」
    「要らねえ。これ以上分厚くなると重い」カーペットに寝転び、羊型のクッションに遠慮無く頭を乗せる。馬鹿は風邪を引かねえんだよ――心配する羊田を、狗凱は雑に諭した。
    「電気消すぞ」
    「うん」
     リモコンを操作する狗凱によって、シーリングライトは最小まで消灯した。室内は闇に包まれる。リモコンはテーブルの上のカメラの横に置いた。
     いきなり寝付く空気にはならない。急に羊田がひっそり笑い出した。
    「さっきラーメン屋さんで満足しちゃって、勢いで食パンしか買わなかったけど」
    「なんか、そういうのあるよな。後先考えねえでさ」
    「明日から朝ご飯はトーストばっかりだね」
    「俺は二枚食うけどよ、お前は足りんのか?」
    「うん。ジャムも色々あるから飽きないし」
    「つーか、飯そのもののこと考えてなかったな」
    「そうだね。また買わなきゃ」
     ――この会話は何なのだろう。今朝の宣言について、本来なら、もっと話し合っていいはずだ。アニメ鑑賞会などしている場合ではないはずだ。こうして冷静な思考も働いている。狗凱は迷い、「なあ」と声を出せたものの、「どうしたの?」というあまりにも自然体な羊田の反応が切なく、「冷蔵庫にマヨネーズ残ってるか?」と無関係な確認をしてしまった。そしてやはり平然と頷かれた。羊田は望む己の死を欠片も疑っていない。それがヒーローから二度と阻まれるとは思っていない。だから寝る前の、ちょっとした雑談をしているだけだ。
     長く視覚を使ったせいで疲れたし、ほとんど同じ姿勢のまま座りっ放しで体も凝った。ふわあ、と羊田が眠気を誘う緩やかな欠伸をする。狗凱もつられて欠伸をした。欠伸が伝染するのは仲良しだから、心を開いているから、なんて聞いた覚えがある。
     どうでもいい話を続けようとした狗凱の前に、羊田は遠い遠い夢に思いを馳せている声色で呟いた。
    「これから……何しようかな」
     それを聞こえなかったことにしたい、耳を塞ぎたいという本心が強く激しく震えた。けれど、もう逃げ場は無い。
    「何だって付き合ってやる」
    「ホント?」
    「ホントだ。だから、今日はもう寝るぞ」
     宣言すると、羊田は嬉しそうに微睡んで頷いた。
    「おやすみ、剣獅君」
    「ああ、おやすみ」
     黒いコートと毛布で体を覆った狗凱に倣い、羊田も布団の中に深く潜る。しん、と無言が出来上がった。これ以上の会話は無い。
     しばらくすると、羊田が眠りに就いた気配を感じる。狗凱は未だに瞼を閉じず、僅かな呼気を聞きながら天井の方を見上げた。
    シーリングライトは完全に消した。遮光性のカーテンは街の灯りを室内に入らせず、ベッドサイドランプも無い部屋なので真っ暗だ。羊田はこういう就寝に馴染んでいるらしく、別に狗凱もそれで良かった。ただ、羊田が闇に慣れた訳を勘繰ってしまう。それに、闇に慣れたからと言って、闇を好んでいるかどうかは別問題である。十数年以上もの間の、心を落ち着けて眠れる日々の少なさは何となく伝わっていた。あの事件後、すっかり安眠を得られるように切り替わったはずもない。いつだったか、熱にうなされる夜と出くわしたこともある。ようやく取り戻した日常に、調子に乗って体力を使い果たしたせいだと弁明されたが、心配をかけたくないという気遣いだったのだろう。
    狗凱は、こうして今更気付いていくのだ、己が彼女に抱え込ませていた一つ一つの眠れぬ苦しみを。羊田は安らかに眠りたかった。その眠りを妨げていたのは神と、そして自分だ。
     それなのに、最期の一週間の記録を許された。その許しにどれだけの大きな意味があるか――羊田の慈悲を信じ、狗凱も瞼を閉じる。

     平凡で、限りある一日が終わった。まだ一日目、もう一日目。


    二日目 残り五日 狗凱は、もぞもぞと動き出し、静かに上体を起こすと、テーブルに置いていたハンドカメラを慎重に持った。録画開始の合図が聞こえないように、毛布とコートで包みながらスイッチを押し、その包みから取り出し、そっと羊田の方へと向ける。人形みたいに身動ぎしないが、呼気だけは確かに聞こえる、何の夢も見ていないような寝顔がモニターに映る。この寝顔も、本当は安らかなものではないのかもしれない。
     ――不安になる。まだ、その時ではないはずだ。だから狗凱自身が羊田の肩を揺り動かし、目覚めを促す。
    「おい」
    「剣獅君……?」
     片手で掴んだ肩は細かった。人としての温かさが伝わる。それだけで狗凱の中では安堵に繋がる。寝惚け眼を片手で擦る羊田に対して「おはよ」と簡素な挨拶をすれば、「おはよう」と気の抜けた挨拶が返ってくる。
    が、少し間を置いてから羊田の脳が回転し始めた。
    「……え。ね、寝顔撮ってた?」
     狗凱は答えず、しれっとした表情で「良い画だったなァ」と呟き、わざとらしく口笛まで吹いた。
    羊田は勢い良く体を起こし、頬を赤く染め、寝起きにしては大きく「消して!」と叫ぶ。しかし「消さねえ」と淡白な声で跳ね除けられた。
    「昨日、好きに撮っていいって許可したよな。言質だ、言質。何ならここに記録してあるぞ」
    「あ、あれはそういう意味じゃなくて……ずるいよ」
    「いいか、これからは俺の好きなタイミングで好きなように撮るからな」
     あえて威張った口調で言い切る。この意固地な性格を羊田が理解している上でのことだった。そして目論みは成功した。
    「今回だけだよ」溜め息を吐いて渋い顔をするものの、それ以上の反論は無かった。
     羊田は、独りで死ぬと言った。この世で一番愛しい死に姿を残せないのなら、せめてこれくらいは許してくれと、その想いは伝わっていないのだろうか。そこで録画を止めた。

     朝食はトーストを食べる。羊田はブドウジャムを塗り、狗凱はマヨネーズを塗った。簡単な食事を済ませると、「あっ」と羊田がキッチンの方へと向かうので、狗凱もちょろりと後をついて覗き込んでみる。ごみ収集についてのカレンダーである。もう三十分もすれば収集車が来てしまうと言い、慌てて可燃ごみの袋をくくった。
    「私はごみ出ししてくるから、お皿とか洗っててくれる?」
    「分かった」
     二人分の皿とコップ、ジャムを塗る為に羊田が使ったスプーン。洗い物はたったのそれだけ。狗凱は、日々の食事は既製品で済ませることが多い為、食器を使うこともほとんど無く、久しぶりの感触だと気楽に思いながら泡だらけのスポンジを素手で動かす。そもそも羊田も自炊に疎いから、こんなにも僅かな食器しか置いていない。
     二人分のコップを洗う。スプーンを洗う。そのまま水切りかごに入れようとしたが、縁にかけられているキッチンタオルで拭かなければと思い直す。さっさと水気を取り、水切りかごに収めた。それから一枚目の皿を洗い、流し、拭く。二枚目――玄関ドアが開いた。「洗い物終わった?」と見えない方向からキッチンへと問いかけが聞こえる。
    「おう。丁度終わった終わっ――」
     問いかけに答えて振り返り、キッチンタオルで軽くしか拭っていない皿を水切りかごに置こうとした一瞬、掴む指先と水滴の垂れる皿の間に隙間が生まれた。つるっと滑った。呆気無く皿は落下し、最早快音と言えるほどの勢いで鳴り響き、皿としての名残は半分ありつつも、白い破片が狗凱の足元に散らばった。
    「え!?」大体察しはつく騒然とした音に、羊田は急いで靴を脱ぐ。
    「こ、こっち来んな! 危ねえ!」
     羊田の影が視界の端に入った瞬間、濡れたままの手で咄嗟に制する。とは言うものの、何をすればいいのか……。塵取りでもあればと周りを見るが、どこにも無い。冷や汗を掻いていると、恐る恐るといった雰囲気の羊田が、キッチンに繋がる曲がり角からひょっこりと顔だけを出して惨状を見下ろす。
    「おいおいおい、来んなって」
    「私も手伝う」
    「いや、でも」
    「塵取りどこだっけ」羊田さえ自宅の把握に曖昧な様子で心許無い。きょろきょろと辺りを見回した後、在り処を思い出したらしく、玄関収納の中に入れていたと持ってきた。足元に注意しながらも狗凱の側に寄り、小型の箒でさっさっと手を動かし始める。
    狗凱は気不味いながらも、破片の中でも手で拾えるほどの大きなものを集めることにした。
    「えーと……すまねえ。大事な皿だったりするか、これ」
    「ううん。それより怪我は? 大丈夫?」
    「ああ」
    「絆創膏は要らないね」
     ふう、と羊田は見るからに胸を撫で下ろす。その仕草に、狗凱はむず痒くなった。何だか子供の頃を思い出す。ガラクタの街でヒーロー役と怪獣役に別れて取っ組み合いになった時、お互いに転んで擦り傷を作ったものの、明らかに羊田の方が痛々しいのに狗凱の身を案じた。「剣獅君はよく傷だらけになるから、持ってきたんだよ」と、得意げに絆創膏をポケットから取り出す幼い羊田の微笑み。あの微笑みが好きだった。自分のことを第一に心配してくれる、あの微笑みが嬉しかった。あの微笑みの裏では、ずっと苦しんでいただろうに、今でも好きだった。
     塵取りに入る割れた皿の名残が、さらさらとしてきた頃、不意に羊田の視線は狗凱の手へと向けられた。慌てるうちにすっかり水気が乾いていたその手も、中くらいの破片をビニール袋に詰めるところだった。
     ぽつりと、羊田は呟いた。
    「剣獅君の手、綺麗だね」
    「あぁ? どこが……」
     狗凱は目を丸くし、言われた部位の裏表を返してみる。己の歩む人生で投げかけられる中で、一番似つかわしくない言葉だと思った。
     血管が浮き上がって節くれ立ち、厚みの増した手は、とうの昔に男の体として成熟した証拠。幼い頃から拙くも物作りに夢中で、まめや擦り傷を作ってきた。時には手袋や軍手越しにも小さな傷が出来る。年を重ねると皮膚は完全には再生しなくなり、色濃い部分や傷痕も目立つ。美容に興味は無く、肌荒れ防止のハンドクリームを塗るなどの対策も行っていない。普段の出で立ちとして手どころか全体的に色白と言えるが、その白さで余計に切り傷や刺し傷が浮き、良く言えば職人らしいがさつきを表している。
     だが実際、この手は空虚にばかり触れてきた。羊田と離れ離れになってから十年以上、ほとんど形と呼べるものを取れず、他者を拒む、哀れな手だった。綺麗と形容出来る程のものとは思えない。
     自分の手の本当の使い道は、あの赤い石を託された時だったのだろうか――
    「別に傷だらけだからって、綺麗じゃないわけじゃないよ」
     羊田は穏やかな声で、どこか切なそうに言った。
    「こんなに綺麗な手、けがしちゃ駄目だね」
     塵取りで細かな破片を寄せ集める羊田は顔を伏せており、垂れるボブカットの髪の向こうでどんな表情でいるか分からない。
    ただ、狗凱は何か返さなければと思った。何を、どう返せば最も正しいのか。
    「お前の手だって綺麗だ」
     洒落た言い回しだという自信は無い。それでも羊田が「ありがとう」と応えたから、それで正しいと思うしかなかった。

     二人で片付けると事の進みは早い。破片の寄せ集めは、とりあえず二重にしたビニール袋に入れておくことにした。気を張っていた二人は自然と溜め息を吐いたが、次には今日の予定を考える余裕も湧く。特に羊田は、昨日からのめり込んでいるアニメが気になるらしく、やはり続きを所望するとのことだった。「今日は夜までぶっ通しで観るか?」と軽く誘う狗凱に大きく頷いてみせた。
    「お昼ご飯、先に用意しなきゃ」
    「じゃ、すぐそこのスーパーに行こうぜ」
     羊田の住むアパートから徒歩で行き来出来る、大通りに面した所のスーパーを多用している。今日の分と、今後数日分の保存が効く食料になるものまで買い、すぐに済ませた。
     帰宅した二人は早速アニメ鑑賞の準備を始める。狗凱はDVDをセットするとカメラを回し始めた。羊田がビニール袋から昼食を――もとい、子供が喜んで食べるお菓子の類いを取り出す様を録画する。時々つまむには丁度良いだろうと置くことにしたのだ。
    甘じょっぱいだの、わさび味だの、カレー味だの、しゃりしゃりとした食感が癖になるスナック菓子の類い。啜ればにゅっと出てくる細長いゼリー。何味が入っているのかよく分からないグミ。薄っぺらいカツ。丸っこいドーナツ。四角くて一口サイズのチョコもあれば、硬貨の形をしたチョコもある。小学生が遠足で持ってくるおやつの一種と呼んで適切なのか、酒の肴としても好まれるカルパスやスルメも買った。飲み物と言えば一リットルサイズのオレンジジュースとリンゴジュース、そしてラムネソーダ。まるで遠い昔の子供達が描いた、夢の光景がテーブルには広がっている。モニター越しに見ると中々に圧巻である。
     駄菓子屋に並ぶ手の平サイズのお菓子でさえ、五百円までという制限がつくと、ほんの僅かしか買えなかった。それが今では制限という概念を取っ払い、両手からこぼれ落ちるほどに買えてしまう。そもそも駄菓子屋と呼ばれる店が無くなってしまった。スーパーのお菓子売り場に設けられた「昔懐かしの駄菓子屋コーナー」という一角に、それらはひっそりと並べられているのだ。
     羊田は少し力を入れてラムネソーダの蓋を開け、一口飲んだ。懐かしい、素朴なレモン風味。瓶の括れの辺りで転がる紅色のビー玉は、子供の頃から大人になった今でも取り出したくなってもどかしい。
    が、羊田よりも狗凱の方が釈然としない顔付きで瓶を揺らした。
    「ビー玉取り出してえなぁ……」
    「また破片だらけにする気?」
     苦笑交じりに切り返され、居た堪れないながら狗凱もラムネソーダを飲んだ。からんころんとビー玉が存在を主張するように壁を強く叩く。
    「河川敷で金槌で割ってたよね、剣獅君」
    「そりゃあ取り出したくなるだろ、こんなもん」
    「でも、別に壊さなくても取れるんだって」
    「え、マジで?」
    「キャップを思い切り反対に回せばいいんだよ。お湯で温めたら緩みやすくなるし」
    「……それ、いつから知ってたんだ?」
    「河川敷で割ってた頃から」
    「言えよ!」
     羊田はラムネソーダを飲もうとしたが、笑いを堪えられなかった。言えるわけがなかった。壊す度に、これは敵の大事なコアだから、ヒーローの務めだと目を活き活きとさせる彼の姿が好きだったから。
    「子供の頃の憧れって、大人になると意外と大したことないって思うよね。お菓子をご飯にするとか」
    「自分の身近な大人が出来てることしか知らねえからな。で、俺達もこの程度だ、やれることなんてのは」
     DVDを起動させる。アニメが始まる前にと狗凱は食玩ガムを手に取り、包装紙を確認する。そこには現在二人で視聴中のアニメのキャラが描かれている。そのシリーズを一箱、いわゆる大人買いをしてきた。試しにびりびり破ってみる。本来メインはお菓子のガムだ。だが、おまけであるカードの収集や転売を目的としてガムを捨てる輩は大勢いるらしい。度し難い。
    「おっ、スーパーレアじゃん」
     狗凱はカメラを自分の手元へと向けた。すっと抜き取った四角いカードには、仮面の戦士が描かれている。雷の剣の使い手で、主人公のライバルだ。このトレーディングカードの基準で言えば、ノーマルよりも、そしてレアよりも上位に相当する。ラメ入りの縁取りが施されており、刷り込まれた価値観のせいか幼心をくすぐる。無邪気にヒーローに夢見ても両親から許されていた子供時代、手に入れたレアなシールやカードは今頃実家でどうなっているのだろう。懸命に集めたものだから、どうせなら自室の押し入れの「宝箱」に残されていればいいが。
     オープニングが始まった頃、狗凱に倣って羊田も一枚手に取り、中身を傷付けないようにと丁寧に破っていた。カメラをそちらへと向けた。
    「いいだろ。羨ましいか」撮影しつつ、空いている方の人差し指と中指の間にカードを挟み、悪戯っぽくひらひらと羊田に見せつけてみるが、得意げな表情で返されてしまった。
    「レジェンド」
     と、一言。羊田が優雅に取り出したものは、炎の拳を大きく繰り出す主人公が描かれているカードだった。ラメは狗凱が持つものよりもふんだんに施され、光の加減で輝きの色を変え、スポットグラス加工によって高質な手触りがする。このトレーディングカードの中では最上級に当たる。
    冗談とは言え、あっさり乗り越えられてしまった気恥ずかしさで狗凱はそっぽを向き、録画を切った。それはあまりにも羊田にとって予想通りの態度で、おかしくて仕方なかった。
    「悔しいんだ」
    「うるせえな」
    「剣獅君にあげる」
     横顔に差し出された光るカード。狗凱は手だけをそちらへと動かし、素直に受け取った。拒んだところで何の意味も無い。同じように、羊田が持っていても何の意味も無い。だからそれは、狗凱の元にある方がずっといいのだ。
     それからも二人は延々とアニメを観た。目が乾き、同じ姿勢を保っていた為、疲れるほどにずっと観ていた。駄菓子を食べ切ったところで今日の鑑賞会はお開きとなった。子供の頃は物足りなかっただろうに、二人の胃袋はすっかり満たされていた。もとい、もたれた。
    「年取ったな」
    「そうだね」
     苦笑いは当然だった。


    三日目 残り四日 イチゴジャムを塗ったトーストと、マヨネーズを塗ったトーストで二人の胃は満たされる。
    昨日の教訓から、朝食後は羊田が皿洗いをした。その間何もしないとなると居心地が悪い狗凱は、それなら洗濯物を干すようにと任された。朝食前に回していた洗濯機は既に止まっている。そこから取り出した衣類は少なく、あまりにも軽い洗濯かごを片手で持ちながらベランダの戸を開ける。南向きのアパートではないが、天気の良い今日ならしっかり乾くことは間違いない。手の届く範囲に物干しが吊り下げられており、ハンガーにかけた湿ったブラウスをそこへと伸ばそうとした時、上枠にごつんと額をぶつけた。それ以外は順調に進められた。
     ブラウス。スカート。下着。白かベージュ、それと寒色系の似たような形の衣類ばかりだと狗凱は思った。仮初の衣装で本性とは真逆の人格を演じさせられてきた羊田が、いつも見る普段着を好みで着ているのか、考えたことも無かった。
     そう言えば、ガラクタの街で遊んでいた頃、短パンを穿く羊田の姿もあった。それでヒーローごっこの最中に膝を擦り剥いたのだ。日々自分は自分らしい出で立ちで過ごす。だが、今の羊田は、自分の意思で好きな格好をしているのだろうか。こういう色合いと形の衣類が好きなのだろうか。ファッションに興味が無いのだろうか。もしそうなら、ファッションに興味を持てるような余裕すら与えられない、人生を踏みにじられたからだ。こんな些細なことも狗凱は気にかけていなかった。
     洗濯かごを空っぽにしてからベランダの戸を閉めると、後ろには晴れ空を見る羊田が立っていた。それから視線は狗凱へと向けられる。
    「良い天気だね」
    「外に出るのもいいかもな。どうするよ?」
    「うーん」

     アニメ鑑賞会は一休み。この季節にしては吹く風も冷たくなく、綿雲が浮かぶ空からの日差しは心地良い。明日はほとんど雨模様が続くという天気予報もあり、せっかくなら街をぶらつこうかという話になった。
     目的も無く、二人は大通りを歩く。服装も相まって目立つ大男がハンドカメラを片手に、線が細い女性の後ろをついていくという状態で、周囲からの好奇の視線が集まらないわけがない。だが、二人にとってはどうでもいいことだった。
     カメラを持っているということで、入店しようにも事情説明が面倒臭いだろうからと、アパレルショップも、アクセサリーショップも、スイーツ店も、本屋も、花屋も、アンティークショップも、玩具屋も、ただショーウィンドウ越しや出入り口付近で眺めるだけだった。狗凱にはよく分からない時間だが、羊田はこれだけでも充分楽しんでいるらしかった。羊田がいいならそれでいい。
    狗凱は、ショーウィンドウの向こうに見入る横顔を撮る。そこには、エメラルドグリーンの薄いセーターと、裾に細かな刺繍があしらわれた灰色のガウチョパンツ、茶色を基調として履き口には白いファー付きのショートブーツが展示されている。
     しかし、羊田は何も欲しがらない。何か欲しいかと問いかけたところで、首を横に振るだけの応えが返ってくることは分かっている。だから、ただただその姿を撮る。珍しそうに、不思議そうに、その目はショーウィンドウへと向けられている。
     しばらく経っても羊田は動かず、狗凱は暇になる。微風で揺れるボブカットの後ろ髪。つむじを押してみると、びくんと両肩を跳ねさせて振り返り、抗議してくる。それが面白かった。

    路地に近い喫茶店で二人はようやく腰を落ち着けた。客は疎らで、それぞれが好きに過ごしているような空気が漂う。大雑把に新聞を捲る音や店内に流れる朗らかな音楽、店主が観るテレビからは笑い声が聞こえてくるので、全くの静寂を強要されているわけでもないようだ。ミートソースパスタを食べる客の、かちゃかちゃとしたフォークの使い方に渋い顔をする者もいなかった。店の奥の席では老人が一人で唸っている。あまり近付いて覗くのも失礼なので推察するに、あの盤や駒はチェスのものだろう。練習しているらしい。
     混雑するラーメン屋とは違うし、ここでならカメラを回していても咎められないだろうと判断し、狗凱は窓際の席へと羊田を導くと、出窓の台にカメラを置いた。窓には、赤と青が散りばめられたようなステンドグラスがはめられている。落ち着いた空間にいると、すぐそこの繁華街から入店したはずなのに、まるで雑踏から切り離されているようだった。
    「剣獅君は何食べる?」
    「あー……こういう店来たことねえんだけど。何があるんだ?」
    「私も来たこと無いの。でも、ほら、メニューに写真が載ってる」
     お勧めメニューのミートソースパスタから、グラタン、パエリア、サンドイッチ……結構色んな料理を取り揃えている。これだけあると考え込むのも面倒で、ふと目についたカレーセットを頼むと狗凱は決めた。ランチタイムがどうとかも書いてある。
     羊田は次のページを捲り、少し悩んだ後、先程のページに戻って人差し指で示した。「私はオムレツにする」
     写真で見る限り小さく、僅かばかりのサラダが添えられているだけ。セットメニューは無い。この店では副菜のような扱いだ。
    いくら体格差があるとは言え、羊田の胃袋をそれだけで満たせるとは思えない。狗凱は眉をひそめた。
    「おい、それだけか? 足りねえだろ」
    「大丈夫。本命があるから」
    「本命?」
    「パンケーキ。後で頼もうと思って」
     うきうきとメニュー表の別のページを見せつけた。そこは甘ったるいデザート一覧である。

     店主の男は注文を聞き取り、食後にコーヒーをと頼めば会釈して去っていく。
     オムレツは手早く羊田の前に置かれる。「先に食え」「ううん。剣獅君の分が来るまで待ってる」「冷めるだろ」「別にいい」と、ありがちなやり取りのうちにカレーセットが運ばれてきた。店主は「デートですか?」などと野暮ったい話題を振ってくるタイプでもなく、「ごゆっくりどうぞ」と言い残してカウンターへと戻るので、二人は気楽に食事を始めることが出来た。
     ミートソースパスタを食べていた客は会計を済ませて店を出た。新聞を読んでいた客はいつの間にかいない。チェスを練習していた老人はうつらうつらとしている。その中で二人はささやかな会話をしながら昼食を進める。誰にも邪魔されない、日常だ。羊田はオムレツを口に運び、雑談し、生きている。
     狗凱はカレーを食べ切って一息吐いたが、宣言通りに羊田は注文の追加としてパンケーキを頼んだ。パンケーキとホットケーキ、どんな違いがあるのかとスマホで何となく調べている間に、その物体は現れた。
    その厚みは、一冊の学術書くらいと言ったところだろうか。ホットケーキよりも白っぽい見た目をしており、その上には生クリームと蜂蜜がどろりと垂れ、いくつかの苺が添えられている。別にパンケーキをこだわりとする店ではないので、スマホで調べた時に出てきた画像のものよりはシンプルだが……見ているだけだというのに、狗凱の胃をもたれさせるには充分な迫力があった。
    その狗凱とは反対に、羊田の黒い目はきらきらと輝いていた。早速ナイフとフォークを手にして切り始める。
     狗凱は静かにハンドカメラを持ち、その姿に焦点を当てる。
    「美味いか」
    「うん」口に含んで飲み込むと、簡潔に頷く。その小さな仕草だけで羊田がどれだけパンケーキを堪能しているか、よく分かる。
     盛られた苺の一つ目、二つ目にフォークを刺して食べる。それから生クリームがたっぷりと乗った部分を切り分け、また食べる。次を切り分けて……ちらりと、狗凱の方へと黒い目が向いた。
    「食べる?」
    「要らねえ」
    「一口だけあげる」
    「……」目の前に差し出されてしまった為、口を開くしかなかった。
    「どう?」
    「……俺の分まで食ってるつもりでいてくれ」
     羊田は小さく笑った。仕返しとして、その下唇の側に生クリームがついていることを指摘しないまま、狗凱はカメラを回し続けた。

     何だか本当に、当たり前の一日を過ごしている。


    四日目 残り三日 重々しい陰雨が愛造町を覆っている。幸い風は強くなく、上階のベランダが屋根となっている造りの羊田の住むアパートでは、雨粒が窓ガラスを叩こうとはしない。
    二人は並んで窓の向こうの雨の街を何となく見つめた。こう沈鬱とした空は、闇とは全く別物だと分かっていながら、どこかであの日の出来事が過ってしまう。世界を呑み込むほどの邪悪な神の影が生まれた、自分達の母校の校庭。背筋がぞくりとする。子供の頃なら、ガラクタの街に集まれないという、ささやかで無邪気な悔しさが生まれるだけの日だったのに。
    「雨だな」
    「雨だね」
     カメラに雨天を収めた後、このまま眺めていても仕方ないとカーテンを閉める。雨が降るという昨日からの天気予報は当たりだった。となると、雨音が静まるにしても夕方頃になるだろう。昨日は存分に外出を楽しんだし、わざわざ出かけたいとも思わない。家の中ですることは限られている。
    「アニメの続き観るか?」 
     どこまで話を追えていたか、順番に積み上げてはいたが一応DVDのパッケージを確認しかけた狗凱に、羊田はすっと息を吸ってから声を絞り出した。
    「今日は……剣獅君の話が聞きたい」
    「俺の?」
    「二人で遊べなくなってから、再会したあの日まで、剣獅君がどんな風に過ごしてたか」
    「……」
    「今まで気にしないふりしてたの。剣獅君にも色々あっただろうから。言わないってことは、触れられたくないんだよね。でも……やっぱり、聞きたいな」
     最期だから――そう付け足す必要も無いと、羊田の想いが言外に含んでいる。
    「俺は……」
     羊田は自分の過去を求めている。大っぴらに曝け出すのはご免だが、もしも羊田が自分の過去に関心を持ってくれるなら、その時は隠さずにいようと狗凱は思っていた。みっともないけれど、羊田なら否定しないからという信頼の証として聞いてほしかった。それと引き換えにして羊田の過去も聞けるだろうという打算的で、ある意味傷の舐め合いがしたいという欲なのかもしれない。絶好の機会が訪れた。なのに、いざ直面すると唇が乾いて口籠ってしまう。
     羊田は強制しない。きっと断ればすぐに引き下がる。その図がありありと浮かぶ。彼女は泡沫のような存在だ。簡単に溶けて消えてしまう。そのことから目を背けてきた罰が、今を迎えてしまった。
     最期。最期。最期。反芻すると、どこか微笑ましくなってきた。
    羊田は死ぬ。安らかに眠りたいはずだ。なのに、だらしなくて情けない生き方をしてきた男の過去を抱きながら眠りたいと、彼女は健気に言っている。ようやく吐いた我欲はあまりにも慎ましく、狗凱の心は悲嘆で弾んだ。混濁した感情がおかしい。そう、これは羊田にとっての信頼の証。少なくともそう思い込める。
    だから、狗凱は語ることにした。テーブルの前に座り込む自分達が映り込めるように、ハンドカメラのズームアウトを調整し、キャビネットの上に置く。雨天の家の中で語るには相応しい、薄暗く、薄汚く、虚しい物語を記録する。
     独りでヒーローごっこに明け暮れる、お互いにとって寂しいオトナ」と「コドモ」の狭間の時代の話をした。生温くて中途半端な人間関係を築く、人によっては顔をしかめる話をした。失敗と孤立と空回りの連続で惨めにも程がある、見下されて当然の話をした。業界の裏を知ってしまったら萎える、恐ろしい話をした。自分が他人を傷付け、自分が他人に傷付けられた話をした。ヒーローに憧れたくせに、ヒーローへの夢を見失いかけていた話をした。故郷を離れ、逃げ回って逃げ回って逃げ回って、ひたすら現実逃避する日々の話をした。
     羊田は笑わない。羊田は怒らない。羊田は泣かない。狗凱が不器用に紡ぐ言葉の一つ一つに聞き入り、後ろめたさが込み上がって言葉に詰まる間も静かに待ち、やはり否定せず、そして肯定もせず、時折雨音に消されかけるほどの小さな相槌を打つ。
     そして、いつかの為に隠していた本音を、ようやく狗凱は打ち明ける。
    「お前のことを忘れて生きてきた」
     突然避けられ、裏切られたと思った。あれだけヒーローについて語り明かし、必殺技を見せ合い、ガラクタの街を築いてきたのに、まるで無かったことにされたと思った。初めて河川敷で出会い、ヒーローごっこで遊んだことも、自分が無理に付き合わせていただけだと思った。ある日誰かに「女子がヒーローに興味あるわけない」と言われ、頭が真っ白になり、オトコもオンナも関係無いと咄嗟に反論出来ず、即行家に帰ってから大泣きした。その誰かに言い返せなかった悔しさを、やはり羊田にはヒーローの何たるかなど理解出来なかったのだと、心の中で八つ当たりした。そのくせいつか河川敷に来てくれないだろうかと待っていた。中学を卒業する頃、ようやく自分達の時代は終わったのだと諦め、河川敷からも、故郷からも離れることにした。自分の隣にいた羊田という存在を、交わした約束を封じ込めた。自分が与えた「メリー」というあだ名さえも。そうしなければ耐えられなかったから。全て忘れて生きてきた。あの日まで、ずっと――
     全てを聞き届けた羊田は、狗凱の答えが何だとしても満足そうに、責める声色でもなく、ただ口を開いた。
    「私は剣獅君のことを忘れるなんて、無理だった。ずっと祈ってた、また会えますようにって。それだけで生きてきた」
     時計を見れば昼食の時間帯をとうに過ぎていた。喉の渇きにも空腹にも気付かないほど話し込んでいたらしい。遅い昼食の用意をしようと言って羊田は立ち上がり、キッチンへと向かう。
     狗凱は羊田の想いに対してどう答えたか、はっきりと覚えていない。後で録画を見直せばいいと思った。それよりも「お前の過去も教えてくれ」と飾り気無く声が出た、自分の率直さに驚いた。驚いてから、これは当然だと思った。知りたい。羊田のことを、彼女の人生を知りたい。最期だから。傷の舐め合いではなく、知りたい。躊躇いながらも録画を止めた。記録に残さなくても、これは自分の胸に、記憶として秘めるという選択肢を選んだ。大切なことはいつも自分の中だけに仕舞い込む。羊田が背負ってきた形に倣う。
     冷蔵庫から二人分の麦茶を取り出して戻ってきた羊田は、カメラの電源が点いていないことを認め、それから狗凱を見た。真剣な眼差しを向けられている。それが不器用な彼なりの誠意の示し方なのだと、意図を汲み取る。
    「私は……」
     だから、羊田も語り出した。河川敷でスターヒーローと出会った喜びも束の間、神の声に阻まれ、別れの定めに従うしかなかったという所から羊田の過去は始まる。
    「本当は、剣獅君とずっと一緒に遊んでいたかった」
     今からでも遅くないと、狗凱は言えなかった。もう子供の時代は終わったのだから。
     ――長い長い時間をかけ、羊田もまた全てを狗凱に伝えた。その全てはあまりにも重く、深く、禍々しく、自分が逃げている間に彼女がどれほどの罪業を背負わされてきたか――贖罪を望むまでに至ったか、理解出来てしまうことが辛かった。何もかも理解出来ないままでいたかった。そうすれば、また生きる道へと無理矢理引っ張り込めたかもしれない。それも狗凱の正直な気持ちだった。しかし、羊田の記憶を受け継ぐという選択をした。そのことに悔いは無い。いや、もう引き返せないと知っている。
     お互いに過去を曝け出した後、少しだけ休んだ。疲れたものの、苦痛ではなかった。歩んできた道筋は丸切り違うけれど、お互いにしか共有出来ないものがあると、改めて分かり合えたのだ。夜にはアニメの続きを観る気力も蘇った。最初はほとんど無言のまま、やがて二人の胸を同時に高鳴らせるシーンで喋り出す。過去語りの時の空気を嘘のように切り替えられたが、二人の心には二人分の記憶が確かに刻まれている。
     夕方を過ぎても雨音が続く。天気予報は少し外れた。

     深夜をとうに過ぎた。相変わらず狗凱はカーペットの上を寝床にする。しばらく前に寝入っていたが、ふと目が覚めた。隣のベッドから漂う彼女の気配。何か揺れ動いた気がした。
    「俺さぁ、独りだった頃、死にたかったんだよ」
    どうしてか、いきなりはっきりと声を出してしまった。カメラに記録せず、羊田の中にあるものとして記憶してほしかった。夢心地でもあった。
    「ちょっとした道具も用意してさ、やっちまう寸前だった。でも出来なかった。何でだろうな。やっぱどっかで、お前のこと覚えてたのかもな。だから言えたんだ、死ねば助かるなんて一番つまらねえエンドだって」
     応えは無かった。それでもいい。再び瞼を閉じる。


    五日目 残り二日 昼からずっとアニメを観ていた為、中盤も過ぎたという所まで辿り着いた。敵と思われていたキャラは操り人形だったらしく、主人公に倒されたおかげで自我を取り戻し、感謝して散った。「胸糞悪いよな」「うん。早くラスボスと戦ってほしい」という感想が主だった。
     カーテンの隙間から見える空はいつの間にか群青で、街の灯りが目立つ。DVDを片付ける為に狗凱の隣から動いた羊田が「そうだ」と浮つく調子で口を開いた。
    「夕飯はお鍋にしようよ」
    「ああ、いいな」
     鍋を食べるには丁度良い季節となってきた。羊田の家にも卓上コンロはある。狗凱が上がり込むので、二人で夕飯を過ごす時の為にとわざわざ買ったのだ。それはつい先日の出来事だったようにも思える。
     早速買い物に行こうと二人は立ち上がる。アニメは怒涛の展開が続いて自然と肩に力が入り、ほとんど前のめりでアニメを観ていた為、随分と体が凝った。大きく伸びをする。
    「大通りの、そこのスーパーだな」
    「待って。別々の所に行こう」
    「あぁ? わざわざ何で」
     訝しがる狗凱の態度は予想通りで、羊田は楽しそうだった。キャビネットの横に置いてあるトートバッグを持ち、財布の存在を確認しながら言う。
    「違うスーパーに行って、お互いに何を買うか分からない状態でお鍋らしい具材を選ぶの。それを使う」
    「ほーん。つまり軽い闇鍋ってことか」
    「そう」
    「じゃあ俺はバス停の方のスーパーに行くわ」
    「私がそこのスーパーだね」
    「あー、何種類くらい買えばいいんだ?」
    「三つずつ?」
    「よし」
     協議の結果、やはり定番のキムチ鍋を基盤とすることになった。

     夕食時。二人は帰宅し、鍋の準備を始める。卓上コンロの上に小型の土鍋を乗せ、市販のキムチ鍋の鍋汁を適量注ぐ。煮立たせる前に買ってきた具材を披露することにした。
    「鍋の具材つっても、やっぱアクセントは必要だよな」
    「私もそう思って、変わり種用意したよ」
     ――そう言い出した時から、お互いに不穏さを感じずにはいられなかった。しかし、早く事を進めろと空腹が促すので仕方ない。
     羊田が取り出したもの――お惣菜のコロッケ五個入り一パック。セロリ一本。パスタ一袋。
     狗凱が取り出したもの――お惣菜の唐揚げ六個入り一パック。冷凍枝豆一袋。細切れたくあん一パック。
    「……」
    「……」
     二人の鼓動は急激に速まっていく。夕飯は、これと確定している。「鍋」なのだ。そう言った。これらを主菜や副菜として白飯を食べるなど許されない。覆らない事実である。
     このおぞましい事態を引き起こした張本人の一人である狗凱は、己の愚行を差し置いて口を開いた。
    「おい……普通に闇鍋だろ。どうすんだ、これ」
    「だ、だって、剣獅君が絶対変なもの買ってくるだろうし、打ち消そうと思って」そして、羊田もまた闇鍋を生み出した張本人でありながら、戸惑って弁明する。
    「何で打ち消そうとした結果お前も変なもの買ってくるんだよ! しかもお惣菜被ってんじゃねえか!」
    「値引きされてたから、つい」
    「唐揚げもな!」
     しばらく子供のようにぎゃあぎゃあやっていたが、物凄くどうでもいい張り合いをしている場合ではないと我に返り、自分達がふざけて買ってきた「変なもの」を改めて見た。少なくとも二人にとっては、どれも鍋料理の具材として身近に感じられない。しかし冷蔵庫に助けとなるものは無く、食パンとジャムと麦茶と調味料の類いが備えられているくらいだ。大体、お互いに趣向を了解した上でやらかしたのだから、しっかり片付けるというものが道理である。ここで逃げてまた買い出しに行こうだなんて、全くセンスが無い。
    「仕方がねえ。腹くくってやろうじゃねえか」
    「そうだね」
     こうして、具材と呼べない具材が赤い海へとぽいぽい投入されることとなる。冷凍枝豆は解凍し、セロリはネギの代用とし、細切れたくあんはばら撒くとし、惣菜である唐揚げとコロッケが何故かこの鍋の主役となった。パスタは……締めにでも使おうか。
     ぐつぐつと煮立つ音は食欲をそそる。しかし、絵面が特殊すぎる。惣菜のコロッケと唐揚げが主役として鍋の中央に座し、剥かれた枝豆は主役を囲い、細切れたくあんが鍋全体に塗されている。どれも中途半端に赤く染まっている。こんな鍋は見たことが無い。そんな酷い画を狗凱はカメラに収めている。モニター越しからでも伝わる闇鍋の異様さを記録する、この時間に今だけは馬鹿馬鹿しさを感じられた。
     散らばる枝豆と細切れたくあんを一々箸で掴むのは難しく、主にスプーンを使うことにした。そして二人はお玉でお椀に具材をよそい、息を呑む。恐る恐る食べてみた。
    「……」
    「……」
    「まあ……食えねえってわけでも、ない、か?」
    「うん。それなりに美味しい」
     キムチ鍋の旨味が全てを打ち消してくれた、そんな味だった。キムチ鍋という概念を生み出した創始者に感謝しなければならないが、拍子抜けした二人は自分達の阿保らしさに笑った。
     本来ならカメラに収めるまでもないであろう、平凡な会話をしながら食事を続けた。今回こんなことにならなければ何の具材を買うつもりだったか、とか。そして、いつの間にか鍋の中から具材が消えていた光景に二人は驚き、顔を見合わせた。自分達の味覚と胃袋は平常なのだろうかと苦笑する。
     とは言え、まだ腹には空きがある。主役以外は漬け物と酒のつまみなので当然だ。唯一残っているパスタを使う時が来たらしい。
    「締めにパスタ……斬新だな」
    「沸騰させてから入れた方がいいよね」
     パスタの茹で方と言えばそうなのだが、投入先が透明なお湯ではなく、赤い汁の中なので違和感が凄い。しばらく間を置き、箸で混ぜ、程良く柔らかくなったと感じた所でお椀にパスタを移す。薄らと赤みがかっている。ちゃんと汁気を吸い込んだのだろうか。……食べたところ、ラーメンのような豪快さは無いが、どうせ同じ麺類だと吹っ切れると何となく美味しい。フォークに包んで一口で食べる羊田と、面倒臭くてずるずる一気に食べる狗凱は、妙な気分で締めに浸っている。
    「あいつらがいたら、もっとヤバいことになってたかもな」
     その言葉に、くすくすと笑いながら羊田は頷き、鍋の底に沈んでいた枝豆と共にパスタを口に入れる。

     彼らは羊田が死ぬことを知らない。


    六日目 残り一日 二人は昼食を食べ終わり、アニメにのめり込んでいると、ついに最終回を迎えた。大円満、という端的な言葉がぴったり当てはまる物語だった。
    「どうだ、面白かっただろ」DVDを取り出し、最後のパッケージに仕舞う背中に、羊田の「うん、面白かった」と追従のような肯定が届く。
    「いいよな、スッキリするじゃん。最近の作品ってのはさ、ラスボスにも悲しい過去があって悪の道に染まっちまった云々みたいな設定多いけど、こう、何も考えずラスボスぶん殴ってハッピーエンドってのも、アリだよな」
     深く知らない、知ろうとしない方が気楽だと、狗凱は何とも軽率な物言いをする。しかし羊田は何も言わず、ただ苦笑した。
    「で、今日は」羊田に向けて口を開いた瞬間、ひゅっと喉の奥が乾いた。
     つい昨日までは、羊田と過ごす時間の残りに余裕がある気分だった。だが、これで六日目なのだという事実を今更知る。例えば火に触れてしまった時の、反射的に手を引っ込めても、感知した脳が後からじわりと熱を伝えてくるように。
     つっかえた喉を咳払いして「今日はどうするんだ?」と問い直せば、羊田は自然と立ち上がっていた。「行きたい所があるの」という明確な意思のある声色で、それは以前から決めていたことなのだろうと察せられる。そして、小学校から河川敷までの道のりを辿ろうと言い出し、狗凱は少しばかり驚いた。河川敷という目的地の予想はしていたが、小学校も含むとは予想外だった。あの事件後、近付きたくない場所の一つとしか言い様がない。彼にとっても、そして彼女にとってもだろうに。
     それでも羊田は迷わず部屋着を脱いで支度を始めるので、狗凱も外に出る準備をした。これはちょっとした散歩で、そして記憶を巡らせる最期の旅。

     今日の風は冷たい。広いグラウンドを囲う防球ネット側からの通学路を二人は歩いてきた。
    狗凱が持つハンドカメラは、やがて白い校舎をモニター越しに映す。愛造小学校――二人の母校。不審者対策の為に校門は閉ざされており、これ以上近付くことは出来ないが、遠目からでも分かることはある。一本の木が真っ直ぐ伸びる校庭。そこを進めばすぐに辿り着く生徒用の昇降口。三階建ての全景は、都市部に所在するものとしては、あっさりした造りに思える。
    「改めて見ると、小学校って小さいね。ジオラマみたい」
    「こんなとこにぶち込まれて、ぎゃあぎゃあやってたんだなぁ、俺達」
     精巧に、完璧に築かれた一つの世界。遠い昔の出来事どころか、故郷で過ごした日々を狗凱はほとんど覚えていなかった。いや、覚えているままでは抱えきれず、何もかも忘れるように努めた。だが、今では隣にいる彼女のつむじを見下ろすだけで過る。小学四年生の自分達が在籍していた教室すら判別出来る。あの、窓の霧除けに鳥の巣の汚れがあって、カーテンが開いている所だ。
     子供時代を回想し、学校名の銘板をぼんやりと眺める二人は、お互いにお互いがいることで平常心を取り繕えているのだと知っている。その内心は、言うまでもない恐怖で揺らいでいる。
     ――ここで、邪なる神は召喚されたのだ。
     不意に懐かしいチャイムの音が響いた。二人の恐怖心を打ち消してくれた音色で、檻に閉じ込められていた子供達が歓喜しながら飛び出してくる、自由を告げる為のものだ。目立つ衣服と背丈の男がカメラを持つ様は不審者としか思われないので、流石に録画終了とする。
     カメラを止める狗凱の仕草を見た後、羊田はもう一度校舎に目を向けた。そして、震える唇を開く。
    「先生は……大人は……いつも正しいって、思ってた」
     狗凱の肩がびくついた。羊田の脳裏に浮かぶ人物が一人しか思い至らない――温厚で優しい、かつて恩師と呼べるはずだった男。その実態は、忌まわしい神を信奉し、幼い犠牲を要する理想郷に傾倒し、子供達に呪いをかけた元凶。羊田は、その犠牲の一つであり、神の依り代として扱われた。過去形に出来るのかすら分からない。人生の半分以上を神の為に、望まない理想郷の為に心身を費やすこととなったのだから。その半生を語ってくれと狗凱は羊田に望み、羊田は狗凱へと聞かせた。羊田の記憶を継いだ狗凱には、あの男が憎き仇としか思えない。
     羊田が切なそうに目を細める。その視線の先では、昇降口から一人、二人、三人と小さな影が次々に出てきている。変声期の訪れなどまだ知らない声は騒がしい。
    「でも、そんなわけないんだね。私も大人になってから、ようやく分かった。ヒーロー作品に出てくる悪者は大人なのに、どうして気付けなかったのかな。おかしいよね、子供って。良い大人しか信じられなくて。もっと早くに気付けてたら――」
     自罰的な羊田があまりにも哀れで、狗凱は理不尽にも当たり散らしたくなる。この怒りをぶつけたい当人は死んでいるのだ。在り処が分かるなら墓石を蹴り飛ばしてやりたいくらいだった。その上、蹴り飛ばしたところで何も得られないと諦観出来ていることが悔しい。子供みたいに、めちゃくちゃに叫んで喚いて地団駄を踏んで、自分のことしか考えられず、冷静さを失えればいいのに。
     狗凱は身勝手な激情をぐっと吞み込み、羊田の手首を掴み、それ以上言わせない為に大きく歩き始める。突然容赦無く引きずられていく羊田は、よろめきながらも抗わない。でこぼこの二人が不安定な足取りで向かおうとする目的地は同じでも、道のりの景観は随分変化している。新しい家々が並び、間隔を置いて街灯が連なり、見慣れない場所に横断歩道が描かれ、公衆電話が無くなっている。子供の頃と違う。変わっている。変わってしまったことに気付いている。
    「いいか、メリーは悪くないからな。絶対。悪いわけねえだろうが」
    「うん。剣獅君ならそう言ってくれるって信じてた。あの日まで、これからもずっと。だから私は醜い」
    「どこが醜いんだよ。どこが。だったら俺だって、もっと早くに気付いてやれてたら……」
     そこから口籠ってしまう。言葉を続ける勇気が無かった。神の依り代として彼女が背負わされた、逃れられぬ呪い。気付いていれば、何か変わっていたのだろうか。何かを変えるほどの力を、無邪気なスターヒーローは持っていたのだろうか。自問してみるも、出る自答はあまりにも情けない。
     段々と狗凱は歩みの速度を緩めた。ようやく羊田が隣に添い、高い目線の方へと顔を上げる。
    「もし過去に戻ってたら、やり直せたと思うか?」
    「……分からない」
     見下ろせば逸らされる視線から誤魔化しは感じられない。神を宿し、呪詛を聞くだけの道具だった羊田に、所詮神の真意など理解出来なかった。ただ、神はその力で理想郷を叶えてくれると――この世を素晴らしいものにしてくれると、教えられた。平和で静かな世界を望んだ。託したものも、信じたものも、結局似ている。違いは彼の手によるものか、彼と同じ形になるか、その程度でしかない。そして今度こそ前者を求めている――羊田は、やはり自分は醜いと、心の中で思った。
    「俺はジコチューだ」怯えながらも堂々とした口振りで狗凱は切り出す。
    本来なら誇らしい称号でもないけれど、羊田はそれに安堵する。自分達は似た者同士だと思えるから。
    「同じこと繰り返すなら、俺達は出会って、ヒーローごっこして、離れ離れになって、再会する。確定してるならその方がマシだ。俺はな、怖かったんだよ。もし記憶も引き継がねえでさ、今とは何もかも別物だったら……俺はヒーローを好きになれたのかとか、河川敷でお前と遊べたのかとか、映画撮りてえって夢持てたのかとか、考えちまう」
     いつの間にかアスファルトで舗装された道を歩いている。辺りは開け、整えられた緑の斜面が広がり、その一角に土手へと続く階段が設けられている。ひんやりとした水面の空気が伝わる。遠くの鉄橋は、ビルが聳える向こう岸まで架けられている。
    「だから俺は、お前と再会出来た今を受け入れようって思ったんだ」
     ぎゅっと再び手に力が込められた。今度は手首ではなく手の平同士を繋ぎ合わせる。
    「行くぞ、河川敷」
    「……うん」
     迫る夕陽が惜しいから、早く早くと――二人の大人の後を追う影は、まるで幼い形をしている。

     広々とした河川敷の全景を撮る所からハンドカメラを回し、整備された遊砂地へと下りる。犬の散歩をしている人がいるくらいで、探し物をするには相応しい静けさだ。
     狗凱は対岸へと人差し指を向けた。「向こう岸の、何とか商事って書いてるちっこいビル、あれは昔から建ってたよな」
    「うん。それで、この辺に草むらがいっぱい生えてたっけ」
    「橋の方角も合ってるっつーことは……じゃあ、もうちょい先か」
     微々たる名残を頼りに推測しつつ、二人はきょろきょろと辺りを窺う。特に後ろめたいことをしているわけでもないので、いつもの語勢で会話をするが、事情を知らない犬の散歩をする飼い主は、すれ違い様に少し不思議がった。
    「毛虫鬱陶しかったよな」
    「私は蚊の方が嫌だった」
     些細な振り返りをしながら、ある時狗凱は躊躇わずに「ここだ」と言い切った。何も無い、ただの河川敷の一角でしかない。けれど二人にはガラクタの街の影がありありと見えた。モニター越しに捉えられたのなら、記録として残せたのではないかと愚かな期待をするほどに、ガラクタの街の幻は鮮明だった。
    「この場所で剣獅君と出会えたんだよね、私」
     そう呟く羊田の眼差しは、既に遠くを見据えている――狗凱は厭い、下手にふざけてカメラの角でつむじをつついた。いきなりの感覚に羊田の体は大きく飛び上がった。
    「そーだ。俺が作った街いじってたんだ。配置変えたりしてたよな」
    「え……違うよ。先に作ってたのは私」
    「俺だ。センスありまくりのヒーローの基地覚えてんだろ」
    「基地はそうだけど、私はその前から家とか作ってた」
    「絶対俺の方が先だからな」
    「私」
     わざとらしく唇を尖らせる、幼稚な言い合いが楽しい。お互いに笑っている。望めばいつまでもこうして馬鹿なやり取りが出来るのに、それでも羊田が求めるのは子供時代ではない。自分達は大人になった。だから記録と記憶に残すしか術は無い、二人の子供時代。
     拙くも懸命に築いた立派なガラクタの街のことを話し始めれば、自分は道路を整えた、自分は空港を作ったと続く。オリジナルの必殺技を披露したことを話し始めれば、自分はノートに書き起こすくらい考えた、自分はヒーローの個性を重視したと続く。懐古の最中、ふと今の季節にそぐう冷える風が吹いた。風に任せて乱れた髪を直す羊田の、夕日が眩しかったのか、それとも泣きたくなったのか――そんな横顔が一瞬だけモニターに映った。どうした、という一声を投げかけたかったのに、それを予知していたかのようなタイミングで、不自然な軽やかさで狗凱の方へと向き直る。
    「私がここで笑ってたのは、剣獅君と遊ぶのが楽しかったからだよ」
     とてもありふれていて、何を今更と吐きたくなる台詞が、心の奥底まで深く突き刺さった。「俺もだ」と精一杯の返事をすれば、彼女の笑みは胸が締めつけられるくらいに美しくなった。

     河川敷を見下ろす歩道からは賑やかな子供達の話し声と足音が続く。ふと視線を上げてみると、様々な色合いのランドセルが子供達の歩みと一緒に跳ねている。集団下校する小学生達は河川敷を見向きもしない。子供達にとって、ごく普通の風景でしかないのだ。寄り道は許されないし、許されたところでわざわざ河川敷へと下り立たないのだろう。ここには何も無い。宝物と呼べるものは何も無い。ただ、かつての子供達の思い出だけが消えては残る。
     二人は川辺を歩いた。羊田が前を歩き、狗凱は後を追う。ゆっくりとした足取り。歩幅を合わせることが難しくなった。意識しなければ置いて行かれるし、置いて行ってしまう。この歩調は、自分達が真の意味で大人になった証なのかもしれないと、狗凱は何となく思った。
     風が吹く度に羊田の後ろ髪が揺れ、狗凱の力でならぽきりと折ってしまえそうな細い項が覗く。手から擦り抜けていくくせに、この瞬間、手を伸ばせば抵抗しない彼女の和らいだ姿が目に浮かぶ。
     羊田は、歩きながら少しだけ背後を振り返り、言った。
    「明日は剣獅君の家に行きたいな」
    「映画の続き、やるか?」
    「うん」
     最期の予定は決まった。
     ここで映画を一本だけでも撮りたいと狗凱は思っていた。彼女も頷いてくれたはずだった。けれど、結局それは叶わない。
     交わした約束は確かなものだった。子供の頃も、大人になってからも、羊田の気持ちに噓偽りは何一つ無い。ただ、死への望みさえも本心で、狗凱と生きるよりもそれを選んだ。それだけのこと。

     充分な録画を止め、澄んだ川面を眺められるベンチに二人は腰を下ろす。しばらく風の中にいた。


    七日目 明日、羊田は死んでいる。羊田が死ぬと知っていながら狗凱は留めない。留められない。時間はあったはずだ。なのに、今も引き留められる台詞を出せないでいる。
     早朝、予定通りに羊田は映画制作への意欲を見せた。狗凱は了承し、ボストンバッグを持って帰宅した。今日中に完成するわけがないと分かっている。けれど、作りたいから作る。やりたいようにやる。生きたいように生きるなら、きっと死にたいように死ぬのも道理なのだろう。
     羊田は普段着を脱ぎ、映画制作に適切な出で立ちへと変わった。作業着と軍手を身に着け、ボブカットの髪を後頭部でちょこんと束ねる。取りかかるのは早かった。てきぱきとサイズを測ったり、新調しても勝手を知っていてラジオペンチで導線を曲げたり、順序良く部品を組み込む。
     羊田の取り組む様を、狗凱はカメラに収めていた。カメラを向けながらも、モニター越しではなく直接目で追っていた。彼女がはめる薄汚れた軍手は、一緒に映画を作っていた証だ。彼女が着こなしている作業着は、一緒に映画を作っていた証だ。彼女が作業台に向かう真剣な表情は、二人きりのガラクタの街でヒーローに夢見た証だ。
     自分より羊田の方が器用だと、勿論狗凱は子供の頃から分かっていた。だが、羊田は「剣獅君、こう?」と一々確認してくるから、得意になって指示していた。その指示通りに、自分の思い通りになってくれる、従順な羊田が面白くて嬉しかった。それが永遠だと思っていた。だから、己の理想を貫けば、変わらず彼女は隣にいてくれると思っていた。大人になった今を受け入れ、このまま生きていけば、二人で過ごせなかった子供時代も取り戻せると思っていた。けれど彼女が求めていたものは、ヒーローに止めを刺されるというエンディングだった。
     肌寒い季節だというのに、羊田のこめかみからは汗の粒が浮き上がり始める。集中していた視界の端に、ハンドカメラを持ったまま突っ立っている狗凱が過ったのは、作業が始まって三十分が経つ頃だった。
    「剣獅君、何してるの?」
    「撮ってる」
    「それは分かるけど。剣獅君もボルトとか締めて」
    「カメラ持ってんだぞ」
    「置けばいいでしょ」
    「いいじゃねえか。もうちょっと撮らせろ」
     何の為に羊田の画を撮っているのか、分からないとは言わせない。なのにまるで、狗凱が駄々をこねてホームビデオのカメラマン役をやり続けたいのだと、軽く思っているみたいな口振りだった。
    「じゃあ、後でやっておいてね。私は色塗りの仕上げするから」
    そう呆れたように笑うと、倉庫内で最もスペースを取っている、壁に寄りかけられた折り畳み式の大きなパネルへと向かった。パネルの大方には街が描かれている。どこの街とも言えない、ただ幼心を疼かせるような面影がある。
     その手は新聞紙の上に寝かせていた刷毛へと伸びる。まだ目に見えて有り余るペンキの容器に刷毛を浸す。彼女の脳裏に広がる色彩。迷いが無いと言わんばかりに細い腕が滑らかに動く。組み立てては壊すことを好む狗凱とは違い、以前から羊田は着色を進んでやっていたので、それに関して任せてばかりだった。
    「剣獅君、見て。ここの配色、どう?」
    「めちゃくちゃセンスあるぜ」
     素直に褒めた。たった一言、そのたった一言だけで羊田は喜んだ。子供の頃と同じように笑い、喜んだ。どうして他の言葉を求めないのか、おかしいくらいに喜んだ。
     一枚の大きなパネルに描かれた、人工の夜の下で栄える近未来的な街並み。七色のネオンが灯り、光沢のある銀色のビルが曲がりくねって聳え立つ。パネルの全体は幾何学模様で縁取られている。いかにも壊し甲斐のある、怪獣が好んで襲来しそうな都市――この場所で人類存続を賭けた戦いが始まる。監視塔から轟々と警報が鳴り響き、厳めしく巨大な飛行艇が飛び立ち、ヘルメットを被る戦闘員がレーザー銃を持って駆けつけるも、怪獣にとっては玩具に過ぎない。太刀打ち出来ない人類が諦めかけたその時、宇宙の彼方からカッコイイヒーローが参上する。怪獣を倒し、人類を救ってくれる唯一の希望。重い一発を叩き込んで圧倒し、鉤爪を華麗に避ける。ただしヒーローも完璧ではない。逆に酷い反撃を受けてうずくまり、必殺技を放つ為のエネルギーが尽きてしまう。怪獣と同じように街を破壊するから非難されることもある。けれど、打ちのめされても必ず立ち上がる。だからヒーローは負けない。
     一つのシナリオすら浮き上がらせる作品を、お互いに破壊を承知の上で作り上げた。
    「この街、怪獣が壊しちゃうんだよね」
    「ああ。で、ヒーローが現れて、タワーを剣にして怪獣をぶっ刺す」
     怪獣は我欲のままに世界を壊す。
    ヒーローは、本当のヒーローは、世界の為に戦う。
    「そしたらまた街を作るんだよね」
    「ああ」
    「怪獣が街を壊しても、街は生まれ変わるんだよね」
    「ああ」
    「それがずっと続くんだよね」
    「ああ」
     羊田は微笑む。狗凱の言葉を心の底から信じている。だから「良かった」と呟いた。

     その後、いい加減急かされた狗凱も映画製作に身を投じた。倉庫内の壁際に脚立を寄せ、その最上にハンドカメラを置いてズームアウトを調整すれば一応定点カメラの代用となり、カメラマンとしての役目を終える。
    やはり狗凱は体格を活かして運ぶとか、支えるとか、立たせるとか、そういった作業に適している。とは言え長年物作りに夢中だった実績は当然羊田よりも上で、設計図を何度か読み直して噛み合わないと思ったら修正するし、工具の使い分けで最も適切なものはどれか、セットとしての見栄えなどをじっくり考えた。作業の進みは遅いが、慎重とも言える。それに、羊田が悩んで頼ってきたらちゃんと助言する。結局行き着く先は破壊だというのに、こだわりは捨てなかった。
     汗ばんだ額を拭う。白と黒のペンキが跳ねて頬や作業着にこびりつく。極端に下を向いたり上を向いたりという作業の繰り返しで首筋が凝り、しゃがみ続けていれば腰が痛くなる。時々水分補給する。昼食時、コンビニで買っておいた弁当をその場で食べる。「あれ取ってくれ」とか「これ要るよね」とか、指示語だけで成り立つやり取りをする。飾りつけの意見が違う時はじゃんけんで決める。束の合、一人で処理出来ない羊田を狗凱が支え、細かい作業で詰まる狗凱を羊田が手伝う――
    そうして出来上がったものは、夜空を湛えて栄える街の前に設置するに相応しい、白く輝く一本の塔だった。鳥の翼のような装飾が壮麗で、今にも飛び立ちそうに広げられたそれは、全てから解き放たれた平和と自由の象徴なのかもしれない。けれど、塔と言っても小道具であるし、バランスを取る為に細工が施されているだけで、簡単に持ち上げられるくらいに中身はほとんど空っぽだ。
     道具作りを終え、これから本番を撮るぞという感じの五割くらいまで進められた。しかし、二人はそこでまた映画制作を中断した。疲れた。だから、もういい。自由気ままに、やりたいだけやったのだ。
    二人は夕方の前に寝ることにした。工具が散らばり、ペンキとニスの匂いが充満する、硬くて暗くて冷たい倉庫内、その真ん中に敷かれた、薄っぺらくて汚れたブルーシートの上で。子供の頃と同じだ。ガラクタの街で遊び疲れて休憩と言いつつ、いつの間にか寝入ってしまっていた。ここでは昼の暖かな太陽に照らされるわけでもなく、爽やかな風に吹かれる葉擦れが聞こえるわけでもなく、ただ寂しくて無機質なだけ。それでも懐かしい。永遠に懐かしい場所であってほしかった。
     目をつむる前、二人は意味の無い会話をすることにした。
    「本当に死ぬのか」
    「うん」
    「どうやって」
    「睡眠薬」
    「そんなもんで死ねるかよ。せいぜいODが関の山だろ」
    「ううん。猪岡君が作ってた、非合法の薬だから」
    「はあ? 何だ、それ」
    「神様の声が酷くて頼んでた。効き目が凄いからって、毎回適量しか貰えなかったけど。依り代が睡眠不足で使えなくなるなんて、馬鹿みたいだし」
    「適量なんだろ。結局寝れるだけじゃねえか」
    「実はね、頼んでも飲まない日もあったんだ。どうせ神様が許さないけど、耐えられなくなったら、もしもの時の為にって。ストックがあるの。一気に飲めば、きっと死ねる」
     狗凱は、子供の頃みたいだと思った。ヒーローの物語を紡ぎ合い、夢を語り合い、ひたすら笑い合っていた頃みたいだと思った。ガラクタの街で一緒に遊んだ女の子が、まるで楽しそうに内緒話を打ち明けてくれる。
     どうしようもなく偽りを感じられなかった。羊田の言葉にも、非合法の睡眠薬とやらの効果にも。死に繋がる薬を蓄え、例え神が阻んだとしても試したことが無かったという事実。それは、狗凱に対する至上の誠実と切望を表していた。そして、必ず帰ってきてくれるヒーローへの妄信すらも表していた。
    「メリー」
    「何?」
    「……いや、何でもない」
     濁す先の関心を持っているのかいないのか、判別出来ない声色で、羊田は「そっか」とだけ応えた。
     二人は黒いコートを掛布団として被り、折り畳んだ赤いマフラーに頭を置けば、無いよりは良いだろうと枕になる。更に羊田は狗凱の腕に頭を寄せ、胸板に頬を寄せる。子供の頃と同じ、太陽の匂い。
     うつらうつらとする羊田の気配を察する間、カメラの電源を消し忘れたことに狗凱は気付く。けれど、もう動く気力が無い。彼女は最期の前に自分の腕の中で一眠りする。安心して眠れるから、こんな風に、当たり前に体を委ねてくれる。その眠りを妨げたくない。自分も眠い。寒い寒い倉庫の中で、この温かい時間を手放したくない。残り僅かなバッテリーは、二人で眠り込むうちに尽きるだろう。

     倉庫だというのに、二人の体は馴染んで眠り込んでいた。もう夕焼けも終わろうという時間帯だった。
     狗凱は、自分の腕の中が空っぽになっている感覚に気付き、段々と瞼を開いていく。ふと視線を彷徨わせると、作業着を脱いで普段着の姿に戻っている羊田が、開きっ放しのシャッターの前で佇む姿を捉えた。狗凱に対して背を向けている為、表情は見えない。太陽の名残を眺めているのか、少し顔が上向けられていることは分かる。
     上体を起こす狗凱の気配を察した羊田は、振り向こうという素振りも見せず、ただ「剣獅君」と温かい声で囁いた。
    「私は死ぬけど、死んだって、私の中に剣獅君はいるよ」
     それだけだった。狗凱の元から立ち去っていく。小さく弱い後ろ影が視界から消えるまで、狗凱は少しも目を離さなかった。無意識のうちに伸ばそうとしていた手に気付き、下ろす。怪獣の止めを刺してやれなかった、無力なヒーローとして。
     カメラのバッテリーはとうに切れている。最期の言葉を告げる羊田を録画出来なかったことだけが、心残りだった。


    その後 流石の狗凱も風邪を引いた。どうせやる気も無いからと家に閉じこもって横たわる数日を過ごす。
     その後、羊田は遺体として発見された。不自然なほどに穏やかな寝姿がベッドの上にあったらしい。検出された薬物反応は未知の代物で、しかし成分は睡眠導入剤と酷似している。出元は黒い噂の絶えない愛造製薬と特定された。服薬自殺。以前から例の事件との関係性で警戒すべき対象ではあったが……。明らかな不可解さと、遺体発見前に最も接触していた狗凱は事情聴取の為に警察へと呼ばれ、大人しく従った。事の重大さを知っているせいか、逆に重大ではない気がしてしまい、ただただ懐かしいと思っていると、取調室に入ってきたのは、あの事件以来の犬飼刑事だ。刑事の顔付きは渋く、なのにやはり懐かしいとしか思わなかった。
     パイプ椅子に腰を下ろして早々、刑事は溜め息を吐いた。
    「色々と思う所はある。だが、私のような並の人間には踏み込めない何かを体験してきた君達だ。彼女の件も、きっとまた私が介入出来ることではないだろう」
     場違いなほどに落ち着いている狗凱に対し、叱責にもならないことを言った。あの日、疑わしくて当然の自分達に罪は無いと見抜いた刑事のことだから、きっと今まで愛造町に蔓延っていた「自殺病」とは別物だと勘付いている。それでも、自殺は自殺だ。結局そう処理しておくとこぼし、マニュアル通りの取り調べが行われた後、狗凱は二度と警察から呼び出されなかった。もしかしたら、未だに警察内に潜むあの残党の影響があったのかもしれない。
     帰路に就く中、狗凱は空笑いを漏らした。介入なんて――誰にも出来るわけがなかった。彼女にとって一番身近な存在であると自負していた自分にすら出来なかった。怪獣の彼女が求めていたのはヒーローだ。ヒーロー以外は要らなかったのだ。ただの人間の男である自分に、価値はあったのだろうか……。
     やがて年が明けた。羊田が亡くなってから時が経つのは早いのか遅いのか、狗凱は考えないようにしている。中断していた映画制作に手をつけることにした。気を抜きながら、明確な目標も無く、独りで、ちまちまと。
     ある日怪獣が街へと襲来する。破壊の限りを尽くし、世界の平和を乱す悪と戦う為、カッコイイヒーローが参上する。悪の組織は暗躍するし、宇宙からの侵略者も手強いし、改造人間が立ちはだかるし、ヒーローは毎日毎日忙しい――そんなヒーローの物語を描いているくせに、ぼんやり生きる自分とは大違いだと狗凱は思う。
     ヒーローが好きだ。ヒーローは最高だ。この情熱を取り戻せたのは、彼女と再会したからだ。けれど彼女を喪った今、どこかあやふやで、自分が求める確かなものは、この世で独りでは築き上げられないものだという気持ちが強くなっている。
     その都度、心の中で彼女に語りかける。
    (なあメリー、これで良かったんだよな。お前が望んでたエンディングを、俺はようやく叶えてやれたんだよな。贖罪は済んだ。解放は済んだ。平和で静かな世界に行けたんだよな。じゃあ……俺との約束も、そこでなら守ってくれるよな?)
     彼女はヒーローを求めていた。ようやく彼女が思う通りのヒーローになれたはずだ。だから、せめて、作りかけの作品を完成させたら、その役目を終えても許されるだろうと思っていた。
     ――ある日、羊田の遺書を見つけた。いや、それは遺書と大層に呼べる代物ではないかもしれない、千切られたメモ帳の一枚。街が栄えるパネルを片付けようとした時、パネルと壁の隙間にひっそりと落ちている、丁寧に折り畳まれたそれを見つけてしまった。見つけ、拾った間から嫌な予感がした。読まずに捨てれば良かったと、今では思う。
     紙片を開くと、よく知っている羊田の薄らとした筆跡で、一文が書かれていた。

     また私のことを忘れられますように。

     ささやかな祈りが、呪いが、誰へと届いてほしいのか、名前は出されていない。最期の日か、もっと前からか、いつ書かれたものなのかさえ分からない。ただ、この場所に隠されていた。答えは明白だった。
     狗凱は衝動に任せてタワーでパネルを殴り、ぐちゃぐちゃに壊していた。タワーが砕ける。パネルが砕ける。木片やプラスチックが飛び散る。酷い息切れと手の痺れにも気付かなかった。ふと我に返ったのは、破けた手袋から赤色が滲んでいたからだ。彼女が遺した、あんなにも色鮮やかで美しい、胸躍る光景だったというのに、世界一愚かで醜い怪獣の血で汚してしまった。このパネルに描かれていたものは、子供の頃に築いて遊んだ、二人だけのガラクタの街だったのだ。
     また、街を作り直さなければ。


    約半年前 あの事件を生き延びた狗凱達は、再び異常事態に巻き込まれた。
    こっちの世界、裏世界、過去の世界。当たり前のように人型のロボット達が街を歩き回り、人々は監視下に置かれて暮らしている。そして、あの死んだはずの馬場が、この世界の統治者として崇められているというのだ。目の前でロボットに連れて行かれた猫山。捜さなければ。猫山を救う手段は、まだあるはずだ。猫山は確かに存在する。猫山なら、まだ……。
     セピア色を灯す豆電球だけが頼りの屋根裏は埃っぽく、年季の入り具合は軋む床板が示しとなる。狗凱だけしか知らない秘密の部屋に押し込まれているものは、手付かずの大小の段ボール箱やほとんど使わない機材、集めていたヒーローのフィギア、身辺整理をすればするほど出てきたその他不用品。そして、黒いアタッシュケースが壁際に。収められているものは、若い頃、いつの間にか良からぬ輩とつるみ、手に入れてしまったもの。先の見えない孤独に耐え切れず、自殺しようとしたが使えなかったもの。けれど、今度こそは彼女の後を追う為に使おうとした、一般人の所持を許されないはずの凶具。仕込まれた鉛玉は、たった一つだけ。
     狭い屋根裏には狗凱だけがおり、背を丸めて横たわっていた。疲れ切っているというのに、下には阿黒と豊基がいると思うと寝難い。だからというわけでもないが、寝転んでいても届く傍らの段ボール箱をがさがさと探り、手応えを得る。羊田が亡くなって以来、わざわざ一週間を撮り続けてきたくせに、一度も観ないで仕舞い込んでいたハンドカメラ。それをいじることにする。電源を入れる。モニターが明るくなる。布団に潜り込んだ狗凱の顔をぼんやりと照らす。
     録画一覧を見ようと操作した。羊田と過ごした最期の一週間、その録画日と録画時間は確かに表示されている。なのにサムネイルはどれもこれも真っ黒で、再生しても映らない。動画は闇のまま、僅かな雑音も聞こえない。狗凱は驚かなかった。こんな狂った世界だ、きっとこうなるという予感もあった。ただ、虚しかった。都合の良い自分を嘲笑う声がどこからか聞こえた。そうだ、確かにそうだ。どうして今更振り返ろうとしたのか。ここまで来て縋るなんて、卑しい。
     もふもふな割に質素な部屋が無い。何も無い部屋を撮る自分にきょとんとする表情が無い。何の夢も見ていないような寝顔が無い。起こした時に徐々に状況を把握し、赤らめた頬と抗議の声が無い。お互いの論争にもならない論争が無い。子供の頃は手の平にちょこんとしか乗せられなかった、けれど大人になった今では惜しみ無く溢れ返させられる駄菓子の数々が無い。自分が食玩ガムの袋から取り出した、おまけのスーパーレアのカードが無い。自慢して見せつけると、逆にレジェンドのカードを突きつけてきた得意げな顔が無い。よく見る彼女の普段着とは雰囲気が違うものが飾られた、アパレルショップのショーウィンドウを不思議そうに眺める姿が無い。つむじを押されて驚く声が無い。生クリームいっぱいのパンケーキを頬張る姿が無い。何となく撮った雨の街が無い。だらしなくて情けない人生を語る自分の言葉の一つ一つを聞く、ドキュメンタリー仕立ての映像が無い。謎の具材の数々が真っ赤な灼熱地獄の中で煮立つ画が無い。灼熱地獄を見下ろして緊張を隠し切れない表情が無い。赤く滴る枝豆とパスタを食べる姿が無い。グラウンドの防球ネットから見え始める白い校舎が無い。二人の母校の名が刻まれた銘板が無い。河川敷の全景が無い。ガラクタの街が、ガラクタの街の幻すら無い。つむじを小突いた為に激しく変化した視点が無い。夕日が眩しくて目を細めたのか、それとも泣き出したくなったのか、一瞬過った横顔が無い。歩幅を意識しなければならない、遠く小さな背中が無い。冷える風に吹かれてなびく後ろ髪が無い。簡単に折れてしまいそうな細い首が無い。普段着から着替えた作業着姿が無い。細かな作業をする手付きが無い。撮ってばかりで突っ立つ自分を責め、呆れて笑う表情が無い。彼女が描き、二人の記憶の中には残っていたはずの、華やかに栄えたガラクタの街が無い。定点カメラの中で忙しく動く自分達が無い。子供の頃みたいに、ブルーシートの上で寄り添って眠る自分達が無い。
     記録の中に、羊田は存在しなくなっていた。

    「メリー」
     応えてくれる彼女は隣にいない。
    「校庭で一瞬、目が合ったよな」
     答えてくれる彼女は隣にいない。
    「なあ、今、どこにいるんだ」
     応えてくれる彼女は隣にいない。
    「死んだ夫がこっちじゃ生きてるんだと。期待しちまうじゃねえか。ふざけんなよ」
     応えてくれる彼女は隣にいない。

    「俺の中に、お前は……」
     下から阿黒と豊基の意味不明な叫び声が聞こえる直前、縋ることも出来なくなった記録の全てを削除した。
     曖昧な記憶を最期まで手放せなかった自分への報いが、この先に待ち構えているとは知らずに。





         完
    猛者 Link Message Mute
    2025/09/02 20:18:54

    記録と記憶

    #きてどち #らじの04 #カンメリ

    別名「1週間後に死ぬメリーちゃん」。
    当時どんな熱量で書いたのか、自分でもよく覚えていません。物凄く楽しかったんだろうなあとは思います。
    ただ、らじ本編前カンメリ死別説(メリーちゃん死亡説)を推すことになった全ての始まりは、カントクの棺桶発言のせいです。

    ピクシブより再掲。

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    • 2「理想郷ではないけれど」タイトル無し表紙と挿絵 #きてどち #らじの04 #カンメリ

      ガチ絵描きに描いて頂いた「理想郷ではないけれど」の表紙と挿絵。
      何度見ても胸がぎゅわぎゅわする美しい絵です。
      描いて下さって本当にありがとうございました。

      無断転載は絶対に許さんぞ。
      猛者
    • 美味しい時間 #きてどち #れじの04 #カンメリ

      メリーちゃんの作るホットケーキが食べたい一心で書いた話。
      カントクが面倒臭い男になってしまった。甘い物が苦手そうなのはJBから引っ張ってきた。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 二人でなら生きていける #きてどち #れじの04 #カンメリ

      きてどちのセッションで初めて泣いてカンメリに堪らず書いた第1作目。事件後、カンメリが河川敷を眺めて物思いに耽る話。
      JBがカントクとして、メリーちゃんを同じ立場に並べてくれて本当に良かった。

      シナリオブックが届く前に書いたことも一因ですが、やはり月日が経つと自分の中で自分と解釈違いを起こして何だかなあという描写もしています。
      ただ、らじの04後だとタイトルについては説得力があります。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 太陽と月とスターヒーロー #きてどち #れじの04 #カンメリ

      学校でお泊り会を過ごす子供時代カンメリの話。
      メリーちゃんを月の女神として仕立て上げると対にするなら太陽神なのに、カントクはスターヒーローを名乗っているから面白いなあみたいな。

      れじ前の締めに書いたれじカンメリでした。素敵な結末を迎える予感があったので、その通りになったので良かったです。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • れじの04小話ぷらいべったーまとめ #きてどち #れじの04 #カンメリ

      カンメリだったりカンメリじゃなかったりする内容が全部で5本。本文前には長ったらしい注釈や所感が記述。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 愛憎の町で求めた理想郷 #きてどち #れじの04 #イツ猫 #カンメリ

      男性愛者の猫山がイッツGと笑い合える理想郷を望んだ話。猫山の行動原理は案外単純だからこそ複雑に追い詰められてしまったのではなかろうか。
      猫山はメリーちゃんに同族嫌悪してミソジニーを拗らせて、メリーちゃんは猫山を哀れんでいたイメージ。この2人がどんな不毛なやり取りをしてきたのか、考え出したら止まらない。
      イッツGは言動からして女性愛者だし、恋愛関係として猫山を受け入れるのは難しいにしても、学ぶ意思くらいは持ってほしい。

      話の題材上、セクシュアリティ関係の差別表現を取り入れています。読んで辛くなったらすぐ閉じて下さい。書いた私も辛いです。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 偽りとの戯れ #きてどち #れじの04 #カンメリ

      鼠谷の死=探索者3人を帰郷させたのはメリーちゃん説。神がカントクの姿で降り立つ夢を見ては苦しめられていたら可愛い。
      メリーちゃんと鼠谷と馬場の関係性は未だに考察の余地がありすぎる。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 理想郷ではないけれど #きてどち #らじの04 #カンメリ

      らじカンメリ1作目。セッション直後の興奮だけで書いたのでシナリオブックと噛み合わない部分が多々あります。特に工場内の描写が。でも最高でした、本当に最高でした。
      らじ前に色々あってメリーちゃん死亡説を前提としている為、カントクのメリーちゃんに対する想いがそれを匂わせています。

      手塚治虫の「火の鳥 復活編」と某18禁純愛肉塊ゲーに影響されまくっています。

      ご厚意により、ガチ絵描きに表紙と挿絵を描いて頂きました。本当にありがとうございます。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 夢と影 #きてどち #れじの04 #カンメリ

      カントクがやさぐれているだけの話。通夜ぶるまいでの「羊田?羊田?」と、カントクが夢を見た後にどんな心境になったのかが気になりすぎて書きました。
      イッツGと違ってカントクは月日をかけてメリーちゃんのことを無理矢理封じたイメージ。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 僕と友達になって #きてどち #らじの04 #カンメリ

      凄く久しぶりにれじらじ小説を書きました。
      無性にカン馬場を書いてみたくなりました。
      やっぱりカンメリでした。
      猛者
    • 呼んで、呼ぶな #きてどち #れじの04 #カンメリ

      自分のあだ名が好きじゃないと言ったカントクの真意を考察空想して書いた第2作目のカンメリ。
      メリーちゃんは「メリー」という幼きカントクにつけられた変哲も無いあだ名に救われたことでしょう。

      カンメリは同じ中学に入り、しかし神の采配や思春期によってすれ違いが始まったのではと今は思います。流石に小4だけの交流であんな大層な執着と依存を抱き合うのはヤバい気がします。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 不完全な物語 #きてどち #らじの04 #カンメリ

      カンメリ大好きな馬場がヒーローという存在について問いかけるだけの話。
      らじの04は、カントクをヒーロー視し、メリーちゃんをヒロイン視した人々への報いの物語だと思う。
      「火の鳥 復活編」へのオマージュ要素有り。というかカンメリロビタ化して。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • れじらじカンメリSSまとめ その1 #きてどち #れじの04 #らじの04 #ヤト鼠 #カンメリ #イツ猫

      旧Twitterにて狂気のように毎日投稿していた、色んな詰め合わせ。
      大人時代から子供時代、ギャグからシリアス、ヘテロから非ヘテロ、生から死まで何でもござれ。

      大体ピクシブから再掲しつつ、読み返してSSにしては長すぎるものや封印したくなったものや過去の自分と解釈違いを起こしたものはくるっぷに移します。
      猛者
    • 生まれる前からやり直せたら #きてどち #れじの04 #カンメリ

      土管の中で母胎回帰に思いを馳せる子供時代カンメリ。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • 夏の約束 #きてどち #れじの04 #カンメリ

      子供時代カンメリと大人時代カンメリが、ただ平穏に夏祭りに行くだけの話。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • れじらじカンメリSSまとめ その2 #きてどち #れじの04 #らじの04 #ヤト鼠 #カンメリ #イツ猫

      その1よりは少ない、旧Twitterにて投稿していた色んな詰め合わせ。
      大人時代から子供時代、ギャグからシリアス、ヘテロから非ヘテロ、生から死まで何でもござれ。

      大体ピクシブから再掲しつつ、読み返してSSにしては長すぎるものや封印したくなったものや過去の自分と解釈違いを起こしたものはくるっぷに移します。
      猛者
    • 二人の夢見た街 #きてどち #れじの04 #らじの04 #カンメリ

      カントク東京都出身で考察空想が止まらなくなりました。色々考えた結果、小4でカントクが東京から愛造町に引っ越してきてメリーちゃんと出会い、夏休みの後にまたカントクが引っ越してしまって…というシンプルなものとして書きました。
      れじ後日談の時点でカンメリは東京にいたのでは?

      れじ後イッツGは東京砂漠に戻ったと思われるし、ヤットも要人警護の為に東京にいたかもしれないし、そうすると探索者3人ともが実は同じ東京のどこかで過ごしていたりして。
      猛者
    • 舞台裏 #きてどち #れじの04 #らじの04 #ヤト鼠 #カンメリ #イツ猫

      らじの04五周年をお祝いします。
      れじらじのシナリオはカンメリが主導するお芝居でしたみたいな、ひたすら明るいギャグ小説です。

      犬飼刑事に幸あれ。
      猛者
    • 彼は彼らの為に懸念する #きてどち #らじの04

      れじかららじまでに一番精神的に成長したであろう、作中随一の気遣いの出来るイッツGの素晴らしさと、頑張り続けたヤットの切なさを称えたくて書きました。
      最初の頃は、れじに比べて後退してしまったようならじヤットの立ち回りに歯痒さがありましたが、あの妙な幼さはヤットのギリギリな精神状態を表すペレ夫のRPの賜なのではとわりと近年になって気付きました。
      カンメリは不在ですがカンメリです。カントクは停滞のイメージ。進むことも戻ることも出来ない人。

      いつぞやに書いた小話を加筆修正して本文に入れたり、「記録と記憶」との繋がりもちょっとだけ含ませました。
      猛者
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