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    れじらじカンメリSSまとめ その1「けーんし君、あーそびーましょー」
     いつもの悪夢だと狗凱は悟る。座り込む自分を見下ろす小さな人影。影はお面で素顔を隠すように曖昧な形をしているが、狗凱にはそれが女の子だと理解出来てしまう。それ以上は分からない、分かりたくない。懐かしい声色で自分の名を呼んでくれる影が恐ろしかった。

         完



    「剣獅君の分からず屋!」
    「それはこっちの台詞だ!」
     膨れっ面で立ち去る羊田の背を狗凱は苛立たしくも見送った。些細な口喧嘩だ。明日謝ればいい、明後日謝ればいい、明明後日謝ればいい――気不味くて避け合うのはお互い様なのに、大人の仲直りは難しい。せめて最期の謝罪だけは、彼女の一部に届いただろうか。

         完



     破かれてほとんど読めない星座の本。叩きつけて壊れた望遠鏡。かつて理想を語り合い、共に夢見た男との思い出をごみ箱に投げ込む勇気も無く、あれから十年以上の月日が経つ。
    「お前と出会わなければ……」
     帰路の途中にある河川敷で夜空を見上げるのが猫山の習慣だった。その眼差しには愛憎が渦巻いている。

         完



     拳銃を手に持つ馬場と対する鼠谷は、やけに落ち着いていた。
    「最期にちゃんと話してみたかった」
    「ヤット君とかい?」
    「ううん、彼との思い出はいっぱいある。君と。僕達、本当は友達になれたんじゃないかなって」
    「もう遅いよ」
     馬場は寂しげな狂気の目で笑い、呪文を唱える。最期の微笑を浮かべる彼の偽善を消し去る為に。

         完



     羊田を彼のいない世界へと招いた。羊田をロボット化させた。羊田を存分に痛めつけた。だが、羊田は馬場の思い通りにはならない。
    「さあ、助けを求めてごらんよ。君はヒロインなんだから」
    「違う。私はヒロインなんかじゃない」
    「無力で、大人しくて、不幸の星の下に生まれた女の子なのに?」
    「確かに私は弱いかもしれない。でも、誰よりも信じてる。だから私は待つだけ」
    「信じることが君の強さとでも? それだけでヒーロー?」
     問えば頷く仕草があまりにも微笑ましく、馬場はくすくすと笑う。それでも羊田の表情は変わらず真剣だった。
    「その時が来たら貴方を倒す為に私も戦うよ。剣獅君と一緒に」
    「馬鹿だなあ。君はヒロインだ。ヒーローを立たせる為のヒロインだ。悪役に攫われて酷い目に遭うヒロインだ。僕は悪役だ。ヒーローはカントク君だけだ。そして、悪を倒したヒーローとヒロインは結ばれる」
     呪詛を繰り返すうちに馬場の脳裏には遠くの河川敷が過る。ヒーローごっこに耽る男の子と女の子。二人が眩しかった。けれど、一度でいいからあの街に混ざりたかった。ヒーロー役と怪獣役で分かれる度に「どうしてヒロインはいないの?」と訊いてみたかった。彼の答えを知りたかった。ヒーローのシナリオを書いたり武器を作ったりしたから見てほしかった。ただ、話しかける勇気が無かったのだ。
     どうせヒーローはヒロインのことしか考えていない。モブAなんてヒーローにとってはスルーしても構わないほど無意味な存在でしかない――そんなことにしかならないならばと、馬場はラスボスの道を選んだ。
    「僕は……君達のことが本当に本当に大好きだったよ」
     金属の体がばらばらになっていく。それが羊田の耳に届いた最期の言葉だった。

         完



     目眩。頭痛。羊田の体が女へと変化し始めたのは狗凱と決別してからだった。脳内で響く神の声は時折そこから下り、胎内に居着くようだった。そして鈍痛と共に「私を産み落とせ」と言う。
     滴る涙を誤魔化す為に冷水で顔を洗い、鏡を見る。もうあの頃には戻れない。きっと彼も、大人の男になっていくのだから。

         完



    「剣獅君、マーキングって知ってる?」
    「犬が小便かけて縄張りアピールするやつだろ」
    「うん。誰にも侵害されないように目立つ所に自分の印を残すんだって」
    「……何で急にそんな話になるんだ?」
     自覚は無いらしい。羊田は呆れ、首や肩に刻まれた痛みについての言及を控えて布団に潜り込む。
     そのうち拗ねながらも羊田は眠ってしまった。夏でも服を着込まなければならない身にもなってみろ、と回りくどく責められたことくらいは狗凱だって察している。しかし思う。お前は人のことを言えるのか、と――ちくちくと疼く背中の爪痕が愛しいけれど、狗凱が晒すには難しい場所だった。それに、彼女につけた印を自分だけが知っている方が良い。

         完



     霞みがかった景色は晴れ、懐かしの河川敷を顕にする。あの橋の下――阿黒は嬉しくなって駆け出す。
    「鼠谷くーん!」
     そこには幼い友人と子犬がいる。一緒に遊ぼうと言い出す前に何故か鼠谷は泣き始めた。
    「ヤット君、ごめんね……」
     何の謝罪なのか阿黒には思いつかない。思いつかないけれど慰める。もう己の理想を我慢するのは止めたのだ。

         完



    「最近背中が凝ってんだよなぁ」
    「俺が軽く足踏みしてやろうか?」
    「ああ、頼む」
     狗凱はうつ伏せとなり、阿黒はその上に乗った。小柄だからと高を括っていたが、流石に腕力を磨き上げた成人男性となれば重量もあり、しかも的確にツボを狙ってくる。
    「い、痛い。もういいわ」早速中止した所、厄介にも豊基が現れた。
    「何何、新手のプレイ?」
    「ちげえよ。体凝ってるからマッサージやってもらおうと……」
    「じゃあお手伝いしまーす」
    「いやもういいって!」
     足掻く狗凱をへらへらと無視して両手で太腿を押さえつけた。上からの二つの圧で動けなくなった狗凱は退け退けと喚くしか出来ない。
    「どうですかお客さ〜ん、うちは中国四千年の歴史ある整体技術を受け継いでま〜す」
     豊基の悪ノリに阿黒も流される。しばらく一対二の狗凱が圧倒的に不利な戦いを繰り広げていると、こんこんとノックの音が聞こえた。
    「剣獅君、次の映画のシナリオ――」
     ドアを開いた羊田の目に飛び込んできたのは、喚きながら床を叩くうつ伏せの狗凱の背を阿黒が片足で踏みつけ、豊基はそこにリバース・インディアン・デスロックと呼ばれる技を決めるという光景。
    「あ、羊ちゃんだ」
    「え、メリー!?」
     狗凱が呼んだ途端、羊田はそっとドアを閉じた。
    「てめえらのせいで絶対引かれたじゃねえかふざけんなー!」

         完



     雨が降っている。河川敷の土手に座り込む狗凱はびしょ濡れだった。傘も持たずに自宅から飛び出してきたのは、羊田と些細な口喧嘩をしたせいだ。次の映画で出すヒーローのデザインの好みがお互いに違う、たったそれだけ。「お前なぁ、センスねえぜ」という、幼い頃の口癖がつい出てしまった。
     背後からゆっくりと人影が近付いてくる。傘地で弾ける雨音。
    「剣獅君、帰ろう」頭上に差し出された傘で狗凱の体は一瞬冷たさを免れた。
    「嫌だ。一人で帰れ」
    「そっか」
     端的に返され、狗凱は後悔した。つくづく羊田に甘えている自覚がある。どうして歩み寄ってきてくれたのに拒んでしまったのか。見放されても仕方がない。傘は遠退き、再び濡れる。ああ、彼女は去っていく――狗凱が項垂れていると、その隣に羊田は座った。傘を閉じて放置する様に狗凱は目を見張る。羊田の体が冷たい雨に侵食されていく。
    「お、おい! 風邪引くだろ!」
    「剣獅君が意地っ張りだから私も意地っ張りになる」
    「風邪引いちまうぞ」
    「人のこと言える?」
    「俺は……馬鹿は風邪引かねえんだよ」
    「じゃあお互い様だね」
     雨の下で笑い出す二人。喧嘩も仲直りも子供じみていた。
     なお後日風邪を引いた二人を心配した阿黒が事情を聞きに現れ、「次にやらかしたらカンフーをお見舞いしてやるからな!」と馬鹿馬鹿しさに本気で怒ったという。

         完



    「メリー! 河川敷行こうぜ!」
    「ごめん。今日は用事があるの」一散に羊田の席へと向かって手を取ろうとしたが、困り顔で断られた。
    「また猿渡先生との相談か?」
     そう訊けば頷かれる。せっかく土曜日の下校は早くて多く遊べるはずなのに、「相談」とやらは大体狙ってこの日を選ぶらしい。優しい先生だけれど、一体羊田は自分とヒーローについて語り合うよりも何が大切なのだろうかと狗凱はむくれる。
    「でも、日曜日は朝から集合だね」
    「おう。ちゃんとテレビ観てからな!」
     即席の約束に羊田は微笑する。その内心には、朗読会での苦しみを超えてから、彼とのヒーローごっこが待っているという安堵で満たされていた。

         完



    「ど、どうしたの!?」
     驚く羊田の視線の先には、段ボール箱を抱えて片頬を腫らす狗凱がいた。
    「親父に殴られに行ってきた」
     実家で一悶着あったらしい。彼の過去を深く聞いてはいないが、恐らく勝手な生き方をしてきた為に勘当扱いの息子が現れて手が出たのではないだろうかと羊田は察する。
    「一発で済んで良かったぜ。んなことより、ほら、取り戻せたんだ」
     狗凱は痛みなど気にせず得意げに箱を開けてみせた。中を覗くと、紙粘土をこねて着色したタワーやひびが入る廃材を削った不格好な剣、いかにも子供向けの食玩フィギュア、ガラクタと呼んでも差し支えの無さそうなものが多数。
    「全部俺の宝物だ。子供の頃に色々詰め込んでた。正直こっち帰ってくるまで忘れてたけどな」
     そう言いながらも狗凱の手付きは優しい。やがて一番奥底にそれを見つけた。葬るように、守るように、それは埋もれていた。
    「これって……」
    「俺達で考えた映画のシナリオ」
     ぺらりと自由帳を捲る狗凱の指先は微かに震えている。そして、続く声も。
    「途中で終わっちまってる」
     彼は、どんな想いでこの薄汚れて皺だらけのノートを捨てずに取っておいたのだろう。羊田の胸の奥から温かなものが込み上げてくる。
    「大丈夫。これから二人で続きを考えよう。時間はいくらでもあるから」
    「新作もだろ」
    「うん」
     二人は静かに同じ涙をこぼした。

         完



     ぼやけていても懐かしの河川敷が見えた。消え失せたはずの場所に辿り着く。淡い幻――けれど、それが答えだ。寄り添う小さな二人はお互いに手を取った。
     何度打ちのめされても立ち上がる、ヒーローは決して挫けない。
    「約束、したよね」
    「先にお前のを叶えてやらねえとな」
     だからもう一度、最初から。

         完



     みんなでやり直したい――かくして豊基の願いは聞き届けられた。だが、人を嘲笑う邪な神が慈悲深く願いを叶えるとは限らない。彼らは子供の頃に戻った。朗読会が存在しない世界。そして、変化はそれだけではなかった。
     下校のチャイムが鳴った。「廊下を走っちゃいけないよ」と中年男性の担任が穏やかに注意するが、知らんぷりの狗凱は赤いマフラーをなびかせて駆け抜けた。
     ふと隣のクラスでは下校時間になっても笑い声を起こす男子が目に入るし、スポーツクラブが開かれる体育館の方へと向かう小柄な男子の背を見つける。話したことは無いけれど、どうしてか彼らのことが少し気になる。この先関わりを持つ予感はしないのに。
     愛造小学校から自宅までの道のりにある河川敷で過ごすのが狗凱の日常だった。ここは昔から特別な場所で、特別だと思いながら未だに満たされない。何か、欠けている気がする。自分にとって唯一無二の存在で、同じ夢を見て、お互いに約束をした――まるで物語のような、大切な誰かと出会えるはずなのに。
    「なあ、早く一緒にヒーローごっこしようぜ」
     ぽつりと呟くも応えは返ってこない。けれど、諦めない。もう二度と忘れてはいけない。例えその誰かが自分のことを忘れてしまったとしても。いつか小さな人影が草むらを掻き分けて現れるその日まで、辺りに散らばるガラクタを彼は一人積み上げる。

         完



    「酷いでしょ」
     背中を晒し、羊田は諦念を込めて小さく笑う。血溜まりを指先で引っ掻き回して出来たような、まるで赤い石が砕け散ったような痣が肌に広がっていた。
    「痛むのか」
    「ううん。ただ神様が残していっただけ」
    「……そうか」
     狗凱は胸を撫で下ろす。今にも痣を切り裂いて血が流れ出すのではないかと心配だった。
    「これは私が犯してきた罪と、その罰の証」
     当たり前の口調で言う羊田に、狗凱の中で切ない怒りが込み上げてきた。
    「ふざけんな! 何でお前がこんなもん背負わなきゃならねえんだよ!」
    「これで済む私は恵まれてるよ。だって剣獅君と生きていけるんだから」
     そこに一切の虚栄は無かった。羊田は本気でそう思っているのだ。
     無骨な手が痣に触れる。びくりと震える背中を、強く抱き締めて離さない。
    「俺は逃げて忘れて面倒臭くて怖くて迷って色んな奴らを見殺しにして、自分の手で殺そうとした、メリーを!」
    「でもしなかった」
    「違う。出来なかったんだ。お前が死ぬのを許せなかった。お前が望むことを許せなかった。だってさ、俺達の約束は……」
     途切れた台詞の続きを二人は知っている。羊田は狗凱の方へと向き、肩に顔を埋めた。不器用ながらも狗凱は子供を相手にしてあやすように痣の背を撫で続けた。こうして寄り添えば寄り添うほどに、自分達の空白の時間を取り戻せやしないだろうかと、虚しく夢想する。
    「二人でなら生きていける。だったらお前と同じものを背負ってやる資格くらい俺にもあるよな」
     あまりにも満ち足りた言葉が羊田を優しく救う。惨い痣が心にまで蝕むその時を、僅かながらに遅らせる。ヒーローではない、ただの人間が出来る精一杯の慈悲。自己満足がもたらす慈悲だ。

         完



    「あ」
     間抜けな声を出したのはどちらが先か。スタジオの裏口で煙草を咥える狗凱とコンビニ帰りの羊田が出会した。
    「煙草吸うんだね」
    「まあ……」
    「喫煙室があるんだから使いなよ」
     そう言ってスタジオに入っていった。狗凱は苦い溜め息を吐く。羊田に知られたくなかったから使っていなかったのに。

         完



     ばれてしまっては仕方ない。狗凱は喫煙室を使うことにした。そして驚く。そこには羊田がいた。壁にもたれながら、細い人差し指と中指の間に煙草を挟んで紫煙をくゆらす。
    「私も喫煙者。前まで禁煙してたんだけど」
    「……お互いニスとかペンキの匂いで気付かなかったってわけか」
     二人は小さく笑った。

         完



     幼い頃、彼女が「メリー」と呼ばれていたことを知っている。その名は彼から与えられ、彼だけに呼ばれていたことを知っている。ガラクタに囲まれたその場所で笑い合っていた二人を覚えている。自分と友の、そして彼らが過ごした河川敷を守りたかった――我ながら純朴な理想だと鼠谷は思う。
     だが、今になってようやく矛盾に気付いたのだ。守りたい存在の一つを、彼女を犠牲にしていたのだと。かつてのあだ名で呼ばれる日の訪れを彼女は待っている。
     だから、せめて、その始まりを作ろう。
    「……これで僕の贖罪になるのかな、ヤット君」
     鼠谷は裏切り者になる覚悟を決めた。猫山の話を、羊田へ。

         完



     人混みに揉まれ、何とか辿り着いた先がこのささやかな公園だった。豊基はベンチに寝転び、空を見る。湿っぽい曇天の一日。一番星が見えない。
    「猫山……」
     かつて河川敷で友と天体観測ごっこをした。そのことを鮮明に覚えている。何気無い雑談をしてお菓子を食べ、ロマンを手に入れ、隣には笑顔の猫山がいた。「俺はお前が羨ましいよ」と、よく呆れられたものだ。確かに彼は真面目な人気者だったから、馬鹿な真似を平気でやれる人間にある種の羨望を抱いてもおかしくはなかっただろう。
     だが、何の拍子か疎遠になってしまった。そのきっかけがどうしても思い出せない。
    「あいつ今どうしてるかなぁ。頭良くて何でも出来て女子から超モテモテな奴だったし、俺のことなんかもう忘れちゃったんだろうなぁ」
     故郷に帰って来たが会い辛い。何せ十年以上の間がある。もし今度顔を合わせたら、無邪気なあの頃みたいにまた二人で楽しく星を眺められるのか――懐に仕舞う級友の死の報せを確かめた後、豊基は疲労で重い瞼を閉じた。

         完



     窓を叩く強い雨音。ベランダの物干し竿が揺れている。コンビニまで昼飯を買いに行きたかったが出かける気力を削ぐ。
    (鬱陶しい。雨は嫌いだ……)
     昔から、子供の頃からそうだった。いつだったか、誕生日プレゼントに強請って買ってもらった中古のカメラ。それを使って映画を撮る真似事をしようと。最初は楽しかった。しかし途中で大雨が降り、カメラはずぶ濡れで壊れてしまったのだ。再生出来なかった。せっかく撮った映画が、誰かと一緒に撮った映画が消えた――
    「……くだらねえ」
     空腹を紛らわせようと狗凱が煙草に火を点けようとした時、布団の中から女の声で「換気扇の下で吸えっての」と聞こえた。

         完



    「ねえ、この子の名前は?」
    「うーん。まだ決めてないんだ」阿黒の問いに鼠谷は困ったように笑う。
    「そうなの?」
     座り込む二人の足元で子犬が尻尾を振り回す。鼠谷がコッペパンをちぎって差し出すと食べた。
    「名前って凄く大切なものだから簡単に決められなくて。名前にはね、魂が宿るなんて言われてるんだよ」
     鼠谷の知識に阿黒は深く感心した。けれど、ずっと名無しでは可哀想だ。大切なものなら尚更プレゼントしてあげたい。
    「じゃあ……サブローなんてどう?」
     阿黒の提案に鼠谷は不意を突かれた。何だかあまりにも素朴な名前だと思ったのだ。しかし阿黒は嬉々として由来を語り出す。
    「僕達一人っ子でしょ? 友達もお互い僕達しかいない……でも、この子と出会えたし、三人兄弟みたいだよね。だから末っ子のサブロー。どうかな?」
     鼠谷はくすくす笑う。自分達は不思議な兄弟だ。最初は素朴な名前だと呆気に取られたものだが、喜びが勝って大きく頷いた。
    「よし。今日から君の名前はサブローだよ」
     パンを食べ終えたサブローは阿黒の呼びかけに一つ吠えてみせた。

         完



    「ごめん。今日は猿渡先生と相談があるから」
    「またかよ」
     地元の愛造中学へと入学してから半年が経とうとしている。羊田は未だに小学生時代の恩師と交流があるらしい。オトナへと変えられゆく中、二人でヒーローの物語を紡ぐ時間は減った。貴重な休日を河川敷へと誘えば、このように断るのは何度目か。
     小学生の頃は我慢出来た狗凱も全てに苛立つ年頃となり、ついに衝動に任せて口を開いていた。
    「メリー、俺のこと嫌いになったんだろ」
     思いがけないことを言われ、ひりついた言葉に羊田は目を見張る。自分を睨む眼差しからは本気の怒りが伝わってくる。
    「付き合ってるとか周りから冷やかされてさ、ヒーローごっこしてるなんてガキみたいだとか言われてさ。だから俺と遊びたくないんだろ」
    「そ、そんな……」
     そんなわけがない、彼の存在がどれだけの救いか――慌てて反論しかけた羊田を狗凱が遮った。
    「メリーなんか……お前なんか、もう絶交だからな!」
     その瞬間、羊田は悟ってしまった。今、神が定めたヒーローとの別れが訪れたのだと。いつか自分達が本当の意味で分かつ時の為の采配なのだと。
    「分かった」
     酷く泣き出しそうなくせに優しい声で受け入れた羊田に、狗凱の心臓は怒りで熱く、悲しみで冷たく、どくどくと激しく波打った。口走ってしまった自分の愚かさ。頷くはずがない羊田への期待。約束は叶わない、裏切られた。
     こうして二人はすれ違う。痴話喧嘩だと囃す周囲の声すら聞こえないほどに、二人の世界は独りの世界となる。やがて狗凱は彼女を封じ込め、羊田は彼を糧にして生きるのだった。

         完



     何も無い世界。辺りは霧に包まれている。
    「剣獅君」
     聞き慣れた声に振り返ると羊田の形だけが曖昧に見えた。
    「メリー?」
    「さようなら」
     それだけだった。濃くなる霧と共に意識は浮上し、自宅の布団の中にいるという実感を得る。隣には羊田の寝顔があった。
    「……夢だよな」
     思わず声を漏らしながら羊田の頬を撫でた。

         完



     狗凱の自宅の押入れを二人で整頓中のことだった。
    「剣獅君、何これ?」
    「触んな!」
     羊田の手にある例の覆面を狗凱は全力で奪い返した。その妙な慌て様に羊田が首を傾げるので、一応の弁明をしておく。
    「こんなもん触ったらメリーが汚れちまう」
    「洗ってないの?」
    「ち、違う! めちゃくちゃ丹念に洗ってるわ!」
    「じゃあ大丈夫だよ」
     何故かそれで納得したらしい羊田は、ごみ袋の口を結んで「捨ててくるね」と部屋を出て行った。
     残された狗凱は皺だらけの覆面に視線を落とす。これは名前を変えて逃げてきた証だ。約束し合った羊田との空白を表す証だ。
    「……これも、捨てるか」
     次のごみ袋へと投げ入れた。

         完



     豊基が白飯を食べている。今日の給食中は珍しく牛乳芸でふざけない。
    「猫山ー、だし巻き玉子一個くれない?」
    「ああ……いいけど」
     猫山が許可した瞬間わーいと箸先で摘んで持っていった。白飯とだし巻き玉子を口に放り込み、咀嚼の途中で牛乳をぐびぐび飲む。
    「イッツG、お前……」
    「何?」
    「何でもない」
     白飯と牛乳を同時には口に入れられないタイプの猫山は、豊基の食べ合わせに若干引いた。

         完



    「羊田、そこのドライバー取ってくれ」
     狗凱は部品の組み立てに集中する。手を差し出すだけでも求めた通りの感触が乗せられると思っていたが、しばらくしても反応が無く、訝しんで羊田の方を向いた。
     何故か羊田はじっと狗凱を見ていた。ドライバーを持っていながらも、渡そうという手前で止めている。
    「何だよ」
    「『メリー』って呼んでくれないの?」抗議の目が狗凱を射抜く。
    「いや、たまに呼んでるだろ」
    「昔はもっといつでも呼んでた」
     突っ込まれると否定出来ない。しかし離れ離れになってから十年以上の歳月が流れて今に至る為、多少距離感を覚えてしまっても仕方ないだろう。
    「阿黒君や豊基君のことはあだ名で呼ぶのに」
     また突っ込まれて言葉に詰まる。けれど狗凱の中に答えはある。羊田のあだ名は特別だ。何故ならそれは自分がつけたものなのだから。彼女の一部を形成したくせに彼女から逃げた後ろめたさが他人とさせるのかもしれないし、河川敷で初めて彼女の名を知った他人の頃を繰り返すことで空白をやり直したいのかもしれない。
    (でも、こいつが「シープ」じゃないことは確かだ)
     罪を背負う仮初の名が羊田の中に今も根付いているなら塗り潰したい――狗凱は一つ息を吸って気を引き締めると、羊田のドライバーを持つ手ごと強く掴んで宣言した。
    「分かったよ。これからはずっと何度でも呼んでやる。メリー。お前はメリーだ。それ以外の何者でもねえ。そうだよな、メリー!」
     自棄ではなく彼なりの真摯な姿勢だと羊田は理解し、何だか顔が赤くなる。
    「ありがとう……剣獅君」
     最早手渡す必要の無いドライバーをどうするべきか。

         完



    「猫山君、また勉強してるの? 凄いね」
     クラスメイトは口々に優秀な猫山を称えた。けれど本の内容を覗き込もうとする者はいない。「ありがとう」と、クラスの人気者は作り笑顔で無難に応える。
     ある時一人の男子が近付いてきた。独特の体臭で正体はすぐ分かる。
    「へー、星座。オシャレ」
     気安い口調に猫山は苛立ちを覚える。反りが合わないと思っていた。給食中に披露する牛乳芸は馬鹿みたいだし、自販機の下を探る姿を見かけた時は汚らわしささえ感じた。だから面と向かって会話したことが無かった。
    「まあ……そうかな。面白いよ」
     いつも通りに返す――だが、そこで気付いた。彼は本に載る星空の写真を理解したのだと。
     息を飲む猫山を他所に豊基は平気な顔で続ける。
    「でもさー、本ばっか読んでつまんなくない? どうせ写真じゃん」
     へらへらと無神経に肩を叩かれ、猫山の脳裏には孤独に求めていた光景が広がる。
    「今度一緒に本物見に行こ。実はさ、良い眺めのとこ知ってんだ!」
     それが二人にとっての全ての始まり。

         完



     カンカンカンカン。警報機が鳴り響く。ガタンゴトンガタンゴトン。遠くの方で電車が走る。あの引っ張りこまれそうな、自分の存在を掻き消す音が馬場は苦手だった。
     それなのに自宅とは逆方向の道を辿って線路沿いを通るのは、見たい光景があるからだ。河川敷。生い茂る雑草には不気味な虫が潜んでいそうだし、薄汚れた川から微かに嫌な臭いがする。「ポイ捨て禁止!」と書かれた看板の周りにジュースの空き缶や破けた雑誌が散らばっているのだからおかしい。
     同じ朗読会メンバーにして神の声を聞く羊田が、朗読会の間は暗く辛そうな顔をしているのに、朗読会が終わると浮き足立って視聴覚室を出ることに気付き、何だか不思議でこっそり追いかけてみた。そして辿り着いた場所がここだった。草むらの中に羊田と、彼がいた。スターヒーロー。一度も喋ったことの無い、同じクラスの狗凱。意外な組み合わせを初めて見た時、馬場は目を見張った。今は、羨ましいと思いながら静かに見ている。二人はヒーローごっこをしていた。
    「見てろ、俺の新しい必殺技! 絶対カッコイイからな!」
     狗凱が腕を交差させたり飛び跳ねたり長ったらしい横文字の言葉を繋げて最後にポーズを決める。「どうだ!」といかにも自信満々で、自分の強さを疑っていない。赤いマフラーをなびかせるその姿が馬場には眩しく見えた。すると、地べたに座り込んでいた羊田が立ち上がる。
    「私だってカッコイイの考えた。見てて」
     そう言ってからくるくる回り始め、狗凱よりも短絡的な動かし方だが宙を素早く殴ったり蹴ったりする。その羊田は朗読会での依代とは別人で生き生きとしており、また滑稽にも思えた。
    (羊田さんは女の子だからヒーローにはなれないよ)
     いつも、いつもそう思う。あんなにもヒーローが輝いているのは羊田がヒロインだからだ。ヒロインに必殺技なんて要らない。それなのに、どうしてだろう。ヒーローはヒロインがヒーローの真似事をする度に喜ぶ。
    「おお! やっぱメリーはセンスあるな! カッコイイじゃん!」
     腑に落ちない。声に出して言いたい。聞いてほしい。
    (カントク君の必殺技の方がカッコイイって僕は思ったよ。だってヒーローは君だから……)
     既に空は真っ赤な夕日で染まっている。
    「あ、ヤバ。帰らねーと」
    「うん」
    「今日はハンバーグなんだぜ」
     他愛ない会話をしながら支度を済ませて二人は河川敷から去っていく。赤と黒のランドセル。きっと二人で作るヒーロー映画のシナリオについて語り合っているに違いない。
    「カントク君、僕も考えたんだよ」
     決して届かない語調で、寂しく、虚しく、描いたものを独りで語る。
    「正義のヒーローとして造られたロボットが……怪獣をやっつけてくれる話」
     俯きながら踏切の方へと帰る。走る電車の風に長い髪が煽られる。夕暮れ時の町で警報機が鳴り続ける。自分を掻き消す音。誰も応えてくれないのなら、怪獣を倒してくれる者もいないのだろうか。それだけは信じたくなかった。

         完



    「サブロー、おいで」
     呼べば小さく鳴いて応える。さらさらとした毛並みを梳く鼠谷の手付きはすっかり慣れていた。
    「今日は君の誕生日。おめでとう」
     捨て犬だった為、本当の誕生日は分からない。だが自分とサブローを猪岡達から守ってくれた、一緒に世話をすると言ってくれた、あの優しくて強い友と出会った日をサブローの誕生日としていた。
    「仕事が忙しいだろうけど、ヤット君も向こうで祝ってくれてるよ」
     顔を合わせなくなって久しい。それでも鼠谷にとって阿黒の存在は大きいままだった。彼との思い出の場所、河川敷が全てだった。幼い自分達が無邪気に遊んでいられた頃のような、あの美しくて懐かしい世界。
    「僕はいつもヤット君に守ってもらってた。だから今度は僕が守る。理想郷を完成させるんだ。もう少しで、僕は……」
     サブローは犬用の小さな誕生日ケーキを半分食べただけで満足したらしい。幸せそうに大きな欠伸を一つ、そしてそのまま鼠谷に寄りかかって眠り始めた。
    「理想郷は永遠に続く。君もだよ。僕達三人でずっと遊ぼう。待ってて、サブロー。……長生きしてね」
     子犬の頃とは比べ物にならないほど立派になった体は、宥めるのに苦労した日々が嘘だったかのように、今では走り回らなくなっていた。その日の訪れが過る度、鼠谷は焦燥を狂った熱意へと変換させる。

         完



     ショッピングモールの玩具売り場、その一角に特撮ヒーローのフィギュアはずらりと並ぶ。
    「何で嫌いなのに見てるの?」
     突然足元から幼い声が飛んできて狗凱の肩は跳ねた。見知らぬ男の子。子供は苦手だが下手に追い払うとまた余計なことになると経験則で知っている。無難に会話をしてから立ち去ろう。
    「いや……むしろ好きなんだけど」
    「嘘吐きだ」
     容赦無く、他人で遠い上から自分を見下ろしてくる大人の男の言葉を打ち消す。その無垢さに狗凱がたじろぐ間もなく男の子は口を開いた。
    「ほんとに好きならそんな顔しないもん」
     駆け足で去っていく。残されてしまった狗凱はショールームに反射する自分を見た。
    「……中々良い捨て台詞だな」
     多分顰めっ面を揶揄されたわけではない。自分が子供の頃はあんなにも鋭く大人を見ていただろうか。いや、眼中に無かったはずだ。ヒーローの夢と、そしてただ一人のことしか見ていなかった。なのに、どちらも見失った。作り物のヒーロー達が並ぶそこから狗凱は逃げる。

         完



     ヒーローの変身シーンが好きだった。普段着から身軽で鮮やかな衣装へ、一般人から正義の味方へと姿を変える様が好きだった。見た目が変わっても心は同じ、悪を倒す為に立ち上がるヒーローになる――羊田は何度もそのシーンを夢に描き、そして虚しくなった。
     今の自分は憧れていたものと少し似ている。メリーとシープ。自分には二つの姿がある。けれど、心は別物だ。しかもどちらも自らの手で悪を倒そうという意思が無い。メリーは罰としてヒーローに殺されたいと願っている。シープはヒーローを呼ぶ為に人殺しの手伝いをしている。救いようがなかった。正義を信じた幼い頃が哀れで懐かしい。
     あの頃、羊田の隣にはスターヒーローがいた。賑やかな声で約束してくれた日の喜びは色褪せず、その約束を信じて羊田は呼吸している。
    「剣獅君が私の名前を呼んでくれたら、私はメリーとして死ねるね……」
     大人になった彼はどんな風に変身するのだろう。今日も夢想し、彼女もまたシープへと形を変える。

         完



     夕空の丘で二人だけがベンチに座っている。
    「どこにいたんだよ」
    「ずっと側にいたでしょ」
     羊田のからかいに狗凱は溜め息を吐く。けれど、今やこれより掘り下げる話ではなくなった。二人で懐かしい橙色に染まれるだけでいい。
    「綺麗な夕日だよな」
    「うん。……ここ、来たことあるよね?」
    「一緒にか?」
    「分からない」
    「でも懐かしい感じするし一緒に来たんじゃね。遠足とか」
    「そうだっけ」
    「別にいいだろ、もう。俺達ずっと一緒だ」
    「そうだね。じゃあ、私達の場所だね」
     そっと重ね合わせたお互いの手は冷たく、やがて境界が曖昧になっていくような感覚が心地良い。二人は一つに。

         完



    「あ、似合う。カッコイイ」
    「……そうか?」
     純粋な声色で褒められると世辞と流すわけにはいかなかった。
     狗凱宅の段ボール箱から演者として使ったヒーロースーツを見つけ、強請る羊田に押されて狗凱は久々に腕を通した。ライダースジャケットのような作りをしているだけあって丈夫で破れは無く、地味に鍛えているおかげで引き締まった体に窮屈さも覚えない。
    「あれやってほしい。ヒーローが高い所から飛び降りて地面に膝と拳をつけて着地するやつ」
    「出来るわけねえだろ。骨が砕けるわ」
     スーパーヒーロー着地は膝を痛めることで有名だ。本職のスタントマンがマット上で失敗を重ねながら何とか成功させる例はあるが、ワイヤーアクションが無難な手だろう。とは言え子供の頃はあの颯爽とした居住まいに憧れたものである。
     「ちょっと動いて」と、また強請る羊田の為に軽く三日月蹴りのポーズをしてみると、嬉しそうに頬を緩めた。何だかヒーローショーに来た女の子みたいだ。
    「剣獅君は私だけのヒーローだね」
     そうこぼした言葉には心からの喜びと同時に、ヒーローを諦めたような切なさがあった。狗凱は、そんな羊田を許せない。
    「お前もなんか作ればいいだろ」
    「え?」
    「特注スーツ。着れば一気にヒーロー気分だ」
    「でも、着る機会なんて無いよ」
    「俺だってさっきまでそうだった」
    「……」
    「人はいつだって唐突にヒーローになるんだぜ。スーツの準備くらいしとけよ」
     かつて色鉛筆を持ちながら、自由帳にたくさん描いたヒーローのスーツが羊田の脳裏に過る。一つ一つの形を鮮明に思い出せる。あんなのが着たかった、こんなのが着たかった、色んなヒーローになりたかった。
    「やっぱり……お金かかるから駄目だよ」
    「俺がヤットに泣きついてやる」
     出資者は勝手に確定した。

         完



    「メリーっていっつもプール休んでるよな」
    「うん……苦手だから」
     普段の羊田はネックレスを胸元に仕舞っている。これは神様が宿る大切なもので、羊田自身を守ってくれるもの。決して手放さないようにと先生から言いつけられた。水着姿で晒すなんてとんでもない。毎度プールを休む羊田に対して狡休みだと揶揄するクラスメイトも多い中、狗凱は特に責めはしなかった。ただ拗ねた。
    「せっかく水タイプヒーローの必殺技特訓出来るのに。メリーがいないとつまんねー」
    「ごめんね」
    「別に怒ってねーけど」
     プール後はやたら気怠さを覚える。体育で終礼となる一日は恵まれた方だが、その後河川敷に来てみても欠伸が止まらない。
     羊田はネックレスの生温かさを感じている。夏の暑さを受け取る自分の体から汗が浮き出すせいだと思い込む。叶うはずがないと分かっていながら願望を口にする滑稽な依代を神が嘲ているのだとしても、その本心は伝えたかった。
    「私もいつか泳ぎたい。一緒に必殺技考えたい」
     額やこめかみから滴る汗を拭っていた狗凱の顔は、ぱっと明るくなった。
    「じゃあさじゃあさ、メリーが泳げるようになったらさ、どうせなら海行こうぜ。俺まだ行ったことねーし」
    「私も」
    「ここって海無いもんな。でも海の向こうの深い所で眠ってる怪獣が起きたらヤバいだろ? その時が来たら俺達で倒すんだ。いいな!」
     こくりと頷く羊田を見ると狗凱の眠気はすっかり飛んだ。どんどん約束が増えていく。それが嬉しい。叶えても叶えきれないくらいの約束。全部叶えるまで終わりはないのだと、幼い男の子は夢想していた。羊田は草むらの横を流れる川に少し目を向け、遠い遠い海に思いを馳せる。
     いつの日か、二人で海へ。

         完



    「猫山って好きな奴いるの?」
     豊基は軽い気持ちで投げかけた。妙に大人びていてロマンにも反応しない猫山のことだからあしらわれるだろうと思っていた。
     が、予想に反しての答えが返ってくる。「いるよ」
    「え、マジで!?」
    「そんなに意外か?」
     話題に乗ってきた割にふいと視線を逸らす猫山の仕草、その違和感に豊基は気付けない。
    「誰? うちのクラス?」
    「秘密」
    「その返し方なら決まりじゃーん。わー、誰だろ。猫山のタイプ……」
    「お前には絶対当てられないよ」
     挑発と受け取った豊基は躍起になって唸りながら考える。毎度のことながらマイペースなお前が羨ましい――猫山は呆れて笑った。

         完



     狗凱と羊田は夏の河川敷で緊迫していた。
    「こいつ……死んでると思うか?」
    「分からない……」
     二人の視線の先は地味に距離を置いた地面で、そこにはひっくり返った蝉が静かに構えている。
    「メリー、触ってみろ」
    「嫌だよ。剣獅君が触ってよ」
    「生きてたら飛びかかってくるかもしんねーじゃん! こえーよ!」
    「私も怖いから嫌」
     お互い折れないことは分かっていたが一応言い合ってみた。そして結局二人でじりじり近付くことになる。ちょん、と爪先で蹴られる位置に辿り着いたが蝉の反応は無い。
    「……何だ。死んでんのか。びっくりした」
    「剣獅君って怖がりだね」
    「うるせー。メリーだって――」
     小っ恥ずかしく思いながらもガラクタの街に相応しくない存在を撤去しようと狗凱が手を伸ばした瞬間、あの鼓膜に響く鳴き声によって二人の心臓は跳ね上がった。そして覚束無いくせに極限の飛力で視界へと襲い来る――無邪気な子供達の悲鳴が夏を賑わせる。どうして奴らはタイムラグをかましてくるのだろう。

         完



     仕事を一段落つけて帰郷した阿黒は何故か自宅に住み着く豊基に「餃子パーティーしたい!」とせがまれ、絶対抵抗出来ないしどうせならと狗凱と羊田も呼んで開くことにした。初体験ではあるが調べるとやり方は出てくるもので、あとは必要な食材を買うだけだ。
    「おい 言い出しっぺのくせに何でもうビール飲んでるんだ!」
    「えー。だって雰囲気に酔っちゃったから」
    「前後がおかしいだろ!」
     四人前の種を作って皮に包む作業の途中だった。へらへらとビールを飲む豊基に呆れるが放っておくことにした。そしてまた皮に種を乗せて閉じる――そのこなれた手付きに羊田は見入る。
    「阿黒君、本当に餃子作り初めて?」
    「ああ」
    「信じられない。さっきから凄く綺麗に包んでる。料理人みたいだね」
    「そうか? でも羊田のだって……」
     褒められれば嬉しく、ちょっと声も弾む。包み方のコツを教えていると何か圧を感じ、手元から顔を上げる。そこには明らかに不機嫌で睨んでくる狗凱がいた。トレイの上に並ぶ謎の物体は勿論その男が生産したものだ。犬が唸り出す前に羊田は阿黒の教え通りに一つ作ってみせた。
    「剣獅君、見て。私のも上手でしょ」
    「センスあるぜ」
    「ヤットー、もう一本飲んでいい?」
     答えるよりも先にぷしゅっと蓋が開く軽快な音。
    (こいつら面倒臭い……)
     それでも阿黒は楽しかった。

         完



    「昔さ、ケッコンごっこしたよな」
    「懐かしいね」
     好きな者同士のオトナのオトコとオンナがやるからと、ちょっと真似事をしてみた思い出。空き缶のプルタブを切り取って磨き、色を塗って子供ながらに出来栄えの良いケッコン指輪を作った。それで誓ったのだ、二人だけでずっと映画を撮る将来を。
    「メリー、俺達ケッコンしねえ?」
     悪戯っぽい口調で狗凱が投げかけてみれば、「もうしてるよ」と羊田もくすくす笑って応える。
     今、大人になった二人は誓いの通りに映画を撮っている。名で縛られずとも確立する、正しき一つの形。誰にとっても何も変わらない、ただそれだけの日常を過ごす。

         完



     あの事件から忙しなく時が過ぎ、仕事に戻ろうとする阿黒の前にひっそりと訪れたのは羊田だった。
    「もう行くんだね」
     薄暗い表情の羊田に向かって阿黒はあえて堂々と頷く。
    「鼠谷とサブローの墓参りは済んだ。少しだけどみんなとも話せた。心残りは無い。これからカントクと頑張れよ」
    「阿黒君! 私、鼠谷君を……」
    「もういいんだ」
     言い淀むその先を聞きたい気持ちと聞きたくない気持ち。後者が勝った。けれどどこかで答えを察していたのかもしれない。
    「鼠谷は誰よりも優しくて、でも間違いを犯した。……だから、もういいんだよ」
     じゃあな、と短く別れを告げて去って行く。小さな影が人混みに紛れる隙間から、片腕で顔を拭うような仕草を羊田には一瞬だけ見えた。
    (鼠谷君が理想郷を求めてた理由、ようやく分かった)
     誰のことも責められない阿黒の良心が哀れだ。目頭が熱くなる。羊田もその場から駆け出した。きっとこの涙が溢れる顔で彼の元に帰れば酷く心配されるだろう。なのに足は止まらない。

         完



    「ポッキンやるよ」
    「何?」
     狗凱は長い棒状の氷菓をくびれに沿って軽く折り、片方を向ける。それを受け取った羊田だが怪訝な顔をして口をつけようとしない。
    「いやだからポッキン。冷凍庫にあった」
    「これの名前……チューチューだよね」
    「はあ? 冷やしたら固くなってポキッと折れるから『ポッキン』だろうが」
    「でも溶けるのをチューって吸うでしょ。昔は剣獅君も『チューチュー』って呼んでた」
     変な対立が始まる。自分の方が正解だと言い負かす為に二人はスマホを取り出し、ネットで検索した。
     正式名称は「ポリエチレン詰清涼飲料」。

         完



     算数の授業だった。黒板に書いた通りの要領で問題プリントをこなせと課された最中、隣の席から羊田が小声で話しかけてくる。
    「剣獅君、ここが分からなくて……」
     少し恥ずかしそうにプリントを示した。覗き込んだ狗凱は、自分ではすぐ解けたものだったので得意になって教えることにした。
    「こんなの簡単だぜ三角形だろ尖ってるとこは三人兄弟だと思えばいいんだよ毎日牛乳飲む奴が兄貴でさめっちゃくちゃ背が伸びてさそしたらそれ羨ましがった下の弟んーと双子だな片方が羨ましがって半分身長くれって言うからもう片方も協力するから上に乗れって肩車が公式」
    「狗凱君、静かにしなさい」

         完



     街の建築予定場所の目印として置いていた石ころに羊田は躓いて転けそうになる。それを狗凱は寸前の所で受け止めた。
    「大丈夫か?」
    「うん。ありがとう」
    「それ、何だ?」
     怪訝な視線が胸元に向けられる。普段隠している赤い石のネックレスが、大きな動作によって飛び出てしまった。背筋が凍る。彼に、触れさせてはいけない。今は――
    「ただの玩具。小さい時に親戚の人が買ってくれたの。引き出しにあったからちょっと着けてるだけ」
     変に慌てて仕舞わなかっただろうか。妙な弁明になっていないだろうか。「ふーん」と平坦な相槌を打つ狗凱の心情を測ることは出来ないが、羊田は微笑んで取り繕う。

         完



     スナップロードに憧れた。洋画でよく観る、手首を捻った勢いでシリンダーを閉じるあの動き。知ってしまえば単に銃を傷めつけるだけの、現実的には愚かしい行為だ。けれど、カッコイイものはカッコイイ――そのふりをしようと、狗凱は拳銃を持ってみる。予想よりも結構重い。これを片手に持って遠距離にいる相手に対してヘッドショットなど決められるわけがないと思った。それならばと、自分のこめかみに宛てがう。硬い感覚。
     ここなら、確実だ。
    「最期くらいカッコつけても良いよな」
     肯定してくれる見えない存在を側に感じながら一旦銃を下ろし、一発だけの鉛玉を入れる。憧れのスナップロード。
    「約束守れよ。そっちで続き撮るぞ」
     鳴り響く銃声。ばたんと体が倒れ、ごとんと銃が落ちた。そして――時は戻る。狗凱は、そこにいた。禍々しい空の下、母校の庭に立っている。彼らがいる。神がいる。一瞬だけかち合う、彼女との視線。また世界は変わる。望ましいエンドを迎える為に狗凱は歩き出す。

         完



     ほら、と狗凱から口元にピーナッツが宛てがわれ、羊田は自然と食べる。飲み込んでから「いきなり何?」と訝しがるものだから笑ってしまう。
    「餌付け」
    「こんなことで剣獅君に懐いたりしない」
     拗ねた口調で言う。小馬鹿にされた気分らしいが、当然のようにぱくっと食いついた時点で察するものがある。
    「悪かったよ」
     本気の怒りではないと分かるからこそ緩く謝った。その翌日、狗凱は再びピーナッツを取り出す。「メリー」と呼びかけられた羊田は横を向き、口元にある何かを食べた。昨日のことを思い出して恨みがましい目を狗凱へと向ける。
    「餌付け順調だな」
     二度としないとは言っていない。

         完



    「豊基君、もうすぐ帰ってくるよ」
     羊田のささやかな宣告に一瞬でも喜びを感じてしまった己が呪わしい。泳いだ視線。こいつにだけは悟られまいと、猫山は長年積み重ねてきた憎悪を意識した。
    「そうか。だったらお前も依代らしく心構えはしておけ」
    「猫山君のこと覚えてる」
     空気がひやりとした。普段と変わらない態度の羊田とは裏腹に、この速まるばかりの心音が室内に響いているのではないかという不安に苛まれる。そして、結局星空を見ていた頃の幼さを曝け出す。
    「覚えてるだって? ふざけるな! あいつは俺を忘れたんだ、裏切ったんだ! ……覚えてるわけない」
    「でも」
    「黙れ!」
     乱暴にドアを開け閉めして去る背中を羊田は見送り、小さく息を吐く。いつまでも愛して止まない彼を憎む猫山の理想が哀れで、少し羨ましかった。怪獣の理想が叶う時、そこにヒーローはいないから。
    「剣獅君、私のこと覚えてる? 私はね、神様が許してくれる間はずっと剣獅君のこと考えてるよ……」

         完



     今日も豊基は牛乳芸を見せつけ、新技だと言って失敗する。毎度馬鹿馬鹿しいのに笑いが止まらない猫山の呼吸に、ひっく、と引きつりが混ざり始めた。
    「あーもう、お前のせいだぞ」
     しゃっくりを誤魔化そうと咳払いする。小恥ずかしい。
    「百回目に死ぬって言うよな。数えるか」
     収まるまでにありがちな雑談で繋げようとした。豊基も軽く笑って付き合ってくれるだろうと。けれど猫山の見当は外れた。
    「や、やだよ! 死ぬな!」
    「え? いや迷信だって」
    「知ってるけど、迷信でもさ……お前が死ぬとか考えたくない……」
     おふざけが生きがいのような男の悲痛な顔が愛しくて、引きつる呼吸のまま謝った。

         完



     両親が怒鳴り合う声。猪岡は家を抜け出す。「喧嘩は良くないよ」と幼いながらに宥めようとした頃もある。けれど「子供は黙っていろ!」と父からビンタを食らい、同じように父親から叩かれて泣いている母を慰めようとしたら「子供に何が分かるの!」と突き飛ばされた時、猪岡は諦めた。そして、自分は弱い子供で、強い親には勝てず、順列があるのだと知った。
     それなら自分よりも弱い生き物だっているはずだ。何にも勝てないのは悔しい――探してみると勿論いる。例えば、雑草が生い茂って人目につかない河川敷。薄暗い橋の下なんかには蛙や芋虫が潜んでいて、簡単に捕まえられた。踏み潰す。叩きつける。川に放り投げる。それらは呆気なく死ぬ。強い自分を認める度に猪岡はどんどん勝利を求めた。手の平サイズでは物足りない、例えば野良猫でもいれば――
    「あ……猪岡君?」
     茂みの向こうから聞こえた声に少しびくついて見てみれば、小動物らしい顔立ちの同級生がいた。鼠谷だ。いかにも弱々しい見た目と声。あまり関わったことがないので、ここでしっかり向き合うと改めてやせ細った生き物だと思った。
    「ここで遊んでるの? もしかして何か探してる、とか」
     おずおずと顔色を窺う態度が苛立たしい。そんな様を晒せば舐められるだけなのに。自分が親なら引っ叩きたくなる。
    「実は僕、この辺で――」
    「ああ。お前みたいな弱っちいのを探してたんだ」
     猪岡の中で、自分と鼠谷との順列が決まった。

         完



     狗凱は真夏の夕方に帰宅した。ベランダの窓を開き、古いクーラーを点けて熱を逃がすことが第一の作業だった。それから煙草を咥え、ただの民家や商店がひしめく裏通りをアパートの二階から眺める。自販機の前に佇む二人の子供が目についた。ジュースを飲みながら、お互いに持つ虫かごを見せ合って賑やかに喋っている。ジジジと不快に響く蝉の声。
    (小学生か。夏休みだもんな)
     虫を嬉々として触れる様に嫌悪感が湧く。それなら室温を堪えて部屋に戻ればいいのに、何故か子供達の光景を見ていたかった。懐かしく、羨ましい。自分にも、あんな風に無邪気な子供時代があったはずだと夢を見る。ガラクタの前に女の子が待っている姿が、何故かいつも過る。
    (俺の隣に誰かがいた。虫取りとか川遊びとかしてた覚えは無いけど、ずっと一緒に遊んでた。何か、約束したよな。俺達は……)
     ぽろりと燃え滓が落ちたところで慌てて灰皿に向けた。騒がしく空き缶がごみ箱に捨てられ、見れば子供達は駆け足で別々の道へと去っていく。明日も遊ぼうと、当たり前のような約束を大声で交わす。
     狗凱は溜め息を吐き、乱雑に窓を閉めて部屋へと戻る。また未完成で終わってしまう、独りでは何も埋められない空っぽなヒーロー映画のシナリオを書かなければ。
     部屋は変わらず蒸し暑い。苛立たしい。

         完



     皆が太陽だけを見上げ、咲き誇る向日葵畑。鼠谷の両親がうちの子の友人だからと、阿黒をも連れてH県を跨ぐ名所まで訪れた。初めて目にした黄色の群衆に、阿黒は胸いっぱいになって声を上げた。
    「凄い! こんな向日葵畑なんて本当にあるんだ! 本とかアニメでしか見たことないからびっくり!」
     阿黒の素直な感動っぷりに鼠谷は嬉しくなった。小さな家族旅行のように何度か足を運んだこの場所も、大切な友達が隣にいるというだけで鼠谷にとっても新鮮な光景になる。目の届く範囲までなら二人だけで見て周っても良いと許可を貰い、向日葵の合間に作られた道をゆっくりと歩き出す。
    「ヤット君と来られて良かったよ」
    「僕の方こそありがとう。夏休みの絵日記は決まりだね」
     くすくすと笑い合ったが、次第に鼠谷の顔は寂しげな影を落とす。両親には会話が届かない距離にいるのに、口を開いて出た声は一層小さなものだった。
    「本当はサブローも連れてきたかったんだ」
     出かける前に餌と水を与え、明日は三人でずっと遊ぼうと約束した。ワンと高らかに返事をした野良犬のサブローの姿が過る。阿黒も頷き、頭の中に夢幻の夏を描いた。
    「それなら河川敷に咲いてほしいな。きっと綺麗だよね、何だか御伽噺に出てくる理想郷みたい」
     友の言葉が鼠谷の全てだった。

         完



     割り箸とたこ糸で作った粗末な釣り竿が揺れ始めたので引き上げると、水面に現れたのはザリガニだった。豊基は得意げに「三匹目ゲット〜」とバケツに放り込む。隣には同じ釣り竿を持つ猫山もいるがバケツは空だった。
    「イッツG……こんな薄汚い川なんてザリガニかブルーギルくらいしかいないだろ。というかこんな玩具じゃブルーギルすら釣れないぞ」
    「だからさー、このザリガニ釣りこそ醍醐味なの! レベルが違うお坊ちゃんには分からないってか? え?」
     わざとらしく煽ってくる豊基に猫山は苦笑いを返す。聞けばザリガニを食べるとのこと。この泥臭くて生臭くて雑食で繁殖力のある、特定外来生物と見なされる日も近いであろうアメリカザリガニだが、豊基の人脈の一つにいる「公園のおじさん達」からの助言によると、下処理すれば立派な食材になるらしい。つまり今の自分は友人の家の晩飯が豊かなものになるように、食材調達を手伝わされている真っ最中なのだ。
     ゆっくりまったり時は流れる。何気無く釣り竿を揺らすが、浅い割には底が見えない水中では何がどうなっているか分からない。
    (馬鹿みたいだ。一匹も釣れない。しかもザリガニを食うって)
     横目で窺えば、呑気に「おーい」と水面に呼びかける豊基がいる。本当にどこまでもマイペースな男だった。
    (俺は、お前が羨ましいよ)
     飽きたから帰る。つまらないから帰る。くだらないから帰る。汚らわしいから帰る。お前といるのが嫌だから帰る――心にもないことを叫べたら、どんなに楽だろうか。
    「猫山! 今ぐいぐい来てんじゃんか、ほら!」
    「あ、ああ。どうすればいい?」
    「スイーっと上げろ。スイーっとな」

         完



     ふと目を覚ますと丘から見渡す夕日は綺麗だった。そして自分が目覚めれば二人きりのベンチに座る隣の片割れも目覚める。また意識が遠退くまで雑談する。
    「私が側にいること、もっと早く気付いてほしかった」
     羊田は悪戯っぽく狗凱を責めた。その口調から本気で蒸し返すつもりは無いと分かっているが、狗凱はムッとした。だからお返しに同じ程度の子供じみた言い訳をする。
    「はいはい悪かった。どっかの誰かさんのせいでそれどころじゃなかったんでな」
     今となっては諦めた、覆らない話。だから二人は笑える思い出話のように触れる。
    「怒った剣獅君見たの初めてだった。怖かった」
    「そうか」
    「私の分まで怒ってくれてありがとう」
     羊田は微笑む。あの時の怒りの源が伝わっているのなら――どんな理由で己の理想を取り戻すことしか頭に無かった身勝手と、今やこの場所が自分の、自分達の理想郷でもいいとさえ思う身勝手が、伝わっているだろう。それに、羊田の心は狗凱に伝わっている。
     短く言葉を交わすと緩やかな眠気が来た。二人は手を繋ぎ、目配せをしてそれに身を任せることにした。次の目覚めは五分後かもしれないし、三時間後かもしれないし、明日かもしれないし、一年後かもしれないし、五十年後かもしれない。分からないけれど、何度でも繰り返そう、二人だけの夕暮れを。

         完



    「あ、アタリ!」
     棒付きアイスを半分食べた所で鼠谷が声を弾ませた。隣の阿黒もつられて笑顔になる。
    「良かったね。後でまたお店に行こうよ」
    「でも、僕だけもう一個食べるのは……」
     気が引けるらしい。鼠谷の底無しの優しさに阿黒は苦笑する。それならと何か思いついてアイスを一気に口に含んだ。
    「あ、僕もアタリだ」
    「ホント!?」
    「一緒だね。ほら、行こう!」
     まだアイスを食べる途中で慌てる鼠谷の手を引き、駆け出した。阿黒は棒を見せはしなかった。本当は何も書かれていない。無理矢理にでも現地で交換を済ませば事は終える。優しい彼のことだから、自分の優しさも理解してくれるだろう。

         完



    「じゃあ早速だけど読み聞かせしてあげるから」
    「何が早速なんだ!?」
     子供向けの教本を持って病室に入ってきた豊基に猫山は声を上げた。塞がったばかりの傷口が疼く。軽く呻くと他人事のように能天気な声で「大丈夫ー?」と心配される。ああもう、憎らしい。
    「帰れ。読み聞かせなんて望んでない」
    「ほら、古本屋で見っけてさ。子供の頃俺らが読んだやつじゃない? これで隕石の構造知ったよねー」
    「話聞けよ!」
    「お前が拝聴しろ」
    「何で謙譲語なんだよホントお前腹立つ……」
     猫山はぶつぶつ言いながらぷいと顔を背けてしまった。だが、それ以上の反抗はしないということを豊基は知っている。もう何回目の茶番だろう。さっさと素直になればいいものを――こほんと切り替える為の咳払いをして本を捲り、口を開く。かつて河川敷で友と星を見て浮かれてた頃の、子供っぽい雰囲気で懐かしい文章を読み上げる。
     猫山は耳を塞げない。好きな物語だ。好きな声だ。今日も啜り泣きながら聞き入る。

         完



     鼠谷が「こっちの世界」にいるかもしれないという期待を抱いてしまった報いなのだろうか――薄れゆく意識の中、阿黒は思った。激痛に苛まれる体に何とか力を入れ、視線だけでも前に向ける。二人は今も馬場と戦っている。それぞれ大切な人を取り戻す為に。
     一緒に生きていく選択肢が彼らにはある。羨ましかった。我慢していた。自分の理想は何も叶わなかった。冷たい機体同士で抱き合った時、心は温かくなった。二人が知るはずもない、泣きたくなるような感覚だった。だから――
    (帰りたくない……)
     吹っ切れたと言い聞かせておきながら己の理想は死の先にあるのだと夢見て止まず、阿黒は密やかに微笑を浮かべた。

         完



    「剣獅君の分からず屋!」
    「理解出来ないメリーがおかしいんだよ!」
     ぎゃあぎゃあ言い合う二人を阿黒と豊基はこっそり覗く。
    「へえー、あの二人も喧嘩するんだ。おっどろき」豊基は呑気に面白がり、阿黒は溜め息を吐く。
    「目玉焼きにかけるのは塩かマヨネーズかで揉め始めたんだぞ。馬鹿馬鹿しい……」
    「小四で時が止まってそう」
     小さくやり取りする間にも狗凱は「お前マジでセンスねえからな!」と吠え、羊田は「玉子割る度に殻を粉々にぶちまける不器用な剣獅君に言われたくない!」と的確にSSAを発症させるような台詞を放つ。ぐぬぬと明らかに狗凱の腰が引けた。
     遠い目をする阿黒の横で豊基が張り切って胸を叩いた。
    「よし! 正直観察続けても飽きないけど恋の行方が気になるから取り持ってあげるか」
    「いや、別にあいつらは恋とかじゃ……」
     阿黒の言葉を無視して豊基は子供じみた喧嘩を繰り広げる二人の前に立つ。流石に狗凱と羊田の視線はそちらへと向いた。
     ひょいと豊基は狗凱の肩を組んだ。「カントクの意見に大賛成~」
    「おい、スメル……」
    「羊ちゃ〜ん、塩は無いよ、無い無い無い。やっぱマヨネーズ。玉子とマヨネーズの相性は世界一でしょ。そりゃあカントクもご立腹にもなるよね。センス、無し!」
     ぺらぺらと軽口を叩いた瞬間、狗凱の目付きが静かな怒りで鋭くなる。
    「おいイッツG! お前な言って良いことと悪いことがあるだろうがそこまで言う必要ないだろ別に俺はマヨネーズを押しつけたかったわけじゃねえただメリーにちょっと食ってほしかったんだ共感してほしかったんだ玉子割るの下手なのは事実だし俺のセンスを分かってくれるのはメリーだけで充分だしメリーのセンスを審査出来るのは俺だけだ!」
     狗凱の唸り声はヒートアップして羊田から豊基に行き、狗凱の本心を知った顔を赤くした羊田は狗凱を宥める方向に走り、相変わらず豊基はぎゃんぎゃん吠えられながらもへらへらしている。
     その光景を見守るばかりの阿黒は、ぽつりと言った。
    「……ヒーローはお前だよ、イッツG」

         完



    「ヤット君、大丈夫……?」
     八の字の眉は普段よりも垂れ下がる。心配されているヤットの方が顔色は明るく、鼠谷が滅入らないようにしっかりと頷いた。
    「ちょっと足首を捻っただけだよ。僕がドジなんだ」
     体育の授業では跳び箱に挑む時期だった。阿黒も真面目に取り組むが助走のつけ方がいまいちで、無理に飛び越えたものの着地に失敗してマットの上でかなり転んでしまった。片足に巻かれた包帯がその証だ。体育は五時間目に行われた為、下校もすぐという頃合いもあり、軽い捻挫でも念の為にと先生が阿黒の母に連絡を入れ、迎えが来ることになっている。
     つまり、今日の帰りはばらばらになる。
    「鼠谷君、サブローのことは……」
    「僕がちゃんとお世話する。ヤット君は家でゆっくり休んで」
    「……うん」
     猪岡はしめしめと河川敷に来るだろうし、一人でサブローを守ろうと痛めつけられるその姿が目に浮かぶ。対照的に今度は鼠谷の顔付きが虚勢でも明るくなり、阿黒は悔しさや悲しさで薄暗くなった。「それじゃあまた明日!」と鼠谷は元気に手を振って保健室を出て行く。
     残された阿黒は溜め息を吐いた。「僕は弱い。運動神経だって悪い。僕のせいで……」足首を撫でながら独り言をこぼす。
    「鼠谷君もサブローも傷付く。だから僕が強くならなきゃいけないんだ」
     そして、二人を守れるようになれたなら――阿黒は鼠谷の強さをまだ知らない。

         完



     心霊番組が放送される夏。怖がりのくせに狗凱が観ようと言い出した。「観たい」ではなく「観よう」と。
    「こんなのどうせヤラセっつーか雑な加工入れただけじゃんでもまあ映像作品の一部だしさなんか参考とかになるだろだか」長い弁明を羊田は途中から聞き流した。いわゆる怖いもの見たさである。けれど一人で観るのは怖いから側にいろ――そう素直に吐くのは嫌だと。羊田は彼の面倒臭さに内心少し笑って了承した。恐らく本人も面白がられていると分かっているだろうに。
     早速テレビを点ける。形は違えど二人は随分前から映像業界に関わってきた身なので、確かにその内容はありきたりな作り物だと分かる。陰影は薄い方が怖い気がするとか切り抜きが下手とか思いながら羊田は観ていた。宇宙的恐怖を背負ってきた身にとっては茶番でしかない。
     だから、隣で呻き声を出しながら自分の腕にしがみついてくる巨体の男の純粋な感受性がむしろ輝いているようだった。
    「お、おい……メリー」
    「何?」
    「起きてるよな。寝るなよマジで。観ようって言ったもんな。お前も観たかったんだろ」
    「うん」多分五分後には眠気にやられてしまうが。
    「ねえ、悪霊をぶん殴って倒すヒーロー映画とか面白そう」
    「えぇ……」
     B級間違い無しの絵面に狗凱は困惑する。何とかインスピレーションを働かせる前に羊田は寝ていた。

         完



    「豊基。お前に託さねばならない話がある」
    「ほーい。何ですか?」
     神妙な面持ちの猿渡の前でも豊基は変わらずお調子者だった。猿渡の隣に佇む羊田は表情を変えない。茫洋と佇む彼女の姿を豊基は気にしたことがあまり無い。「そういうもの」だと思っていたのだ。今、視聴覚室にいるのは三人だけ。
    「お前は朗読会の中で誰よりも優秀だ。だから特別に話す」
     ふと猿渡の視線は赤い石に向いた。幼い教え子には目もくれない、己の理想の為に子供を利用する大人の眼差し。
    「赤い石を持つ彼女が神のお告げを聞ける存在であることは皆に話したな。だが、赤い石の重要性はもう一つある。これは神を宿す彼女の象徴とも言える。もしも神の影が現れた時にこれを壊せば、彼女は死ぬ」
     だから決してそうはさせぬようにと、深く低い声で念を押す。猿渡は理想の為なら真実でも虚実でも織り交ぜた。
     言い聞かせられた豊基はどこかぽかんとしていた。まるで現実味が無く、大事とは思っていないように。ただ何となく思いついた。
    「守れってことですか?」
    「ああ。彼女を守れ。女の子だからな」
     そこで羊田の手がぴくりとした瞬間を豊基は見た。どうしてか、それだけの身動ぎが印象に残る。
     話は終わり、帰りなさいと視聴覚室を出された二人は夕暮れの廊下を歩く。珍しい組み合わせだなと豊基は他人事のように思う。彼女は神の声を聞く大切な存在だから、同じ朗読会メンバーでもあまり近付かないようにと釘を刺されていた。が、同級生のヒーローごっこ大好き男子とはかなり親しい気がする。
    「豊基君は」
    「えっ?」
    「私、守られなきゃいけないと思う?」
     唐突に話しかけられた驚きが大きかったが、とりあえずありのままに答えることにした。
    「そうじゃないの? 神様の声が聞こえる特別な女の子だし。先生も言ってたじゃん」
    「……そっか」
    「あ、俺先に帰るね。夜から用事あってさ準備しないと。バーイ!」
     慌ただしく駆けて行く豊基に軽く手を振って見送り、ふと河川敷の方角の窓を眺めた。
    (剣獅君なら、一緒に戦おうって言ってくれるよね)

         完



    「やあ、鳥川君。初仕事だね」
    「は、はい!」
     本来こんな油と煤と鉄臭さに満ちた所に来る必要の無い統治者が、就任祝いかのように二体のロボットと共に訪れた。統治者たる馬場に侍る隣のロボットが、抱えていたもう一体を地面に落とす。関節がねじ曲がり、手足の指先が欠け、モニターは真っ暗どころかひび割れで無惨な姿をしていた。
     鳥川は薄ら寒くなった。この世で馬場の配下として動く鉄の塊がかつて何だったのか、鳥川は知っている。
    「彼女をお願いするよ。と言っても、ちょっと遊びすぎちゃってね。使える所は無いかもしれないんだ。適当にばらしておいて」
    「分かりました」一瞬の迷いも見せずに了承する。それが生き残る術。
     額から汗が垂れるのは工場内の熱気のせいだ――疑問を抱くこと自体が罪だとしても考えざるを得なかった。「彼女」という三人称。就いた仕事場には人間の失敗作が運ばれ、転がっているだけ。性別などどうでもいい。なのに、この世の統治者である彼が、まるでロボットを玩具にしか思っていないような彼が、優しげな眼差しでこれほど酷く鉄屑にまで壊しておきながら、大切なものとして扱っている気がした。
     顔を上げると馬場は既にいない。馬場に三人称の意図を問いたい気持ちもあったが、己の立場と比べれば結局聞き間違いとするしかないのだ。違和感を消し去りたくて早速残された鉄屑に手を伸ばす。
     ああは言った馬場だが、もしかしたらどこかに使えるものが――一際目立つ損傷部、胸の中心。べたつくオイルに指で触れた瞬間、その機体のモニターがちかちかと点滅する。
     鳥川は後退り、声も出せずに驚いた。ここまで破壊されているのに起動するなど信じられない。だが、鳥川の前でその鉄屑は――彼女は、胸の中から覗く全ての動力源を淡く光らせた。
    「……ここ……ガラ……の……?……がう……よね……でも……わた……し……んし、君、来て……んじてるか……ら……」
     ノイズ塗れの音声が一分もしないうちに終了する。それだけだった。鳥川は震える手で動かない動力源を拾う。
    「あんた……随分派手にやられたな。死んだくせに、まだ生きてるみたいだ。どうしてそこまで……」
     ある意味馬場にも似た、執着のような感情を見た。もしかすると同じ存在への執着か――考えすぎだと自嘲しながらも鳥川はパーツをポケットに仕舞い込む。生き甲斐を求めて這い上がってきた執着の証として。

         完



     汗を洗い流して部屋に戻り、何となくテレビを点ける。高校球児達の一戦が行われていた。真夏の日差しを浴びて火傷と言える日焼けが惨い子供達の図に狗凱は眉をひそめ、消した。
    (あいつら、子供なんだよな)
     野球など興味は無い。けれど大会があることくらいは知っている。かつて自分が誰かとガラクタの街で遊んでいた頃、たまに目につくテレビ中継の高校球児達はとても大人びて見えた気がする。いつか自分もああなるのだろうと気楽に考えていたものだ。実際は背丈が伸びるばかりで、中には何も詰まらなかった。オトナの世界が目前で、急き立てられ、呑まれまいと突っぱねる日々だった。
    (形式通りにこなして進むってめちゃくちゃ退屈なんだよな。同じもんばっか並ぶ。大人が審査するのに楽だから。でも、俺が昔から作りたい映画は……)
     せっかくシャワーを浴びてさっぱりしたというのに気怠くなる。こうなったら冷蔵庫から冷えたビールを取り出そうと立ち上がった時、乱雑に破かれてテーブルの下に放置していた封筒の束が視界に入った。狗凱は深く溜め息を吐いて手に取る。中身は全て読んだ。同じ内容、同じ結果が書かれているだけ。両手でその通知書を一纏めにしてぐしゃりと丸める。
    「ガラクタ積み上げるだけだった頃に戻りてえよ」
     叶わぬ淡い子供時代に縋る。

         完



    「カントク〜」
    「な、何をする気だー!」
     にこにこしながら抱擁を繰り出す豊基から狗凱は今日も逃げられない。飯がどうのこうのと騒ぎ合う二人を羊田と阿黒は離れて眺める。
    「羊田は知らないかもしれないが、あれは強烈なんだ。昏倒どころかむしろ覚醒する……」
    「そう? 寂しがり屋で可愛いなって思うけど。私達に甘えたいんだろうね」
    「……え?」
     その言い方はまさか、羊田もあの抱擁を、しかも平気で――深入りしたい気持ちを阿黒は抑え込む。真実を知ってしまったら豊基側に加担したことになりかねない。
     後日羊田にくっつく豊基を発見した狗凱は、どこからともなく取り出した鞭で成敗した。

         完



    「そろそろ自由研究始めようよ」
     羊田の誘いに狗凱は頷いたものの迷っていた。夏休みの宿題の一つ、自分研究。研究という名の工作を二人で共同制作するのだが、問題は何を作るかという候補が有り余ること。貯金箱。ちぎり絵。小物入れ。ペーパークラフト。二人の手にかかれば簡単で安直でつまらない。大体狗凱はこれまで一人で山ほど作ってきた。
    「メリーは何か作りたいもんあるか?」
    「私?」
    「メリーの……えーと……イン、ピ……ローション? 働かせてくれよ」
    「何?」
    「お題出せ、お題」
     よく分からない横文字のような言葉は無かったことにされた。羊田はふと考える。二人で当たり前に過ごしてきたせいか少し忘れていた。彼とは小四に出会ったばかりで、何も知らない彼に己の死を託し、そしていつか自分達には別れの時が来る。それなら――理想郷の中で生きる自分達の思い出が一つでも欲しい。
    「箱庭がいい。箱庭の中で一緒にいる私達を作りたい」
    「お、いいじゃんそれ。センスあるぜ」狗凱は無邪気に顔を明るくさせた。
    「じゃあ明日材料揃えまくって、それから箱庭の土台作りな」
    「分かった。どんな風に河川敷を再現するの?」
    「河川敷じゃなくて別のとこにしたい」
     しれっと言われ、羊田は戸惑った。自分達の特別な場所は、出会いを果たした河川敷が最もだと思っていたのに。だが狗凱は「メリーもそこにいてほしいんだよ」とむず痒そうにこぼした。
    「そこな、メリーと会う前に一回しか行ったことないけど、夕日がすげー綺麗な丘でさ。俺の好きな怪獣映画のロケ地だったんだ。絵は描いたけど俺しかいないし、今から作る箱庭ならメリーもいてくれるだろ。だから、さ……」一方的なくせにちょっと様子を窺う視線が羊田に向けられる。
    「その場所、剣獅君にとって大切なんだね」
    「ああ。意味のある場所だ」
     羊田は嬉しくなって頷く。彼だけが抱える思い出に、自分は特別に浸れる許しを得たのだ。どんなに美しい夕日が待っているのだろうか。
    「大人になったら一緒に行こうぜ。つーかそこで映画撮るからな!」

         完



    「俺はお前を許す」
     はっきりとした阿黒の声が静かな病室の沈黙を破った。ベッドに座る猫山は目を逸らしたまま「許される道理も価値も無いよ」とこぼす。
    「俺は鼠谷の理想を利用した。あいつは自分がどれだけの罪を犯してきたか気付いてなかった。俺は最初から分かってたのに、あいつを止める気なんか微塵も無かった。だから、俺が許されるなんて……お前に許されるなんておかしいだろ」
    「当たり前だ」
     ぶわりと放たれる空気はドライアイスのようだった。ここは病院で、相手は胸の傷が塞がったばかりの入院患者。阿黒はそれを意識し、屹然と佇むことが出来た。そして、涙を我慢することも。
    「本気で殺そうと思った。何なら今だってやろうと思えばやれる。……でも、もう終わったんだ。鼠谷は帰ってこない。それなら俺の中にいるあいつには笑ったままでいてほしい。お前への憎しみを断ち切らないと鼠谷との思い出が曇ってしまうんだ。だから、猫山を許す」
     あまりにも凛々しい口調で名を呼ばれ、つい目を向けた。真っ直ぐな視線とかち合う。ああ、とせり上がってくる重苦しい感情と共に猫山は頷いた。俯き、震え、何度も。
     病室を出た阿黒を待っていたのは、へにゃりと緩い顔付きで牛乳を飲む豊基だった。
    「お疲れ」
    「猫山が泣いてたら慰めてやってくれ」
    「え、もう行くの」
    「仕事があるんでな」
     一人と一匹の墓参りは済ませた。故郷を経つ。豊基は、足早に去る阿黒の小さな背中を見送るしかない――それが、ふと立ち止まる。
    「俺は猫山を許した。もし今度あいつが誰かに苦しめられた時は、誰かの理想の為に利用された時は、許した人間の責任としてあいつを助ける」それだけ告げ、速い歩みが再開された。
    「……ヤット、抱え込んじゃ駄目だよ。猫山と同じになっちゃうじゃんか」
     その慰めが阿黒に届くとは思えなかったが、言わずにはいられなかった。
     ――阿黒は、本当は知っていた。猫山を許した今、彼は敵ではない。彼を敵視し続けていればどれだけ楽だったか。吹っ切れるということは、真の罪人と向き合うこと。自分だ。自分達の為の理想郷を追い求める鼠谷の残酷な無邪気さに気付けなかった、己の不甲斐なさ。許し方が分からない。
     豊基はどんな風に自分と猫山を許すのだろう。狗凱はどんな風に自分と羊田を許すのだろう。
    (俺は……どうやって自分と鼠谷を許せばいいんだろうな)

         完



    「おいイッツG、全然釣れないじゃん。どこが穴場なんだよ」
     猫山は呆れて溜め息を吐く。ちゃぽんと海中から竿を上げてみれば、ユムシは一口も齧られていないことを確認する。新しいユムシを針に仕掛ける猫山の隣では、ビーチベッドの上で呑気にビールを飲む豊基がいる。釣りに行こうと言い出した張本人のくせにほとんど竿に触れていない。
    「いやいや、穴場なんだってば。ホントよ? あ、でもシーズンじゃなかったかもなー」
    「お前……」
     本当にマイペースで腹立たしくて好きな男だ。豊基は最初から釣りをする気など無く、猫山と共に過ごす何気無い時間を作るのが目的だったのだ。
    (子供の頃、河川敷でザリガニ釣りしたっけ。今と違ってまだ汚い川だったな。あの時もこいつに付き合わされたんだ。確か夕飯にするとか言って……)
     語り合った理想は忘れてしまっても、それ以外の全ては覚えているのだと言外に示す。
     この時間は……彼なりの贖罪なのだろうか。
    「猫山」
    「何だよ」
    「またどっか二人で行きたいなあ」ぽつりと言い、猫山を見る眼差しは優しかった。
    「夢でも幻でもいいから」
     不意に、最早人として緩まぬ涙腺を思い出した。

         完



     二人は河川敷で街を築く真っ最中のこと。
    「ギャッ」
     短く一驚の声を出した狗凱に羊田は「どうしたの?」と問う。ぷるぷる震える指先が羊田の頭に向けられた。
    「と、止まってる。トンボ」
    「気付かなかった」
     それだけ言って針金をぐにぐに曲げる作業を再開する。何ともない顔をする羊田が信じられない。
    「そいつあっちにやれよ……」
    「別にいい。そのうち離れると思う。休憩してるだけだろうから」
     メリーの頭を休憩場にすんな、と狗凱は心の中で舌打ちした。そのやり取りを経てから夕方が訪れるまで二人は細かい作業に励み、ついに立ち上がって帰り支度を始めた。帰り道は途中まで同じなので、まだ遊び足りない気持ちをゆっくりと歩いて会話で誤魔化す。
     だが、いい加減狗凱は我慢出来なくなった
    「メリー」
    「ん?」
    「まだトンボついてんぞ! こいついつまで休憩してんだよ! 全然離れねーじゃんか!」
    「じゃあ剣獅君が取って」
    「えっ」振られて狗凱は口篭る。虫は苦手だ。気持ち悪くて怖い……。
     羊田はくすりと笑った。彼の虫嫌いを知っている。その反応が見たかっただけだ。流石にずっとトンボがいるとは思わなかったが。
    「わ、分かった! 取ってやる!」
     すると予想外の反応が来た。どうやら羊田の魂胆を見抜いたらしく、負けず嫌いが発動した。震える腕を羊田の頭に伸ばす――ふわりと不自然な気配を感じ取ったトンボはすぐさま飛び立った。一瞬指先に触れた羽ばたく薄い羽根を、狗凱はしっかりと感じ取ってしまった。その場にしゃがみ込んで情けなく唸る。この姿まで見ると羊田も戸惑う。
    「ごめん。……怒った?」
    「怒ってねーけど、カッコ悪いじゃん」
    「そんなことない」
    「でもメリーは平気だろ? 凄いよな」
    「私にも怖いものはあるよ。剣獅君が側にいてくれるから平気なの」
    「ふーん」
     素直に言われたら満更でもない顔色に戻る。分かれ道に着き、二人は別々の自宅を目指す。
     一人の帰路、羊田は最後まで言えなかったことを悔やむ。
    (剣獅君の背中、ずっとセミが引っついてる)

         完



     二人でスイカを食べている。しゃりしゃりとリズム良く口元を濡らすうちに狗凱の方が一瞬肩を大きく跳ね上がらせて停止した。不思議がった羊田がそっと名前を呼ぶと何とか再起動してみせた。が、冷えたスイカを食べたせいではないだろう、やたら顔色が青ざめている。
    「メリー」縋るように、恐る恐る口を開いた。
    「どうしたの?」
    「ヤバい。種、飲み込んじまった……」
    「え?」
    「種飲んだら胃の中でスイカ育つって言うよな!? どーしよ!? 病院行かなきゃなんねーの!? うわー!」
     それは完全なる俗説だ。しかし本人は至って真面目らしい。パニックでわあわあと喚く彼の為にとにかく何か慰めの言葉をかけなければと、羊田は少し迷ってから言った。
    「えっと……私が食べてあげるから大丈夫だよ」
    「こえーよ!」

         完



    「スイカうんめぇ〜!」
     猫山が自宅から持ってきた一玉のそれは六切れとなり、そのうちの半分を豊基が種も構わず味わった。
    「見てて気持ち良い食いっぷりだな」猫山は苦笑する。正直一切れだけで満足だった。
    「まだ余ってるから明日やるよ」
    「え? ホント? サンキュー! 猫山ってば良い奴!」
     調子の良さに呆れつつレジ袋に自分が食べたスイカの皮を投げ入れようとした。が、「あ、待って!」という豊基の制止によって躊躇いが生じた。
    「それ貰うから」
    「別に生ごみくらい俺が処分しておくよ」
    「いーや、違うね。これは食材」
    「はあ?」
    「漬物に最適なんだぜ。きゅうりの浅漬けみたいになんの」
    「そ、そうなのか?」
     時々豊基の価値観に驚かされる。彼といると、自分の暮らしとはきっと一生関わりの無かったはずものと出会うのだ。例えば、自分にとっては汚い生ごみが一品料理になるとか。
    「洗って干して塩と酢があればオッケー。完成したらお礼にお前にも食わせてやるよ」
    「ああ。ありがとな」

         完



     小さな公園で開かれる小さな夏祭り。それでも子供の視点からすれば煌びやかな出店に溢れていた。
    「鼠谷君! 見て見て、あっちに金魚掬いがあるよ!」
     指で示しながら無邪気に浮つく阿黒とは裏腹に、鼠谷は困り顔で曖昧な相槌を打つ。その顔色を見れば、とてもじゃないが「やろうよ」とは誘えない。
     阿黒の楽しみを害するだろう、それでも言いたい。恐る恐ると鼠谷は口を開いた。
    「金魚掬いの金魚達は無闇に繁殖させられたり、病気を持ってて弱くて、どうせすぐ死んじゃうからって安売りされてるんだ。ここでも売れ残ったら……」
     口篭る鼠谷に阿黒も行き着く先は一つなのだと察する。人間って、勝手だよね――悲しみを帯びたあの言葉が心の中で伝わってきた気がした。
    「ごめんね、ヤット君。せっかくのお祭りなのに」
    「ううん。僕、知らなかったよ。教えてくれてありがとう。誰も誰かを傷付けない、生き物達が安心して暮らせる優しい世界になったらいいよね」
     友の共感を得る度に鼠谷は勇気づけられた。自分が目指すものは、夢見る理想郷の存在は、間違っていないのだと。

         完



    「海、綺麗だね」
    「そうだな」
     潮風の中を二人で歩く。サンダルを履く羊田の足は波打ち際を好み、狗凱は少し離れて斜め後ろから着いていく。橙色に光る水面が彼女の背中をより寂しく、美しく引き立てる。
    「小波でも気を抜いてたら持ってかれるからな。気をつけろ」
    「だったら側にいてよ」
     ほら、と手を伸ばされる。振り返って見せつけられた幼い笑顔。コートや靴が汚れるのは嫌だが、無邪気な企みを拒める気もしない。仕方ないと近寄ろうとした瞬間、意識が何かに誘われたように羊田の目が海の向こうへと移った。見つめたのだ、果ての果てを。
    「おい、メリー」
    「え?」
    「急にどうした」
    「夕日が綺麗だから、つい」
    「本当のこと言え」
    「……呼ばれた気がして」
     あっさり折れた羊田は白い手袋を待っていた手を引っ込め、不安げに狗凱の肩へと自ら寄りかかってきた。狗凱は彼女の艶やかな髪を撫でる。
    「責任は取る。お前が耐えられなくなっちまった時は、二人で……」
    「ありがとう、剣獅君」
     手を繋ぎ合っていれば、きっと海も温かいだろう。

         完



     暑い。次から次へと額から汗の粒が浮かび上がり、揺れる度に胸元まで垂れていく。息を吸うと熱気で肺が満たされる。息を吐けば脳内が霞む。力み過ぎて細い腰を支える狗凱の手が思わず滑り、不安定になる瞬間に羊田は自ら太い首に腕を回した。
    「クーラー点けてよ」
     訴えは恨めしく、息苦しい。しかしそれはお互い様だ。
    「お前がリモコン蹴っ飛ばしたから止まったんだろうが」
    「それは剣獅君が変な風に動くせいで……」
    「よしじゃあ自分で降りてリモコン探せ」
     いかにも意地悪な物言いをする。羊田がしがみついてくるおかげですっかり両手は自由だ。ぺしぺしと尻を軽く叩いて促してみる。
     羊田は知っている。ここで素直に狗凱の膝から降りれば、リモコンを見つけた途端に別の姿勢へと変えられてしまうだろう。それを少し期待している――ということを見透かされているだろう。だから意固地になって首を横に振った。
    「早く終わらせる方がいい」
    「シャワー浴びたいしな」
     悪戯っぽく笑い合う、白々しい会話だ。

         完



     この世界にはヒグラシがいない。整えられた衣食住の世界にそんなものは不要だからだ。
     けれど、この一室では鳴いていた。橙色に染め上げた天井。薄汚れた川が流れる壁。ガラクタを撒き散らした床。統治者の馬場はこの部屋を特別に愛していた。ここは自分と、彼らだけの懐かしい理想郷。馬場が手を加えない限り、寂しい鳴き声は止まない。
    「僕はね、この鳴き声が大嫌いだったんだ」
     ひっくり返した使い古しのバケツに座る馬場は、隣でドラム缶にもたれて横たわる継ぎ接ぎだらけのロボットに語りかける。
    「だって『終わり』の象徴だろう? この声を聞く度に、君達に混ざりたかった夏休みの一日を今日も無駄にしちゃったなって、思ってたんだ。おかげで宿題は毎回全てやり切って提出出来てたけど。でも、宿題なんか中途半端にしかやってくて、先生に呆れられる君達の方が楽しそうだった。二人共日焼けしてたね。毎日毎日一緒に遊んでたんだろうね。二人が作った自由研究の箱庭……あれは、ガラクタの街じゃなかったね。丘の上に二人がいた。やっぱり僕は、君達の世界には混ざれなかった」
     ロボットは一つも返答しない。馬場も反応を求めはしなかった。今やここでは永遠の夕暮れに満ちていると思うと安心するのだ。
    「また遊ぼうね、二人共」
     夏休みは終わらない。

         完



    「身体検査良好。肉体的な問題点は見当たらず。運動能力、特に秀でた体術の成績は継続。しかし心理検査によると情に左右されやすく、衝動性が見られる。状況判断の乏しさを改善すべし」
     定期的に行われるSPとしての適性検査。阿黒に下される結果はいつも同じ。この職に就いてから何人も護衛してきた。不穏な空気を感じてカンフーを食らわせたこともある。だからこの、まるで職務に対する姿勢が人間臭いと小馬鹿にされているような内容に納得出来なかった――鼠谷の訃報が来るまでは。
     ぐしゃりと折られて足元に落ちた頼りをぼんやりと見下ろす。彼と最後に話したのはいつだろう。彼の笑顔を最後に見たのはいつだろう。突然の死に放心するばかりで涙は流れない。怒りも、まだ。

         完



     羊田が肩をすりすりしている。何事かと問えば近頃肩凝りに悩んでいるとのことで、ならばと狗凱の手がそこを掴んだ。
    「まず軽めにな」
    「お願い」
     一見細くて頼りなさげな両肩だが、普段懸命に動き回っている証として酷く硬い。「もう少し強くして」
    「任せろ」
     ぐい、と親指に力を入れた。その瞬間、羊田の口から聞いてはいけないような甲高い声が出た。狗凱は一気に青ざめて硬直する。
    「剣獅君? もう終わり? 居間の気持ち良いからもっとしてほしい」
    「や、やってやるけど……黙っててくれるか」
     羊田は首を傾げつつ、集中して揉んでくれるのだろうと頷いた。
     その後、漏れ続ける吐息で余計に変な空気になった。

         完



     狗凱が欠伸をした。欠伸が移るのは気を許す証だとか何とか。まもなく隣の羊田もふあ、と口を開こうとた瞬間、狗凱がそこに指を突っ込んだので当然羊田は変な声を上げて飛び跳ねた。
    「え、な、な、何!?」
    「いや……小動物とかさ、口ちっちゃい割に欠伸すると結構開くだろ。あれ気になるんだよ。あそこに指入れたらどうなんのかなって」
     ふざけているわけではなく、真面目に淡々と動機を語られるのが怖い。
    「私は小動物じゃないし、だとしてもやらないであげて」
    「そうだよな。ごめん」
    「うん」
     会話は終わった。こんな後で普通気を緩められないだろうに、やはり羊田は狗凱の隣でそのまま寝た。

         完



    「猫山って俺のこと好きなの?」
     ストローに口をつけて牛乳を飲む寸前だった。硬直した猫山の背中から冷や汗が流れる。激しい鼓動で胸を突き破って出てくるような気さえする。震える手でもパックを掴んだままでいられる器用さに、頭のどこかで高みの見物をする冷静な自分が見事だと称えている。
    「そりゃ好きだよ。俺みたいな捻くれ者に、こうやって牛乳押しつけてくるような奴なんか滅多にいない。お前は良い奴だ」
    「違う違う。恋愛対象として」
     丁寧に並べた虚辞もあっさり流される。猫山が心拍を落ち着かせる暇も無く「もしかしてさ、子供の頃から? 一緒に星観てた頃から?」と豊基は平気な顔をする。追い詰めていることには気付いていない。このマイペースさが好きで、酷く憎かった。いや、今も豊基が憎いと猫山は思う。積年の憎しみが一日や二日で消えるわけがない。けれど、同じくらいに愛しさも。口の中が乾いて何も言えなくなる。牛乳を飲んだところで潤う気もしない。
    「フリーズしちゃってるなあ」
     振った豊基だが、正直ここまでの反応が来るとは思っていなかった。ただ、校庭で真っ直ぐに向けられた目を見た時、何となく思ったのだ。あの目は昔と変わっていなかった。全く動かなくなってしまった猫山に苦笑し、それから時計を見る。
    「まあまあ、また喋ろうよ。悪いけど東京砂漠に戻らなきゃ。でも今度は思い詰める前に俺のこと呼べよな〜!」
     かっかと笑う豊基が病室を出て行く。取り残された猫山は、しばらくしてから我に返る。
    「行くのか……」
     きっと彼は拒絶としてこの町を再び発つわけではない。馬鹿正直な性格は分かっている。自分が向ける恋愛感情に抵抗なり嫌悪なりするなら、回りくどくなくそのまま顔と声に出すだろう。大体自分は事件の主犯格として警察の監視下に置かれるし、引き離されて当然だ。いくら不条理な事件と言えども何らかの刑罰は与えられるだろう。
     ただ、希望を持てた。
    「次は……信じていいのか、イッツG」
     いつかその時が来たら答えを、想いを聞いてくれるのか。

         完



     生かさず殺さず、羊田の脳内で繰り返される神の呪詛は普段より幾分静かだった。依代などと大層な肩書きを与えられてもただの人。重い体で日用品を買いに行く。ふとデパートの出入口に辿り着いた時、仰々しい飾りと共にヒーローの等身大パネルが目に入った。屋上でヒーローショーが行われるらしい。
     買い物メモをポケットに仕舞い、自然とエレベーターに乗った。ドアが開き、屋上へと続く階段を上がると、開け放たれたドアの向こうから賑やかな声が聞こえる。ショーは既に始まっていた。流れからして中盤だろうか。子供達の邪魔にならないようにと、片隅に移動して立ち見する。
     ヒーローが怪人と立ち回りを繰り広げている。アナウンサーが合いの手を入れる。子供達が応援する。大人達も何人か興奮している。シリアスばかりでは息が詰まるから、時々ヒーローと怪人が和やかなやり取りをする。笑いが起こる。またヒーローが動き回って跳ね上がる――羊田の目頭から涙が溢れ出す。
    (今の剣獅君なら、このヒーローショーでどんな風にはしゃぐのかな。子供の頃の私達なら、どんな風にはしゃいでたのかな)
     一緒にヒーローの名前を呼んで、手を振られたらそのことで一週間は喜びを分かち合っていただろう。
     神の声が響き始める。頭が痛い。頭痛薬を買いに来たことを思い出した。

         完



    「もっとテキトーでいいんじゃねーの?」
     俯きながら学級日誌を書く阿黒は、突然かけられた声にびくりとして顔を上げた。 
     彼は狗凱だ。腰を上げて後ろから覗き込まれていた。名前順で並ぶ自分達の席は前後だが、同じクラスになってしばらく経ってもほとんど関わったことは無かった。それなのに今になって。
    「えっと……テキトーって」
    「その学級日誌だよ。お前が真面目に細かく書いたらさ、次の俺もそーゆーの頑張らなきゃ駄目になっちゃうじゃんか」
     物凄くストレートな言いがかりだった。阿黒は困りながら反論する。
    「でも先生が読むものだし。狗凱君もちゃんと書かないと叱られるよ」
    「そうかぁ?」
     その態度からして阿黒の諭しは全然響いていない。それどころか「お前日曜の特撮観てる?」と脈絡の無い話題を振られた。
    「あ、あの僕トイレ行くから!」阿黒は無理矢理の勢いで席を立ち、足早に廊下を進む。
     心の底から思った――絶対彼とは気が合わないし、これからも深く関わることは無い!

         完



     オトコとオンナは好きだとケッコンしてコドモが生まれるらしい。ぼんやりとした図式が世にとっての正解だと気付き始めたのはいつからだろう。まだ見慣れない、同じ中学の制服を着る羊田をちらりと見る。こんなに長いスカートではヒーローごっこも街作りもやりにくい。考えると何故か苛立ちを覚える。
    「メリーって好きな奴いんの?」
     苛立つせいか脈絡の無い、何となく投げかけた問い。昔ならどう答えられても良いはずだった。だが、「分からない」という苦笑に狗凱は違和感を覚える。中途半端な言葉なんかじゃ全然面白くないから、はっきりしろよと。思えば羊田はそういう癖がある。自分の意思を隠そうとする。そこに苛立つ。
    「剣獅君はいるの?」
     ふと返された質問。呆気に取られて固まってしまった恥ずかしさも、変声期でがさつく喉も、じんわりと成長痛で響く膝小僧も、全部苛立つ。苛立ちながら「いない」と言い切った。
     オトコとケッコンする彼女を思い描くと苛立つ。もしも彼女がオトコとケッコンすれば、彼女を「メリー」と呼ぶのはおかしくなるから苛立つ。このまま苛立つ頭に図式を埋めていけば楽になるのだろうか?

         完



    「え……剣獅君でかくない?」
     倉庫の床に座りながら作業していた二人は昼飯でも買いに行こうと立ち上がる。そしてその時、羊田は隣の狗凱を見上げながらそう呟いた。
     今更すぎないかと狗凱は思ったが、確かにあの事件で再会したタイミングだと身長がどうとかお互い意識する余裕など無かった。
    「何センチ?」
    「189だったかな」
    「ほとんど2メートルだね」
    「いやそこまでは」
    「あれ?」
    「何だ」
    「そんなに声変わりしたの!? 手がごつごつしてる! 昔は柔らかくて可愛い顔してたのに眉間の皺が凄い!」
    「喧嘩売ってんのか」
     謎のスイッチが入ったらしい羊田は歩き出した狗凱の周りをくるくる引っつく。
    (メリーはあんまり変わってないな。まあ、それっぽくなったけど……)
     ヒーローに夢見る幼い自分達が将来こんな形になるなんて思いもよらなかったが、何となく期待していたのは今の自分の体だった。アニメも特撮も多くのヒーローは体格が良く、「男らしい」。鍛えれば筋肉もつきやすかった。
    「良いなあ。私ももっと伸びたかった。剣獅君は背が高くて、がっちりしてる。ヒーローらしくてカッコイイ」
    「ここまで高いと規格外で面倒だぜ。それに潜入捜査とか暗殺とかやるクールなヒーローはメリーの方が似合う。カッコイイじゃん」
    「そう?」
     諭してようやく頬を緩める羊田の為にも、「らしさ」に囚われないヒーローを描こう。

         完



     自らの手で組み立てたトラペゾヘドロンシステムは予想以上の成果を出す。大勢の目に止まり、そこから得たエネルギーは懐かしき理想郷の糧となる――仕事柄関わり易い羊田に、その喜びを分かち合おうと鼠谷は進んで聞かせた。大方返されるのは「そう」とだけ。嫌われて拒まれているならまだしも、羊田はむしろ報告されたがるから不思議だった。今や幼い頃にちらりと見た、ガラクタの中で彼と笑っていた表情はどこにも無い。ただ寂しそうな目をする。
     短い雑談の後に「それじゃあまた明日」と鼠谷は背中を向けて帰り出す。
     後ろから、ぽつりと聞こえた。
    「私達は人を殺してる」
     驚いて振り返ると羊田もその場から去っていくところだった。
     やがてシステムの暴走は始まり、次々と人が死んでいく。キーボードをどれだけ素早く叩こうともモニターに映るコードは意思を持って狂う。どこからか響く嘲笑。まさかこれが、依代だけが受け取れるという神の声なのか。
    「僕は、何を……」
     ――彼女は代償を知っていた? いや、全員が?

         完



    「あー!」
     突然狗凱が叫び、隣の羊田へと向き直る。
    「鳥川! 思い出したら腹立ってきた!」
    「え? 誰?」
     呆気に取られていたら続いて謎の名前まで出される。余計に戸惑う羊田などお構い無しに狗凱は続けた。
    「お前のパーツ持ってた男だよ!」
    「えっと……工場の人?」
    「そうそう!」
     ロボットにされ、ばらばらにされ、意識は消え失せたも同然だった。ただ体の一部だけが残されていた感覚がある。きっとその鳥川という人物の手から彼らへと渡されたのだろう。そして、二人は醜く哀れな幻で再会出来た。
    「急に怒鳴るし怖かったんだよ。あのぐずぐずした感じ、俺と似ててさ……」
    「じゃあ凄く面倒臭い人なんだろうね」
     あっけらかんと言われ、狗凱はむくれつつも頷いた。羊田は笑う。笑う彼女の抉れた胸部の真ん中は空っぽだ。縁に触れれば硬質で冷たく、鉄臭い。
    「なんか……嫌だな。俺達が来るまであいつと一緒にいたのかよ、お前」保管してくれていたことへの感謝より、どんよりとした苛立ちが込み上げてくる。
    「もしかしてヤキモチ?」
    「まあ……そうかもな」
     ちょっとした好奇心での問いに、それなりの素直さで返答される。成れの果てがこうだから、独特な嫉妬に思わず羊田は笑ってしまう。
    「剣獅君と似てる人なら納得。何だかその人といて居心地が良かったから」
     狗凱は色んな意味で思い切り顰め面になった。

         完



     誠実な人間であろうとした。妻を愛し、子供達を愛し、一警察官として市民を守る務めを果たそうとした。ある日怪事件が始まり、立ち向かおうとすれば圧力がかかり、尊敬していた先輩や期待していた後輩、信頼出来る同僚を一人ずつ喪った。それでも足掻いて密かに戦う最中で彼らと出会い、きっと鍵になるだろうという予感は当たった。己の職務の責任は果たせなかったが、彼らの力になれたことを誇りにさえ思った。
     ――その報いが、これだというのだろうか。
     燃える正義感のままに町を歩き回るうちに犬飼は密告された。連行された先のタワーには、まさかあの男がいた。
    「お前は、サブリミナル教団の……!」
     目を見開く犬飼とは反して、この世界の創造主は「誰?」と首を傾げる。それを侮辱とも思っていなさそうな平気な顔色が忌々しい。
    「私は長らく『自殺病』について捜査していた。お前達の背景に何があったかはおよそ聞いている。お前はサブリミナル教団の伝道師だろう!」
    「へえ。じゃあ刑事さん?」
    「そうだ。私の名は犬飼だ」
     その名乗りを聞いた途端、馬場はけらけらと笑い出す。
    「僕が待ってるヒーローは君じゃない」
    「何だと?」
    「君のキャラは何だか安っぽくてありがちだ。君は、ただのモブAだよ」
     とん、と軽く押されて溶鉱炉に落ちていく。これで彼もつまらないロボットの一つになる。
    「ヒーローは影がある方がカッコイイ。ね、カントク君」

         完



     胸倉を掴まれ、頬を打たれる。それから一気に突き飛ばされて地に伏す。蹲る鼠谷を見下ろす猪岡は満悦どころか余計に苛立っていた。
    「ほら、殴り返してみろ! 弱虫!」
     体格はそんなに変わらないし、一対一の丸腰だ。なのに鼠谷は立ち向かってきたことが無い。ただ鼠のようにチューチューと情けない声を出すだけだった。
    「やり返さない奴の方が偉いとか強いとか、まだ幼稚園で習ったことでも信じてるのか? あんなの嘘だ。実際お前はボロボロで馬鹿みたいだし、下手したら俺に殺されるかもな。このまま死にたいか?」
     脅せば縮こまる体はびくりと跳ねる。反抗も反論も見せず、ただ猪岡が立ち去るのを待つだけのような姿。最初、自分より弱いこの哀れな生き物を踏みにじることで勝利と優越の心地を得ていた。なのに最近は薄れていく。手に入れるものは、焦りと恐れ。
    「猪岡君は……」ふと鼠谷が顔を上げた。ようやく抗う気か――珍しい動きだから揚々と返り討ちにしてやるつもりだったのに。
    「理想郷のことで悩んで疲れてるんだね。大丈夫。きっと全て叶ったら君もこんなことしなくなる」
     猪岡を覗く無垢な瞳は、薄ら寒さを感じる程に輝いていた。
    「お前、気持ち悪いんだよ!」
     ぞわぞわと背筋に寒気が走り、それに任せて腹の底から叫ぶ。長らく猪岡の心にぬるりと絡みつく不快感は、自分の属する場所への不満から来ていた。
    「何が理想郷だ……。そんな都合良いものに縋ってるお前が、お前らが気持ち悪いんだよ!」
     訳も分からず先生に誘われ、入会すれば異様な雰囲気に圧され、抜け出したくても留められる。素敵な世界の何たるかを穏やかに謳う先生に盲目的な鼠谷達が猪岡には不気味でしかない。
    「俺はお前らとは違う、違うんだ!」
     捨て台詞は悲痛だった。

         完



     見えない世界。見えない壁。何も無いのに、彼がいることだけは分かる。だから猫山はドンドンと宙を叩く。泣きながら、叫びながら、彼の名を呼ぶ。
    「イッツG、なあ、頼むから開けてくれ」
     叩くその先で彼は膝を抱えて自分と同じように泣いている。確かに声は届いている。なのに彼は閉じ篭ったまま動かない。
    「駄目だよ。もうお前に顔向け出来ない」
    「どうして!」
    「俺、猫山のことまた裏切っちゃったじゃんか。今度は目の前にいたのに、行くなって言ったのは俺なのに、助けられなかった……」
     喉を詰まらせながら一言ずつ紡ぐ。その気配につられて猫山の目頭も熱を増し、大きな涙の粒がぼろぼろこぼれる。
    「もう俺は裏切られたなんて思ってない。ただお前と一緒にいたいだけなんだ。だから開けてくれ」
    「……そんな資格、俺にはっ……」
     嗚咽が目立ち、途切れ途切れになっていく。我慢出来ない涙声で宙を叩く音は掻き消された。何度名前を呼んでも応えてくれない。猫山は崩れ落ち、泣き叫ぶ。
    「逸路、子供の頃からずっと好きだった! お前の側にいたいだけなんだ! だから、開けてくれ! 頼むよ……」
     理想郷を求めた自分が愚かだったのだろうか。つまらない世界でも、自分を排除する世界でも、抑圧に怯えながら「フツー」を努めて生きていれば良かったのだろうか。そうすれば彼をこんな結末へと招くことも無かったのだろうか。お互いに同じ場所にいて、お互いの目は交わらない。
     これが正しい関係でなければ、この世界は許さないのか。
    「俺を独りにしないでくれ……」
     振り絞る猫山の悲痛な願い。猫山を散々傷付けてきた自分が、今更どう誠実に応えればいいのか分からなかった。せめて同じ涙を流していたい。

         完



     土管の中で長い昼寝をしていた。ふと意識が戻り、ぼんやり瞼を開いた狗凱の目と鼻の先には羊田の穏やかな寝顔があった。本当によく眠っている。こんなお互いの体温だけがある、柔らかな寝具も無い場所で。
    「……涎だ」
     薄く開いた唇の端からとろりと一筋。きったねえなあ、と苦笑いを浮かべてポケットに入れていた皺だらけのハンカチで拭ってやる。目覚ましの意も込めて乱雑に。
    「んぅー……むっ、う……?」
     ぐいぐいと口元を揉まれて変な声を出しながら羊田も起きた。寝惚け眼で狗凱を見つめ、ハンカチで拭われている状況を理解した。
    「よ、涎出てた?」
    「ああ。お前赤ちゃんみてーだな」
    「ごめんね。ハンカチ洗って返す」
    「別にいいって。いつからポケットに入ってたか分かんねーハンカチだし」
    「ちょっと!」
     羊田は一気に狗凱の手を押し退ける。当人はけらけら笑い、羊田もつられて笑う。二人は土管の外を見た。日差しは茜色だ。
    「めちゃくちゃ寝ちまったなー。でもまあ、ヒーローの図案は浮かんだしいっか! 双子ヒーローな!」
     けろっとして言い切る狗凱に羊田も頷く。物を片付け、外に出る。
    「んじゃ、帰るか」
    「うん」
     帰路の途中に分かれ道がある。それでも二人は明日も明後日も明明後日も、遠い未来でも出会い、いつか道は交わって一つとなる。だから安心して帰ろう。

         完



     料理に疎い人間がやらかしがちなのが、レシピ通りに作らず謎の感性でアレンジを効かせること。その見事な例を狗凱はやってみせた。熱でぼんやりしていた羊田の思考は、差し出された血のように赤いお粥の圧である意味晴れた。
    「これ……何の赤み?」
    「一応言っとくけどただのトマトだぜ。激辛なんか気付けだとしても病人に食わせるもんじゃねえってそれくらい分かるっての。でも見た目は大事じゃん? やっぱ赤は情熱的で元気出るじゃん? だから代用だ」
    「ぶつ切りのしょうがが散らばってるんだけど」
    「体に良いからな」
    「真ん中にぶっ刺さってる長ねぎは……」
    「タワー! カッコイイだろ!」
     食欲が無いから、と拒めば良かったものの、キッチンからの唸り声を聞いていた身として一口くらいは食べて謝意を示そうと思ってしまった。タオルで体を拭ってくれたし、逐一水分補給を促してくれたし、彼なりの本気の看病だ。だからこの独創性溢れる、しかも二時間かけてのお粥だって善意なのだ。
    「じゃあ、いただきます」
    「ああ。食え食え」
     目の前で見守られる中、羊田は米という概念が溶けて残った汁を掬って口に運ぶ――多分トマト粥もあった気がするし、と希望を込めて。しかし味覚が感じ取ったのは鼻から抜ける爽快すぎる刺激。この味は、確か……徹夜で映画制作中に飲む栄養ドリンク。
    「剣獅君」
    「どうだ? 美味いだろ?」
    「今度剣獅君が寝込んだら、お返しに私がいっぱい看病してあげるからね。剣獅君に倣って、インスピレーションでお粥を……」
     ばたんと倒れた羊田の姿に狗凱が慌てふためく。何故なら本気だからだ。
     数日後、羊田の復讐の時が訪れた。さあ、不慣れな料理の腕を発揮しよう。

         完



     月には兎が住んでいて、餅付きをしている。月の模様を例えたよく聞く伝承だ。
    「兎さんはお餅なんて食べないのに、誰の為に作ってるんだろう」
     夕月が浮かび、ススキが揺れる河川敷。釈然としない顔付きで空を見上げながら鼠谷は言う。その隣で阿黒が首を傾げる。確かに考えたこともなかった。何となく思いついて返してみる。
    「本当は人参で出来てるとか? 人参のお餅なら兎も食べられるんじゃないかな」
     聞いた鼠谷はきょとんとして、それから嬉しそうに笑った。
    「そっか! それなら兎さんにとっても良いことだよね」
    「鼠谷君は何を考えてたの?」
    「兎さんには自由が無いんじゃないかって。あのね、こんな話もあるんだよ。ある日空腹で倒れたお爺さんを猿と狐と兎が助けようとしたんだ。猿と狐は食べ物を持ってこれたんだけど、兎だけ用意出来なかった。猿と狐に笑われた兎は自分を食べるようにって火に飛び込んで死んじゃって……そしたらお爺さんの正体は神様で、兎の偉い行いを褒めて功績として月に兎の模様を描いた」
    「それって……何だか切ないね」
    「うん……。僕、嫌なんだ。誰かが犠牲になってようやく何かが認められるなんて。だからせめてあそこで餅付きしてる兎さん達が自分の為に幸せなら良いなって思ってた。ヤット君の言う通り、きっと人参のお餅を食べてるんだね」
    「鼠谷君は優しいなあ」
     褒められて赤くなる頬を隠そうとサブローを持ち上げ、顔を埋める。くすぐったそうにきゃんきゃんと鳴くサブローと、鼠谷の誠実さに目を輝かせる阿黒。ここは、自分達の理想郷。守りたい――ただそれだけだったのに。
    「僕は、間違えた……」
     月のように静かな彼女は、赤い瞳の兎なのだと気付いた。

         完



     グラウンドの片隅で焼き芋を楽しむという、ささやかな学校行事が開かれた。落ち葉を掻き集め、小振りのさつま芋をアルミホイルに包む。それぞれの輪に教師の監視と指導を徹底しつつ、子供達は肌寒い秋の匂いと食欲くすぐる香ばしさを感じながら火を囲んだ。そして出来上がったものは、ほくほくとして美味しい。
     味わい尽くしても物足りない豊基の横から、半分かじられた焼き芋が猫山の手で差し出された。
    「やるよ」
    「いいの?」
    「ああ。あんまり好きじゃないんだ。喉に詰まりそうでさ」
    「猫山ってそーゆーとこあるよねー。好き嫌い良くないよねー」
    「じゃあ自分で食うよ」
    「あっ駄目貰う!」
     何なんだよ、と猫山が突っ込みを入れるよりも先に豊基はその手から焼き芋を奪う。
    「やっぱ猫山ってば良い奴!」
     あからさまな手の平返しに笑いが漏れ、「はいはい」と軽く相槌を打つ。こんな些細な理由付けで彼の喜ぶ顔が見られるならそれで満足だ。誤魔化すように火消しですっかり濡れた落ち葉の束を摘んだ。

         完



     純白のウエディングドレスが眩しい。これ以上近付いてはならない、触れてはならないと無意識が警告する。
    「変じゃないかな?」
     照れ臭そうに青いアネモネのブーケを撫でる羊田は、今日を以て花嫁となる。
    「綺麗だ」
     自然と口から出た言葉で羊田の顔は晴れやかに綻ぶ。それを見て、狗凱は思った。
    (そうか。今のメリーは、『カッコイイ』より『綺麗』の方が嬉しいのか)
     子供の頃、ヒーローのスーツを二人で考えた。大人になったらいつか着たいと夢見た、オリジナルデザイン。動きやすくて数多の武器を装備し、至る所に紋様や装飾が施されたカッコイイスーツ。今なら少々出費だが特注で作れる。
     けれど目の前にいる羊田は、いかにも動きにくそうな白一色のドレスを着ている。そして嬉しそうだ。
    「剣獅君がお父さん役で一緒に歩いてくれたらいいのに」
    「流石に絵面がヤバいだろ」
     分かりやすい冗談に狗凱は軽く笑って応じる。ふと羊田が目を伏せて言う。
    「剣獅君も私と同じくらい幸せになってね」
    「何だ、良い人見つけろって早速お節介か?」
    「そんなんじゃないけど」
     否定しつつどこか濁すような口振り。善意だ。いや、後ろめたさかもしれない。自分だけが幸せになって良いのかという言外の迷い。羊田にとってはこの形が幸せなのだから、同じくこの形へと辿り着く狗凱を見たいということだ。
     二人でヒーロー映画を撮る――それが幸せだと狗凱は思っていた。昔交わした約束と共に生きていけるなら、それだけで幸せだったはずなのに。同じ形を求めるなら、どうして……どうして心を騙し続けてくれなかったのか。
    「結婚はしねえよ。メリー以上に好きな女なんかいないから無理だ」

         完



    「梨とか柿って最高に美味いよな〜。秋だよな〜」
    「そうだな」
     瑞々しい梨を手掴みで食べながら豊基は果物の盛り合わせを満喫していた。横では猫山が爪楊枝でくし切りの梨を刺して食べる。確かに美味い。しかし気になることがある。
    「なあ、イッツG」
    「何?」
    「お前、皮ごと食ってるよな」
    「食ってるけど?」
     それがどうしたと言わんばかりの顔。そのままの状態の梨をしゃりしゃり味わって半分くらいが減った。丁寧に洗われた黄緑色の皮がきらめく。皮が剥かれたものでなければ何となく不快感を覚える猫山は、目の前で平然と食べる相手が豊基でなければ完全に引いていた。いや、少し引いている。
     思えば度々食への価値観の違いを感じることはあった。皮ごと梨や柿をかじる今もだが、スイカは種を飲み込み、葡萄に至っては皮も種もだし、苺はへたを取らずに食べた。ご飯を食べながら牛乳を飲み、シチューをおかずにするとか、魚の骨をばりばり砕くとか、猫山にとっては見ていてかなり奇妙だ。
    (俺と違って蜜柑の筋も気にしないタイプなんだろうな……そのうち冬になったら観察するか)
     彼と過ごす時間はとてつもなくくだらない、なのにつまらなくない。
    「何笑ってんの?」
    「別に」
     こんな普通の世界を、彼は求めた。
     なお、豊基も蜜柑の筋はしっかりと剥くタイプだった。基準が分からない。

         完



    「さくらんぼのへたを舌で結べる人はキスが上手いんだよね」
    「何でそんなこと知ってんだ」
    「VTuberやってるとそういうネタが集まってくるの」
    「ネット怖い……」
     どうしてわざわざさくらんぼを味わっている最中にそんな話題を振ってくるのか、狗凱は嫌な予感がした。そして予感はすぐに的中。
     はい、と羊田が楽しそうにむしったへたを握らせてきた。「やってみて」
    「嫌に決まってんだろ! 何の意味があるんだよ!」
    「テストみたいな」
    「ふざけんな!」
     全員酔いが回った合コンの最中に笑いと少し色っぽい空気を感じ取りながら披露するような俗説を羊田から目の前で求められる、何の罰ゲームだ。
    「もしかして自信無いの?」
     その何気無い声色に狗凱の肩がぴくりと跳ねた。へたを結ぶという意味でか、キスという意味でか。後者か。挑発か。そう受け取るぞ。直接証明してやろうか――眉間に皺を寄せる狗凱が先に動くよりも羊田が飛びつき、さくらんぼの味がするキスをした。すぐに離れてしまったが。
    「大丈夫だよ。私が保証するから」
     そう言って頬を赤くするくせにこんな真似に出られるから、狗凱は余計に負けた気がする。それなら仕返しに同じことを、という考えも過ったが今は黙って敗北を認め、時間を置いてから別の手段でやってやろう。今のやり取りも忘れた頃、布団に入ってからとか。
     ところで、ふと気付く。
    (何で急に心配されたんだ……?)
     例えば――能天気な誰かに「カントクは不器用だからキスも下手かもね〜」と言われたとか?
     ちらりと横目で見ると、再び羊田はさくらんぼをもぐもぐするばかりだった。

         完



    「飽きた」
     狗凱がぽつりとこぼしたかと思いきや、片足を軽く上げて街を構成する民家の一帯を蹴った。散らばる空き缶や木版、三角コーン。
    「俺さ、壊すの好きなんだ! 作るのも好きだけど、壊すってなんかすっきりしねーか? 怪獣の気分になれるし」つい昨日まではあの配置を次はこうしようと悩んでいたのに、今の彼は嬉々として語る。
    「それに、壊さなきゃ新しい世界になんねーじゃん。また一から作り直し。そしたらずっと遊べるよな」
     足元に転がってきたペットボトルの蓋を掴み、手で握り締める。その姿を、羊田は食い入るように見つめた。いつか必ず世界を救済してくれる、救世主の言葉に問いかける。
    「じゃあ、例えば剣獅君がずっと押入れに仕舞ってた変形ロボがあったとして、もう昔に遊び尽くしたもので飽きて、でも新しい変形ロボに使えるパーツがあったら壊す?」
    「壊すぜ。全部捨てるよりどっか使ってもらえるなら昔の変形ロボも喜ぶだろ」
     狗凱の答えは、羊田を心の底から救う。
    「私もそう思う」

         完



    「今更だけどカントクって羊田のこと『メリー』って呼ぶのかー」
     映画作りに励む狗凱と羊田。二人をこっそり観察する豊基はしみじみと呟き、隣の阿黒も「そう言えばそうだな」と同調する。芸能事務所で再会した時から何やら密談した後も当たり前のように「メリー」と呼んでいた。流れからして勿論羊田のあだ名は「メリー」であると認識していたが。
     すると豊基がニヤニヤし始めた。
    「なんか狡くなーい?」
    「は?」
    「羊田で羊だけにメリー? メリーさんのひつじ?」
    「まあそこが由来だろうな」
    「でも俺達とかさぁ、そのまんまじゃん? キャッツとかネズミーも」
    「ああ、名前を変換したり省略してるだけか。だけど何が狡いんだ」
    「俺も羊田のことメリーって呼びたーい」
     不意に阿黒は謎の警戒心が発動した。顔は豊基に向けたまま視線だけを横に動かす。大道具の位置確認に取り組む狗凱の後ろ姿。よし、問題無し。わざとらしく浮かれる豊基に溜め息を吐く。
    「カントクが許すと思うか? そういう細かい所に意固地っぽいぞ」
    「『メリーって呼んでいいのは俺だけだ!』みたいな?」
    「そうそう。絶対面倒臭い奴」
    「じゃあ……メリーちゃんは?」
    「ふざけるなそんな呼び方一番駄目だろまず自分以外があだ名で呼ぶのを許さなさそうなのに本人以上のアレンジを加えた上にちゃん付けなんて馴れ馴れしすぎる!」
    「そうかなあ?」
    「そうに決まってる。メリーちゃん呼びなんて一発で終わりだ」
    「え、終わっちゃうの……」
     後方の物陰から静かに賑やかにくだらない言い合いが聞こえる。狗凱は眉間に皺を寄せながら、羊田は細かく肩を震わせながら手を止めるわけにもいかず。

         完



    「馬鹿は風邪引かないって豪語してたのは誰?」
    「すまねえ」
     布団に横たわる狗凱の横で羊田は呆れながら温度計を確認する。熱だ。風邪を引きやすい時期に入ったとは言え、流し台には栄養ドリンクの空き瓶がずらりと並んでいた為、食生活の偏りも原因と見られる。
     生温い額をタオルで拭ってやると、自嘲して情けない顔色が顕になる。「子供の頃から大馬鹿の自信あったんだけどな」
    「そんな自信持たないで。それで、食欲ある?」
    「一応」
    「分かった。ゼリーとか、あと熱冷ましも無いから用意しなきゃ。じっとしててね。もう栄養ドリンク飲んじゃ駄目だから。他には――」
    「メリー」
    「何?」
    「側にいてくれ」
     弱気な声。伏せられた寂しい瞳。羊田は息を呑み、玄関に駆けた。
    「スーパー行ってくる!」
     彼の頭痛に響かぬように語気を抑えられただろうか。そんな意図は無いだろうけれど、まるで置いていかれる嘆きだと思ってしまった。
    「……置いていったのは剣獅君のくせに」

         完



    「鼠谷君! ほら、サブローがボール持ってきてくれたよ!」
     青空の下で小さな太陽のように彼は笑い、サブローを抱き締める。阿黒を見つめる鼠谷の心は曇り空。どんよりと、けれど眩しすぎる光を優しく遮る穏やかさ。この結末に悲しみつつ、嬉しかった。この世界も、部屋も、全て作り物。
     そう、作り物の河川敷だからこそ二人の友と一緒にいられる。だから曇り空でも平気だった。ただ、阿黒の無垢な笑い声を聞く度に胸がずきりと痛む。きっと彼は自分よりも大人だったはずだ。夢の為にと犠牲に犠牲を重ねてようやく己の罪に気付いた自分よりも、ずっと。
     でも、今は――
    「鼠谷君? どうしたの? もしかしてまた猪岡に虐められた? 次は僕が守ってあげるからね! サブローのことも!」
     とんと胸を叩いてみせる仕草。何も叶わないことを知っているから哀れだった。鼠谷を心配して近寄いてみる阿黒は、その俯いた顔を覗いて驚く。ぽろぽろと泣いている。
    「だ、大丈夫!? お腹痛いの?」
    「ヤット君……」
     阿黒に弱々しく縋りつく。しゃくり上げる喉から微かに出た台詞が本心だった。
    「これからもずっと一緒に遊ぼう。大好きだよ、ヤット君」
     不安げに震える背中をきゅっと抱き締めて「僕もだよ!」と幸せな気持ちで返した。そんな二人の足元でサブローは跳ね回る。
     空から生温い小雨が降り始めた。

         完



     床には羊田の死体が転がっている。細い首に残った絞殺の痕は、狗凱の手の形と同じ。
     死に際の羊田は、あまり苦しんでいなかったと思う。自分勝手で愚かな偏愛の勘違いだと言われてしまえばそれまでだが、羊田がほとんどの人生でどれほどの罪を背負わされ、贖罪への欲求の強さと重さがあったかを知る人間としては、あの救済で快楽さえ与えられたと誇りに思う。
    「後追いか……」
     疲れた狗凱はぽつりとこぼし、魂がすっかり抜けた軽い肉体と寄り添い合って横たわる。屋根裏部屋に放置し続けるわけにはいかない。身辺整理は済ませたし、手段も考えてある。だが、いざとなると、躊躇う。
     すぐに行く、と告げた時の羊田の困ったようなはにかみ。「来て」とも「来ないで」とも言わなかった。狗凱の生に希望が見えかけた未練を感じ取ったからだろう。言った通りとは別の選択を選んでも責めないからと、わざと曖昧な笑みだけを見せた。その残酷な気遣いにまんまと乗せられているわけだ。
     狗凱は懐かしさに苦笑いを漏らす。彼女は結構悪戯っ子だった。時折こっそり草むらに潜み、いきなり飛び出てきた女の子。腰を抜かした自分を見下ろし、くすくす笑う女の子。それが全く性悪な女になりやがって。
    「ちょっと……寝ていいか。疲れた。頭すっきりさせてから動きたい。やっぱ疲れるんだな、直で殺すって。メリー、時間くれ……」
     当然反応の無い死体にだらだらと語りかけながら瞼を閉じる。一分。二分。三分。四分。五分。少しずつ時が経つ――目覚めた時、彼らは五分前の世界にいた。

         完
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    2025/09/03 1:07:42

    れじらじカンメリSSまとめ その1

    #きてどち #れじの04 #らじの04 #ヤト鼠 #カンメリ #イツ猫

    旧Twitterにて狂気のように毎日投稿していた、色んな詰め合わせ。
    大人時代から子供時代、ギャグからシリアス、ヘテロから非ヘテロ、生から死まで何でもござれ。

    大体ピクシブから再掲しつつ、読み返してSSにしては長すぎるものや封印したくなったものや過去の自分と解釈違いを起こしたものはくるっぷに移します。

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    • 2「理想郷ではないけれど」タイトル無し表紙と挿絵 #きてどち #らじの04 #カンメリ

      ガチ絵描きに描いて頂いた「理想郷ではないけれど」の表紙と挿絵。
      何度見ても胸がぎゅわぎゅわする美しい絵です。
      描いて下さって本当にありがとうございました。

      無断転載は絶対に許さんぞ。
      猛者
    • 美味しい時間 #きてどち #れじの04 #カンメリ

      メリーちゃんの作るホットケーキが食べたい一心で書いた話。
      カントクが面倒臭い男になってしまった。甘い物が苦手そうなのはJBから引っ張ってきた。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 二人でなら生きていける #きてどち #れじの04 #カンメリ

      きてどちのセッションで初めて泣いてカンメリに堪らず書いた第1作目。事件後、カンメリが河川敷を眺めて物思いに耽る話。
      JBがカントクとして、メリーちゃんを同じ立場に並べてくれて本当に良かった。

      シナリオブックが届く前に書いたことも一因ですが、やはり月日が経つと自分の中で自分と解釈違いを起こして何だかなあという描写もしています。
      ただ、らじの04後だとタイトルについては説得力があります。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 太陽と月とスターヒーロー #きてどち #れじの04 #カンメリ

      学校でお泊り会を過ごす子供時代カンメリの話。
      メリーちゃんを月の女神として仕立て上げると対にするなら太陽神なのに、カントクはスターヒーローを名乗っているから面白いなあみたいな。

      れじ前の締めに書いたれじカンメリでした。素敵な結末を迎える予感があったので、その通りになったので良かったです。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • れじの04小話ぷらいべったーまとめ #きてどち #れじの04 #カンメリ

      カンメリだったりカンメリじゃなかったりする内容が全部で5本。本文前には長ったらしい注釈や所感が記述。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 愛憎の町で求めた理想郷 #きてどち #れじの04 #イツ猫 #カンメリ

      男性愛者の猫山がイッツGと笑い合える理想郷を望んだ話。猫山の行動原理は案外単純だからこそ複雑に追い詰められてしまったのではなかろうか。
      猫山はメリーちゃんに同族嫌悪してミソジニーを拗らせて、メリーちゃんは猫山を哀れんでいたイメージ。この2人がどんな不毛なやり取りをしてきたのか、考え出したら止まらない。
      イッツGは言動からして女性愛者だし、恋愛関係として猫山を受け入れるのは難しいにしても、学ぶ意思くらいは持ってほしい。

      話の題材上、セクシュアリティ関係の差別表現を取り入れています。読んで辛くなったらすぐ閉じて下さい。書いた私も辛いです。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 偽りとの戯れ #きてどち #れじの04 #カンメリ

      鼠谷の死=探索者3人を帰郷させたのはメリーちゃん説。神がカントクの姿で降り立つ夢を見ては苦しめられていたら可愛い。
      メリーちゃんと鼠谷と馬場の関係性は未だに考察の余地がありすぎる。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 理想郷ではないけれど #きてどち #らじの04 #カンメリ

      らじカンメリ1作目。セッション直後の興奮だけで書いたのでシナリオブックと噛み合わない部分が多々あります。特に工場内の描写が。でも最高でした、本当に最高でした。
      らじ前に色々あってメリーちゃん死亡説を前提としている為、カントクのメリーちゃんに対する想いがそれを匂わせています。

      手塚治虫の「火の鳥 復活編」と某18禁純愛肉塊ゲーに影響されまくっています。

      ご厚意により、ガチ絵描きに表紙と挿絵を描いて頂きました。本当にありがとうございます。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 夢と影 #きてどち #れじの04 #カンメリ

      カントクがやさぐれているだけの話。通夜ぶるまいでの「羊田?羊田?」と、カントクが夢を見た後にどんな心境になったのかが気になりすぎて書きました。
      イッツGと違ってカントクは月日をかけてメリーちゃんのことを無理矢理封じたイメージ。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 僕と友達になって #きてどち #らじの04 #カンメリ

      凄く久しぶりにれじらじ小説を書きました。
      無性にカン馬場を書いてみたくなりました。
      やっぱりカンメリでした。
      猛者
    • 呼んで、呼ぶな #きてどち #れじの04 #カンメリ

      自分のあだ名が好きじゃないと言ったカントクの真意を考察空想して書いた第2作目のカンメリ。
      メリーちゃんは「メリー」という幼きカントクにつけられた変哲も無いあだ名に救われたことでしょう。

      カンメリは同じ中学に入り、しかし神の采配や思春期によってすれ違いが始まったのではと今は思います。流石に小4だけの交流であんな大層な執着と依存を抱き合うのはヤバい気がします。

      ピクシブから再掲。
      猛者
    • 不完全な物語 #きてどち #らじの04 #カンメリ

      カンメリ大好きな馬場がヒーローという存在について問いかけるだけの話。
      らじの04は、カントクをヒーロー視し、メリーちゃんをヒロイン視した人々への報いの物語だと思う。
      「火の鳥 復活編」へのオマージュ要素有り。というかカンメリロビタ化して。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • 生まれる前からやり直せたら #きてどち #れじの04 #カンメリ

      土管の中で母胎回帰に思いを馳せる子供時代カンメリ。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • 夏の約束 #きてどち #れじの04 #カンメリ

      子供時代カンメリと大人時代カンメリが、ただ平穏に夏祭りに行くだけの話。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • れじらじカンメリSSまとめ その2 #きてどち #れじの04 #らじの04 #ヤト鼠 #カンメリ #イツ猫

      その1よりは少ない、旧Twitterにて投稿していた色んな詰め合わせ。
      大人時代から子供時代、ギャグからシリアス、ヘテロから非ヘテロ、生から死まで何でもござれ。

      大体ピクシブから再掲しつつ、読み返してSSにしては長すぎるものや封印したくなったものや過去の自分と解釈違いを起こしたものはくるっぷに移します。
      猛者
    • 記録と記憶 #きてどち #らじの04 #カンメリ

      別名「1週間後に死ぬメリーちゃん」。
      当時どんな熱量で書いたのか、自分でもよく覚えていません。物凄く楽しかったんだろうなあとは思います。
      ただ、らじ本編前カンメリ死別説(メリーちゃん死亡説)を推すことになった全ての始まりは、カントクの棺桶発言のせいです。

      ピクシブより再掲。
      猛者
    • 二人の夢見た街 #きてどち #れじの04 #らじの04 #カンメリ

      カントク東京都出身で考察空想が止まらなくなりました。色々考えた結果、小4でカントクが東京から愛造町に引っ越してきてメリーちゃんと出会い、夏休みの後にまたカントクが引っ越してしまって…というシンプルなものとして書きました。
      れじ後日談の時点でカンメリは東京にいたのでは?

      れじ後イッツGは東京砂漠に戻ったと思われるし、ヤットも要人警護の為に東京にいたかもしれないし、そうすると探索者3人ともが実は同じ東京のどこかで過ごしていたりして。
      猛者
    • 舞台裏 #きてどち #れじの04 #らじの04 #ヤト鼠 #カンメリ #イツ猫

      らじの04五周年をお祝いします。
      れじらじのシナリオはカンメリが主導するお芝居でしたみたいな、ひたすら明るいギャグ小説です。

      犬飼刑事に幸あれ。
      猛者
    • 彼は彼らの為に懸念する #きてどち #らじの04

      れじかららじまでに一番精神的に成長したであろう、作中随一の気遣いの出来るイッツGの素晴らしさと、頑張り続けたヤットの切なさを称えたくて書きました。
      最初の頃は、れじに比べて後退してしまったようならじヤットの立ち回りに歯痒さがありましたが、あの妙な幼さはヤットのギリギリな精神状態を表すペレ夫のRPの賜なのではとわりと近年になって気付きました。
      カンメリは不在ですがカンメリです。カントクは停滞のイメージ。進むことも戻ることも出来ない人。

      いつぞやに書いた小話を加筆修正して本文に入れたり、「記録と記憶」との繋がりもちょっとだけ含ませました。
      猛者
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