強請って、与えて「ケモミミ!」
勢いよくドアを開けると、鏡の前で自身の姿を確認していたのであろう人物、バルバトスさんはこちらを振り返った。事前に聞いていた通り、いつもはパキっとした角とヌメっとした尻尾がある位置には柔らかそうなケモミミとフワっとした尻尾があった。
「あのー……」
「ダメです」
まだ何も言ってない。
「その耳としっぽを」
「ダメです」
「……対価はお支払いするので」
「……いいでしょう」
二人並んでソファに座り、私はケモミミに手を伸ばす。少しひんやりしていて薄くて柔らかくて、たまにピルッと動くあたり、猫っぽい。皮膚が薄そうだからあんまり長い時間触るのも悪いかなと思って今度は尻尾に手を伸ばす。正面から腕を回して尻尾を触る。魔界に来てからふわふわした生物に触る機会がなかったので久しぶりのふわっふわを思う存分堪能する。しばらく触り倒した後、
「満足しましたか?」
「うん」
という返事と同時に腕の中に捕らえられた。
ふわふわに夢中になっていたけれど、よく考えたら尻尾を触っているときは完全に抱き着く形になっていた。そのままソファに押し倒され、「対価を頂きます」という声と共に長い長いキスをされる。
もっと、と首に腕を回そうとしたところで「確かに頂きました」と体を起こしてしまう。私の体も起こしてくれるその表情は「物足りないのでしょう?」と言っている。物足りないけれど、それを素直に口に出すのも躊躇われる。
居心地の悪さに耐えかねて、なんとなく横を見ると鏡があった。鏡に映る私は「その先」を期待していて、きっとまたこの悪魔に対価を与えてしまうのだろうと思った。
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それなりの時間が過ぎた後。
「今日はありがとうございました……」
「こちらこそ。お一人で帰れそうですか?」
「まだ夜じゃないので一人で帰れます」
「おや、そのような意味ではなかったのですが」
「か、帰れます! 失礼します!」
閉まっていくドアの向こうに嬉しそうに揺れる尻尾が見えた。