休み明けの朝に 連休明けの仕事なんてみんな行きたくないに決まってる。
ベッドでゴロゴロしながら
「あー……仕事行きたくないなー……」
と思わず呟いたら
「お仕事はお嫌いですか」
耳元で声がした。私が今、枕にしている腕の持ち主、バルバトスさんだ。
くるりと向き直り、しがみつく。私のベッドの匂いが少し混じったいい香りがした。
「ううん、好き嫌いってより行きたくないだけ。その、連休が楽しかったから余計に」
「久しぶりの人間界での休暇、私もとても楽しかったです」
仕事に関して触れないのは、彼なりに甘やかしてくれているのだろう。たぶん。きっと。
「時間だから、支度するね」
しぶしぶベッドから起き上がり、名残惜しそうに伸ばされた手をきゅっと握ってから洗面所に向かった。
「よくお似合いです」
仕事用の普段着だけど、そう言われるとちょっと嬉しい。
「ありがとう。そろそろ行かなきゃ」
憂鬱さを紛らわすように抱きつくと抱きしめ返された。こういうのっていいな。今日も休みならもっとよかった。などと思っていたらそのまま体が持ち上げられて、なすすべもなく玄関まで運ばれた。バッグまで持っている。いつの間に。
「いってらっしゃいませ」
「行きたくないなー……」
「お帰りになるまでお待ちしていますので」
「まだ行きたくならないなー……」
「お好きなお菓子を焼いておきますので」
「もう一声」
「困りましたね……。どうしたらいいのでしょう」
これは私が何してほしいかわかって言っている顔だ。絶対わかって言っている。
「……いってらっしゃいのキスしてください」
「かしこまりました」
と笑顔で私の望む通りキスされた。
実のところ、行きたくない気持ちは変わっていないのだが、他ならぬバルバトスさんがここまでしてくれたからには応えなくては、という気持ちで家を出た。
ちなみに、なかなか離してくれなかったので、遅刻寸前だったことは黙っておこうと思う。