ジャンクフードだけじゃ足りない「どうしてあのとき写真送ってくれなかったんですか?」
勢いあまって想像以上に大きな声が出てしまい、バルバトスさんが驚いた表情を見せた。
***
ドアがノックされる音にペンを置く。
「課題の調子はいかがですか」
「これならお昼過ぎには終わりそうです。資料だけでなく部屋まで借りてしまってすみません」
「魔王城の書庫にしかない資料ですので、持ち出されるよりは城内で作業して頂く方がこちらとしても助かります」
時刻を知らせるように壁の時計を見てから私に問いかける。
「そろそろ昼食の準備に取り掛かります。何かご希望はございますか?」
「何でもいいんですか?」
「はい。ちなみに、本日の坊ちゃまの昼食はチーズバーガーを予定しております。先日、あなたにもチャットで送った件をお話したら羨ましがられてしまいまして。ですが、栄養バランスの面でそのままお出しするわけにもいかず」
そのチャットが送られてきた瞬間を思い出し、話の途中だというのに声が出た。
「どうしてあのとき――」
***
私の声の大きさを羨ましさの表れと受け取ったのか、
「それでは今日の昼食はヘルず☆キッチンのダブル腐毒チーズバーガーになさいますか? 確か最近Akuberに対応したはずです。注文いたしましょうか」
「違うんです」
かぶりを振って続ける。
「それを食べるときのバルバトスさんの写真を送ってほしかったんです」
「理由をお聞かせ頂いてもよろしいですか」
「……バルバトスさんの、色々なところが、見たい、から、です。珍しいところも、珍しくないところも、好きなひとの姿を全部、知りたい、から、です」
改めて口に出すと恥ずかしい。それなのにバルバトスさんは涼しい顔で返事をする。
「それは申し訳ありません。あいにく自撮りといったものをする習慣がなく」
「それなら、次行ったときに送ってもらうのは……」
「かまいませんが、『次』があなたが生きているうちという保証はありませんよ」
突き付けられた想定外の事実に言葉に詰まってしまう。そもそもバルバトスさんの普段の言動からすると次がない可能性すらある。一生に一度、あるかないかのチャンスが何も出来ないうちに終わってしまったことに愕然とする。
誰も何も悪くないのが、より、どうにも出来なかったことを実感させて気分が沈んでいくのを加速させた。泣きそう。なんでこんなことになったんだっけ。……思い出した。
「あ、お昼ですよね……なんでもいいです……」
「かしこまりました」
今更嘆いてもどうしようもないと気持ちを切り替えて課題に集中していればあっという間に時は過ぎる。再度ノックの音が響いてバルバトスさんが顔を見せた。私の傍らに立ったバルバトスさんからは少し温かくて美味しそうな匂いがして、ディアボロにお昼ご飯を供してきた後だとわかる。次は私の番、と思ったのにその手には何も持っていない。
「お食事ですが」
「何かトラブルでも……?」
「本日も予定が立て込んでおりまして、昼食をとりそびれてしまいました。この辺りの店で済ませるつもりなのですが、よろしければお付き合い頂けますか」
「はい……!」
D.D.D.の奥底にしまった今日の写真は、私とバルバトスさん、二人だけのもの。