いつ、いかなるときも、あなたを 私とバルバトスさんが俗に言う、『友達以上、恋人未満』の仲になってから随分とたつ。
確認したわけではないので自分でそう思っているだけなのだが、相手の部屋で二人きりのお茶会に誘われるのはそれなりの仲と思いたい。
今日もお茶会はいつも通り和やかに進み、途中、バルバトスさんのD.D.D.が着信を告げた。
「少々席を外します。楽になさっていてください」
ドアが閉まった後、足音が遠ざかり、聞こえなくなった。
直後、突然ドアが開き、そこにはお茶会での笑みは消えて沈痛な面持ちのバルバトスさんが立っていた。
「どうしたんですか?」
バルバトスさんは無言のままこちらに歩み寄り、返事の代わり、とばかりに強く私を抱きしめた。今まで触れることのかなわなかった香りが私を包み込んだ。
「お慕いしております」
悲痛さを孕んだ縋るような声が聞こえた。
声に滲む辛さに思わず抱きしめ返そうとしたそのとき、用は済んだとばかりに「失礼いたしました」と早々に部屋から出て行ってしまう。さっきまでの様子が嘘のような、いつも通りの表情だった。何がどうなってるの……?
「お待たせいたしました」
再びドアが開き、バルバトスさんがにこやかな顔で戻ってくる。
「何かあったんですか?」
「坊ちゃまのお仕事について少々。解決しましたのでお気遣いなく」
「それだけですか?」
「はい」
「あの、もし何かあったらお手伝いするので言ってください。その……私も……バルバトスさんのこと好き、なの、で。力になりたいです」
それを聞いてバルバトスさんはなぜか考え込んでしまった。変なこと言ったかな……。
「本当に大丈夫ですか……? さっきも辛そうだったし……」
「いえ、もう大丈夫です。お心遣い、ありがとうございます。それより、折角なのでもう一度聞かせていただけますか?」
「うっ……それならバルバトスさんももう一回言ってください。聞きたいです」
私の手を取って、しっかり、ゆっくりと言葉が紡がれる。
「お慕いしております。何時いかなる時も」
電話を済ませて戻ってきたバルバトスは部屋の前に、よく知った魔力の残滓を感じ取った。自分の魔力だ。いつもはこのような痕跡など決して残さない。別の自分がこんなミスをするとは何があったのだろうか。
「お待たせいたしました」
席に着き、その後、留学生の言葉を聞いたバルバトスは考えを巡らせる。
私『も』、ということは自分が同じ意味のことを言ったのであろう。何故わざわざこちらに来てまでそのようなことを?
考え込んでしまったバルバトスの様子を窺う
「本当に大丈夫ですか……? さっきも辛そうだったし……」
という留学生の心配そうな言葉でようやく察しがついた。
恐らく来訪したのは想いが叶うことのなかった自分なのだろう。拒否されることのない世界でそれを伝え、もう二度と表に出すことのないようにと。
「いえ、もう大丈夫です。お心遣い、ありがとうございます。それより、折角なのでもう一度聞かせていただけますか?」
余計な心配をかける必要はない。
「うっ……それならバルバトスさんももう一回言ってください。聞きたいです」
目の前の相手への想いと、別の自分へ手向けを込めて言葉を紡いだ。
「お慕いしております。何時いかなる時も」