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    夢を結ぶ午睡、 言うなれば華胥の国に遊ぶ子ねこ一、夢を結ぶ午睡二、華胥の国に遊ぶ一、夢を結ぶ午睡 まだ午後には至らないひどく麗らかな気候をした午前、シンノウは神宿学園の構内に併設された固いベンチで心地よい日差しを浴びつつまどろむ少女をみて大きなため息を吐いた。いつでもどこででもねむれるらしい少女は、この前は下に何も敷いていない状態で青々と茂る芝生の上で小さく丸まってねむっていて、さらに前は図書館の奥まった場所にいた。どちらにせよ、誰かの声が届かない、届きづらい場所で小さく丸まって午睡に浸る眼前の問題児をどうしたものかとシンノウは考える。ここは寮ではなく学び舎である、しかし昼間の休憩時間をどう使おうと彼女の勝手だ。しかし、そうしかしだ。どうしたもんかね、と考えながらもう幾度目かもわからない大きなため息の原因を、シンノウは揺り起こすために肩に手を当てて体をゆすった。

    「うぅ……まだじかんある…………」
    「君なぁ、時間の問題じゃあないだろう……。とりあえず、シンノウ先生が君に優しい態度をとってるうちに起きたほうがいいぞ」
    「や……ねむい……」
    「君ってやつは、本当に……まったく、教室に連れて行くから……ったく、聞いちゃないか…………」

     怪我を治すのは慣れていても、眠い眠いほうっておいてとぐずる子どものあやし方をシンノウが熟知しているはずもない。軍医に保健室の先生と、シンノウが今まで経てきた職業に、子守のスキルが生じたり、よしんばスキルがうっかり生じたとしても、それが磨かれる要素や余地はない。同じ教員で彼女のことをよく知っている物部教員や、子どもやそれに類するものの扱いに慣れているらしいジズならば、彼女をうまく起こしてなだめすかして自分の足で教室に向かわせられるのだろうか。
     シンノウは本日一番に盛大なため息を吐き、まだ意識の大半が華胥の国に遊んでいる彼女を抱きかかえた。確かに太陽がやわらかな温さを地表にもたらす今日の気候は眠気を誘う。もうすっかりいつもどおりになってしまったがゆえに、慣れた手つきで乱れめくれた彼女の制服と髪を整えた後、うっかり落すということはまずないが、ほんのささいな意趣返しをこめてシンノウは彼女を姫君にするように、丁寧に横抱きにする。シンノウが眠たげに目をこする彼女がなにか病かと心配して、いくら診断を重ねようと彼女はただ眠たいからねむっているだけなのだ。
     そして人の声がすると寝づらいという理由で外でねむる彼女を寝かしておいてはやりたいが、寝る場所を教室にしてくれればいいものを、人の声がしない場所を見つけるのがうまい少女はねむる場所を一向に選んでくれない。しかし保健室のベッドを昼寝しているものに貸し出すのはシンノウの立場を考えれば言語道断であるから、シンノウができるのは、夢うつつの彼女を彼女の教室に連れ帰ること程度だった。

     今日彼女を受け取ったのは高伏ケンゴだった。この前は薬師寺リョウタと本居シロウの二名だったが、その二人は今いないらしい。まだ意識の大半が覚醒しきっていない彼女は、おまえなぁ、というケンゴの呆れた声にんー、と言葉にかなり吐息が混ざったいまだに覚醒しきらない、睡魔に負け続けている者特有の声を出す。
    「……まぁ、先生は保健室にもどらなきゃならないんでね。後は任せた」
     答えを待たずにシンノウはその場を後にする。いつだって休憩中、たまたま見つけて教室に連れ戻した問題児よりも教員としての仕事を優先した、というふりをしてからシンノウは彼女を彼女の級友に託す。手のひらにまだ残る体温を腕の中に閉じ込めてしまいたい欲望を大人ぶった顔の下に隠しながら、シンノウは明日もまた、誰に言われたわけでもないのに学校の外、芝生の上、あるいはベンチの上で温いひかりのなか、猫のようにねむる彼女を探しに行ってしまうのだろう。整えた長い黒髪の滑らかさ、無防備に体を預けられるのを純粋な信用ととっていいのだろうか。そこまで考えて信用、という言葉に甘さを探してしまう己を保健室に引っ込みながら、シンノウは苦笑した。シンノウは彼女に惹かれている。抵抗など意味をなさない、星と星を引き寄せる強さを持った引力すら感じるほどに。

     彼女がその小さな体を預けてもいいとおもう人物は、別にシンノウだけではない。その事実に気づくと、気づいた分だけシンノウの心には小さな針のような棘がいくつも突き刺さる。大人だって内部をさらけ出してしまえば内部は十分ケダモノであるが、そもそも相手は高校生。子どもだぞ、と心の中で線引きができる。いまは、まだ。ずるい大人らしく彼女への想いとケダモノの欲望を心中にひた隠すことだってできるが、それがいつまで保てるかは、もはやシンノウにすらわからなかった。
    二、華胥の国に遊ぶ 今日もまた、昨日見つけた場所とはどこか違う場所を寝床と定めたであろう彼女を探して、シンノウは校舎を出て構内を歩く。どういう理由に基づこうと結果としてシンノウが自主的に彼女を探しているから、他の教師達は積極的に彼女を見つけに外に出ることはない。それを喜んでいいんだか悪いんだか分からない、というか喜ぶことなど出来ない現状であるが、彼女を抱えて教室に戻す役割を他の教師に任せるという選択肢を選べないシンノウは、まったくすっかり絆されたもんだよと頭をかきながらその足を止めずに彼女を探す。さて、今日彼女はずいぶんと見つけづらい場所、つまり校舎の裏手で、まだあたたかいひかりが満ちたコンクリートの上にわざわざレジャーシートを敷いてまで彼女は安らかな寝息を立てている。レジャーシートを敷いたところで意味はさほどなさそうだが、芝生の上で何も敷かずに丸まっていた時よりずっと進歩している。そう考えてしまう自分に対して、思わずシンノウは微苦笑してしまう。

    「よう問題児君。寝るならもう少しがんばって授業を受けて、そして帰って寮のベッドの上で堂々と、がいいんじゃないか? コンクリートの上じゃなくてベッド上なら体が痛むこともないし――まぁ、今も十分安眠してるようだけど、こうしてシンノウ先生に小言を言われて教室につれていかれることもないぞー?」
     シンノウは薄っぺらいレジャーシートまで用意して、あるいは用意されたそれを使ってまで外でねむることに意味があるか分からない。いつもどおり彼女を抱き上げようと、シンノウは彼女の体の下に手を滑り込ませる。いつもと違ったのは、寝ぼけた声を出した彼女が自分から、シンノウの首に腕を回したことだ。意識は相変わらず覚醒しきっていない、それなのに甘えるようにすべての体重を預けて、今彼女はシンノウにすべてを明け渡しているということを、いつもは意識なんてしないのに、その事実を変に意識してしまう。
    「こーら、いい加減起きろって。分かりづらいところにいたから、チャイム鳴るまでそう時間ないぞ」
    「うんんー……や、」
    「やだじゃなくてだな、」
    「やー……うぅー……まだ、しんのうといる…………」

     まだ華胥の国で遊んでいるせいで、いつもよりたどたどしく幼い響きを持った言葉に、シンノウの心臓が意図や取り繕った外面を無視して勝手に跳ねる。君ってやつは、と口から零れた言葉に滲む彼女への欲求が感情が熱が、その心の中で嵐のように荒れ狂う。思わず、のんきに午睡の余韻に浸っていて体温だけでないあたたかさを纏ったからだをシンノウは思わず抱きすくめてしまう。シンノウはずるい大人だとよく言われるし、そう振舞っている自覚だってある。けれど日向の温度にまどろむ子猫は、そうと意識したわけでもないのに大人の上っ面なんてものを簡単に剥ぎ取ってしまう。この場合本当にずるいのはどっちだか、と負け惜しみのような悔しさに満ちた言葉を頭に浮かべて、シンノウは彼女を持ち上げると、いつもどおり横抱きにする。彼女を見つけ始めた時からつけるのがすっかり習慣になってしまった腕時計を見ると、休み時間が終わるまで残り十分ほどしかないことに気づいた。いつもどおり。そう、いつもどおり乱れた髪と制服を常より急いで簡単になおしてやって、下敷きにされていた妙に明るい色合いをした星が浮かぶそう大きくないレジャーシートも適当にたたんで彼女の上に乗せさらにその腕を動かして落ちないようすると、シンノウは校舎へともどっていく。ややゆっくりとした足取りになってしまうのはどうしようもないだろう、後々文句でも言われたならあの言葉を言ってやるのだとシンノウは心に決めた。ちょっとした意趣返しの方法を増やしたって、腕の中で丸まる子猫以外、誰も文句なんていいやしないのだから。

     温い日向があたためた肉体の温度を感じながら、今回彼女を出迎えるのは誰であるかと考え、先ほど引き剥がされた大人の顔をもう一度纏いながらシンノウは足を進める。なあ、君はオレが好きかい?と聞こえやしないだろう思いながら、けれど期待をこめて耳打ちして、んー、すきーと寝ぼけた声を返した彼女に跳ね回る心臓と心をなんとかなだめすかし押し込め、シンノウは発見した彼女を授業開始のベルが鳴り響くまでに彼女の級友、あるいは担任に身柄を引き渡すため、ゆったりと進めていた足を急かした。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/22 12:47:37

    夢を結ぶ午睡、 言うなれば華胥の国に遊ぶ子ねこ

    構内ならどこででも昼寝する自由人主2とそれに振り回されてるシンノウの話、シンノウ振り回す側にされる側も似合うからほんとうに狡い男ですよ。主2は女性固定です、前述の設定が設定なので性格もやや固定気味かなとはおもうのですが今回主2があんまりしゃべらない。
    #東京放課後サモナーズ
    #放サモ
    #シンノウ主2

    感想等おありでしたら褒めて箱(https://www.mottohomete.net/MsBakerandAbel)にいれてくれるととてもうれしい

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