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    懐中道標一、紅二、白三、青四、黒五、赤一、紅「       、」
     どこまでもひどいいのちだとバートロはおもう。尽き果てるその時に、そんな言葉を告げるのかと、いつもであれば皮肉とジョークを多分に交えた非難を発せられるのに、少年の声帯、あるいはそれと同等の働きをもたらす機械は何も発せず、何の言葉も紡げないでいた。尽き果てることがすでに決まった少女の手が、バートロの頭をいつかしたように、そっと撫でる。
     ひどいひとだ、その呟きは言葉になったのだろうか。音として彼女の耳に届いたのだろうか。かすかな笑みを浮かべた少女が最後の息を吐くと、やわらかな手は、地面へ落ちた。
    二、白 トロフィーである少女がウォーモンガーズの手中にあるといって、バートロのすべき観測に何か特筆すべき変化が起こったり、取り立てて作業が増えることもない。ループの観測者としてなすべきことをする、少女はウォーモンガーズの誰かに殺されるのだろうとバートロは予測して、彼女を拾ってきたのは誰だったかの情報を予測の精度を上げるため引き出そうと、バートロは機器に手を伸ばした。伸ばした、で行動が終わったのはバロールの部屋と外界を隔てる扉の向こうで、ひどく大げさな音と瞬間的に感じた痛みを訴える声がしたからだ。
     バートロは少し考えてから、別の機器に手を伸ばしボタンを押す。少し重々しい音を発しながら開いた扉の向こうには、転げた時に鼻を打ったらしい少女が顔に手を当てうずくまっていた。
    「ハロー、ヒューマン。そしてはじめまして」
    「あ、うん。はじめまして。ごめんね、うるさかったんでしょ?」
    「ええ、ええ! 愉快な音に少々興味を抱く程度には!」
     恥ずかしいと顔に表して、顔を真っ赤にしている少女にバートロはいつものわらいを発する。そして医務室はここ遠いから手当てをするという提案をしたバートロに、少女は少し迷ったが、痛む膝やらに嘘はつけないらしく素直にバートロの部屋に入った。
     バートロの生体部分はほとんどないが、ウォーモンガーズに配布されている医療キットは少数ながらバートロの部屋に設置され、設置してそのままというわけではなく定期的に交換されている。生憎水はないため、膝を消毒するとバートロは擦りむいた膝から血が滴らないように、そこから菌が入り込まないよう手当てをする。
     大人しく手当てを受ける少女はバートロからずっと目を離さないでいた。警戒ではなく、興味といったほうがいい視線を受けながら、バートロは彼女の鼻にも絆創膏をはる。すべての処置が終わって少女がたちあがりバートロの手当の手際に感心しているのを見ながら、バートロは目を細める。無知は裏返すと無垢に変じる、今少女は完全に無垢であり、彼女が無垢でなくなる時は計算せずともそう遠くない。
     少女はいつだって敗北者だ。運命から逃れられない、本当ならばどこへでも行ける、どこへでも行くために全てを置き去りする魂を詰め込まれた少女にバートロは感傷を抱くことはないが、時折言いようのない哀れを感じることがある。今がまさにそうだ、少女に背を向けるとバートロは計算を開始する。これ以上の接触は不必要だと感じていたし、そしてそれは実際にそうであるから。
     だから、少女の「今度お礼しにくるね、とにかくありがとう!」という言葉を皮切りに、少女が幾度もバートロのもとに訪れることになる可能性をバートロは計算する必要もないと切り捨てていた。
    三、青 少女の訪問はこれで十三度目だとバートロは思考する。何かと理由をつけてバートロのもとを訪れる少女の手には、バターココアと星座盤があった。星座盤があるとしてもこの東京の空に星はない、しかしバートロはそれを指摘しないまま星座盤と空を行き来する少女の視線を見つめていた。少女が正真星を見たいというわけでないのは、十三度目も訪問を重ねられれば自然とわかる。
     バートロには予定調和の戦争であるが、脅かされる記憶のない少女にはゆっくりと、しかし確実に忍び寄る戦の足音は脅威にほかならない。耳をふさいでもどうにもならない、そして現状から逃れることもできない少女の持つ一種の愚かに基づく正しさが、少女自身を貫いていた。
    「ヒューマン」
    「うん?」
    「恐ろしいですか?」
     主語をあえて削いだバートロの言葉に、もうとっくに中身のなくなったマグカップを所在なさげに弄んでいた少女は言葉を返さなかった。返せない、という方が正しいのかもしれないとバートロは思考する。少女の無垢は完全には削がれきっていない、わからないのだ、彼女は。バートロがそう思考を結ぼうとすると少女は「しにたくは、ないかな」と感情がおぼろげな声を発する。
     星座盤はとっくに床に置かれ、少女の瞳は星のない空ではなくバートロにそそがれている。少女は思いついたように「わたしになにかあったら、わたしのこと忘れてね」とつぶやいた。
    四、黒 予定調和の戦争は泥沼になりつつあった。それ自体は計算で算出できた結果であり、別に特筆すべき事柄ではない。バートロは床に滴った赤色を辿って少女と一緒に空を仰いだ場所に向かっていた。自分を得るための戦のなか、少女の心は着実に変化していった。
    「あなたは自死を選ぶのですか、ヒューマン?」
    「バートロ、」
     この高さからであれば即死は免れない、少女もそれは承知でこの場に立っている。それに、少女の腹を汚す鮮烈な赤。ゆっくりと死を感じるよりも、確かに恐れは少なく終わるだろう。すでに瀕死の少女はろくに動けないらしいとバートロは判断する、内臓にもいくつか損傷があるようだから、むしろ良く持ったほうだ。
    「ねえ、バートロ。おぼえ、てる? わたし、のこ、と――わすれる、約束」
    「約束をした覚えはありません。それに、ええ、四度目の訪問の時に言ったでしょう」
    「きろく、だっけ」
     少女の呼吸がだんだんと途切れていく。このループはもうおしまいだ、そしてまた最初から。少女は死んで呼ばれまた死んで呼ばれる。少女とバートロの対話は予定調和のなかの、いずれ記録にうずもれる程度の会話だった。
    「ねえ、バートロ」
     そうならなければいけないのだ、記録する機械に本来情緒や人間性は必要ない。少女はバロールに手を伸ばす。機械の狼を辿り、頭に触れて、付いてないはずの傷を慰撫するように、優しい手つきで少女はバートロの頭を撫でた。
    「バートロ、」
     少女の吐息に血が混じる。
    「わすれていいんだよ、」
    五、赤 どこまでもひどいいのちだとバートロはおもう。尽き果てるその時に、そんな言葉を告げるのかと、いつもであれば皮肉とジョークを多分に交えた非難を発せられるのに、少年の声帯、あるいはそれと同等の働きをもたらす機械は何も発せず、何の言葉も紡げないでいた。尽き果てることがすでに決まった少女の手が、バートロの頭をいつかしたように、そっと撫でる。
     ひどいひとだ、その呟きは言葉になったのだろうか。音として彼女の耳に届いたのだろうか。かすかな笑みを浮かべた少女が最後の息を吐くと、やわらかな手は、地面へ落ちた。
     バートロは血に濡れた少女の瞼を、そっと閉ざした。少女の死はまた、が頭について久しいというのに、消耗しない機械でどれほど自分を変え補おうと、少女の死はいつもバロールの中の変えられない何かがあることを自覚させる。
     少女の死をもって、この戦争に意味は何もなくなった。すぐにすべてが押し流される、今この時に確かにあった少女の痕跡をバートロの中にだけ残して。大きな風が吹き、あの日少女が手に持っていて、そのまま床に置き去りにされていたらしいあの星座盤を風が攫っていった。あの星座盤には夏の星座しか刻まれていない。そして春の星座を彼女が知ることもないまま風が薄い星座盤をどこかへ運んでいてしまうまで、時の津波が訪れるまで。バートロは、少女の側で星のない空を見つめていた。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/07/10 20:00:32

    懐中道標

    短いバト主2、初めて書いたやつだったと思うのでキャラ解釈が固まってない感がある。主2は女性であること以外特に細かい設定はありません。
    感想等おありでしたら褒めて箱(https://www.mottohomete.net/MsBakerandAbel)にいれてくれるととてもうれしい
    #バト主2
    #東京放課後サモナーズ

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