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    七月七日、星の願いよ【卑弥呼と名無しの弟】 
     ―――『織姫ちゃんと彦星君が無事に再会できますように!』

     七月七日、早朝。卑弥呼は眠りから目を覚ますと真っ先にカーテンを開けた。そして窓の外の眩い太陽と青空を確認して歓声を上げる。今朝も日課で彼女あねをたたき起こした弟は、彼女の大喜びに「やれやれ」と肩をすくめながらも微笑んだ。
     現在高校生の卑弥呼は、昔から七夕の日に思い入れがある。正確には、七夕伝説の織姫と彦星の物語に深く思い入れがあるのだ。
     灰かぶり姫のハッピーエンドに憧れ、白雪姫の夢からさめる方法にも照れつつ憧れる卑弥呼は、けれど織姫と彦星の物語には大層ご立腹であった。
     はなればなれの織姫と彦星は、年に一度の七夕の日の夜だけは天の川を渡って再会できる。そのような物語に対しての卑弥呼の感想は「一年に一度は愛する人と会える」ではなく「一年に一度しか愛する人と会えない」だ。
     ゆえに「仲良しの二人を引き離すなんてひどい」「誰だって大好きな人とは一緒に過ごしたいのに」「ずっと二人で仲良く暮らしてるだけは、どうしてだめだったのかしら」と納得できず、「仕事サボるくらいラブラブカップルの前では大目に見てほしい」と織姫と彦星に同情して、果てには「話し合いでわかってもらえないなら力ずくで……」とか物騒な発想まで口から漏れ出るほどに不満だった。
     そんな卑弥呼は幼き頃に『七夕の日に雨が降ってしまうと、織姫と彦星は天の川を渡れずに再会できなくなる』という物語を知って以降、七月七日の晴れを毎年祈っていた。「一年に一度しかない逢瀬のひと時を叶えてあげてほしい。そのために二人はお仕事頑張ってるんだから」と。
     急な雨に降られがちな卑弥呼は幼き頃も高校生の今も予定に合わせててるてる坊主をせっせと拵えるのだが、七夕の時期だけは彼女自身の為ではなく織姫と彦星の為にてるてる坊主を拵えていた。さらに七夕の短冊に書くお願い事では毎年二人の再会の達成を希望していた。(ちなみに彼女の欲望に正直なお願い事―――おいしい蛤料理をたくさん食べたいですとか運命の出会いを今年こそ恵んでほしいですとかそういう俗っぽいもの―――は、やや反則かもしれない二枚目からの短冊にこっそり書いている。)とにかく彼女なりに全力で織姫と彦星の幸せの為に出来る事をやっていたのだ。
     日頃から突然の雨には不服な卑弥呼だが、七月七日はいつも以上に天候を気にする特別な日である。だからこそ今年の七夕は晴れて嬉しいと彼女は笑い、彼女を見守る弟も同様に嬉しく思っていたのだ。

     ◇◇◇

     ところが―――
    「天気予報は降水確率ゼロパーセントだったのに!」 
     七月七日、夕方。響き渡るは卑弥呼の悲鳴。
     姉弟で下校の途中、いつの間にやら曇天が広がり、ついには小雨がぽつぽつと降り始めたのである。先程まで晴れの七夕にるんるん上機嫌だった彼女はあまりのショックに立ち止まってしまった。
    「お天道様まで二人の幸せを拒むのかしら……」
     真剣に落ち込む彼女の肩を、雨はわずかに、しかし着実に濡らしていく。
     一方の弟は唐突な雨で落ち込む姉にかける言葉を探そうとして、ふっと今日のある会話を思い出した。
    「でも姉上、七月七日に雨が降っても織姫殿と彦星殿は再会できると語られる七夕伝説もあるらしいですぞ」
    「ほんと!?」
    「私も本日初めて耳にしたのですが……」
     幼き頃からの刷り込みで『七夕の日に雨が降ってしまうと、織姫と彦星は天の川を渡れずに再会できなくなる』のみだと思い込んでいたが、実際には様々な物語の七夕伝説が伝えられている。と、彼は学校で互いの姉の話を交わしている最中に友人から教わったのだ。
     弟からそういう説明を受けた卑弥呼は、
    「無事に二人が再会できるならそっちのお話の方がいいわよ! ぜったいそう!」
     と、勢いよく主張した。彼も「ええ、私もそう思います」と同意を返す。姉が投げやりになっているのではなく、他者の幸せを切にそうであってほしいと願っている事実を理解しているからこそだ。
    「それに、このくらいの雨なら織姫殿と彦星殿もなんとかなりますよ。私と姉上だって、子供の頃は雨だろうと外で遊んだ日があったでしょう?」
     彼は在りし日を追想する。
     かつての雨続きのとある日、雨でもお出かけしたいと駄々をこねた幼き姉弟は雨合羽と長靴を装着させられて外に出た。いつもなら憂鬱な気配を感じ取ってしまう雨雲を見上げているはずなのに、なんだか特別なお出かけに感じて心が躍り、水たまりで滑りかねないから気を付けなさいと大人に注意されてもついつい二人で駆け回り、家に帰り着いた頃には長靴の中の両足までずぶ濡れになっていた。翌日に彼だけ風邪を引いてしまって姉をおろおろと泣かせてしまった後日談まで甦るもそちらは言及せず思い出だけに仕舞いこむ。
     卑弥呼は弟の励ましの言葉に瞳をぱちぱちと瞬かせ、懐かしい子供の頃の姉弟に想いを馳せて「うんうん」と頷くと、彼に向けてにっこりと破顔した。
    「そうね、あたしたちだってこのくらいの雨なら、へっちゃらだったもの!」
     そうこうしている間に、いよいよ雨雲は暗い色合いを深めていき、ぽつぽつの雨は次第にさあさあと音を強めていた。話がどうにかまとまったところで、弟は常に持ち歩く二本分の折り畳み傘の片方を姉に渡そうとする。だが、
    「ようし、今のあたしたちも雨だろうとへっちゃらよね!」
     卑弥呼は浮かれ心で駆け出した。反応に遅れた彼は慌てて彼女を追いかける。そうなると姉弟揃って徒歩ではなく駆け足になり、
    「ちょっと、姉上!」
     彼の戸惑う声にも卑弥呼はどこ吹く風で走る。夕暮れを覆う雨雲の下が嘘みたいに、全力ではなく軽やかな足取りで、制服のスカートをひらりと靡かせて、雨と戯れるかのように。
    「ほら! はやくー!」
     今このときが楽しくて仕方ないのだと、無邪気に笑ってはしゃでいる。
    「……待って下さいよ、もう!」
     だから、姉に文句を言いながら雨天を走る彼だって、お転婆な彼女と同じく無邪気に笑う彼自身を自覚はしているのだ。

     ◇◇◇
     
     七月七日、夜。雨はしとしとと降り続け、天の川は雲に隠れて地上からは見えなかった。
    「……だけどね、今夜はきっと、織姫ちゃんと彦星君も仲良く二人で過ごせたと思うのよね。あたしはそう信じたいな」
    「私もそのように信じますぞ、姉上」
    「うん! あたしのお願い事は叶ったってコトで! ……ところでさ、そっちは短冊に何書いたの? 今年こそ教えてくれてもいいでしょ?」
    「ははは、まあ此度も秘密ということで」
    「むむっ。あたし、お姉さんに隠し事する弟に育てた覚えはないんだけどなあ~?」
    「そうですなあ。私には姉上と共に育った覚えはあっても、姉上に育てられた覚えはありませんなあ」
    「ぐぬぬ……。もうっ、いじわるな弟よね」
    「はっはっは。……きっと、私の願いも叶っておりますよ。今の私なら、そう思えるのです」
    「そうなの? それなら、良かったわね!」
    「ええ。―――ほんとうに、よかった」

     ―――『姉上のお願い事が叶いますように』
      
     
    干/火子 Link Message Mute
    Jul 31, 2022 6:21:46 AM

    七月七日、星の願いよ【卑弥呼と名無しの弟】

    #FGO #二次創作
    学パロ時空の卑弥呼さんと名無しの弟さんの、七夕の日のお話。
    邪馬台国姉弟は非恋愛関係として描写しています。

    表紙画像は同人誌表紙メーカー様で作成しました。
    #Fate/GrandOrder #ぐだぐだシリーズ
    #卑弥呼(Fate) #名無しの弟(Fate)

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