期間限定アイスクリーム×四つ【卑弥呼と名無しの弟】
十一月下旬のとある休日、夕暮れの頃。卑弥呼は後輩と遊びに行った帰り、あと少しで家という距離で空腹を我慢できずにコンビニへ立ち寄った。
狙うは肌寒くなってきた時期にぴったりなほかほかの肉まん。夕食もぺろりと平らげるつもり満々で、レジ横の肉まんまっしぐらに小走りして―――通路横の色鮮やかなポップが目を引き、急ブレーキした。
姉弟でお気に入りのアイス。そのシリーズの、初めて見る期間限定商品だ。
(―――これ、弟が好きそう!)
真っ先に思い浮かんだのは弟の喜ぶ顔。次いで、あたしも食べたいなあと欲が出る。夕食の後、暖房を利かせた部屋で味わうアイスは来たる冬の醍醐味なのだ。
(せっかくだから買って帰ろうかな。……うん! そうしよう!)
肉まんの気分は急遽キャンセル。今この時の空腹を我慢して、期間限定アイスを二つ、つまり二人分手に取った。
(きっと、弟は喜んでくれるわよね)
その様子を想像しながら、卑弥呼はるんるんと弾む心地で家に辿り着いた。早く見せたい、早く一緒に食べたいと夜を楽しみに想いながら。
◇◇◇
十一月下旬のとある日、夕暮れの頃。卑弥呼の弟は近場のスーパーで食料品や生活用品の買い物をしていた。最後に目当ての冷凍食品を探し終え、あとはレジに向かうだけという段階で―――ふと、とある商品が目に留まり、立ち止まる。
姉弟で好み、よく購入するアイスクリーム。そのシリーズの新しい期間限定商品だ。冬の訪れをいよいよ感じさせるパッケージは、定番とは異なる味や食感を魅力的にアピールしている。
(これはこれは、姉上がお気に召しそうな……)
そこで遅れて思考の癖に気づき、思わず苦笑した。いつものことながら、真っ先に姉の喜ぶ顔を連想してしまう己自身に。
(せっかくですし、こちらも買って帰りましょうか)
彼は期間限定アイスを二つ、つまり二人分手に取り、買い物カゴの中の一番上に積み重ねた。
(きっと、姉上は喜んで下さるでしょう)
その光景が目に浮かび、ふふ、と口元が緩む。帰路の足取りは浮かれてついつい軽やかになっていた。
◇◇◇
「……それで、まさか私も姉上も同じアイスを同日に買ってしまうなんてね」
「しかも二人とも二つずつ買っちゃったから、いきなり同じアイスが四つになっちゃったわねえ。以心伝心ってやつだったのかしら?」
「いやいやそんな、私が姉上と同レベルとは誠に心外……」
「どういう意味よ⁉ まったくもう、いちいち意地悪な弟ね!」
「ははは、これは失礼。それで姉上、お味の方が如何ですかな?」
「うん、おいしい! これおいしい! チョコがこう、ザクザクしてておいしい! ほら、たべてたべて! こっち!」
「姉上。斯様に姉上のアイスとスプーンを突き出してこなくても、私も今まさに同じアイスを食しておりますからね」
「いきなり四つも増えちゃったけど、今日これ食べても明日もこれがあるって、何だかお得な気がしてきた……‼」
「はっはっは。いやはや姉上は単純な御方ですな」
「ふふーん、だってこんなにおいしいもの! ね、ね、そう思うでしょう?」
「ふふふ。ええ、美味ですなあ。……はい、良い買い物をいたしました」
夕食後、今夜のデザートのひととき。あたたかに笑い合う姉弟ふたり。姉弟揃いで口に運ぶ二つのアイスクリームは、冷凍室にも手付かずで同じく二人分。
……後日、他にも新たなアイスが四つずつ増えていくのだけれど、それはまた別の話。