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    この願いも御伽噺ではなくて【マホロアとカービィ】 
     所詮は、御伽噺のようなモノだと見做していた。
     星のカービィ。遠いポップスターにいるという、皆のヒーロー。そんな都合のいい奴が現実に存在するものかと、どうせ空想の類、誇張された噂話だと。
     
      ◇◇◇
     
    『キミはナンデ、みずシラズのボクなんかをタスケテくれるの?』
     星のカービィ。向こう見ずなオヒトヨシ。彼のそのような性質を都合よく利用しながらも、思考を心底理解できず、最後の最後に意味無くぶつけてしまった問いかけ。こちらの妙にざわつくココロを察するはずもない彼は、きょとんと黒くて青い瞳を瞬かせるだけだった。訝しむ素振りは一切見せずに、なんでそんな事を聞くのかと、ただただ不思議そうな顔をした。
     同時に観念した。これは、理解不能な生き物だ。わかりきっていた答えを再確認して、さっさと話題を終わらせた。
     天翔ける船は御伽噺ではなく実在する現実だった。だがこれは穢れた現実を考えた事もない愚か者だ。そうに違いないと見下した。
     だから理解の必要はない。何故ならこれは実在しても現実にはそぐわない。そして御伽噺も夢物語も、理想も空想も、ボクはとうに飽きた身なのだから。
     
      ◇◇◇
     
     丹念に伝えた感謝は事実ではあったが冷笑の裏返し。トモダチだなんて利用するための嘘でしかない上辺だけの単語。そう、すべて虚言だったはずなのに、彼は当たり前のようにすべて信じた。
     手酷く裏切ってやったのに。ざまあみろと嘲笑ってやりたかったのに、きょとんとした顔でこちらを見上げるだけだった。ボクだけが苛立った。いつもボクだけが搔き乱される。うんざりした。
     あのときどころか彼はいつだって、ボクの想定から外れた反応ばかりを返してきた。駒として思い通りに利用しているはずなのにちっとも思い通りではなかった。ずっとずっと、うんざりしていた。
     呆れるくらいのオヒトヨシは、あの黄色の星に吹く『はるかぜ』とやらに似て、ひどくあたたかで自由だった。
     
      ◇◇◇
     
     冠から溢れ続ける無限のチカラ。
     ボクが支配のためにあれほど求めた宝物は今や猛毒と化し、ボクは止める術もなく冠の支配下に吞み込まれた。
     暗く、昏く、激しく、ボクのモノではないはずの濁流がココロの中を暴き、身勝手に轟く。濁流は異物だ、ボクとは異なる誰かの、数多の憎悪、執念、怨嗟、何か、味も手触りも突き止められない何かすべて、すべてがボクを襲った。
     吐き出したい。掻き毟りたい。絶叫したい。狂ってしまいたい。それらすべての抵抗がかなわない。いつまでも喰い込み続ける冠に囚われる。縛られる。締め付けられる。啜られる。堕ちていく。忌まわしい悪夢に蹂躙される。自我が薄れていく。支配、される。ボクがボクではなくなっていく。
     異物が大量に注ぎ込まれていく。息ができない。強欲に無様に必死に縋ってきた信念があっけなく異物と同化し、馴染んでいく。痛みと苦しみすら遠のき始める。ボクではないはずの幾重の声にココロは染まっていく。もうどうにもできないと片隅でちっぽけなボクがボクを見下ろす。理性を失くした怪物が無邪気に笑っている。
     こんなはずではなかった。長年の野望をようやく為せると慢心した。ここまでだった。失敗した。自業自得の無残な末路。ここでおしまい。活力は根こそぎ奪われ、啜られた。もう、いい。もうどうでもいい。憤慨も悲哀も後悔も何もかもをないまぜにして、わずかな欠片しか残っていない自我もついに完全に手放そうと、した。
    「――マホロア!」
     気迫に満ちた声がココロに響いた。悪夢に支配された最中ですらボクに届いた、一筋の光。ボクとの戦いの跡を小さな体に増やしながら、ピンクのオヒトヨシが前を向く。
     ボクはもう諦めたのに、彼は諦めずに戦う。決して折れない希望がそこには在った。しかも、この場はボクを殺すためではなく、ボクを救うための戦いなのだと、彼の在り方が雄弁に語っていた。
     信じられない。信じたくない。だけど、
    「また、友達になろう!」
    (――ナンデ、)
     彼は命がけで戦っている。それはいい。だが、仇を為した敵にかける情けは不要なはずだ。そんな戦い方は徒労を重ねるだけだ。こんな裏切者を救わねばならない理由はない。当然に慈悲なく殺して、それで終わりにすればいいのに。
    (わからナイ……)
     冠に侵されたココロでは、彼をどう思うべきかもわからない。いいや、今このときだけではなく、本当はずっとどう思えばいいのかわからなかったのだ。
     馬鹿らしくて滑稽で、妬ましくて疎ましくて、憎たらしいほどに――眩しくて。羨ましくて、ニガテだった。
     カタチにできる想いはその程度。カタチにできない未知の何かはいつもココロに渦巻いていた。どれもがたしかに嘘で、どれもがきっと、真実、だった。
     だって、彼を前にするたびに息が詰まった。彼の笑顔を見るたびに目を背けたくなった。彼の小さな手を握るたびに、幾度罵倒しかけたか。
     ボクは、こうはなりたくない。違う。ボクがこうはなれないと、とっくにわかりきっている。こんな光のそばにボクなんかがいるのは場違いで、惨めだった。彼と出会ってから、ボクはずっとずっと、苦しかった。トモダチでいてねと虚言に嗤いながら、ボクなんかがトモダチにはなれない真実を嫌と言うほど実感していた。
     御伽噺も夢物語も、遥か、手の届かない遠いセカイの概念。かつて憧れ、どうかボクのところにも、なんて、こい願った救い。ゼンブが置き去りにした過去。今更ゼンブは思い出せない、遠い昔の記憶。叶えたかった夢。叶えたいなんて無邪気に焦がれていた自身こそが恥ずかしい夢。つい最近まで、彼に出会うまで忘れ去っていた夢。そうだ、忘れ去っていたはずなのに、御伽噺みたいな奇跡が何度もボクに笑いかけてくるせいで、呆れてしまうくらい楽しそうに話しかけてくるせいで、なんとなく思い出してしまったのだ。
    (バッカみたイ……)
     消えかけていた朧な自我が踏み止まり、綺麗すぎる光景を笑い飛ばす。そう、綺麗だった。歪な異空間の只中でさえ、小さな彼のひたむきさは綺麗で純粋だった。こんなボクが相対するにはとうてい不釣り合いで、愚かで、輝かしい在り方。
     勇敢な彼の戦いに対して零れた感情は、支配の冠には一縷も関係ない、ボクだけのひねくれた感想だった。
     だから。
    (――モウ、イイヤ)
     あれだけ執念深く求めた伝説の冠。だが、もういい。もう要らない。ボクを苦しめるコレは要らない。こんなところで終わってたまるかと燻りを意地で燃え立たせる。まだボクの想いはボクに残っている。ならば極めて欲深いこのボクが中途半端に諦めて終わりだなんて、それこそ彼よりも馬鹿馬鹿しいではないか。
    (サァ、星のカービィ。マタ、カラかってヤルかラ、) 
     だから壊してしまえと、声にならずに届かない挑発を彼へ飛ばす。彼は柔軟に俊敏に異空を駆ける。そんな彼の努力を信じて、誰にも見えない内側で無理やりにでも不敵に笑う。未だ注がれる無限の暗黒と無限のチカラ。ココロに宿るかすかな灯火にしがみつき、悪夢なんぞに呑まれてたまるかと必死に抗う。外と内の攻防に、永遠ではない終止符を迎えるために。
     そうして――、
     
     意思で制御できずに暴れもがくボクの体に、きらめきが流星の如く接近する。
     数多の轟く濁流に吞まれ失いかけていたボクのココロを、眼前の、ただひとつの光が射貫く。
     黒く青く、初めて会ったときから惹かれた、宇宙そら色の綺麗な瞳が、ボクだけを、映して。

     ――みんなのヒーロー、星のカービィ!
     ――わるいヤツをやっつけたり、ひとだすけをしたり、ウチュウをマタに、大カツヤク!

    (……ああ、ホントウだったんダ)
     冠が砕かれる。注ぎ込まれた数多の憎悪と執念から、ようやく解き放たれる。悪夢に蝕まれていた意思が、現実に還ってくる。御伽噺ではなく、実在のヒーローによって。
    (カービィ)
     キミの名を呼ぶ。霞む意識で必死に、何度も、何度も。ココロの真中を灯すのは、知った事ではない数多の誰かの感情ではなく、ボクだけの、キミへの想い。
    (カービィ、ボクは)
     キミの何もかもを理解できない。ボクは、ボクの、キミへの想いの何もかもを、まだ上手く言葉にはできないけれど。
    (カービィ、)
     ようやっと解き放たれたボクへ、必死に伸ばされたキミの手を――トモダチの手を、必ずいつかは掴んでやろうと意固地に笑い、新たに芽生えた愚かな願いとは真逆に、案外穏やかに意識を手放せた。
     
     
    干/火子 Link Message Mute
    2023/03/25 18:20:45

    この願いも御伽噺ではなくて【マホロアとカービィ】

    #星のカービィ #二次創作
    マホロアから見たカービィのお話。原作のラストバトルを想定した内容です。
    「マホロアが『星のカービィ』の存在もおとぎ話だと考えてたら?」とか想像して書いた二次創作小説です。
    Wiiデラックスのストーリー・新規スペシャルページ・スフィア全回収台詞・真格闘王などなどのネタバレを含みます。

    #マホロア  #カービィ

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