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    言の葉は誰かの耳にしか残らず消えていくとか大嘘でした!(泣)【卑弥呼と名無しの弟と壱与】 
     もしもこの世がより豊かであれば、より気軽に贈り物を見繕えたのだろう。
     思案のはじまりは壱与の単なる思い付きだ。口約束の言の葉では、その場の誰かの耳にしか残らず消えてしまう。しかし女王卑弥呼の神殿に運ばれる数多の贈り物は、約束の証として確かに目に映り手で触れられるカタチである。そこで壱与も、あの日の卑弥呼という光との出会いから今日までの大きな感謝を、贈り物というカタチにして卑弥呼に進呈したいと閃いたのだ。言の葉だけではとてもとても言い表せないほどに大きな感謝でも、カタチにできれば卑弥呼あなたにすべて伝えられるのでは、と名案の気分だった。
     ところが、そもそも『壱与が入手できる品』は非常に限られている……、いいや、ほぼ皆無であった。
     卑弥呼が身に着ける黒曜石の腕輪一つ、翡翠の首飾り一つに劣らない品を壱与は用意できない。柔らかな衣を織り、色鮮やかに染める技術は習得しておらず、衣作りを本職としない壱与があえて挑戦するいとまもない。御馳走を振る舞いたくても、雉一羽捕らえる技量の持ち主ではなく、海や河の知識にも疎く、まだ見ぬたちばなを求めて未開の遠方へ勝手に向かう軽挙は避けたい。他にも当然、米は一朝一夜では支度できない。しいて言えばどんぐりを拾い集める術ならばそれなりに得意と自負しているものの、ドングリを食すための加工は壱与一人では困難だ。第一、日々御馳走を捧げられる女王卑弥呼相手に、壱与が拙い食事を拵える意味は無い。
     やはり贈り物は難しい。大きな感謝を伝える目的であれば別の方法がいいだろう。壱与は結論付けて別の思考に移ろうとして、
    「壱与様、何か悩み事でも?」
    「ひゃっ⁉」
     不意に声を掛けられ悲鳴を上げてしまった。慌ててすぐ隣を見ると、声の主はいつの間にか近距離にいた卑弥呼の弟だった。彼はいつも通りの神殿内を背景に、いつも通りに穏やかで落ち着き払った佇まいで、少し心配そうに眉を寄せている。
    「先ほどから立ったり座ったり唸ったり踊ったりと、何事かと思いひとまず見守っておりました。もし、未だ悩み事の最中でしたら、私でよろしければお力添えしますぞ」
    「えっと、ええ、まあ、その……」
     どうも壱与はうんうんと悩みながら奇行に走っていたらしい。しかもその奇行を彼にばっちり観察され……見守られていたという。気恥ずかしさで顔に火照る熱を感じつつ、
    「その、贈り物をしたいな~、なんて、考えてて……」
    「おやまあ。どなたに?」
     流れで素直に受け答えしてしまった。だが、そこで気付く。
     ここで正直に「卑弥呼さんに贈り物を渡したいです」と答えたとする。すると彼は「然様でしたか。では、姉上には内緒にしておきましょう」と笑うだろう。もしかしたら、壱与の身の丈に合う何かしらの方法を助言してくれるかもしれない。しかし、壱与は「卑弥呼さんに感謝の気持ちを伝えたい」けれど「私に贈り物は難しい」と結論付けたのだ。既に無理だと手を引いた内情も、結論に至るまでに辿った思考も打ち明けねばならぬではと考えると、己の役立たず感も卑小さもなんだか無性に情けなくて恥ずかしい。卑弥呼に感謝の気持ちを伝えたいというはじまりすら烏滸がましい願いだったのでは、贈り物を渡したいなどと大それたことを思い付かなければよかった、とまで後悔の念を募らせてしまう。
     彼にも卑弥呼にも恥を晒したくない。気を使わせたくもない。ゆえに壱与は、
    「た、大切な人に……あげたいなって……」
     しどろもどろになりながらも、ぎりぎりのところで誤魔化そうとした。仮に誰か個人の名を適当に挙げてしまえば、その誰かと彼が会話を交わす際に嘘がバレてしまうかもしれない。ならばと咄嗟に頭をよぎった単語は、昨夜の卑弥呼の妙に浮ついた寝言であった。
     
    「大切な人に……その、―――『運命の人』に、贈りたいんです!」
     
     壱与は大声の勢い余ってぎゅっと目を瞑っていた。嘘の声高な主張は神殿の壁に反響し、しかし彼からは何も返ってこない。不審に思われただろうか、怪しまれているのだろうか、と壱与はおそるおそる瞼を開く。
     卑弥呼の弟は硬直していた。 
    「……あのう……?」
     壱与が予想外の反応に戸惑いながらも問うと、彼はふるふると震えながらゆっくりと顔を逸らして片手で覆い、
    「そう。そうですか。そうですか。そう……」
     ぶつぶつと足元の虚空に向かって呟きを繰り返す。謎の挙動不審を心配していると、彼はぎりぎりと顔をこちらに戻した。壱与に向き合う表情はあまりにもわかりやすい作り笑いを浮かべていた。
    「そう……、そう、ですな。まだ幼子だと思い込んでおりましたが、壱与様もお年頃というコトなのでしょう……。ええ、個人の恋や愛やに、私がとやかく言う筋合いはないのです……」
     何やら妙な展開になってきた。もしや卑弥呼の言う『運命の人』とは、つまりそういう……夢溢れる……恋……愛……の話だったのか。
    「とはいえ、壱与様はまだまだお若い御仁ですからな。風紀の乱れにはお気を付けくださいませ。それさえ忘れずに過ごしていただければ、私からはとくに……とくに…………」
     彼は自らを無理にでも納得させるかのようにしきりに頷くも、何か納得できないものがあるらしい。作り笑いで壱与をちらちらと窺ってきて、
    「ちなみに、私の知己の御仁だったり……するのでは? お名前の方は……」
    「そのー、あのー、わ、私が恥ずかしいので個人情報死守でお願いしたくてですね……」
    「そ、そうですか。そうですよね。そうですよね……。いやでもほら、一度は私もお会いした方が良いと考えますぞ。いえ、これはあくまで壱与様の保護者の一人として必要最低限の義務を果たしたいだけであって、過保護ではなく出過ぎた真似でもなく……」
    「その~、あの~、すっごく忙しいらしくて、呼び出しに応じる暇がないんじゃないかな~と……」
    「ご安心を、業務の合間を縫って私から出向きますぞ。ええ、無理にでも暇を作って赴きます。姉上だって一刻も早く対面しなさいと私に命ずるでしょう。我々にとっての重大事件ですから、これは!」
    「じ、実は壱与、今まで会ったことないんです! 相手の名前も顔もお家も知らなくて! 今度、贈り物を届けに行けばようやく会える奇跡の存在……みたいな?」
    「会ってすらいない御仁に斯様な恋慕を⁉」
    「それほどまでに燃える恋心なんです! 障害なんて何のので……!」
    「要するに、お相手が障害どころか現実も見えていない向こう見ずな御仁なのでは? 鎮火させるべき恋心なのでは?」
    「そっ、そんなに酷く言わないでくださいよ! 壱与にとっては大事なひとなんですから! ええ、きっとそうなんです!」
     どうして壱与は架空の運命の人を庇っているのだろう。もはや何の為に無茶苦茶な嘘を重ねているのかわからなくなってきた。とっ散らかった頭でその場しのぎの嘘にさえならない出任せばかり放ってしまい、何処までも転がり落ちていく話にさらに頭がこんがらがってしまう。
    「……失礼ながら壱与様は現状、理性的な状態ではないと判断せざるを得ません。ならば私は、貴方の側にいる大人として動かねばなりません。壱与様、正直に白状くださいませ。これは壱与様を想っての処置なのです。ちょっと相手を懲らしめ……問い詰めて参りますから」
     怒りで目が据わる彼に、壱与は慄いた。そのように感情を昂らせる彼は初めて見た。何から何まで虚飾でしかない問答は、辿り着きたかった終点を完全に見失ってしまった。
     もう何をどうすればいいのか、何でこうなったのかと壱与は混乱の余り泣きそうな気持ちを抑えながら、よくわからない意地で嘘を守ろうとして―――物凄い勢いでこちらに走ってくる物凄い足音に気付いた瞬間に物凄い殴打音がドゴオッとすぐ近くの壁を物凄く破壊した。
    「どしたの⁉ 敵襲⁉」
    「卑弥呼さん⁉」
     壁の残骸がガラガラと崩れ落ちる中、まさに敵襲の如く飛び出してきた人物は何を隠そう邪馬台国女王卑弥呼であった。驚愕で咄嗟に動けなかった壱与は卑弥呼に俊足で詰め寄られ勢いよく両肩を掴まれる。とんでもない馬鹿力で両肩をぎしぎしと圧迫され「うぐっ」とうめき声が漏れ出た。そんな苦痛の声をよそに卑弥呼は緊張した面持ちで真剣に場を見渡す。
    「なんか大変な事件があったんでしょ?! 二人ともすごく騒いでたっぽいし! 安心して、ぜんぶあたしがやっつけちゃうから!」
     どうやら壱与と彼の言い争いが卑弥呼の居場所までかすかに届き、事件だと誤解した卑弥呼が全速力で駆けつけてくれたらしい。心優しい卑弥呼は壱与たちを大層心配して大急ぎで走ってきてくれたのだろう。ところで此処まで辿り着く道筋で壁を壊す必要など皆無なのだが、もしや心優しい卑弥呼は一刻も早く駆けつけたくて距離短縮の為に破壊したのであろうか。壁を。 
    「姉上、良い時においで下さいました。まさしく緊急事態かつ重大事件ですぞ」
     常時の彼であれば必ずお叱り厳重注意確定の壁破壊という問題行動も、今の彼は眼中に無い様子だ。もしも壁にもたれ掛かっていたならば命が危うかったに違いない……と壱与は血の気が引く気さえ覚えたのだけれど、今の彼は命どころではないらしい。
    「実は壱与様から『運命の人』の報告を受けまして、ところが出会いは果たされておらず、相手が何処の誰なのかも知らないと仰るのです。それなのに貢ぎ物を要求される有様で―――」
     壱与が止める間も無く、彼は迅速にすらすらと経緯いきさつを説明する。そんな話だったかなあと壱与は気が遠くなった。言の葉はその場の誰かの耳にしか残らず消えていくとかとんだ思い違いであった。さらにややこしくなりそうな気配に心の中で頭を抱える。しかし現実では「あの」「その」とおろおろ腕を上げて下ろして繰り返すだけだった。
    「私は心苦しくも壱与様の恋慕を断たねばと―――」
    「壱与……! あたしより先に大人になったのね……!」
    「「―――はい?」」
     深刻な面持ちで語る彼とは真逆に、卑弥呼は喜色満面で感嘆の声を上げた。
    「恋するというコトは大人になったというコト。ぶっちゃけなんにも知りませんが多分きっとそうなのです。おめでとう、壱与! 女王卑弥呼は貴方の恋路を祝福します! 別に羨ましいとか先を越されて悔しいとかは全ッ然思ってませんからね!」
    「卑弥呼さん? ……まさか嬉し泣き、それと悔し泣きですか?!」
     きゃあきゃあ騒ぐ卑弥呼と狼狽える壱与。一方で、
    「……姉上と方向を違える日が来るとは予想しておりませんでした」
     壱与と卑弥呼がはっと見やると、卑弥呼の弟は重い空気を纏い、見たこともないほどに禍々しい非難の眼差しをこちらに向けていた。怨霊と見間違えかねないおどろおどろしい雰囲気に、壱与はひええと震え上がる。これはもう取り返しのつかない状況に成り果ててしまったのではないか。
    「あのー、卑弥呼さん、弟さんっ。実はですね、本当は……!」
    「……姉上。姉上は、一度も顔を見せず名もなりも明かさない者に、壱与様の心身を預けても構わないと、本気でそう仰るのですか?」
    「いやあ、私はそこまで進展してるとは伝えてないかな~って……」
    「……弟よ。貴方はいつも女王のわたくしを支え、助けてくれました。日向のような優しさと暖かさに、わたくしは幾度も心を救われたでしょう。……ですが、これは……、貴方の意志と違えても、譲れない判断なのです。―――あたしの、乙女心に誓って……!」
    「私が悪いんです何もかも壱与が悪いんです! だから話を」
    「壱与は気にしなくていいのよ! なんにも悪くないんだから!」
    「これだから女王卑弥呼だとか偉そうにしてる癖に身近な事柄になるとてんでダメ姉上は……」
    「はあああああ⁉ ちょっとちょっと、なによその言い草⁉」
    「まったく、夢を見過ぎにも限度がありますぞ。幼子ではないのですから、現実と常識を理解すべきです。姉上のそういうところは決して嫌いではありませんが、今回ばかりは退いてもらわねばなりますまい」
    「別にいいじゃない、夢見ても! 恋や愛やに常識なんて通用しないんだから! ……あ~あ、昔っからそうよね! 姉のコトなんて全部分かってます~みたいな顔して!」
     二人のいがみ合いは壱与を置き去りにして白熱し、どこまでも加速していく。取り返しはつかない。もう泣きたい。泣きそう。
    「泣かないで壱与! ……我が弟よ、邪魔立てすると言うならば、今! ここで邪馬台国殺法頂上決戦と参りましょう!」
    「それは実質姉上殺法ですからな! ただの人間な私に斯様な芸当ができるわけないでしょう!」
    「そんなことないわよ? あたし以外もちゃんと習得できます。今度、壱与に伝授する予定もあるんだから! ね、壱与!」
    「えっ?!」
    「とにかく此処は任せて、先に行きなさい壱与! の者はわたくしが食い止めます! と、予言しておきます!」
    「ははっ、予言という名のただの有言実行宣言ですな姉上。―――行かせるものですか……!」
    「すみませんあの、私は何処に向かえば……?」
    「さあ、恐れずに思うがままに征きなさい。壱与あなたには希望の未来が待っているのだから……‼」
    「私の目が黒いうちは駆け落ちなんて許しません!」
    「―――光よ、常闇を照らしたまえ……!」
     壱与は話の流れに抗えずよろよろと逃げ出した。何処に? そんなのわかるわけがない。だが、今は壱与も卑弥呼も彼もとにかく熱を帯び過ぎだとはわかる。それなら、時間を置いて一旦全員落ち着いてからの方がちゃんと話を聴いてもらえるはずだ。これが完全に無意味な逃避行だろうと意味はある。ひとまずこの場を離れて、しばらく後に戻ってきて、それから嘘だったと告白しよう。そして嘘で振り回してしまったことをたくさんたくさん謝ろう。見栄を張るからご覧の有様なのだ。やっぱり生きとし生けるものは正直が一番なのだ。壱与は導き出した真理を噛み締め、目元に浮かぶ涙を拭い、卑弥呼と卑弥呼の弟の喧噪を背によたよたと走って、姉弟の声は次第に遠ざかっていき―――……、 
     
    「……わたくしの大切な弟よ。貴方に勝ち目はありません。それでも、どうしても諦めたくないとこの世に抗い続けるのですね」
    「勝てなくても構わない。私は壱与様の現在いまと未来を守りたい。……ただそれだけです、姉上!」
    「ならば致し方ありません……。―――受けてみなさい、卑弥呼の拳っ! 全力のなんか凄い光よ我が手に! うおおおおお~~……‼」
    「姉上の馬鹿力でこの身が砕けようとも……! これは譲れぬ戦いなのです……!」
     
     
    「――――――だめっ、だめですっ! 私のために争わないでくださーい!!」
     
     
     
      ◇◇◇
     
     
     かくして壱与は泣きじゃくりながら正直に嘘と真実と感謝のすべてを打ち明け、卑弥呼と卑弥呼の弟は宥めながらようやく成り行きを理解して冷静になり壱与と感謝を伝え合い、そして己の暴走っぷりを省みて姉弟お互いに目を逸らすのであった。壮絶な姉弟喧嘩は後に邪馬台国の歴史に別に刻まれはしなかったが壱与の心には深く深く刻まれ、以後、決してその場を誤魔化す為だけの嘘は吐かなくなったという。めでたし!
     
     
     
    干/火子 Link Message Mute
    2023/01/07 17:16:41

    言の葉は誰かの耳にしか残らず消えていくとか大嘘でした!(泣)【卑弥呼と名無しの弟と壱与】

    #FGO #二次創作
    生前の壱与さんと名無しの弟さん&卑弥呼さんが、嘘と勘違いでごたごた騒ぎになるお話。
    正式なタイトル名は『言の葉は誰かの耳にしか残らず消えていくとか大嘘でした!(泣) ~白熱の邪馬台国殺法頂上決戦(未遂)~』です。
    いわゆるコメディもの。シリアス成分はゼロです。

    #Fate/GrandOrder #ぐだぐだシリーズ
    #壱与(fate) #名無しの弟(Fate) #卑弥呼(Fate)

    ※2023/01/28:一部改稿しました。

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