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    この季節には今もこうして裏の木の下に立つと思い出す。
    風が吹いてかすかな甘い香りを運んでくるこの季節には。




    吠える声が響いた
    向こうから聞こえる怒鳴り声
    びくっと体が動く
    忘れていた
    思い出した
    手が震える、足の感覚がなくなる、


    急に誰かが角を曲がってあらわれた
    私を見る
    目をそらせない
    固まった体、血の気の引いた顔、
    その人ははっとした顔をしてつかつかとこっちへやって来る
    小刻みに体が震えている
    聞こえた怒鳴り声
    傷のある顔、血走った目、
    体が震える
    冷たい汗が背中を伝う
    前に立った大きな体
    うちの薬のにおい
    血のにおい
    その人はさっと大きな手を伸ばした
    私の
    顔に


    !!!


    動く
    横へ
    目は閉じちゃだめ
    見て




    その手は指一本横にずれた私の顔の脇でびくりと震え、とまった。
    はーっと息を吐く音がしてそろそろと手が下ろされる。
    それからそこでぎゅっと手を結んでチッと舌打ちをし、投げるように、しかし小さくその人は言った。

    「…お前もかよ」


    「悪かったなァ」

    来た時と同じにさっと離れていくその人は、生垣に隠れる最後の瞬間にちらっと私を見た。
    よく知ったものを見る目で。
    大事な何かを見るような目で。
    違う。
    これは違う。
    昔毎日見ていた目じゃない。
    垣の向こうから誰かが叫ぶ。

    「実弥、飯食って帰るぞ」
    「うるせぇ!失せろ!」
    「はいよ、行こうぜ」

    明るい大きな声とそれに応える苛立った小声が遠くなっていく。
    すぐに会話は聞こえなくなった。
    ぽかんとした顔の私の周りにさあっと風が吹き、甘い香りが運ばれてくる。
    背中の方から違う声が聞こえた。
    私を呼んでいる。
    よく知っている声。

    「カナヲー」

    名前。
    私が選んだ、私の。
    もう震えていない手を私はそっと見た。
    そこに。
    半分開いた手の上に降ってきた白い小さな花が。

    「ここにいたの」

    私をここに連れてきてくれた人がその花の香のようにふわりと笑う。

    「あら、カナヲ」
    「優しい風が吹いたのね」

    その人が二つの手で私の手をそっと包み込んだ。
    手の中の小さなもの。
    この人がくれた銅貨のように。

    「秋には実がなるわ。楽しみね」


    秋になったら、また。
    また秋にはこの日のことを思い出すだろう。


    吹く風を。

    揺れる花を。


      


    荒っぽい傷の処置を手早く終えたその人は脱いであった傷だらけの隊服に袖を通した。
    その皮膚を焼いた匂いはまだそこに消えずにただよい俺の鼻の奥を刺す。
    がれきが崩れる音が痛む耳にどこからか聞こえる。
    この空間はどうなっているのか。
    他の皆は今どこで闘っているだろう。
    ぐうっと腹がなった。
    義勇さんが俺を見る。

    「あっ、こんな時にすみません!」
    「気にするな。正常な感覚を保っているのはいいことだ」

    包帯の巻かれた頭に触った俺の声に義勇さんの冷静な声がかぶさった。

    「…今ひとつ思ってることがあって」

    いや、余計なことか。
    口を閉じた俺に続けろという目で義勇さんが釦を留める。それに甘えて俺は言った。

    「俺、タラの芽が好きなんです。それが食べたいな」
    「ごま和えも美味いですが、なんといっても天ぷらが最高で」

    「そうだ、俺いっぺん狭霧山で修行中タラの木を見つけました」
    「でももう足がふらふらで、あっと思った時には滑って崖下に落ちそうに…、それで俺掴んじゃったんです。あの棘だらけの枝を」

    思い出すと恥ずかしくなる。俺は情けない顔をして笑ってみせた。

    「もう手のひら中ひどい有様ですよ。あれは確か滝の横の…」
    「滝の横の柏の木を西に入った藪の奥だ」

    驚いた俺の声が高くなる。

    「えっ、義勇さんも知って…? そうか!」
    「崖の端に立つ枝の張った大木だろう」
    「そう、そうです。俺、芽を取ろうとしてそこで滑って」
    「あの木の下は滑らかな石でよく滑る。だが足元が藪で死角になっていて見えにくいんだ」
    「…義勇さんも滑ったんですか?あそこで」
    「ああ」
    「じゃあ、もしかして俺みたいに枝を…?」
    「違う」
    「あ、そうですよね。義勇さんは俺なんかとは違ってひらりと…」

    義勇さんは短く言った。

    「俺が掴んだのは枝じゃない」
    「えっ」
    「俺が掴んだのは」

    拳を握り、その手を開くと義勇さんはじっと見た。

    「手だ」


    「さっと伸ばされた子どもの手が強い力で俺の手を掴み、引っ張った」

    「もう片手で棘だらけの枝を握りしめて」
    「そして」
    「痛みに顔をしかめたまま俺を見下ろして、笑った」


    「あの顔をずっと覚えている」


    それから義勇さんは隊服の上にざっと羽織を重ね、刀を差した。
    腰の落ち着きを確かめると強い声でこう言い、言うが早いかタッと地を蹴り瞬時に先に行く。
    その声だけが耳に届き、残った。

    「行くぞ、炭治郎」
    「はっ  はい!」

    俺も。
    伸ばした手で今度は自分が誰かを引っ張る番だ。
    忘れられない思いを持って、なにもかもを終わらせる。
    まだだ。まだ止まれない。
    前を行く背中を追って、俺も一気に走り始めた。





























    こないだのY津の曲の一節と被ってたがとりあえずこのままで。
    足る




    「小鉄!」
    「なに?父さん」
    「これを鉄広んとこに届けてくれ」

    父さんが下研ぎした刀身を俺は預かった。


    他所は知らないけど大昔から変わらぬやり方で里は刀を作ってる、らしい。
    一人で刀身打ちから最後の研ぎまで仕上げる鍛冶もいっぱいいる。
    とはいえ上手下手、向き不向きはどうしてもあるものだ。
    鉄広叔父さんは金具細工の腕では里で一二を争う作り手だと言われてる。
    父さんの打つ刀と鉄広叔父さんの鍔鎺に鐺。
    二人が作り上げる刀は俺の、一族の自慢だ。

    鉄広叔父さんはちょうどほかの刀の鎺を合わせてるところだった。

    「いいか小鉄」

    叔父さんは茎から外した三角の金属片を手で挟み少し撓めて見せる。
    かっちりとした形にまだ生のままの金属肌が光る。

    「材は硬すぎても柔すぎても駄目だ」
    「日輪刀は種類が多い。刀の厚みもしなりもみんな違う」
    「それに合わせて割金を変える。最適な質に仕上げるんだ」

    「うん」

    「刀身をかっちり鞘に押しとどめ、だが抜くのはすっといかなきゃいかん」
    「剛直に押し切る刀もある。揺れて削ぐ刀もある」
    「何にしてもよく沿って支えることが鎺の肝心要だ。そこが合わんとどっちかが削れて緩む」
    「緩むという事はな?」

    そう言って叔父さんは俺の顔を見た。

    「鬼殺隊の刀は隊士の命そのものなんだ」

    「うん」

    ここまで来る隊士の人はそんなに多くない。
    何度もやって来る人はもっと少ない。
    刀は毀れる。折れる。何度直しても直しても。
    俺は鬼を見たことはないけど、鬼と戦うってことは本当に大変な事なんだと思う。
    ずっと昔から鬼狩りは鬼を斬って、鍛冶達は刀を打つ。
    鬼がいなくなるまで。
    いなくなるのかな?鬼は。いつか。
    叔父さんが独り言みたいに言う。

    「鉄珍様は今鞭のような刀を打ってるそうだ」
    「しなって暴れる刀にぴたりと沿い、ずれずに支え、それでいて刀身をけして傷めない」

    鉄広叔父さんはそこでため息をついた。

    「そんな芸当がどうやったらできるんだ?」
    「えっ、あ… うーん…」

    俺にも見当がつかない。
    いや、わからないことがわからない。
    叔父さんにわからないことが俺にわかるはずがないし。
    それでも俺は一応首を傾げてみた。

    「やってもやっても果てがない、俺達の仕事にはな。果てがなぁ」

    うーんと唸って、それから叔父さんは俺の方に首を回した。

    「小鉄のやりたい事は何だ?」
    「強い柱の刀を打ちたいか?ああ、それか」

    叔父さんは代々家に伝わってる絡繰が仕舞われた納戸を見ながら言う。

    「あれか?あれもいずれお前が受け継ぐんだぞ」

    ……俺はちょっと落ち込んだ。
    こっちの答えはわかってる。
    わかってるんだ。

    「俺はまだ全然ダメだよ…」
    「でも父さんや叔父さんがいるから」

    「教えてもらえばもうちょっと上達はできると思う、たぶん」
    「そしたら隊士の刀を打てるくらいにはなれるんじゃないかな」
    「俺はそれで十分だよ」

    「小鉄は欲がないな」

    叔父さんが笑いながらごつい拳で俺の頭を軽く突く。

    「己を知り足るを知る。大事なことだ。だがな小鉄」

    「もっともっと欲をかいていいんだぞ」
    「強い刀をどこまでも追い求めろ。それがきっと皆… 鬼殺隊と里の皆の力になる」

    それから叔父さんはにやにやしながら顎を撫でた。

    「蛍みたいになれとは言わんがな」
    「なれるわけないでしょ!あんな変人に!」

    叔父さんの大笑いが工房に響いた。
    おかしくない。あの人は異常だよ。
    でも俺は叔父さんのこの笑い声が好きだ。
    これから教えてほしいことがまだいっぱいある。
    自分に自信なんかちっともないけど、でも。
    ……俺もなれるのかな、叔父さんみたいに、父さんみたいに。いつか。
























    実際とは異なる架空の刀の製造法が含まれています。
    面と向かって親父呼びではないかなと。
    未知




    枕元で静かに語りかけていた声が途切れ。
    その手の中で固く握られ震えていたもう一つの手からふっと力が抜ける。
    微笑みながらその人はゆっくりと包んだ手を布団に下ろし枕の上の目を見開いた顔を見つめた。
    もう二度と微笑むことのないその顔を目に焼き付けるように、その霞み始めた己の目の奥に。
    そしてまた静かにもう応えないその名前を囁くように呼んだ。
    沈黙が、その室にひたひたと満ちる。

    「…丁重に。カナエ」

    「御意」

    頭を垂れた長い髪を見遣って立ち上がったその人は端に控えた私に穏やかな声で言う。

    「見ておきなさい、輝利哉」
    「全部を」







    「お館様……!」

    少女の声が聞こえる。
    小さな蝶が目の前で揺れていた。

    「……なほ」
    「大丈夫ですか。少しお休みになって下さい」

    赤茶色い染みのこびり付いた白い上っ張りを着た少女が自分を覗き込んでいる。
    その色の上には鮮やかな赤、顔にも編んだ髪にも点々と同じ色の雫が散っていた。
    寝台の脚が横目に見えた。床に仰向けに倒れているようだ。
    耳に届く必死で気遣わしげな声。しかしそこにも掠れた疲れが抜きがたく滲んでいる。
    途端に意識がはっきりした。
    頭を振り、片手をついてそろそろと起き上がる。

    「いや、大丈夫だ」

    そこここから上がる唸り声、喘ぐ息。目に入る砕けた顔、潰れた目。
    隠も隊士も階級も関係なく手空きのものが忙しなく動き回り、その寝台に横たわるのは深手を負った人の群れ。
    後から後から膿が湧き拭き取る手も顔もずぶずぶと濡れる。出来得る限りの薬を与え、それでも呻き声は止まず室に響く。

    「なほこそ、休まないと」

    私の声にほっとした眼差しで少女は答える。いつもの無邪気な笑顔ではなくわずかに顔の端で微笑んで。

    「ありがとうございます。手が空きましたらそういたします」

    自分たちとそう変わらない年格好の小さな姿。この優しい目で今までどれだけの人を助け、どれだけの人を見送ってきたのだろう。
    また看護に慌ただしく戻る背中を見送りこちらも又間断なく飛ぶアオイの指示の通りに息つく暇もなく手を動かし続ける。
    目の前のもう長くないだろう人に気付けばその傍に体を屈める。
    手当の甲斐なく逝く者たち。その途絶える息を、最後の呟きを仔細聞き漏らさず心に刻む。
    ここまでずっと母がしていたように、父がしていたように。


    後ろの寝台で呻き続ける人の声が一際高くなった。
    急に痛みが強まったか叫びながら大きく腕を振り叫び始める。
    もがいた腕が宙を泳ぎ、寝台の横に背を向けて立った妹の襷の紐に手が掛かった。

    「あっ!」

    掴まれて引かれ、そのまま妹は後ろに倒れ込むと横たわる人の顔中包帯にまかれた額に自分の後ろ頭をしたたか打った。
    鈍く響く音。目から火の出るような衝撃に一瞬目の焦点を失った妹がへたへたと寝台にもたれ床に滑り落ちた。
    己の打った頭の痛みに包帯からそこだけ覗く片目を見開いたその人は視界の隅に切りそろえた白い髪を捉え、はっとした目の色で声を詰まらせる。
    閉じた口の中で押し殺した呻き声はそれでも噤みきれず外に漏れて出た。

    「かなた!」

    「……大丈夫です」

    「大丈夫です」
    「…この方は…?」

    「私が看る!」

    向こう側に駆けて回って男の腕を両手で握ると抑えきらぬ強い力が手を押し戻す。
    痛みは止むことなく男を苛み、それでもその人は堪えていた。限りなく、その意志の力で。

    「大丈夫」
    「大丈夫です」

    妹はそう言いながらよろよろと手を伸ばして寝台に取りすがり、立ち上がると目の前の傷ついた人の手に自分も手を重ねた。
    それから振り向いて認めた姿に声をかける。

    「お薬は、もう…?」

    その問いに近寄ってきたアオイは黙って頭を振った。
    もう自分たちが為す術は殆どないのだと苦渋に歪んだその顔が告げる。
    生きて欲しい。行かないで欲しい。それでもなお祈りは届かない。
    震えるその手をゆっくりと摩りながら妹が記憶をたどるように呟いた。

    「今も思います」
    「お父様が私たちを選別の山に立たせたことを」
    「あの頃はあの場に居るだけで震え、勤めを果たすだけで精一杯でしたけれど」

    目の前のこの人があの山に立った時、自分たちはまだ世に生を受けたばかりだった。
    その自分たちがこうして今幾多の死を潜り抜けたこの人を送ろうとしている。
    妹の頭に受けた痛み。
    深く刻まれた同じ記憶が私の目の前にもありありと浮かんできた。
    あの山で七日間襲い掛かる危機を生き延び、鬼を倒せる唯一つの武器を一刻も早く手にすることに必死だった少年の激情と焦燥。
    また思い出されるのはかつて我が家で長く療養した瀕死の少年の絶望と強固な想い。

    彼らが成したこと。
    その生も死も確かにここにあった。その全てを受け止める。始まりから終わりまで、全てを。
    自らが己の意志で選んだ鬼狩りの道を進む者たちの命を。

    傷つき、斃れ、それでも誰かのために、
    それでも命を擲って鬼を斬る人々のこころを、全てを具に焼き付け彼らが生きた証を立てるために。
    鬼を生んだ己が一族の血に遥かに連なる者としての果たすべき務めを。

    もう誰にも、自分が何よりも知るあの苦しみを知って欲しくない。

    繋いで、もがいて、進み続けて果たされたその願い。
    身を捨てて生きた人々のその願い。
    今はここにその姿はなくとも。


    「そうだね」

    千々に砕け散りそうな心を幾重にも隠してその時も顔には微笑みを。ずっと見ていた父のように。

    「頑張った皆とはそのうちにきっとまたあちらで会える」
    「私がこの人たちの年になる頃には、きっと」

    そしてまたこの手を握り声を掛け続ける。私のこどもたちに。ずっと。





















    輝利哉君がその後もまだ全ては終わっていないかもしれないという懸念の中を相当な時間生きたこと。辛い。
    2024.2.23追記
    本来まとめて出すはずだったがどうにも最後の話の納まりが悪かった。産屋敷家関係はいつでも難しい。



















    さて柱稽古編。特典映像最高だったなあ…。OPであるが最初に歌詞だけ見た時あらこれは老いたワシやいやお労しや兄上か、でも無限城はまだなのに何故と思ったらこれは無惨とお館様の曲だったらしい。そうなんだ。あのOPに無惨と対面に立つ産屋敷の映像があり、あのイラストは原作では横顔だけだったが今回全身の図見てああ顔だけでなく身長も一緒でいいんかなと思うなど。ちょっと自分の動体視力に自信がないのであれですが、無惨と不死川は身長体重が一緒なのでそうすると産屋敷・無惨・不死川の3人は同じ体格(お館様はもっと痩せてそうだが)という事になる。19巻の匡近の遺書を手渡す場面で庭で向き合った不死川と産屋敷も又ほぼ等身長で描かれており、ワニ先生はその設定で描いているようではある。白髪ちゃん黒髪ちゃんも4年後と身長変わってないようだし。今回柱稽古編はお館様逝去まで行くんだろうかなあ…はぁ…。どうでもいいことだが自分は鬼滅のとあるキャラと身長体重が一緒です。(誤解なきよう言っておくが悲鳴嶼さんではない。為念)いや完全に正確ではないが体重はもう長いこと前後プラマイ1㎏ほどなので許してもらおうか。そのキャラがでるシーンでは、ほう、なるほどこの身長ってこんな大きさか、と思いながら見ている。大体ですが。そんなこんなで今回別項で書こうとした没タイトルは「ハイッと!ウェ~イッと!」 …こりゃどうもいかんですね…
    るげ Link Message Mute
    2023/07/10 0:25:46

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    👹の二次
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
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