執事様、寝坊する ふと目が覚めた。目に入るのはもうお馴染みの魔王城客室の天井。目を凝らして壁の時計を見ると、アラームが鳴るにはかなり早い時刻だった。人間界ですらまだ明るくなっていない。もうひと眠り……と目を閉じようとしたところで違和感に気付く。
隣に、バルバトスさんが、寝ている。
隣にいるのは泊まりに来た以上当たり前なのだが問題はそこではない。さっき見た時計は前にいつも何時頃起きているか聞いたときの時刻を大幅に過ぎていた。
「あの、起きなくていいんですか……?」
今日休みとは言ってなかったよね……? と恐る恐る声をかけるも、起きない。
「起きなくていいんですか?」
強めに揺すりながら声をかけてみる。
「んん……」
眠りは少し浅くなったようだけど一向に、起きない。それどころか
「え、あの、ちょ、むぐ」
抱き寄せられ、キスで唇を塞がれる。
……実は起きているのでは? との疑いは残念ながらその続きがないことで晴れた。
勿体ないと思う気持ちと共にバルバトスさんを押しやって引き剥がすと、頬をぺちぺちと叩く。
「起きてください!」
「…………おはようござい……ます……ふふ……」
私の頬が優しく撫でられる。この幸せそうな笑顔を消すのは惜しいけれど、今はそれどころではない。
「おはようございます。起きる時間過ぎてますよ!」
頬を撫でる手が止まり、目がゆっくりと見開かれた。
そこから先は一瞬で。三度目の瞬きをした時にはもう支度を終え、私にキスをして
「失礼いたします」
と部屋から出て行った。
ドアの閉まる音を聞きながら、起きてよかった、と二度寝の快楽に身を委ねた。
朝食の席で何事もなかったように立っている執事様の髪は少し跳ねていて、その理由を知っているのは世界でただ一人、私だけだった。