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    嘘と本音の午後 開いた窓から外を眺める。放課後のゆるゆるとした空気の中、生徒たちが次々と帰って行く姿が見えた。
     一人でそそくさと帰る者、大人数で賑やかに帰る者、二人で仲睦まじく帰る者……。
    「いいなあ」
     心の声が漏れる。
    「申し訳ありません。あと少しですので」
    「あ、いえ、違うんです」
     そもそもこの作業の手伝いを申し出たのは私なのだから文句などない。
    「恋人同士で仲良く帰ってるひとたちがいて、羨ましいなって」
    「それは大変申し訳ありません。あとは私一人で大丈夫ですので、早くその方のところへ行って差し上げてください」
    「非常に残念なんですけど、そんな人はいないです。それに、これといって好きな人も」
     この場で、好きな人がいる、なんて言ったらなんだか他の人と誤解されそうで嘘をついた。
    「そうでしたか。……でしたら、私などいかがですか」
     ……? 何? なんで? 嬉しいけど、なんで? バルバトスさんの表情はいつもと変わらないままで、どうしてそんなことを言い出したのか、まったく読み取れない。
     
     急な申し出にどう対応していいかわからなくて視線が泳ぐ。泳ぎ着いたその先は、壁に貼られたカレンダー。今日の日付を思い出す。四月一日。エイプリルフール。
     なるほど。それなら私もこの場の雰囲気に相応しい答えを返さなくては。
    「本当ですか!? 嬉しい……! よろしくおねがいします」
     どうせ儚く消える嘘なら、今、この瞬間は泡沫の夢に溺れたっていいはず。
     頭を下げながら少し胸が痛んだ。まったくもって悪魔は残酷な嘘をつく。
     
    「嘘をついてもいいのは午前中だけだ」
     夕食後、魔界のエイプリルフールってどうなってるの、と聞いた私に、リビングのソファに座ったルシファーが答える。
     は……? それなら今日のあれは? そんな習慣知らないで言ったのかも? いやいや長く暮らしている場所の習慣知らないなんてことある? というか私の返事って……。
    「そ、そうなんだ……」
     混乱した頭でなんとか返事をし、部屋に戻ってベッドに倒れこむ。
     明日から一体どんな顔で接したら? ベッドの中で悩んで呻いて転がり、結論が出ないまま眠れない一夜を過ごすのだった。
     そろそろ寝ましょうか、と二人でベッドに入り、体を寄せあったところで鐘が鳴った。バルバトスの腕の中の留学生はその音に顔を上げる。
    「あ、日が変わった」
     何月何日になったかを思い出したのか
    「せっかくなんで今年のエイプリルフールは何か嘘つきます!」
     と言うなり、考え込み始めた。
    「うーん…………実はバルバトスさんのこと好きじゃないです……?」
     そう言いながら絡めた指も凭れた体も離そうとしない。そして何より、なぜ疑問形なのかとバルバトスは苦笑する。
    「おや、それは困りました。どうしたら好きになっていただけるのでしょう」
    「えっ……」
     再度考え込む留学生を微笑ましく見つめながら、一年前と変わらず嘘をつくのもつかれるのも向かない方ですね、とバルバトスは昨年の出来事に思いを馳せた。
     
     ***
     
     エイプリルフールの翌日、バルバトスは昼休みに留学生から空き教室に呼び出された。
    「お忙しいところ、すみません」
     そう言う留学生の目の下にはクマがあって何やら眠れない一夜を過ごしたことが伺えた。
    「いえ、あなたの頼みですから」
     それを聞いた留学生は一瞬苦しそうな顔をし
    「昨日の事なんですけど、ごめんなさい!」
     と頭を下げた。まさかたった一日で振られるとは。五百年もすれば笑い種にでも出来るだろうか。
    「そうでしたか。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
     バルバトスはお互いのためにもここは手早く済ませた方がよいと判断し、詫びを述べて踵を返した。その背中に留学生の声が飛ぶ。
    「違うんです! 待ってください!」
    「……何か?」
    「魔界のエイプリルフールは午前中だけって聞いて。昨日のあれ、嘘だと思って答えてしまってごめんなさい」
     そういえば人間界では一日中嘘をついてもいい地域が大半だったことを思い出す。
    「でも、嬉しかったのは本当で、バルバトスさんのこと……」
     言葉が途切れて訪れた静寂を遠くの喧騒が微かに彩る。
    「その…………」
     何とか想いを伝えようとする必死でいじらしい姿に思わず手を差し伸べた。
    「好いてくださっているのですか?」
    「は、はい……す、好…………きなので」
     
     ***
     
    「どうしたんですか?」
     留学生からの言葉にバルバトスは我に返った。
    「いえ、昨年の今日のことを思い出していました」
    「あれは……恥ずかしいので忘れてください。さっきのですけど」
     どうしたら好きになってもらえるか。一年前の自身が求めてやまなかったもの。
    「もう既にバルバトスさんのこと大好きなので特に何もする必要ないと思うんです」
     そう答える留学生は誇らしげで、一年前と違って随分と素直に口にするようになったものだと思う。
     答えに拍子抜けし、成長に感心し、バルバトスも同じく、いや、それ以上の想いを伝えなくては、と今日もまた留学生を抱きしめ、抱き合い、口付けた。
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    2023/04/01 3:01:02

    嘘と本音の午後

    MC→執事
    エイプリルフールのはなし
    魔界のエイプリルフールについて捏造あり

    2ページ目は後日談です

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