ワードパレット - 10.目論見通り召し上がれ「お待たせいたしました」
バルバトスさんが廊下を早足で歩いてくる。さすがに今日ばかりは執事としての仕事よりこちらを優先するよう言われたに違いない。
「そんなに待ってないから大丈夫です」
そう言いながら彼の首に腕を回すと意図を察してくれたらしく、私の体が抱き上げられて、デモナスを思わせる色の宝石がアクセントとしてあしらわれた靴が覗いた。
「こうして部屋に入るのって悪魔除けらしいんですけど、相手が悪魔の場合どうなるんでしょうね?」
「他の方が寄ってこなくなるのでは? 私としては助かります」
笑いあう声をBGMにそのまま部屋のドアが開けられ、壊れ物のようにゆっくりと穏やかにベッドに下ろされる。
私が纏うのはレースやオーガンジー、シフォンがふんだんに使われたボリュームたっぷりのドレス。真っ白なシーツの上に置かれた私はきっと背中の中ほどから腰に続く編み上げや腰にある大ぶりのリボンも相まってケーキにデコレーションされた生クリームのように見えるに違いない。
招き入れようと差し出した手にキスが落とされる。そのまま腕をなぞって上に、胸元に、首に、唇に。そのまま抱きしめて、抱きしめられて、キスを続ける。甘噛みし、差し入れ、舐り、なぞる。ああ、この清らかなドレスの下に渦巻く濁流のような情欲を暴いてほしい。暴かれたい。
キスに溺れているうち、さっきまで夜の空気に触れて少し冷たくなっていた背中はいつの間にかシーツに押し付けられていて、きっと私の望みは叶えられるのだと知った。
ドレスを選ぶとき、もっとシンプルなものを選ぶこともできた。でも、あえて装飾過剰にも見えるほどのこれを選んだ。ラッピングを解いているときはワクワクするから。中身が好きなものだと知っていれば尚更。期待と焦燥で待ちきれなくなるから。
目論見通り、私の目に映るのは期待の滲む深い緑の瞳。どうぞ、召し上がれ。