鼓動 困った。
いつもならバルバトスの腕の中でもうすっかり眠っているはずなのに眠れない。
腕の主は私が身じろぎしたことでまだ起きていることに気付いたらしい。
「眠れませんか?」
「今日のバルバトスの誕生パーティーが楽しかったから目が冴えちゃってるのかも」
「それはそれは。楽しんでいただけて何よりです」
「肝心の主役にも楽しんでほしいんだけど……」
「あなたが楽しそうにしている姿を見られましたから。それで十分です」
そう言って私の額にキスを落とすと、明日も早いですし寝ましょうか、と促した。
「眠れなくとも目を閉じているだけで多少は違いますから」
「うん……」
バルバトスの胸に顔を埋めて、呼吸を整えようとしたところで気付いた。
「バルバトス、生きてる!?」
「はい……? 生きておりますが」
勢いよく頭を上げたせいでぶつかりそうになったのを避けたのは流石といえた。
当のバルバトスはどうして私がこんな質問をしたのかさっぱりわからないという顔をしている。
「心臓の音しないんだけど!?」
私を落ち着かせるように頬に手が添えられた。少し冷たくて温かい、よく知っている体温。
「どの生物も一生の心拍数は同一である、という話はご存じですか?」
「聞いたことある、かも……」
「ですから短命であれば心拍の間隔は短く、長命であるのなら長くなるということです」
「つまり、バルバトスはすっごく長生きだから滅多に音がしないってこと?」
「そうです」
尤も、悪魔の私にもその理屈が適用されるのかはわかりませんが、と付け加える。なんだか煙に巻かれた気がしないでもない。
「そのうち聞けたりするのかな……」
「いつかは聞けるかもしれませんね」
半ば冗談でバルバトスの胸に耳を当てた。
「あ……!」
一瞬で流れ星のように過ぎていった音が一つ。
「聞こえましたか?」
「うん。でも、今聞いちゃったからもう聞けないのかな。残念」
「また機会があるかもしれませんよ。あなたと過ごすようになってから心が弾むことが増えましたから」
「そうなの?」
「ええ」
バルバトスに抱き着いている腕に力を込めた。それなら、もっと沢山ドキドキしてもっと鼓動が早くなればいい。早くなって、早くなって、私の寿命に近くなればいい。
そんな恋人の誕生日には到底相応しくないことを願いながら眠りに落ちた先で、もう一度同じ音を聞いた気がした。