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    テネSSSまとめ3三人称限定視点で語る潜入型の語り構造上の反復700字に達するまで一文で語る方向性や癖をつけて語る三人称限定視点で語る

     パーティーの主催者が開催の挨拶を締める言葉を口にし、招待客はそろってグラスを掲げ、拍手を送った。会場の出入り口付近に控える男も、注がれた酒に口をつける振りをした。男の目はずっとひとりの人物に注がれている。目標は主催者の息子、普段は表舞台にほとんど現れないが、今回は次世代に向けた環境保全を訴える慈善パーティーなので親に無理矢理引きずり出されたようだ。年齢は二十五歳、身長は平均以上のはずだが、背を丸めて居心地悪そうに親の後ろに立っている。オンライン上ではすでに彼からの関心は手に入れている、あとは、どうやって生身で接触するかなのだが──
     主催者である母親は片腕を息子に預け、エスコートさせながら来賓に挨拶して回っている。その視線がある箇所に引き寄せられるように動くのが、男のいる場所からでもよくわかった。
     さすがだな、と思わず口元が緩む。男の腹心の部下は、自分の前に道ができるのは当然、と悠然と構え、自然な素振りで彼女と話し出した。一言二言会話をすると、すぐに息子に向き直り、この会が催されてから初めて、彼の口を開かせた。親子だから趣味が同じというところだろうか、それとも、だれであってもなのだろうか、ニールはふたりそろって自分への好意を抱かせることに成功していた。
     ほどなくして、ほかの客にかけた時間配分との明らかな差に気づいたらしい主催者は、慌てた様子で会場に向き直る。息子は名残惜しげにニールに目を向けた。そのとき、ニールは不意に息子のこめかみのあたりに手を添える。驚いたようにすくめる頭の影から名刺のようなものを取り出すと、息子が着ているお仕着せの一張羅の胸ポケットにそっと入れた。ニールはなんと言っているのだろうか、あとで電話をくれ、だとかなんだとか?
     接触は成功した。しばらくは連絡を待つのが仕事となる。男はグラスの酒を飲み干した。飲んでしまってから、自分がいやに落ち着かない気持ちになっていることに気がついた。
    潜入型の語り

     壇上にいるレイチェルが乾杯を告げる。パーティーの招待客はグラスを掲げ、笑いあった。今夜は、次世代に向けた環境保全を訴える慈善パーティーという趣旨なので、主催者の二十五歳になる息子のマークも久々に表舞台に出ていた。
     マークは高い身長を縮めるように背を丸め、気弱に母親の腕を取り、会場を挨拶して回る。どこのだれとも知らない相手に対して彼にとっては精一杯ではあるものの不自然な笑みをさらしながら、昔はこのような場も嫌いではなかった、とマークは思い出す。当時は、パーティーで周囲の人々に尊敬される親を見ると胸が膨らんだし、そんな両親から誇らしげに紹介されるといっそう張り切って自己紹介をしたものだった。だが、その自分なりの意気込みは、学校に通うようになるとすぐにしぼんだ。勉強ができて教師に受けの良かったマークは、自分の態度を同級生や年長者に大仰だとあざけられ、つまはじきにされた。それからしばらくして自宅学習に切り替えたあとは、パーティーなどという華やかな場所にはできるだけ顔を出さないようにしていた。
     今日は父親が不在なのもあり、半ば強制的に参加を余儀なくされたのだった。次から次へと同じような顔ぶれに話しかけて回る母親に引きずり回されるようにエスコートをする。客からの物珍しげな視線を避けてうつむいていると、不意に強く腕を引かれた。
     マークの腕を引いたレイチェルの目線の先には柔和な表情をした青年が立っていた。金髪に薄青い碧眼、身長はマークと同じくらいだろうが、すらりと背筋が通っていて大きく見える。
     ひとりなのだろうか、いや、まさか、とレイチェルは笑みを浮かべながら美しい招待客に向き直った。名前を尋ねるとニールと名乗る。彼は意外にも、マークの研究している分野の専門職に就いていると言う。おだやかに自分の研究について語るニールと会話するうち、息子の顔にみるみる光が灯るのがレイチェルにはわかった。
     ニールはマークの論文を読んだと言い、その感想を伝えた。マークはあまりのことに感情の昂りを抑えられなかった。ニールの物言いは、オンライン上で何度かやり取りをしていた、自分のファンを名乗る「マキシミリアン」の言葉と同じだったのだ。まさか、このニールという見た目のいい青年が、自分のファンだというのだろうか。こんなに会話が弾んだのはいつぶりなのかを、マークには思い出せなかった。
     会話を楽しむふたりに魅入っていたレイチェルだったが、すぐそばに友人の姿があることにいまさらながら気がついた。友人は、控えめながらもしっかりと、度が過ぎている、とレイチェルに伝えるように微笑みかけた。
     パーティーの主催者だという自覚を取り戻したレイチェルは、仕切り直しだとばかりにニールに暇を告げ、友人と会話を始めた。
     まだ話し足りないという視線をニールに投げるマークに向かって、ニールも残念そうに眉を下げた。ニールは音もなく数歩近づき、片腕をマークの頭のそばに伸ばす。ビクリと身体を震わせるマークの髪のなかから一枚のカードを取り出して言う。
    「また今度、ぼくに時間をもらえないかな」
     うつむきがちなマークの目を覗き込むようにして薄青い瞳がいたずらっぽく光った。ニールは取り出したカードをマークの胸ポケットに差し入れてにこりと微笑み、ふたりの背中を見送った。
     ふたりが去ると、周囲のひとびとも位置を変える。ニールも飲み物を取りに行くふりで身体を出口に向けた。そこには自分の上司がいるはずだ。ちゃんと自分の働きを見ていてくれただろうか、うまくやれたと思うけれど、とひとりごちる。これからしばらくは連絡をもらうまでの待機時間となる。そう遠くない未来に連絡はあるだろう、手応えはあった。視線を出口近くに彷徨わせると、ついに、ニールの欲っするひとを捉えた。彼はニールと目が合うとすっと視線をそらし、空になったグラスを机に置いてニールを待たずに扉の向こうに消えていった。
     これから過ごす待機時間、うまく仕事をしたのだから褒めてもらわなければ。すぐに追いつく、と静かに笑んでニールは上司の後を追った。
    構造上の反復

     彼は、一緒に昼食をとったことを忘れた。まだ食べていない、嘘をつくな、となじられてようやく、いよいよ来てしまったのかと信じられない気持ちになった。でも、忘れたのは一度だけで、翌日はしっかりしていたから気のせいだと思うことにした。
     彼は、自分のいる場所を忘れた。ここはどこだ、さっきまで海辺にいたのに、と怯えるのを抱きしめてなだめた。診断がついて治療を受けていたが、病状は穏やかに進行した。彼の中には「いま」しかない。記憶の連続性が途切れてしまって、「いま」が点在する世界に生きている。不安に身を晒している彼をどう慰めたらいいのかがわからない。すまない、と泣くのを、どう受け止めればいいのかわからない。
     彼は、ぼくのことを忘れた。彼の記憶しているぼくと、いまのぼくが別人に見えているらしい。ぼくは笑って、きみのニールは出かけているけど、すぐに戻ってくるよ、と言う。納得がいかないと言うように、彼は難しい顔をする。
     ぼくに負担をかけるのを厭う彼は、病状が悪化した際に入る施設を勝手に決めていた。医者に、本人の強い希望なのだと伝えられて言葉が出なかった。たしかに、自分ひとりの手では彼をじゅうぶんに見ることはできない。ぼくはほとんど毎日彼を訪ねた。
     気分のいいとき、彼は昔の仕事について教えてくれる。場面の一部分を抜き取ったダイジェストを臨場感あふれる言葉で話す。どこまでが本当にあったことで、どこからがそう思い込んでいることなのかはわからない。ぼくは彼の気が済むまで同じ話を聞き続ける。彼は繰り返しぼくに言うのだ。
    「あいつがいないと仕事が回らない、早く帰ってきてもらわないと」
     彼は、彼のニールを忘れない。
    700字に達するまで一文で語る

     行為に夢中になっていたニールは不注意にも男の立てる足音にまったく気づかず、部屋のドアが突然開いたことに驚いて文字通り飛び上がってみせ――そんなふうに驚くさまを男に見せたことはいままでなかった――部屋の主の顔を真正面から見つめて硬直し、かすかに赤らんだ顔と身体が次の瞬間には真っ白になるのが外からはっきりとわかるほど青ざめ、ごくりとつばを飲み込むと、ばたりとベッドの向こう側に倒れるようにして逃げ込み、床の上からズルズルとシーツを引っ張り、その上に乗っていた自分のジーンズや下着、男の所有物であるジャケットや枕を手元に抱え込むようにして証拠隠滅をはかるかに見えたとき、ようやく男も気を取り直して、よくあることだ、などと自分自身にも意味のわからない慰めを与えようとして墓穴を掘り、ふたりともただ黙ってたたずんだ――片方はドアの脇で、所用から戻ると部屋にいた闖入者と、その人物のしていたことが彼に与えた二重の驚きによって入室をためらい、もう一方は上司の部屋のベッドと壁の間で、先ほどまで楽しんでいたスリルが現実になってしまったことを受け、過去を変えられないものかと口の内側を噛み締め――ごめんなさい、とうめくように声を出したが、その声にドアまで届くほどの音量はなく、男はニールがなにかを言っていることしかわからなかったので、それをきっかけにしてようやく部屋に足を踏み入れたが、窓を締め切っていたためにニールの出したもののにおいが鼻をかすめて思わず立ち止まりそうになり、一度頭を振ってからベッドの向こうに回り込むと、外が急に寒くなったとでもいうかのごとく彼はシーツを身体にぎゅっと巻きつけて縮こまっているので、その姿を見て思わず微笑みを浮かべると、なんで笑えるんだ、不法侵入の上にあんなことしてたのに、と怯えたように再度うめくニールに、大丈夫、たいしたことではない、と安心させるように言い含め、しばらくここを離れるから、きみは用意を終えたら部屋に帰りなさい、と涙で潤んだ目を見て伝えた。
    方向性や癖をつけて語る

    「ずっと、きみの声が聞こえてた」
    「なんと言っていた?」
    「退屈」
    「……え?」
    「ひとりじゃつまらないって。あんまりしょげてたから、それならそばにいてやろうと思って戻ってきたんだ」
    「気が利くな」
    「うん、ぼくは優秀だからね」
    「よく戻ってきてくれた。あんなところにひとりで置いて行かれてどうしようかと思った」
    「──きみはひとりだった?」
    「ああ、しばらくはな。だが、おれひとりではどうにもならなかった」
    「なにがあったか聞いていい?」
    「また、次の機会にしよう。いまはきみと話がしたい」
    「わかった。ぼくってどれくらい寝てた? この身体の感覚、きっとかなり長いこと横になってたんじゃないかな」
    「そうだな、おれももうこんなに年をとった」
    「なに言ってるんだ、きみは最後に会った日のまま、ぼくの記憶の中で一番若い……。あれ、最後っていつだろう」
    「いつの記憶を最後にしてもいいし、どの記憶を最初にしてもいいんだ」
    「謎掛けか? きみはそういう物言いを嫌ったのに。待ってくれ、ちゃんと思い出したいんだ。ぼくはきみとどこで出会った?」
    「この場所を最初にすることだってできる。あるいは、洋上を進む船の上、空を飛ぶ航空機の中、建物に忍び込む算段をするホテルのロビー、ひとけのない砂漠の真ん中。どこでだって会える」
    「……きみが言うそばから、全部が最初に思えてくる。でも、どれも違うだろう? ぼくに思い出してほしくないのか?」
    「きみは覚えてるさ、ニール。必要なものは全部そこにある。それから、この場所にも。なにが見える?」
    「きみがいる。ぼくの好きなひとが」
    「そうだな、ほかには? よく目を凝らして周りを見るんだ」
    「ここは……ここは海?」
    「ああ、海だ」
    「なんでだろう、病院にいると思ってた」
    「足元、気をつけて歩くんだぞ。ここの砂は水を含んでいて重いな」
    「海水浴場って感じでもないね、岩が多い。ここに必要なものが全部あるって?」
    「海の中から生まれてくるんだ。そして時間が来たら還っていく」
    「そういうイメージはたしかにあるね。でもぼくはまだ還りたくなんてない。きみと一緒にいる。退屈だって言ったろ、きみのそばにいるために戻ってきたのに」
    「おれと一緒に還るのだとしたら? この水をくぐった先になにがあるのか見に行こうと誘ったら?」
    「きみは行きたいのか? ぼくと一緒に? なんだか……なんだかきみらしくないな」
    「なんと言うのが自然だと思うんだ」
    「……『負けてたまるか』」
    「なんだそれは。でも、そうだな、それもいいな『負けてたまるか』か」
    「そう言う気になった?」
    「ニール、おまえが言うんだろう」
    「『負けてたまるか』?」
    「耳を澄ませるんだ。頭の次に鋭敏だからきっと聞こえる。やつはなんと言ってる?」
    「誰のこと」
    「しらばっくれるな、おれに気を取られすぎだ。ちゃんと集中すれば聞こえるだろう」
    「……なにか言ってるけど聞き取れない。これは誰? いやな感じがする」
    「少なくとも、退屈だとは言ってないだろうな。なにが不安だ?」
    「いなくなること。きみと離れ離れになるのがいやだ。やっと会えたのに」
    「別れたりしない。ずっと一緒にいる。いままで黙ってて悪かった」
    「でも、ぼくがいなければきみはひとりになる、違うか?」
    「そうだとも言えるし、そうではないとも言える。どちらにせよ、おまえがあいつのところに行かなければおれはひとりになるんだよ」
    「言ってる意味がわからない」
    「優秀なおまえが? もうわかってるだろうに」
    「わかりたくない」
    「駄々をこねるなよ、ほら、呼んでるぞ」
    「きみが言ってよ」
    「あいつの言葉を? なんでおれが」
    「往生際が悪いぞ」
    「おまえにそんなふうに言われる謂われもないが……、その、なんだ……『負けるな』」
    「それから?」
    「おい、全部言わせる気か?」
    「続けて」
    「……『おれの元に戻ってこい、おれだけに世界を背負わせる気か、ここで終わりにはさせない、きみが必要だ、負けないでくれ』」
    「負けてたまるか」
    「……それは、どうも」
    「照れてるきみの姿、本当に好きなんだ」
    「本当にいい趣味をしている。もういいだろう、さっさと行ってしまえ」
    「また会えるよね?」
    「これからは毎日いやでも目に入るようになる。それはもう、飽きるほどに」
    「なんだか嘘みたいだな。これって運命だと思う?」
    「おれにとっては『歓び』だ」
    「……ぼくにとっても、きっとそうだよ」
    「さっさと行け、またおれが恥ずかしいことを言い出す前に」
    「これはお別れじゃないよね」
    「ああ、おやすみと言い合う程度のものだ」
    「起きたらそばにいるんだよね」
    「安心していい、ずっと一緒だ」
    「おやすみ、大好きなひと」
    「おやすみ、またいつか」
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    2023/09/18 0:42:24

    テネSSSまとめ3

    テネSSS 全年齢5篇(6000文字)

    練習問題のために書いたお話。
    書き直さずに22年5月に書いたそのままです。

    三人称限定視点で語る:パーティに潜入する主さん視点

    潜入型の語り:パーティ全体の様子

    構成上の反復:主さんが忘れてしまう

    700文字に達するまで一文で語る:若ニールがこっそり主さんの部屋でいたした

    方向性や癖をつけて語る:主さんとニールが会話している

    #主ニル  #ニル主

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