He's made of plastic【attention】
本作品は2021年12月5日 21:44pixiv掲載作品となります。
『獅子の帰還』後の話となります。
バナージがプラモデルを作ってたらミラクル起っちゃった的な話です。
今回リディバナと言いつつ、そこまでラブラブな絡みはありません。
相変わらず、設定無茶苦茶してます。
よって本当に何でも許せる向けとなります。
それでも大丈夫な方はどうぞ。
デスクライトの灯りだけが照らすバナージの部屋。デスクにはゴムマットが敷かれ、幾つものプラスチックの部品がその上に並べられていた。他にもニッパーやデザインナイフにやすり、スプレー缶や塗料、接着剤などが置かれていた。そのデスクに座り、半ば齧りつきながらバナージは真剣に、時に「パチッ」という音を立てながら、何か組み立てていた。
「……出来た」
暫くして、漸く組み立てが終わったのだろう。出来上がった物を両手に掲げ、ほうとバナージが息を吐いた。
彼のその両手に掲げられた物、それはかつてラプラス事変で時に敵対するも、最終的に共闘しコロニーレーザーからメガラニカを護った、ユニコーンの兄弟機『バンシィ・ノルン』のプラモデルだった。大きさとしては、実物の一四四分の一の大きさぐらいだろうか、全長二十センチメートル程はある。今はユニコーンモードにしているが、手で装甲を動かせばちゃんと変形してデストロイモードにもなる。
事の発端はタクヤが暇で作ったというユニコーンのプラモデルだった。タクヤがバナージを喜ばせたいと思ってプレゼントしてくれたのだ。渡された当初、バナージは大層喜んだ。しかし、暫くして、かつて背中を護ってくれた片割れの機体がいない事に気付き、途端寂しさを感じた。
——やっぱり、あの人が居ないと。
そう思ったのをきっかけに、タクヤに無理言ってバンシィ・ノルンのプラモデルキットの制作を頼んだのだ。最初、タクヤは当然嫌そうな顔をしていたが、親友の頼みだけに仕方なく依頼を受けてくれた。
組み上げたバンシィ・ノルンを見つめながら、バナージはうっとりした表情を見せた。
「リディさん…」
今は地球に居るかつてこの機体に乗っていたパイロットだった人物の名が口から自然と溢れた。彼がお守りを渡しに単騎でメガラニカに突っ込んで来たあの日からどのぐらいの時間が経っただろうか。胸から下げたお守りに触れ、そう簡単には会えない遠い存在に想いを馳せた。
「会いたいな…」
叶いもしない願いを溢しながら、バナージはバンシィ・ノルンをゴムマットの上に横たえた。そして、デスクから立ち上がり、静かに灯りを消した。
まさか、この後とんでもない事が起こるとも知らずに。
翌日、哨戒任務を終えたバナージがミネバに報告をと執務室に向かっていた。執務室の扉の前まで来ると、或る事に気付く。扉が少しだけ開いているのだ。その開いた隙間から会話が漏れていた。
「まあ、そんな…っ! それは、確かなの?」
「情報元はカイ・シデンからです。間違いねえでしょう」
ミネバと話している相手はどうやらジンネマンの様だった。深刻そうな声にバナージは思わずドアノブに伸ばそうとしていた手を引っ込め、扉の前で立ち尽くし、静かに聞き耳を立てた。
「…バナージはこの事を知ってて?」
「いえ、彼奴にはまだ……」
己の名前が出た事にバナージは内心驚いた。同時に、何故己の名が出てきたのか不思議でならなかった。
「彼奴には、話さん方が良いでしょう。まだ、どういう状況かも分かってません。そんな状態で彼奴に明かしたら、彼奴は直ぐ此処を出て行くでしょう」
「そうね…そうですね…こんな事、今は彼に伝えるべきではないでしょう」
——俺が、此処を出ていく?
思案するようなミネバの声色。その言葉にバナージが更に疑問を抱いていると、次の瞬間ミネバの声で驚くべき事が明かされた。
「『リディが爆破テロにあった』なんて知ったら、バナージは…」
途端、バナージの中の時が止まり、頭が真っ白になる。ミネバは今、何んと言葉を発したのか。信じられない、信じたくない言葉の羅列。最早、脳が理解を受け付けようとしていなかった。
「オードリー‼」
気付いた時には大声を張り上げて、勢いよく扉を開け放っていた。
「バナージ‼」
「坊主、お前…」
驚いた顔をしたミネバとジンネマンに構わず、そのままツカツカと二人の前までやってきてバナージはミネバに問い質した。
「オードリー、今の…今の話はどういう事なんだ⁉」
それを聞いてジンネマンがバツの悪い顔をした。
「お前、聞いてたのか」
「盗み聞きした事は謝ります。それでも…」
ミネバに向けていた視線を一度ジンネマンに移し、謝罪の言葉を述べる。そして、再びミネバに視線を戻し、問い詰めた。
「オードリー、教えてくれ。リディさんに何があったんだ⁉」
バナージの琥珀の瞳とミネバの翡翠色の瞳がかち合う。見つめ合って暫く、真直ぐなその眼に耐え兼ねたのか、やがてミネバが息を一つ吐いて呼吸を整え、口を開いた。
「昨日、ローナン議長…リディのお父様が乗ろうとした車が何者かに爆破されたの。その時、いち早く気づいたリディが身を呈してお父様を庇い、彼は…」
悲痛な表情を浮かべながらミネバが言葉を詰まらせる。バナージの顔が一気に青ざめた。
「そんな…嘘だ…嘘ですよ…」
あまりのショックに思わず一歩後退する。
「まだ死んでない。意識不明の重体だ」
パニックに陥ってるバナージを落ち着かせようと、ジンネマンが横から補足を入れる。しかし、そんな言葉もバナージには気休めにもならなかった。
「誰がやったんですか」
半ば震える声でバナージは聞き返した。その声色にミネバがハッとする。彼自身に潜む怒りをその言葉に感じ取ったからだ。
「バナージ…」
「お願いだ、オードリー。誰がやったのか、教えてくれ!」
思わず唇をきゅっと結ぶ。問い詰められ返答に苦しむミネバの前に見かねたジンネマンが割って入った。
「それを知って、お前はどうする? 仇討ちか? そんな事をすれば大事になるぞ」
「それでも、俺は——」
「——バナージ」
キュッと固く閉まっていた唇を開き、ミネバがバナージを制した。
「今はどうか耐えて。テロの首謀者がまだ分かってないの。きっと連邦が今調査してる筈よ…バナージ、気持ちは分かるけど、今はどうか思い止まって」
バナージを見つめるエメラルドグリーンの瞳は揺らいでいた。眉間には、深く皺が刻まれていた。そこで漸くミネバも耐えているのだと気付いた。
「仇討ちなんて、きっとリディは望まないわ。ましてや、貴方にして欲しいなんて思ってない筈よ。だから…お願い…」
ミネバが一粒の涙を零して、首を横に振りバナージに訴える。バナージはその姿を見て、これ以上言葉を発する事が出来なかった。
絶望し憔悴しきったまま、バナージはフラフラとなんとか自室に辿り着いた。部屋に入ると、着ていたパイロットスーツを脱ごうともせず、そのまま俯せの状態でベッドにダイブし、枕に顔を埋めた。
「嫌だ…リディさん…リディさん…」
首を横に振り更に顔を枕に押し当てる。目からは涙が次々に溢れていた。
時には敵対したが、かつて一緒に共闘し、今居るこのメガラニカを一緒に護った大切な人。ラプラス事変から数ヵ月経ったあの日、バイザー越しに見たリディの顔を思い出す。お守りをキャッチした時に見えた、あの柔らかな笑顔を。それが、彼を見た最後だった。脳裏に焼き付いたあの笑顔に堪らずシーツを掴んだ。
——お願いだ、彼を…リディさんまで連れて行かないでくれ。
今まで多くの人の死をその琥珀の目で見てきた。これ以上大切な人が消えていくのはもう沢山だった。ひたすら涙を溢しながら、この時ばかりは居るかもわからない『神』というやつに強く願った。悪魔に魂を売ったっていいとすらその時思っていた。その時だった。
「⁉」
突然、デスクの方から神々しいエメラルドグリーンの光が放たれた。驚いてベッドから飛び降り、デスクに近づく。発光していたのは、なんと昨日バナージがその手で完成させたバンシィ・ノルンのプラモデルだった。
「一体これは…?」
ゴムマットの上で神々しい光を発するバンシィ・ノルン。そのどこか温かい光は良く見知った光に似ていた。サイコフィールドの光。あの光を、小さいプラモデルが発している。
バナージは思わずバンシィ・ノルンのプラモデルに手を伸ばし、触れようとした。瞬間、発光が一気に収束する。そして、モノアイの部分が一瞬だけ赤く光った。それはまるで、本物のバンシィ・ノルンが起動したときの様に。
「え…?」
次の光景にバナージは己の目を疑った。ユニコーンモードにしていたバンシィ・ノルンの機体の装甲が一人でに脚部から次々に変形し、デストロイモードの姿に変わっていく。それは実際のバンシィ・ノルンのNTーD発動時と全く同じ光景だった。確かに、このプラモデルはユニコーンモードからデストロイモードにする事は可能だが、手動でしか変形する事が出来ない。一人でに変形するなど、あり得ない事だった。
「一体何が…」
リミッターの解除される姿をただ茫然と見つめていた。そして、とうとう顔部も姿を変え、角を模したブレードアンテナが割れた。割れた装甲から見えたサイコフレーム部分からはエメラルドグリーンの光が放たれていた。
いつの間にこんなギミックが施されたのか。タクヤの仕業だろうか。それにしては手が込み過ぎている。もしやこんな所にまでサイコフレームを使ったというのか。だが、どう見ても目の前のプラモデルはプラスチック製だ。訝しげに見つめていると、突然バナージの耳に声が入ってきた。
『……ば、なーじ……』
それを聞いて、バナージの心臓が大きく脈打った。
「リディさん⁉」
聞き覚えのあるその声に直ぐ様顔を上げ、その場で部屋をキョロキョロ見渡す。
「リディさん⁉︎ リディさんなんでしょ⁉︎ 返事してください‼」
誰も居ない筈の自室で再び声を上げる。バナージが間違える筈が無い。その声は紛れもなく『リディ・マーセナス』の声だった。地球に居た筈のリディの思念がここまで飛んできたのか。だが、何故月の裏側まで。そう考えた瞬間、バナージの中で考えたくはなかった憶測が頭をよぎった。
『バナージ…なのか?』
再びリディの声が問うてくる。その声にバナージは応えた。
「俺です。もしかして、そこに居るんですか?」
もし彼の魂が今本当に此処に居るとすれば、リディは亡くなってしまったという事になる。落ち着いていたバナージの涙腺が再び緩み始める。尚も部屋を見渡すが、リディの姿は捉えられない。すると再び、今度ははっきりとリディの声が聞こえた。
「なんでキョロキョロしてんだ? 俺ならお前の目の前に居るぞ。けど、不思議だな。なんでお前、そんなに大きいんだ?」
「え?」
己の真下から聞こえたクリアな声にバナージは驚き、頭を垂れてデスクの上のバンシィ・ノルンに目を向けた。バンシィ・ノルンと目が合うと、次の瞬間、驚くべき事に首が一人でに傾いたのだ。
「もしかして、リディさん…?」
信じられないといった面持ちで再び問う。すると一人でにバンシィ・ノルンが上体を起こした。
「さっきからそうだって言って…え?」
リディの声が何かに驚いている。すると、バンシィ・ノルンが己の腕を上げ、己のマニピュレータを表裏返しながら見つめる。
「これって…マニピュレータ⁉︎ おい、これ、バンシィのマニピュレータじゃないのか⁉︎」
慌てたように己の身体を見渡すような動作を見せるバンシィ・ノルン。
「俺の身体がバンシィに⁉︎ バナージ、これはどういう事なんだ⁉︎これは夢か何かか⁉ 此処は何処なんだ⁉」
パニックに陥っているバンシィ・ノルン、否、リディ。そんな彼に構わずバナージは即座に両手に掲げ、そのまま胸に収めた。
「お、おい! バナージ! 聞いてるのか⁉︎」
胸の中でジタバタと暴れるリディ。だが、一四四分の一のプラスチックの身体では抵抗する事が出来ない。
「良かった…良かった…」
すると、リディの耳に湿ったバナージの声が聞こえた。それを聞いてリディはピタリと暴れるのをやめた。
「貴方が爆破テロにあったって…意識不明の重体だってオードリーから聞いて…俺、頭が真っ白になって…どうしたらいいか分からなくなって…」
リディを抱いたまま、バナージがその場にノロノロとへたり込む。バナージの身体の震えと熱が直にリディのプラスチックの身体を伝う。そこで漸くリディはこれが夢でない事を確信した。
「…お前がその事を知ってるって事は、これは夢じゃないんだな。そうか、俺は今、死にかけてるのか…」
昨日、父ローナンが乗ろうとしていた車が爆破された。その時リディはその場に丁度居合わせていた。ローナンが車に乗ろうと歩み出した時、リディは瞬間的に何か嫌な予感を感じ取った。迷う時間など無かった。気付けばローナンに向かって駆けだしていた。ローナンの前に立ちはだかり、彼をかばう様に車に背を向けた瞬間、車が勢いよく爆発した。己の肉に刺さる多くの破片。熱い爆風。悲鳴を上げる程の痛みを感じながら、リディはその時意識を失った。
上を見上げると、バナージがポロポロと大粒の涙を溢していた。それを見てズキリと胸が痛んだ。
「心配、かけちまってるよな…その、すまない」
気まずそうにリディは俯いた。すると、バナージはリディを胸から剥がし、そのままリディを両手の掌に乗せ目線が合う高さまで持ち上げた。そして首を横に振り、潤んだ瞳でリディを見た。
「謝らないでください。今こうやって貴方に再会できたから、少し安心してるんです」
「バナージ…」
死ねば魂はその肉体から解放され、身一つでこの世界、宇宙を飛び回る。だが、今のこのリディの状態は、『プラモデル』という別の器に魂を宿し、自力で動く上に意思疎通まで図れている。長年信じられてきたNT論の定説からは酷く逸脱している。恐らくリディが負傷した際に魂が肉体から飛び出してしまい、彷徨っていた所で別の器に移ってしまったといった塩梅だろう。バナージはそう仮定し、結論付けた。
「貴方はまだ死んでない。それが分かっただけで嬉しいんです」
潤んだ琥珀の目で見つめられている。それが何だか恥ずかしくなって、リディは目を逸らした。
「ま、まぁ、こんな身体になっちまったけどな」
焦りながらも、落とした視線を改めて己の身体に向ける。小さいプラスチックの身体。バナージの背後の壁に掛かっている鏡をちらりと見ると、そこには小さなバンシィ・ノルンが映っていた。間違いなく、リディは今『バンシィ・ノルン』になっていた。
「これ、もしかしてお前が作ったのか?」
顔を上げバナージの方に顔を向けそう聞くと、バナージが嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はい、タクヤに頼んでキット作ってもらって…塗装とか組み立ては俺が…」
「えっ、わざわざキット作ってもらったのか?」
リディが驚いて聞くと、バナージが嬉しそうにコクコクと頷く。
「最初、組み上がったユニコーンをタクヤから貰ったんですけど、やっぱりバンシィも居なきゃダメだって思って」
それを聞いて、リディは密かに胸が熱くなるのを感じた。それを悟られるのが恥ずかしくて、視線を己の身体に戻した。観察するように己の身体の細部まで目を凝らした。継ぎ目の処理など、やすり掛けされ、綺麗に塗装もされている。
「良く出来てる。上手いもんだな」
感心しながらリディが褒めると、バナージがはにかんだような笑みを見せる。バンシィの表情は変わらないが、バナージにはリディが笑ってくれていると分かっていた。と、リディが突然、バナージの手の平の上で立ち上がる。一体どうしたのかとバナージが不思議そうに見る。すると、バーニア部が光り、宙に浮き上がった。
「リディさん、飛んで…⁉」
「おっと…」
一瞬不安定になって落ちかける。バナージが慌てて思わず受け止めようとする。だが、リディは自力で直ぐに立て直した。
「ははっ、やれば出来るもんだな」
リディが楽しそうにそう呟くとスラスター部を吹かせ、そのまま飛翔する。本物さながらにバナージの周りを飛んだ。
「凄い」
その光景をバナージが感動しながら見つめる。と、一通り満足したのか、リディがバナージの頭の辺りに留まり、マニピュレータでバナージの頭をポンポンと撫でた。まるで安心させるかのように。そしてそのままゆっくり降下し、バナージの肩に降りると、腰を下ろし、バナージの方に顔向けた。
「こうなっちまったからには仕方がない。生憎、元の身体に戻る方法も分からないしな。暫く厄介になるぞ」
そう言ってバナージの顔に向かって腕を伸ばす。伸ばされたマニピュレータに、バナージは微笑んで、親指と人差し指でそれを掴んだ。
「大丈夫です。宜しくお願いします。リディさん」
こうして、リディとバナージの不思議な生活が始まった。
To be continued...?
【謝罪会見】
久しぶりの新作です。更新できずで本当にすみません(吐血)
ってなんじゃこりゃアアアアアア相変わらずぶっ飛んでやがる…っ!
設定また無茶苦茶じゃろ!!!!
いや違うんです、本当は違う話を先に上げるつもりだったんですが、ガンカフェから帰る途中でこの話が出てきてしまい、軽い気分で書いてたらいつの間にやらこんな事に…(白目)
今回も誠に申し訳ございませんでした゚・:*†┏┛ 墓 ┗┓†*:・゚
てか、そもそも宇宙世紀の時代にガンプラってあるのか???
一応補足しておくと、本編に出てきたノルンちゃんはHGがモデルになってます。
実際のHGはユニコーンモードからデストロイモードに変形しません。
そこはきっとタクヤがギミック考えて上手い事作ってんじゃないかなぁ…知らんけど(鼻ほじり)
ちなみに、最後に”To be continued”と書きましたが、この話地味に続きます。
まあ、今回全然リディバナがラブラブしてなかったもんね!!!
一応本作の二人はまだ付き合ってません。惹かれ合っててすれ違い片思い状態でのスタートです。
次の更新が何時になるか分かりませんが、気長に待っていただければこれ幸いです。
書き上げられるのだろうかこれ…長編物って苦手んよな…(白目)
今回も相変わらず駄文になってしまい本当にスミマセン!!!
語彙力が相変わらず虹の彼方に行ったっきり未だ帰ってきません!!!
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!!!