Summer Vacation【Attention】
本作は2020年5月5日 06:04pixiv掲載作品となります。
『獅子の帰還』のその後の話となります。
リディとバナージが海で只々イチャイチャラブラブしてるだけの話。
本作品のリブート版を2021年7月2日リリース『Journey in the Earth』収録予定です。【2021年6月20日追記】
軍を辞め、父ローナンの秘書となったリディは忙しい日々を目まぐるしく送っていた。
打ち合わせや会合、書類作成や整理など、秘書と言えど連日分刻みのタイトなスケジュールをこなしていた。
その日もリディは忙しいスケジュールをなんとか捌き、夜遅くヘトヘトになって自宅に帰ってきた。
ビジネスバッグを放り投げ、ジャケットを脱ぎハンガーに掛け、ネクタイを解いた所で突然アラーム音がけたたましく鳴った。
リディはデスクのPCに手を延ばす。
「なんだ…秘密通信…?」
誰からの通信か警戒しながらも、回線を開けた。
「久しぶりね、リディ」
「ミネバ!?」
モニターに映し出されたのは、今は遠い宇宙に居るよく知る人物だった。
「元気そうで何よりです」
「君も…バナージも元気か?」
「ええ、まぁ…」
「一体どうしたんだ?突然秘密通信なんて…何か、あったのか?」
「1つ、貴方にお願いしたい事があって…」
「お願い?」
もしや、また連邦が何かしら良からぬ事を考えているのか?
もしそうだったとしたら一大事だ。
止めなければならない。
そんな思考ばかりが飛び交い、自然とそれに対して構える体制に入る。
「俺にできる事ならなんでも」
リディは疲れていたにも関わらず、気を引き締めて耳を傾けた。
「バナージをそちらで暫くの間預かってもらえないかしら」
「へ?」
あまりにも思いがけないミネバの申し出に思わずリディは素っ頓狂な声を出した。
「今、なんて…」
「だから、バナージを貴方の元に預けたいんです、少しの間」
聞くと彼はここ半年働き詰めで全く休めていないという。
休めと言ってもバナージは落ち着かないらしくすぐ現場や戦線に出てしまうそうだ。
本人は大丈夫だと言うが、身体の方は大丈夫ではないようで、時々立ち眩みを起こしていることもあるようだった。
よって、彼には今、静養が必要だった。
「了解した。そういうことなら…」
「ありがとう、そう言ってくれると思って、昨日バナージをそちらに送り出しました」
「え?」
リディはまたしても腑抜けた声を出す。
昨日送り出した?昨日?
万が一、俺が断ったらどうするつもりだったんだ?いや、絶対ないけど。
ミネバはリディとバナージの間柄を知ってる。どういう関係かも。
だからこそのお願いだったんだろう。
リディがそう考えていると、ノック音が聞こえた。
「坊ちゃま」
ドワイヨンの声だった。
ミネバにもそれが聞こえたのだろう。
「では、頼みましたよ」
モニター越しの彼女はニコニコしていた。
なるほど、お見通しということか。
「嗚呼、任せてくれ」
頬を赤らめながらリディは急いで秘密回線を切った。
リディは急いで扉を開ける。
「どうした、こんな夜中に」
「お休みの所誠に申し訳ございません、ですが…その…坊ちゃまにお客様でして…」
そう言うとドワイヨンの後ろから良く見知った愛しい顔が現れた。
「リディさん…!」
「バナージ!」
リディの姿を確認した瞬間バナージはリディに抱きついた。
リディはドワイヨンを下がらせ、バナージをそのまま部屋へ招き入れた。
扉を締め、改めて二人は抱き締めあい、再会を噛み締めた。
「リディさん、会いたかった…」
「俺も会いたかった…」
リディは抱きしめている手に力を込める。
「よく来たな…背、伸びたんじゃないか?」
「リディさんには敵いませんけど」
クスクスと苦笑しつつ、バナージはリディの胸板を押した。
リディはそれに反応し、抱き締めるのを止める。
「バナージ?」
リディはバナージに目線を落とした。
その顔はどこか切なげだった。
「あの、リディさん…その…あの時、何も言えなくて、ごめんなさい」
あの時とは、メガラニカへ単身乗り込んだリディがバナージに御守を渡したときの事だ。
「凄く、嬉しかったんです。あの時、その気持ちを本当は伝えたかったんです。でも、伝えてしまったら…戻れなくなるって…きっと俺、抑えられないから…きっとそのまま貴方と一緒に行ってた…」
バナージは首から下げていた複葉機のペンダントを握りしめながら、泣きそうな顔をしてた。
そんなバナージを見て、リディは嬉しさを抑えつつ、彼の頭を撫でた。
「…たく、分かってるから。そんな泣きそうな顔するなよ。折角こうやってまた会えたんだ。しかもMS越しじゃない。だから、笑ってくれよ。な?」
リディは安心させるように、バナージに笑いかけた。
「…はい」
バナージも釣られて幸せそうに笑った。
「そんなことより、だ。お前ちゃんと休まなきゃだめだろ。ミネバから聞いたぞ。休んでないんだって?」
今度はリディが端正な顔を歪ませた。
「だって、落ち着かなくて…」
するとバナージは俯き、気のせいか、何だかモジモジし始める。
心なしか耳が赤くなってる。
「貴方が俺に会いに来たあの日からずっと、貴方の事しか考えられなくて…リディさんが地球で頑張ってるって考えたら…なんだか休んでられなくて…じっとしてられなかったんです…」
リディはそれを聞いて目眩がした。
思わず頭を押さえる。
「お前なぁ…」
「俺も貴方に負けないよう頑張ってたんですから」
バナージはニコニコしていた。
「まぁ、ここに居る間はちゃんと休むんだぞ」
リディは頬をぽりぽり掻きながらバナージの頭を撫でた。
こうしてバナージとリディの同棲が始まった。
当初バナージの部屋を用意するとリディは言ったが、バナージは頑なに断った。
リディと一緒に居たいと懇願されてしまったことにより、リディが卒倒したのは言うまでもない。
ただ、バナージが来ても、リディの仕事は思い通りにはいかず、一層忙しさを極めた。
中々バナージとゆっくり出来ないことにやきもきしながらリディは自分のスケジュール帳と睨み合った。
その間バナージは、「居候の身ですから、これぐらいやらせて下さい」と言って、リディの身の回りの世話を全てしていた。
しかしながら、地球連邦政府中央議会議員、その私設秘書にだって、サマーバケーションは存在する。
長期ではないが、リディはやっとの思いで休暇をもぎ取った。
今、季節は夏。
リディは折角だと、バナージをプライベートビーチに連れて行った。
「わぁ…!」
ホテルに到着すると、目に飛び込んできたオーシャンビューにバナージは興奮していた。
「海、初めてなんじゃないか?」
「初めてです…凄い、綺麗…」
バナージは目を輝かせながら海を見ていた。
燥ぐバナージをリディは微笑ましく見ながら、リディは荷物を下ろし、早速海水浴の準備をする。
「ほら、バナージ。そうしてても海には入れないぜ?早く準備しろよ」
バナージは我にかえり、嬉々として海水浴の準備を始めた。
雲一つない青空に、透き通る碧い海。
生まれて初めて入った海は、本当に塩の味がした。
バナージはリディに手を引かれ、海に入る。
2人が歩き進めるにつれて、深さを増す。
次第にバナージの足が海面につかなくなる。
ギリギリ足がつかない所で、バナージはとうとうリディにしがみついた。
リディはそんなバナージの手を引き、自分の胸板に引き寄せ、腰に手を回した。
そのまま漂う2人。
「バナージ、お前泳げるか?」
「工専に居た時プールの授業はありましたけど、あんまり…」
「なら折角だ、俺が教えてやるよ」
「え、でも…」
「なんだ、怖いのか?大丈夫だよ、ちゃんと俺がリードするから」
リディはバナージを訝しげに見る。
「怖くは、ないですけど…」
「今の内に覚えておいた方が、万が一のことがあったら困るだろ?」
すると、バナージがリディの胸板に顔を埋める。
バナージの表情が伺えないが、耳が赤かった。
「…その時は貴方が助けてくれるんじゃないんですか?」
その瞬間、リディは赤面する。
空いた口が塞がらない。
「あのなぁ、だからお前さぁ…」
今のは殺し文句だぞと頭を抱えつつ、リディはみっちりバナージに泳ぎを教える事とした。
「リディさん、スミマセン、そろそろ休憩してもいいですか?」
初めての海は相当体力を消耗したらしく、2時間後バナージがとうとう音を上げたので、2人は一旦海から上がった。
バナージはそのままビーチテラスの方に向かい、バナージはビーチチェアに寝そべって休憩に入った。
「俺はまだ泳ぎ足りないから泳いでくるな」
そう言ってリディは水分補給をして再び海に向かった。
リディにとっても久しぶりの海だった。
思えば、子供の頃父に連れられてよくこのビーチに来ていたが、家を飛び出し、軍人になると、潜水したり泳ぐ機会は、海上を飛行する事はあったが、MSに乗る日々を送っていたら尚更無かった。
バナージと同じく、リディもまた内心は燥いでいたのだった。
リディが海中を漂っていてると、ふと海の底で何かが光ったのが見えた。
リディは気になって潜水し、光ったものを拾い上げ、海面に浮上する。
それが何かを確認した時、リディは思わず笑みを溢した。
バナージはいつの間にか微睡んでいたようだった。
目が覚めた頃、バナージの体力は大分回復していた。
その時ちょうどリディが海から上がってきた。
海から上がってくるリディの、水も滴るいい男姿を見てバナージはどぎまぎする。
濡れた髪を掻き上げる仕草。
透き通るような白い肌。
軍を退役したにも関わらず引き締まった身体。
俺は毎晩あの身体に溺れている。
彼との熱帯夜を思い出し、バナージはすっかり火照ってしまった。
「バナージ」
バナージは惚けていて、リディがバナージの側まで来た事に気づかなかった。
いつの間にか耳元まで来たリディの声にバナージは我に返り、焦って先程までの自分の煩悩をかき消した。
「なんですか、リディさん」
「手、出してみろよ」
バナージはリディの言われるまま、両の手を出す。
リディはその手に淡い色とりどりの欠片を散りばめた。
バナージはそれを訝しげに見る。
「なんですか、これ…?硝子の、欠片?」
「これはな、シーグラスって言うんだ」
「シーグラス?」
「嗚呼」
リディはバナージに説明する。
「ビーチグラスとも言うんだけどな、元々はビール瓶とかの割れた破片だったんだ。それがこうやって波に揉まれて長い時間かけて磨かれてこういう曇り硝子のような風合の小さい欠片になって海岸とかに漂着するんだ」
「なるほど…」
バナージは目を輝かせながらにシーグラスを眺めた。
「コロニーではあんまりお目にかけれない代物だろ?」
「初めて見ました…綺麗…」
バナージは嬉々として淡い水色のシーグラスを一欠片手に取り太陽に透かす。
そんなバナージを見てリディは途端に切なくなった。
もうすぐ今年の夏も終わる。
お互いの夏休みが終わる。
この幸せな時間ももう少しで終わる。
なぁ、バナージ、今お前、何考えてる?
お前の目には何が写ってるんだ?
俺はもっと、お前と一緒に居たい。
お前と同じものを見て、同じものを聞いて、同じものを感じたい。
お前と同じ時間を過ごしたいんだ。
リディはいつの間にか思考の海に溺れていた。
「見てください、リディさん」
不意の呼びかけに、リディは突如として現実世界に急浮上する。
見るとバナージが青いシーグラスをこれみよがしに持っていた。
「まるでリディさんの瞳の色ですね」
そう言ってバナージは笑いながら頬を赤らめていた。
リディは思わぬバナージの言葉に赤面し、項垂れた。
「本っ当、お前って奴は…」
殺し文句の製造マシーンだな、とリディはバナージを堪らず抱き締めキスを落とした。
夕暮れになり、リディとバナージはビーチを横並びに一緒の歩調で散歩した。
地平線の向こうには夕日が沈もうとしている。
儚くも今日が終わりを告げる。
「ねぇ、リディさん?」
バナージは立ち止まり、それに気づいたリディもその1歩先で歩を止め、バナージの方に体ごと振り向く。
「どうした、バナージ」
寄せては返す静かな波の音が二人の耳を支配する。
「来年もまた、このビーチに連れてきて貰えませんか」
夕焼けがバナージの白いパーカーを染める。
潮風がフワフワの亜麻色の髪を梳かす。
「当たり前だろ?約束だ」
伸びた2つの影は1つに重なった。
(Summer left them and ran to the end)
【謝罪会見】
おいおい嘘だろ3作目ですか…
前作で止めようと思ってたのにまたしても…
しかも今5月だぞ?
お前何やったか分かっとるんか?分かっとんのかーーー!!!(ポプテピピック)
なんでまだ夏始まってもないのに夏の終わりを書いてしまってるの…゚・:*†┏┛ 墓 ┗┓†*:・゚
今回は淡くキラキラしたリディバナが書きたかったんです。
そもそもバナージはスペースノイドだから、海行ったことないんじゃないかなって思ったのが今回の話を書く発端でした。
あまりコロニーに川はあっても海あるイメージが無いんですよね。
良いなぁ海…海当分行ってないよ…(海なし湖県の人)
ちなみにこの二人、その夜は言わずもがな、さぞ熱帯夜だったそうですよ。
そりゃね、バナージだけが煩悩抱えてた訳ないじゃないですか。
絶対リディ、ムラムラしてただろ。
してない訳がない。
その話はまたいつか。
今回も読みにくい拙い文章で本当にスミマセン。
語彙力お前が来いよ…0(:3 >_( 3 」∠)__
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!m(_ _)m