贈り物 今日は風が強かったな、とどうでも良いことを考えながらフラスコの中身を観察する。調薬の作業も手慣れたもので、レシピを見ていたのは随分と昔の話だ。
作らなければならない薬も少し減った常備薬と売れた分の補充くらいなもので、それが終わってしまえば試したかった新しいレシピをやっと試すことが出来る。材料の取得に手間取って随分長い間放置していたが、それも昨日までの話だ。早速本を広げながら一の手順から進めていく。
どれくらい経ったか、最後の工程まで済ませて瓶に薬を入れ終わる。
ふぅ、と無意識に息を漏らしたことでらしくもなく緊張していたことを自覚した。まぁ、初めてのレシピはミスをしないように気を詰めることが多いし、今回は予備の材料もなかったから仕方ないと言えば仕方ないだろう。
できあがった薬は効能を調べてからでないと使えない。ひとまず明日試飲して見ることとして、後片付けの前に実際に手順を踏んだ所感をノートへと書き綴っていく。記憶が薄れないうちに、失敗したときでも見直せるように。
それが終わってから後片付けをして、気づけば日付を跨いでしまっていた。
大して珍しいことでもないが、流石にそろそろ寝ようかと思い、軽くシャワーを浴びてから寝室へと向かった。
月明かりが窓から差し込んで物が少ない部屋を照らす。ぼんやりと浮かび上がった輪郭の中に見慣れないモノを見つけて、手に取ってベッドへと腰掛けた。
薄い箱に黒とピンクのラッピングが施されたそれはグレゴリーから貰ったモノだ。「まぁ、たまにはな」なんて言葉と共に渡されたそれが一体なんなのか、はじめは分からなかったが、しばらく考えてそういえば今日はそういう日だったと思い当たった。
もちろん、その時初めて思い当たったのだからコチラから送るモノなど用意していなかった。まぁ、それは一ヶ月後にすればいいとして。
「一体いつ用意したんだ?」
疑問を口にしながらくるくると箱を回して見る。
どれだけ回したって何も変わらないのだが、なんとなくくすぐったい気持ちを味わっていたくなって、すぐに開封しようとは思えなかった。
かさついた指がラッピングの上を滑る。
今まで贈り物などいくつも貰ってきたが、ここまで嬉しく、大切に思えるものはあったろうか。過去を思い返してもそこにあるのは形ばかりで中身は虚ろの箱ばかりだった。添えられた言葉もグレゴリーに比べれば恭しく俺を気遣う言葉であったはずなのに、どうしてこうも違うのだろう。
「お返しを用意しなければな」
時間は十分あるが、はたして本当に十分だろうか。なんとなく足りなくなるような嫌な予感がする。そもそもグレゴリーは何を送れば喜んでくれるだろうか。
まずはそこからだな、と段取りをつけながら机の上にそれを置く。
今日は気分よく眠れそうだった。