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    瓶詰のざわめき 本日午後、大雪警報が発令された。この地域は雪が少ない地域なのだが、何年に一度かはたまにこういうこともある。昼過ぎから降り始めた雪が、膝下くらいまで積もってしまった。教員と生徒たちが必死で雪掻きをして、なんとか学校周辺はそれなりに歩ける程度になったが、問題は帰りの交通機関。雪が普段少ないということは、当然こういう時の対策は遅い。案の定というか、バスや電車は遅れて帰宅困難になった人々があふれ、本来だったらあまり影響が出ない筈の地下鉄まで混乱しているようだ。

     サボって昼前に学校を出れば問題無く家に帰れたかもしれないが、つい興味本位で居残ってしまった。雪で真っ白になった街を屋上から眺めてみたいと思ったからだ。屋上のドアの部分は庇のおかげで問題無く開いた。ここは少し融けたのか、足の甲が埋まるくらいの積雪で、蹴とばしながら柵に近付く。雪は一時的に止んでいた。だが空には灰色の雲が幾重にも重なって、まだまだ雪を降らせ足りないと言わんばかりだ。眼下に広がる街は灰色と、白だけの風景で寒々しい。金属の柵は痛い程冷えていた。自分の手も冷たかったが、それの方がもっと冷たくて痛く感じる。
     さて、これからどうやって帰ろうか。どうせ親に連絡しても迎えには来られないだろうし、一晩かけて歩いて明日は休もうと振り向いたら、そこには。

    「屋上は立ち入り禁止って言ってんでしょぉが」

     体育教師松平のモノマネをする銀八がいた。



     暖房が小さなストーブ一つでも六畳くらいの狭い部屋は充分暖かくなっていた。ストーブの上の薬缶がシュンシュンと音を立てている。
     この学校に宿直室なんてものがあったのは知らなかった。今は宿直などせず警備会社に全てまかせるだろうから使わなそうだ。ぐるりと部屋を見回す。埃っぽさはなく、綺麗に使っている印象だ。小さい本棚にはジャンプや単行本、小説が収まっている。小さいながらもキッチンのような物がついていて、ガラス戸のついた小さい食器棚には茶碗やカップ、箸類が置いてある。歯ブラシが入ったコップまであった。完全に生活出来る部屋。普段あまり入らない管理棟の端の部屋で、少しだけ気持ちが高揚した。秘密の部屋みたいだから、なんて本当に中二臭い。

    「なんで帰らなかった?」
     マグカップに湯を注ぎながら銀八が睨む。
    「そっちこそ」
    「原チャリ動かせなかったから。それと俺、明日朝の雪掻き班」
    「一人で?」
    「…まぁね」
     帰るのと朝早く起きて学校に来るのが面倒だったんだろうな。一人で雪掻きの方が面倒そうだ。
     背後を見ると、カーテンが開きっぱなしの窓がある。腰高の窓から既に暗くなっている空が見えた。またチラチラと白いものが舞い始めている。コトンと目の前の小さな折り畳み式のテーブルの上にカップが置かれた音がした。
    「ほら」
     銀八が置いたカップからはチョコレートの香りがした。ココアだ。ココアは飲んだ事がない。恐る恐るでもないけれど、そっとカップを手で包んだ。熱すぎないか、これ。銀八も自分の分のカップをテーブルに置いて俺の向かいの座布団の上に座った。使い込まれた感じの大きなカップだった。部屋を使い慣れてる感があるから、もしかして銀八はこの部屋を殆ど私物化してるんだろうか。カップから視線を外して銀八を見ると、銀八はこっちをじっと見つめていた。早く飲めとでも言いたげに。そっと口を近付けて、フーフーと冷ます。その様もじっと見つめられて居心地が悪い。熱いココアを一口、含む。
    「甘…」
    「ココアは甘いもんだよ?」
     銀八も俺が飲むのを確認してから自分のココアを飲んだ。
    「うん、丁度いい」
     本当だろうか、砂糖入れすぎじゃないか? でもまずくはないので、そのまま飲み続けた。熱いものを飲んだので身体が温まった。気持ちもなんだか弛緩したような気分だ。
    「高杉夕飯どうする? カップ麺しかないけど…」
     そう銀八が言った途端、フッと電気が消えて部屋は一瞬闇に包まれた。ストーブの炎が照らしている部分だけが赤く浮かび上がる。
    「あ~あ…。停電か」
     銀八はいつのまにか立ち上がっていて、窓の外を見ていた。街灯が消えているのを確認したようだ。
    「この石油ストーブ、電気使わないヤツだから良かったな。ストーブなかったら二人で暖め合って朝まで過ごすことになるわ、これ」
     何を言い出すんだ、この教師は。
    「てめェ、今のは俺が女子だったらキモイって言ってやるところだからな…」
    「男子でもキモイって言う所じゃないの」
    「……」
     銀八のふっという笑い声が聞こえた。自分で自分をキモイと言って笑う、おかしな奴。自分には銀八がこの状況を楽しんでいるように見えた。そして自分もこの状況を密かに楽しんでいた。この部屋に通されたときから気分が高揚していたのだから、銀八の事をどうこう言えない。このまま、また雪が降り続ければ、もしかしたら…。銀八と二人で、数日孤立する事を密かに想像した。

    「暇なら特別授業でもするか?」
     銀八は胡坐を掻いた。横顔をストーブの炎が照らす。いつもと違う、別の生き物のように見える。
    「なんだよ、特別授業って…。国語?」
    「夢野久作の『瓶詰地獄』について」
    「おい、止めろ」
     まるで俺の頭の中を読んだみたいな事を言い出す。
    「あれ、もしかして読んだ事ある?」
    「兄妹が遭難する話」
    「不良を気取ってるのによく知ってるなぁ。内容が高校生向けじゃないよ、これ。だって兄と妹が…」
    「てめ…」
    「…瓶詰か」
     銀時がポツリと言った。
    「息苦しいよな、この部屋みたいに」
     え? 俺は固まった。息苦しいというのは良い意味ではない。俺と二人きりが息苦しいと言いたいのだろうか? だったら何故ここに招じ入れたんだろう。そもそも、屋上で声なんかかけてこなければ…。さっき銀八もなんだか楽しそうに見えたのは、単にそうであって欲しいという俺の願望だろうか。
     様々な感情が渦巻いた。腹立ちや失望や、寂しさ。どういう意味で言ったのか問い詰めたい衝動に駆られた。握りしめた拳を膝の上に置いて息を整える。本当だ、こんなに息苦しい。こいつが言った通りこの部屋は息苦しい。銀八を見ると、相手もこちらを見ている。
     屋上から見た景色を思い出した。白い海。そこにポツンと建っている学校は孤島のようだった。一人きりで漂流した気分だったが、そこに銀八が現れた。漂流者が二人になった。愛し合ってる者同士で孤立してるわけではなく、ただの教師と生徒が二人。だからこんなに息苦しいのか、こいつも俺も。
     長い時間銀八と見つめ合っているような錯覚がしたが、ほんの数秒だったのかもしれない。どちらも目を離せず睨みあっている。
    「あんまり、そういう目しない方がいいよ」
    「そういう目?」
    「うん」
    「…てめェもな」
     どちらともなくお互いに顔を寄せて、唇を重ねた。抗えない力が働いて引き寄せられるみたいに。


     部屋の隅に折りたたんであった布団を乱雑に敷いて、その上に座って服を脱ぐ。ガクランを放って、下に着ていたセーターも脱ぎ捨てた。ココアを飲んだときに弛緩した筈の身体はまた硬くなっていて、動きがぎこちないのが自分でも分かった。横目で銀八を見る。ストーブの赤に照らされた横顔は無表情で、黙々と服を脱いでいく。
     心臓の音一つ一つが身体をゆらして、耳の中を打ってきて煩い。今こんな状態なのに触れられたらどうなってしまうんだろう。
     上半身裸の銀八が目の前に膝をついた。近くで体を見ると、自分とまるで違うことが分かる。痩せてはいないだろうとは思ってたけれど、国語教師とは思えない筋肉のついた体。十歳以上は違うから仕方ないとはいえ、まだ自分の体が子供のような気がして背徳的な気分になった。銀八は尚更そう感じているのではないか、途中で止めたくなるんじゃないかと不安になった。中断されたら絶対変な空気になる。そうなったら歩いてでも家に帰ろうと、銀八がやっぱり止めようと言い出した時どうするか考える。
     銀八に肩を押されて、されるがまま仰臥する。銀八が覆い被さってきて、二人一緒に厚手の毛布に入った。辛うじて表情が見える程度の暗さの中で見下ろしてくる銀八が、俺の髪を梳きながら眼帯を外す。高校に入ってから原因は不明だが左目の角膜の色が薄くなって見えなくなってしまった。普段はその目を眼帯で覆っている。見られたくないわけでもこの事に触れられたくないというわけでもないけれど、そうした方がいいと感じていたからだ。担任である銀八には親から連絡がいったので当然見えなくなったことも知っている。けれどその事で今まで特別扱いされた事はなかったし、数少ない会話の中でも、この話題が出た事はなかった。ごく自然に眼帯を外され、驚くというよりはなんだか気恥ずかしく、服を脱がされるような感覚だった。瞼の上から眼球の形をなぞるように優しく撫でられると、これからするのは本当にセックスなんだろうかと疑問が湧いてきた。だがそれも自分の体に当たる銀八の下腹部の感触が段々変わってくるのを感じて考え直す。銀八が俺の肩に顔を埋めてくる。
    「怖い?」
     銀八が、熱い息とともに囁いた。
    「なんで怖がらなきゃならねェんだよ」
     銀八が微笑んだ気配。顔や髪を撫でる手は優しい。肩口にあたる吐息が熱い。
    「神様ってよっぽど怖いんだな。地獄の方がマシなのかねぇ…」
     『瓶詰地獄』の瓶詰の告解の事を思い出しているのか、銀八がポツリと呟いた。実の兄と妹が漂流した無人島で、相手に対していけないことと思いつつも激しい恋心を抱く。誰もいない島に二人だけ。でも神は見ている。
    「あれってやっぱりさ、遭難して二人きりだったからだろ。子供だし、気がおかしくなっても不思議じゃない」
     銀八のなんの感情もないように聞こえる声音。突然そんな話を始めるのも無表情で抑揚のない言い方をするのも、全部俺に逃げる機会を与えるためだと感じるのは穿ちすぎだろうか?逃げたいのは銀八自身かもしれない。教師と生徒がこんなことをしたとバレたら問題になるから当然だ。実際には神様よりも世間の方が怖い。
     銀八の首に腕を回して頭をきつく抱き寄せる。自分の体の反応している部分も押し付けながら。耳の中には心臓の音なのか血液が流れる音なのか、ザワザワという雑音が聞こえる。こんな緊張感は初めの時だけだろう。二度とこの感覚を味わうことはない。だからこの瞬間をお前と。
    「俺は俺の正気は疑わない」
     俺の言葉に、銀八は吐息で返事をした…気がした。
    「俺は、正気だ」
    「…今のいいじゃん、花丸付けてあげるよ」
    「小学生のテストみたいな採点の仕方しやがって…」
     銀八が俺の肩に埋めていた顔を上げた。笑顔だった。

     銀八はそっと、閉じている左瞼に唇を当てた。意識しないとつい閉じてしまう瞼に。 何故だか瞼をこじ開けられて眼球を舐められるのではないかと身構えた。そっとした動きなのになんだか強い意志を感じる銀八の唇は、そのまま顔を辿っていき、唇を再び重ねた。先程の布団に転がる前に交わしたそっと触れるようなキス、あれと同じように始めは軽く何度かキスを繰り返すと、舌が入り込んできて歯列を舐められた。甘い香りがする。そっと自分も舌を伸ばしてみて銀八の舌に触れた。それが合図になったみたいに急にガップリと口に食い付かれて舌が絡まってきた。驚いて反射的に逃げ出しそうになったが、身体が銀八の体重が乗っていることで動かせず鼻から息が強く漏れるに止まった。どうやって応えたらいいかも判らないまま夢中で銀八に合わせる。
     裸の胸が合わさっているのだから緊張で跳ね上がりっぱなしの鼓動は銀八に伝わっている筈で、でもこの鼓動は銀八のものかもしれなくて、わけが分からない。
     銀八の熱い手が下着の中に入ってきて下生えを撫でる。流石にこの時の驚いた鼓動は自分の物だと判った。
    「誰かに触らせたこと、ある?」
     銀八が折角被った毛布を払いのけて見つめてくる。手は俺の陰茎をそっと弄りながら。経験があるのかと問われているのだろうが、今の反応でどうせ銀八は気付いてる。実は所謂痴女には遭遇したことがあった。直に触られた事はないけれど。だから、他人の手が自分のそれに直接触れてくるのは初めてだった。でもこんなことは言う必要がないことだ。黙っていると銀八が下着と制服のスラックスをずり下す。
    「これ、尖ってるのって興奮してるからじゃなくて寒いからだよな」
     そう言って今度は唇でそっと乳首に触れてくる。
    「ひ…っ」
     慣れていない感覚におかしな声が出てしまった。気持ちいいとかじゃなく、敏感になっているのかムズ痒い。舌で突かれ、口中に含まれて、そこが痺れたようになった。
    「今こっちも跳ねてたね」
     銀八がわざわざ俺の下腹部の反応を報告してくる。
    「てめ…こそ…。それ、誰かに…」
     まさか童貞ではないと思うが、そう言い返す。本当は銀八のを握ってやろうと思ったが、届かないから手のいき場がない。頭を掻き抱いたりしたらこの乳首を弄ってくる行為を、もっととねだってるみたいになる。さっきは思い余ってそうしてしまったくせに、今は恥ずかしくて出来ない。仕方なくシーツを鷲掴みした。
    「あぁ、まぁね。ほら、一応教育者だから生徒の前で教師の性生活の話はちょっとしづらいわ~」
     身体を起こしながら銀八があやふやな返答をする。どの口で教育者がとか言ってる?今俺にしてる行為は?これも性生活みたいなものじゃないのか。それともここは学校だからプライベートじゃないとでも?そう言おうとしたら、俺の下半身に銀八は顔を寄せてきた。カリ首を掴まれて亀頭部に口付けられる。 
    「…っ」
    「出てる出てる」
     そう言って、出てくるものを全部舐めとろうとするように、銀八が尿道口に舌を捻じ込んでくる。
    「…! んん…っ」
     シーツを更に強く鷲掴んで目も唇もギュっと閉じた。自分の陰茎に生暖かい柔らかい感触と、歯の硬い感触を感じる。銀八の口中に迎え入れられたのを感じて身震いした。吸われて舐められて、良く感じる場所を弄られてる間、せめて息をもらすだけに留めようと唇を噛締めた。自分ばかりが喘ぎ声をあげるのは情けない。唇や舌で執拗に扱かれて「出るから口を離せ」という前に射精してしまった。銀八のクセの強い髪を掴んで顔を離させようとしたけれど間に合わなかった。
     目を開けると、強く閉じていたためか赤と白の点滅と霞みがかったような暗い天井が見えた。肩で息をしながら下腹部を見ると、銀八がこちらの様子を窺っている。暗くてよく見えないが頬を指で拭って舐めていた。

     自分が出したものが銀八の顔に。

     銀八がゆっくりした動作で、俺の脇に手をついて顔を覗き込んできた。銀八の顔には粘度を感じる液体が飛び散っていた。
    「悪…」
    「舐めて」
     謝罪の言葉に被せられた。自分が出したものを、自分で舐めろというのか。こいつ、初めてだって判っててこういう事を? 流石に睨みつけたが、銀八は自分の顔を指差して不敵に笑うだけ。
    「ほら、早く」
     そう言って銀八は胡坐をかいて、俺の腕を引っ張った。よく分からずされるがまま、銀八の膝の上に跨って膝立になり後頭部に両手を添える。自分のゴクリと唾を飲む音が響いた気がした。銀八は目を閉じた。ゆっくりと口元の液体を舐めとると、銀八の身体がクッと動いた。密着しているから判る。俺が舐めた事で、自分の陰嚢を押し上げるようにスラックスの中の銀八のものが膨れ上がっている。顔が熱い。きっと舌も熱いんじゃないだろうか。自分の不始末を舐めながら、終わったと告げるかわりに銀八の濡れた唇に口づけた。銀八は薄ら目を開けて微笑んだ。
    「綺麗にできた?」
     銀八が俺の背と腰に腕を巻き付けてきて、抱き寄せられる。密着がさっきより深まる。俺はただ目を伏せて俯いた。銀八の下半身が気になってしまう。こいつだって出したい筈だ。
     ふいに銀八が俺の肩を掴んで体を離した。急に二人の間に冷たい空気が入ってきた。
    「?」
     銀八の顔を凝視すると、銀八は苦笑している。
    「初めてなのに酷い事したな、悪かったよ」
    「……」
     俺はどんな顔をすればいいのか、何を言えばいいのか判らず銀八を見つめ続けた。酷いこと?確かに酷い。悪いと思うなら始めからやらなければいいんだし、本気で嫌だったら俺は全力で拒否してる。俺は正気だからと、流されてもいないしおかしくなったわけでもないと言ったのに。

     気まずくて雪の中歩いて帰る自分の姿。現実になるのか。

     銀八の膝に乗っていた俺は布団の上に座らせられる。銀八は上半身裸のまま、立ち上がってストーブにかけていた薬缶をとってシンクの方に向かったらしい。ずっと湯の沸く音とストーブが時折燃焼の音を立てていた事に、今更気が付いた。物音だけで銀八が何をしているかなんとなく判るけれど、とても何をしているか目で確認する気になれず、目の前の暗い赤色に染まった壁を見つめる。タオルを絞る音がした。

     銀八が、茫然としている俺の顔を覗き込んできた。何故かぼやけて表情が見えない。
    「拭くぞ」
    「…帰る」
     やっとでそれだけ呟いたけれど、銀八が首を振った。熱いタオルで顔を拭われて、思わず目を閉じた。それは想像してたより気持ち良かった。気持ちよくてサッパリしたのに、じわりと閉じた瞼が熱くなって涙が出てきた。たったこれだけのことで。涙というのはこの年でもこんなに簡単に流れるものなのか。
     今日二度目の失望で自棄になっているのか、銀八を困らせたい衝動が込み上げる。「好き」とでも言ってやろうか。

     熱いタオルと顔に添えられた銀八の手の感触だけに神経を集中する。あんな無体を強いた男の手と思えない、優しさしか感じない手。足を、ゆっくり動かす。正面にいる銀八の股間を足先で探る。銀八の身体が、少し引く。
    「抱けよ」
     もっと余裕をもって媚態を示そうとしたが、声が弱弱しく震えてしまった。そんなにおっ勃てているくせに。突っ込んで出したいくせに。てめェもカミサマが怖いのかと詰ってしまいそうだ。
     銀八が俺にタオルを握らせてきた。立ち上がる気配。ゴソゴソと衣擦れの音がする。目を開けると、部屋のドアに向かうピンクのシャツを着た銀八の後姿が見えた。
    「ちょっと便所行ってくるけど、勝手に帰らないように。先生、足跡で判るんだから追いかけるよ」
     背中を向けたままそう告げる。心なしか声が、笑っているように聞こえる。気のせいじゃなかったらこの笑いには何の意味が?
     小走りする足音が遠ざかっていく。なにげなく窓の方を見ると、カーテンを閉めるのをすっかり忘れていて外の闇が見えた。部屋の心細い灯りを反射した雪が窓を叩いていた。また積もるんだろうか。
     手の中のすっかり冷めているタオルをテーブルの上に放って、布団の上で丸くなる。寒い事に気付いて毛布を引っ張ってきて潜り込んだ。まるで幼い子供のよう。情けないけどそれしか出来ることがない。今頃トイレで一人で抜いてるだろう銀八に恨めしさと、愛しさに似た胸苦しさを覚える。

     この気持ちがもし好きという感情だったら、もし銀八も同じように想っているなら。

     俺は壊しても壊されても構わない

              ----------------------------------------

     ふらりと。

     黒い影が屋上への階段を上がっていくのが見えた。すぐにアイツだと判った。大雪警報が出て生徒も教師も全員いつもより早く帰宅するように指示されたのに、俺と同じように勝手に居残るひねくれ者。こいつとは最低限の接触だけで、あまり深く関わりたくなかったんだが。

     追いかけてしまった。

     外に向かって開く扉だから雪で開かないんじゃないかと思ったが、アイツ…高杉はアッサリ開けて屋上へ出た。そもそもずっと前から鍵が壊れているというのに直さない学校側もどうかと思う。柵と緑のフェンスで二重に事故防止がされているが、その気になればフェンス等よじ登れる。この学校では世の中に絶望して自殺しそうなヤツはいないが、つまらない度胸試しをしそうなヤツには心当たりがありすぎる。

     開け放してある扉の所から高杉の後姿を暫く見つめる。薄灰色と白の中に高杉はぽつんと立っていた。つい。つい声をかけてしまう。松平のマネで茶化しながら。

     世界が黒く滲んでくる前に帰してやりたかったなぁと、白い息を吐いた。


    [了]
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    2018/08/19 12:53:37

    瓶詰のざわめき

    ##八高(銀高)  #銀高

    3Z坂田銀八(国語教師)×高杉晋助(生徒)。

    ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題【初めての夜】から。

    性描写あり。

    more...
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    • 今はもう誰も(10/19追記) #銀高

      坂田銀時×蛟(高杉晋助)です。流血、グロに近い表現あり。
      調教中
    • 光源 ##現パロ銀高  #銀高

      医者パロ銀高。小児科医坂田銀時×脳神経外科医高杉晋助。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題【医者パロ】から。
      調教中
    • 幻肢 #あぶかむ

      阿伏兎×神威
      調教中
    • 座る男 #銀高

      虚との死闘後の、if話です。
      瀕死の大怪我を負って左腕が欠けた高杉を、徐々に復興を進める江戸の外れの片田舎に閉じ込める銀時の話。虚との戦いから何年かたってます。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題「座椅子」から。
      調教中
    • 誑惑七度 #銀高 
      ##九尾×高杉

       原作ベースですが、特殊な創作設定・創作キャラあり。グッズの妖怪シーリズの九尾(銀時)が出てきます。

      ※男の妊娠ネタ・性描写があります。
      調教中
    • 唇譜 ##白晋(銀高)  #銀高

      逆魂設定(銀時と高杉の立場が逆転する設定)で白夜叉(坂田銀時)×万事屋晋ちゃん(高杉晋助)。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題【白夜叉×万事屋晋ちゃん】から。
      調教中
    • 外科室の鈴 ##夜叉督(銀高)  #銀高

       特殊設定で、同じように傷を負うという話です。逆魂という銀時と高杉の立場が逆転する話に更に創作設定を加えています。
      調教中
    • 骨泣き夜 ##夜叉督(銀高)  #銀高

      攘夷時代の坂田銀時×高杉晋助。
      落語の「骨釣り(のざらし)」を参考にしています。
      調教中
    • 桜襲 ##九蛟(銀高)  #銀高

      ※性描写あり

      グッズの妖怪シリーズから。九尾狐(坂田銀時)×蛟(高杉晋助)。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)さん」のお題【「触って」】から。
      調教中
    • 爪紅 #銀高

      虚との死闘後の、if話です。
      瀕死の大怪我を負って左腕が欠けた高杉を、徐々に復興を進める江戸の外れの片田舎に閉じ込める銀時の話。
      調教中
    • ほとり ##九蛟(銀高)  #銀高

      グッズの妖怪シリーズの九尾狐(坂田銀時)×蛟(高杉晋助)。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題【祈り】から。
      調教中
    • 眩暈屋 ##白高(銀高)  #銀高

      逆魂設定に近いけれど少し違う、白夜叉×高杉。テロリストカップルです。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題【めまい】から。
      調教中
    • 迎え火 #銀高

      虚との死闘後の、if話です。
      瀕死の大怪我を負って左腕が欠けた高杉を、徐々に復興を進める江戸の外れの片田舎に閉じ込める銀時の話。虚との戦いから何年かたってます。

      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題「迎え火」から。
      調教中
    • 黄泉津比良坂 ##夜叉督(銀高)  #銀高

       松陽を斬ったあとの白夜叉と高杉の話。性描写少々あり。
      調教中
    • 水琴窟 #銀高

      虚との死闘後の、if話です。
      瀕死の大怪我を負って左腕が欠けた高杉を、徐々に復興を進める江戸の外れの片田舎に閉じ込める銀時の話。

      性描写あり。
      調教中
    • ヒトリジメ ##夜叉督(銀高)  #銀高

      攘夷時代の銀高。
      ツイッターの「週刊銀高(@gntk1w)」さんのお題【素面】より。
      調教中
    • 十九時の音楽浴 ##同級生銀高  #銀高

       中学生設定のgntmの銀時×高杉。
      調教中
    • 西瓜 #銀高

      虚との死闘後の、if話です。
      瀕死の大怪我を負って左腕が欠けた高杉を、徐々に復興を進める江戸の外れの片田舎に閉じ込める銀時の話。
      調教中
    • 雨宿り #あぶかむ

      阿伏兎×神威
      調教中
    • 春と群青 #銀高 ##現パロ銀高

       銀高という現象は息遣いや温もりを想像させ、幸福と有痛性をも同時に引き起こすものです。この話しはそのような思いを銀高に抱く者の心象スケッチです。

       この物語は独自のアルタナ観によって書かれている転生銀高現パロです。アルタナの影響で銀魂世界の人物達は色々な時代に転生しているという設定になっています。今回の話の年代は一九九〇年代で、作品内に出てくる固有名詞などはほぼ創作です。

      ※こちらは同人誌化しています。加筆は少しだけです。
      フロマージュ通販→https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/detail/detail.php?product_id=683617
      調教中
    • 心臓の囚人「奇焔 陰翳クロニクル <忘却の河を渡るプラトーン>」という本の小説です。3Z八高本です。

      同じテーマに沿って作品を描くというコンセプトで出していた本で、今回は八高で「銀八に結婚の噂がたつ」というものと、「古い歌・歌謡曲」が課題です。というわけであてうまみたいな描写もあるので苦手な方はご注意を…。

      ##八高(銀高) #銀高
      調教中
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