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    七転八倒のブルースⅠ:神は天にいましⅡ:毒蛇のロックンロールⅢ:WIZADⅠ:神は天にいまし「俺はVだ。よろしく、ヴィクター」
     わざと警戒をわずかに滲ませた声にヴィクターは、出会って三十分ほどしか経っていない元ノーマッドの青年に毛を逆立てる小動物のような奴だなという印象を抱いた。そんな青年とヴィクターを引き合わせたジャッキーは、すまねえヴィクこいつは見ての通り愛想はよくねえが悪い奴ではないんだと、フォローをいれる。青年の目に宿っている不信とヴィクターを見つめる視線があからさまに帯びている観察の気配は消えないが、それは彼個人の性分に起因するもので、ヴィクターの診療を拒むほどのものではないらしい。それにいくらこいつは信用できるリパードクだとジャッキーに言われてきたとして、Vという個人が初めて会う人間を全面的に信用しかねることを否定する道理にはならない。むしろ初対面で警戒を持たれている、というのはVと名乗った青年にとっては良いことなのではないかとヴィクターは思う。外から来た人間がこの街で生きるには、警戒心は一番の友となる。ヴィクターはVの警戒を解かせる言葉や姿勢をしない、自分自身の振る舞いはいつも通りであることにした。それはつまりジャッキーは信用しているリパードク、という印象からしばらく抜けることはないということでもあったが。
    「V、ヴィクはこの街で一番頼りになるリパードクだ。まあ会ったばっかりだからしょうがねえが、思惑なしに信用もできるいいやつでもある」
    「それは、わかるけどさ」
    「ジャッキー、あんまり新参者に無理を言うもんじゃない。そもそも俺とVにはまだ信頼ってもんがないんだ、知らない奴に引き合わされてこいつは信用できるから信用しろ、っていってお前さんはそいつのこと信用できるのか?」
    「そいつは……そうだな。悪かった、V」
     ジャッキーはそう言って「悪いヴィクター、今日はこいつの顔見せに来ただけなんだ。おふくろもおふくろでヴィクタ-に顔見せにいけってうるさくってよ」といい、二人は出て行って、その場はそれで終わった。二人が出て行ってから、ヴィクタ-は昼にミスティの用意してくれていて今はすっかり冷めたブリトーを口にする。ここに来る前から、ジャッキーとミスティからVの話は聞いていた。彼の警戒心が強いとは、ミスティの方から聞いていた。Vにとって、ナイトシティに来るきっかけになったジャッキーや、それまでにどんな経緯をたどったにしても彼を受け入れて雨風をしのげる部屋を提供したママウェルズという存在はそもそも彼にとっては特別なのだ。だからジャッキーやママウェルズの言う通りに顔は見せに来たのだろう。
     ノーマッドという存在についてヴィクターが知っていることは、ナイトシティの人間が共通して知っている程度の情報しかない。荒野を相棒である車に乗って駆けまわり、襲撃をして食つなぐ。そしてコーポやこのナイトシティの人間には培えない、今では荒野にあったいのち特有の性質となった誠実というものをもっているものたち。まだ過去や人なりを殆んど知らないVという青年のことは正直はかりかねているが、一般的なノーマッドの認識からは外れていないようにヴィクターには見えた。
     正直、信頼関係ができるということはそれ相応に怪我をしてここに来るということだ。野望と可能性に満ちた青年たちがその野望を果たそうとすれば、いつだってリスクは付きまとう。取り返しのつかない怪我だけしてくれなきゃいいんだがな、とつぶやいた言葉を聞く者は生憎ヴィクター本人しかいはしなかった。
    Ⅱ:毒蛇のロックンロール 考えていたリスクはあっさりと回収された。取り返しがつかない怪我ではないが、下手をすると腕をすべて機械に変えなければならなかった程度の怪我をVが負った。下手したらお前の腕、ジョニー・シルヴァーハンドみたいになってたんだなとあえて明るい声を出しているジャッキーに、Vは申し訳なさそうな響きを持った唸り声を返した。任せられた仕事で下手をうった、それだけだ。仕事自体はきちんと達成し、けれどその報酬のほとんどはヴィクターの懐に入った。
    「そうならなくてよかったな。だがそれもこれも、血相を変えて診療所に駆け込んできたジャッキーのおかげだ、V」
    「…………わかってる。それにあんたのおかげでもあるだろ、ヴィクター」
    「まあ、そうだな。一週間くらいは銃を使わないことだ、せっかくつないだ腕がもげちまう」
    「そういうことだブロダー、しばらくはお袋の手伝い頼めねえか? ここ最近、客が多すぎて捌ききれねえって言ってたしよ」
     わかった、とVは素直にジャッキーの言葉に従った。やはり心を開いた人間にはこの青年はかなり素直らしい、ヴィクターは「お大事にな」と告げてモニターに戻る。そんな中ちょうど昼食を手に診療所に入ってきたミスティとジャッキーは何かを話し始めた、Vはジャッキーの隣で大人しくしている。会話は聞き取れる音量ではなかったし、聞き耳を立てるのもなんとなくはばかられたため、ヴィクターは試合の映像が流れるモニターだけを注視していた。
     だから次の日、昼食を持ってきたのがミスティではなくVだったのに、ヴィクターは驚いたのだ。ママウェルズの手伝いは夜から、昼はミスティの代わりにヴィクターの所に昼食を運びついでにヴィクターがちゃんと昼食を食べたかどうか見届けることになったのだと、まだ完全には解けきれていない警戒をにじませる青年は言った。
    「屋台で売ってたハンバーガー、とついでに二コーラ。あんたは嫌いなもんはないって聞いたから、適当に用意した。嫌いなもの、ないんだよな? 俺が持ってきたものに食べられないものがあったとかで、ミスティに文句は言わないでくれよ」
    「いいやしないさ。だが、そいつはありがたいんだが、お前さんほんとに俺が食べきるまでそこにいるつもりなのか?」
    「? 何か問題あるのか、あんたが食べるのを見届けろ、っていうのが受けた依頼だけど」
    「お前さんの昼食はどうするんだ、若いお前の方がカロリーも栄養も必要だろう。お前さんも何か買ってこい、そしたら俺も食べる」
    「なんだよそれ。ママウェルズが持たせてくれた食べ物はあるけどさ、」
    「なら問題ないだろう、診察台以外なら適当なところに座んな」
     ヴィクターに視線を幾度かやってから、Vは寄りかかっていた入り口近くの壁に座り、壁に背を付けてママウェルズから受け取ったという食事を口にする。その間、ヴィクターが食べているかも確認しつつ。せわしなく視線を動かす青年に、ちゃんと食べるからそうきょろきょろしなくてもいいとヴィクターは告げながら床にじかに座っている青年用に、ミスティに何か椅子でも見繕ってもらうべきかと考え始めた。
    Ⅲ:WIZAD 椅子ではなく、地面に敷いたラグの方がVは落ち着くらしいと気付くのにそう時間はかからなかった。そもそも椅子に座る、という習慣が彼の中にはないのかもしれない。ノーマッドの生活では地べたに座ることのほうが多いとはV自身が言っていたから、ヴィクターのその予想は間違ってはいないだろう。今日は互いにママウェルズの料理を食べている。そうなる前はミスティから小銭を受け取ってその範囲内で飲み物と食事を買い求めていたらしいが、それは非効率だということに気が付いたと彼は言う。ママウェルズがVに料理を用意してくれるならヴィクターにだって用意するだろう、という理屈は実際間違いではない。
     やや冷めていてもママウェルズの料理はうまい。出不精、出不精といわれる通り仕事場がここで予約がかなり入っているということが出ない理由の何割かを占めていて言い訳になるのをいいことにヴィクターは滅多にここから出ないから彼女の料理はなかなか食べられない。やっぱりうまいな、とヴィクターが漏らせばそうだなと以前よりは格段に気安い口調で返答が返ってきた。
     Vに銃を使うなと告げた期間はもうすぐ終わる。食事の前の検査でも、腕は無事に以前と同じ動きが可能なほどに回復した。正直無茶はやめてほしいものだが、ジャッキーが抱くそれと同じ温度ではないが内容は同じ野心が彼の中にある限り、Vが無茶をして定期的にここにくることになるのは目に見えていた。
     料理の最後のかけらを飲み込んだVは、入口の近くに置かれたラグから立ち上がってラグを蹴り飛ばされたり、踏まれたりする危険性のない隅に置いた。ミスティがせっかく用意してくれたから、という青年の声にあった警戒はいつの間にかなくなっていた。
    「V、仕事が入ったぜ! ワカコからだ!」
    「へえ、どんな」
     仕事の話をし始める青年らに、もう過度な無茶はするなよと一応にしかならない小言を口にすると、ヴィクターはモニターに視線をやった。チャンピオンがやや劣勢、挑戦者が勝つやもしれない展開だ。ジャッキーは先に行くぜ、俺が運転するといって診療所から出ていく。ジャッキーが出て行ってからも、Vはしばらくとどまっていた。どうしたのか、何か異常でもあったかとヴィクターが振り向くと青年は少し笑って「……ありがとう、ヴィク」といって、返事も待たずに外へ出た。
     愛称で名前を呼べるようにはなってもまだ素直にはなり切れないらしい青年に、ヴィクターは笑った。
    「いってこい、V」
     そういったヴィクターの声は彼に聞こえたろうか。おそらく二人は今回も無茶をしてここに来るだろう、野心は極めて立派だが、彼らはまだまだ成長途上の存在だからだ。相手が上手、という事象はこれから山のように二人の前に立ちふさがる。画面では劣勢のチャンピオンがペースを取り戻しつつあり、挑戦者はじょじょに追い詰められている。けれど一手先に何かあるかは誰にもわからない。腕が千切れるようなけがはもうしなきゃいいんだが、そうヴィクターがつぶやくと同時に、挑戦者のアッパーがチャンピオンの顎にかち当たり、チャンピオンはリングに沈んだ。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/17 12:07:11

    七転八倒のブルース

    本編前、会ったばっかりのノーマッドVとヴィクターの話。警戒される関係から愛称で呼ばれるようになるまでのあれそれ。ノーマッドVとコーポVはしばらくヴィクターの事警戒するんでないかなとおもったんですよね。
    #サイバーパンク2077
    #ヴィクター
    #男性V
    #cyberpunk2077

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