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    ヤードセールの元老 よう、ヴィクと投げかけられた声自体は確かにVのものだ。しかしよく似せてあるとはいえヴィクターに投げつけた言葉の調子、声にいつも宿っていた感情がいささか違う。向けられる感情が違うのは当たり前だ、「V」ではないのだからとヴィクターは思考する。サイバーウェアの調子がおかしいんだ、見てくれないかと親しげな軽口を叩く男からいっそあけすけに漂う強いアルコールとそれに覆われた別の人間のものらしい香りにヴィクターは眉をひそめてから「こんなとこに何の用だ、ジョニー・シルヴァーハンド」とヴィクターは正しく眼前の男の名を発した。

    「なんだもうバレたのか。つまらねえ、なかなか似てたと思うんだがな」

     ジョニーは、Vの脳に巣くう亡霊は扉をくぐるとこれ以上取り繕う必要はないといわんばかりに壁に背中をつけてタバコに火をつけた。ここは禁煙だといったところで聞く男ではないだろう。ヴィクターは先ほどまで見つめていたモニターの光を落し、ジョニーをアイウェア越しに睨みつける。それを見て、ジョニーは愉しげな素振りで口の端を吊り上げた。しかしヴィクターがこの邂逅にいささかもプラスに分類される感情を出せず見出せないように、ジョニーも愉しげな素振りで吊り上げた唇をすぐにゆがめて、贅沢なことに火をつけたばかりの煙草を床に放り投げると靴底で踏みにじって消した。ヴィクターはその行動を腕を組みながらただじっと見つめていた。

    「で、本当に俺に何のようだシルヴァーハンド。Vが来るならともかく、お前さんは俺に用事なんざないだろう」
    「なに、どうってこたあねえ。今日引っ掛けたジョイトイやらドールやらが、やたらとお前のこと褒めるんでな。それに頼まれたんだよ、お前のお気に入りの患者ランキングを聞いてきてくれ、ってな。それに、ここに運び込まれた時は俺も混乱してたからな。うろ覚えの名医の顔を拝みに来たってのもある」

     ジョニーの核心から少しばかり遠い場所から発されたその言葉に、ヴィクターは苦い顔を浮かべて、それから大きくため息を吐いた。あの一件以来Vが強制的に負わされた苦労の内訳で、ジョニーという存在が占める割合はさぞ多いだろうと予想していたが現実を見てしまえば、青年が一度死んで、ここに運び込まれてからヴィクターがVに対して感じている悔恨がまた膨れだす。ヴィクターの中に悔恨を作り出した原因である伝説のロッカーボーイ、あるいはデータになった今なおアラサカを深く憎悪するテロリストは、壁に背をつけたまませわしなく片足を踏み鳴らす、自分で核心から外れた言葉を放った割には、こらえ性がさほどないらしい。そう考えて、それは彼の気性もあるだろうが、彼のはなった言葉の核心がVにまつわることだからだろうか、とヴィクターは思考する。

    「……シルヴァーハンド、どこで誰から何を聞いたからは知らんが、俺とVはなじみの患者とリパードク以外のなにものでもない。そりゃあ何かあれば真っ先に頼られるんだ、信頼はされてるだろうが……俺たちは、それ以上でも、それ以下でもない」

     ヴィクターは真っ先と信頼という言葉をわざと強調した。挑発するように。そして、ヴィクターは言葉の最後にどこか自分にも言い聞かせるような響きで真実を乗せる。何かあれば頼れる、この町の人間にしては優しい馴染みのリパードク。Vがヴィクターに抱く感情のすべてをヴィクターは知りようがないが、Vがヴィクターに感じているものはきっとヴィクターがはなった言葉のように、親愛と言い表せるものでありそれ以上でもそれ以下でもない。いっそ攻撃的に響く靴音の間隔が狭まって、苛立っているのを隠さなくなったジョニーとVの間でどれほど感情や記憶が共有されているかはヴィクターが知るところではなないのだ。そういうわけでジョニーの高らかな舌打ちに、表情が険しいまま固まったヴィクターの胸がすくことはない。

     ヴィクターは組んでいた腕を解いて、ジョニーに、Vの肉体に近づいた。ジャッキーがいた時より確実に皮膚に古傷が増えているのをみて、今や生きるために、Vという存在を保つためにそうせざるを得ないという面はあるのは重々承知したうえで、Vの無茶をする癖が何も改善されていないのにヴィクターはもう何をいっていいのかわからない。そしてジョニーが腰に当てている腕の片方に目を滑らせたヴィクターは彼を知るものが見たらなら、近年稀に見ると表せる渋面を浮かべた。
     ハートを射抜く矢と、ハートの中心に掘られたJohnny+Vの文字。亡霊が俺は存在していると証明するための引っかき傷か、そうでなくばそれはまるで独占の証拠として刻んだ所有印のようだった。

    「……シルヴァーハンド。お前さん、今は一心同体とはいえ他人の身体に好き勝手しすぎじゃあないか? そのタトゥー、Vの了承をとったわけではなんだろう」
    「まあな、だがあいつは何もいわなかったぜ?」
    「なら心底呆れてたんだろうよ。Vは……呆れると言葉が出なくなって命に関わらないことであればもういい、俺は気にしてないと言い出すんだ」
    「はっ、俺には長い付き合いがある、だからこいつの行動や考え方はお見通し、ってわけか?」
    「そりゃあお前さんと比べちまえばかなり昔からの馴染みだからな。……そこに座りな、シルヴァーハンド。お前さん、サイバーウェアを変えに来たんだろ」
    「あ?」
    「現状相手は呆れて気にしてないといってるとはいえ、そもそも勝手に人の身体に勝手にタトゥーなんて入れるもんじゃあない。今、Vが使ってるサイバーウェアくらいお前さんはわかるだろう?」
     そういって、ヴィクターはいったん言葉を切った。そして多少考えてから、別の言葉を続ける。
    「はっきりVに怒られる前に変えたほうがいいぞ、奴さんは普段なかなか本気では怒らないが、いったんそういう風に怒るとすこぶる長い。今の状態で、お前さんの言葉にあいつが耳を貸さないことになるってのは双方印不利益しか生まないだろ。……まぁ、これ自体はVのことを多少知っている医者としてのただの老婆心だ。強制はしない」

     ヴィクターが診療台をさすと、ジョニーは片方の眉を跳ね上げた。そしてもう一度、今度は先ほどよりは控えめな舌打ちをすると診療台に座る。酒はねえのかというジョニーに、あるわけないだろうとヴィクターが返せばジョニーは気が利かねえクリニックだと天井に目を当てた。
     天井を見つめて黙っているジョニーを放って腕に刻まれたタトゥーを外し、ヴィクターはVが普段使っているというサイバーウェアを付け替える。ここでは取り扱っていない最高品質のサイバーウェアに、Vという存在が日がたつにつれどんどんこの穴倉めいたクリニックから出ない己の手の届く位置から離れていっていることをヴィクターは痛感する。亡霊とともに歩むVの道はどこに繋がっているのだろうか。――どの様な最期であっても、おそらくヴィクターがVに何か出来ることはない、出来ることといえば、ここの穴倉で、彼がすべて納得した上でその生を駆け抜けるのを祈ることくらいだ。

    「ジョニー・シルヴァーハンド、」
    「なんだよ、酒の在庫でも思い出したか?」
    「いいや、お前さんは――ずいぶんと嫉妬深いらしいな」

     あっという間に換装し終えたサイバーウェアの最後の仕上げをしてから、ヴィクターはその言葉を投げ放った。明確な挑発であるその言葉に顔を歪めたジョニーが何も言わずに、ヴィクターの額に抜き放った銃を突きつける。その銃はヴィクターが見慣れた、Vの愛用している銃ではない。いや、今はそうなのだろうか。紺碧から始まるVの運命のねじれから、そんなに長く時間は経っていないが刻一刻、いや一秒一秒といってもいい。それくらいVを取り巻く状況はめまぐるしく変わっている。愛用の銃が変わる程度の変化を、大きな変化とは誰も言わないくらいに。

    「何度もいっているが俺とVの間には何もない、何もだ。お前さんが引っ掛けたジョイトイやドール達の想像通りの関係じゃあない」

     銃を下ろせとも落ち着けとも言わないまま、ヴィクターはもう何度目かもわからない言い方が違うだけで同じ意味でしかない言葉を発した――そうであれば、実際にそういう関係であれば何か変わったろうか。Vにとってヴィクターが噂通りの存在であれば、ヴィクターはVをこのに引き止める強い楔の一つくらいになったろうか。この地上に物体をとどめている引力のように、削られゆく精神をとどめ置くためにヴィクターの肉体を引きとどめるための檻に枷に、できたろうか。額に突きつけられた銃が皮膚の服の上を滑って、弾丸がきちんと装てんされているらしい銃は心臓の位置でとまる。

    「……クソッタレが、来るんじゃあなかった」
    「ああ、最初から来るべきじゃあなかったろうさ。互いのために、な」

     もはやヴィクターの手では救えない青年と、救えない原因に宿る精神はしばし視線を交わらせあった。ジョニーが何を考えてヴィクターを見ているかは知らないが、ヴィクターはその瞳に宿る感情の差異――Vの瞳が、声が、ヴィクターに向けて浮かべる己に優しく頼れる存在に対して向ける親愛を、今宿るものは違っても何も変わらない目の形と普段は意識することのないまつげの色をヴィクターは記憶に焼き付けるように見つめる。ヴィクターはジョニーに嫉妬深いという言葉を投げたが、それならば、ヴィクターはなんと称されるべきなのだろう。心臓に銃を突きつける患者、それに抵抗しないリパードク。どこまでも緊迫した空間であるが二人の間に存在する明確な脅威は、緊迫を煽る素材は銃などではなかった。

    「……結局あいつは、誰のもんでもない。本当の意味では誰のもんにもならんさ。肉体と情を交わそうが、誰より近くにいようが、味方であろうが」

     独白のようなヴィクターの言葉に、ジョニーは何か言おうとして結局やめた。ついでに突きつけていた銃も下ろすとジョニーは煙草に手を伸ばした。そんなジョニーをヴィクターはとめなかった。むしろ手を伸ばして、一本よこせと示す。嫌な顔はしたが、ジョニーは煙草の箱をヴィクターに向ける。一本頂戴した煙草を、長らく役割を果すことができず放って置かれたライターで火をつける。ついでにジョニーの煙草にもヴィクターは火をつけてやった。どちらかがそれ以上の言葉を発せば流血になだれる緊迫感が満ちた部屋で二人はひたすらに煙を肺に満たしては吐く。
     人は、本当の意味で誰かのものになることは果たしてできるのだろうか。愛することはできる、そばにいることもできる。与えたものを与え返され、けれど人は、どこまでいっても他人と他人でしかない。肉体をつなげても、精神をあわせても、他人と他人、それ以上にもそれ以下にもなれない。それはそうだ、一つの個体として存在するもの同士を足せば二つに増えるだけ。煙を吐けば吐くほど心中に渦巻くやるせなさを多分に含んだ感情は膨張していく。
     もし、もしも。この空間に横たわるやるせなさの形である青年が、誰かのものになるとして、その誰かはジョニーやヴィクターでは、きっと、ない。やわらかな諦念を2人は煙と一緒に吐き出す。互いが互いに向けた悪意は鏡だった、どちらともなくそう気づいてどちらもその考えを打ち消して、浮かんだ思考は存在しなかったことにする。

    「……心底ひどいやつだ、ほんとうに」

     自然光の射さない穴倉の中、かすかなライトに照らされている紫煙が頼りなくたなびく部屋に、その言葉を転がしたのは、果たしてどちらだったろうか。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/22 12:37:37

    ヤードセールの元老

    Vを中心にしてバチバチするジョニーとヴィクターの話。ジョニーが操縦権握ってるのでVは出てきません、性別とライフパスは限定していないのでお好きなVを当てはめてくれな。
    VジョニとVヴィクが好きな人間が書いております。
    #cyberpunk2077
    #サイバーパンク2077
    #ヴィクター
    #ジョニー・シルヴァーハンド

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